次元世界の魔導士は最弱の錬成師と仲間達共に行く 作:ウィングゼロ
(どうすれば……)
ハジメは困惑していた。
いきなり戦いの火蓋が切って落とされ、戦闘が始まったのはまだ良かった。
しかし相手の動きがあまりにも速すぎた。
デュバリィと呼ばれる女性に二人がかりで攻めるアリサと香織。
お互い連携して畳みかける二人の攻撃を、デュバリィはいとも簡単に捌ききっていく。
「アリサちゃん!香織ちゃんも一度下がって!!」
「そういって下がらせると思ったら大間違いですわ!」
このままでは拉致が明かないと踏んだすずかが、二人を一度下がらせるように指示を出して、凍雨を放とうと詠唱し始めたが、下がった二人の距離を直ぐさまに詰められて、広範囲に降り注ぐ凍雨を放つことが出来なくなり、これにはすずかも下唇を噛む。
ハジメもできうる限りのことを尽くそうと頭をフル回転させて考えるが、自分に出来ることは錬成と援護射撃程度。
援護射撃しようにも、敵があそこまで素早く動かれてはハジメも銃の照準を定めることが出来ず、がむしゃらに撃ったとしても、デュバリィと打ち合っているアリサ達にフレンドリーファイアする可能性を考えて、撃つことを躊躇われる。
「っ!すずか!そのまま撃ちなさい!」
「アリサちゃん!?……うん!」
押されている状況に、アリサは味方に攻撃が当たることで躊躇するすずかを一喝して攻撃を促すと、戸惑いながらもすずかは意を決して凍雨を放つ。
「聖絶!!」
氷の雨が降り注がれる直前に、香織がアリサの隣に立って聖絶でバリアを張った上で、更にプロテクションを展開してバリアの二重障壁を作り上げる。
降り注がれる凍雨は三人に襲いかかるが、香織のバリアに包み込まれているアリサと香織は凍雨を防ぎきる。
「なんのこれしきで!!」
障壁などで防ぐすべのないデュバリィは、盾と剣を巧みに使い降り注ぐ。凍雨を全て斬り落としたり、盾で防いだりと1発を当たることはなかった。
「ありえない……1発も直撃しないって、普通に考えれば無理でしょう」
あまりの超人ぶりに、アリサは信じられない表情で唖然として言葉を溢し、凍雨が降り終わると、あれだけ激しく動いていたデュバリィは息一つ乱すことなく、剣先をアリサ達に突きつける。
「先程の連携は見事と言っておきましょうが、まだまだ未熟ですわ!」
先程の攻撃を少し褒めながらも戦う手を緩めることはなく、デュバリィはアリサ達に斬りかかる。
一方、アリサ達と戦うデュバリィの露払いとして、天ノ河達勇者パーティーを引き受けた黒兎と風帝。
だが戦いは殆ど一方的なもので、黒兎が操るクラウ=ソラスによって天ノ河達は蹂躙されていた。
「そこです」
「うわあぁぁっ!?」
「野村!!うおっ!?」
感情もこもらない単調な言葉と共にクラウ=ソラスの巨大な拳が野村を吹き飛ばし、そのパーティーのリーダーである永山は野村のことを叫ぶが、更に繰り出されたクラウ=ソラスの攻撃が永山にも襲いかかり、野村のことでよそ見をしていた永山は短い悲鳴と共に吹き飛ばされる。
「やめるんだ!こんなことをして何になるんだ!!」
「やめろ!コウキ!いくら言っても……!」
未だ、剣を交えず言葉だけで説得しようとする光輝にメルドは無駄だと吐き捨てるも、聞く耳を持たない光輝には届かない。少し冷めた視線で光輝を見る黒兎は、クラウ=ソラスの攻撃対象を光輝に移す。
「少し、黙っていてください。ブリューナク……発射」
「拙い!避けろ!コウキ!」
「え?うわぁっ!」
クラウ=ソラスから光線が発射されて光輝達の前方で着弾すると、着弾点から起きた爆風に防御が間に合わず、光輝はおもいっきり吹き飛ばされる。メルドは咄嗟に光輝に避けるように叫ぶと同時に回避運動を取るが、回避が少し遅れていたこともあって、光線の熱に皮膚が少し焼かれる。
「ぐっ!」
「光輝くん!暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ……螺炎!」
「クラウ=ソラス」
光輝が光線に吹き飛ばされたのを見て、恵里が黒兎に向けて螺炎を放つと、それに気づいた黒兎がクラウ=ソラスの名前を呟いたら、直ぐに炎の渦に巻き込まれる。
「やった!」
確実に焼き殺したと恵里は確信してそう呟くが、炎の渦がおさまったあと、その確信は消え失せる。
クラウ=ソラスから張られる障壁が黒兎を包み、螺炎の攻撃を完全に防ぎきっていたからだ。
「先程の攻撃を脅威として判断、攻撃対象を変更……攻撃開始」
そういって障壁を解き、クラウ=ソラスの正面を恵里に向けると、クラウ=ソラスの頭部から光線が放たれる。
「えりりん!」
クラウ=ソラスの光線を受けた恵里を見て、離れた場所でフウに相対していた鈴が声を荒げる。
今まさに、友人が敵の攻撃をもろに受けてしまったことから、鈴の意識は恵里に向いてしまう。
本来なら、敵を目の前に意識を他に向けるのはあってはならない行為だが、相対しているフウは仕掛ける素振りを見せない。
「大丈夫、威力は抑えてある」
「そう、相手の言葉を鵜呑みに出来ると思ってるのかしら?」
「フウは嘘ついてないよ?」
横目で黒兎との戦闘を見るフウは、光線を直撃したが威力は抑えられていると言うが、彼女に切っ先を向ける雫は、敵の言葉を真に受けることは出来ずに言い返す。
そんな雫の言葉にフウは可愛らしく首を傾げた。
デュバリィ、黒兎と65層のベヒモスがいた広間で戦いが繰り広げられる中、フウと相対する雫、龍太郎、鈴の戦いは他と比べて穏やかだった。
というのもフウ自身、一切攻撃をしてこないということもあり、積極的に攻めようとする龍太郎を抑えつつ、慎重に攻撃している雫達とは未だに何合かしかぶつかり合ってはいない。
(この子、全く隙がない)
のほほんとして隙がありそうだが、実際は隙がない。
全く持っての素人なら気づかないが、八重樫道場で剣を習った雫だからこそ気づいた。
(それに、さっきから攻撃するたびに何かに阻まれてる)
見えない何か……フウは他の人達から見たら、何も武器も持たず、かといって格闘戦を仕掛ける様子もない。しかし、雫の剣が彼女の体に当たるたびに何かに遮られて防がれた音が響いて、目に見えない武器を所持していることがわかった。
だが、彼女がいったいどんな武器を持っているのか、それは未だにわからなかった。
(これは長期戦になりそうね)
そう思って下唇を噛む雫。このまま行けば、今でも不利な状況が更に不利になるのは明白。なんとか打開策を打ち立てなければ負けると思い、雫はフウ目がけて剣を振るった。