次元世界の魔導士は最弱の錬成師と仲間達共に行く 作:ウィングゼロ
空は……青いな……
見上げると雲一つない晴天の空。遮るものはなく照らす太陽の日は俺の体を温めてくれる。
ああ、清々しい日常なこと……
「あの……現実逃避されては困るのですが……」
そういって困った顔を向けて、現実を見るように促してくるユーリ。
俺も現実逃避を止めて、今ある光景を目の当たりにする。
王都の片隅にある下町、下町の孤児を集める孤児院の前で子供達と遊ぶ榛名と永和姉……そしてアーティファクトを使って髪色と瞳の色を変えて変装しているリリィ。
明らかにここに居てはダメな人物が一人いるが、当の本人は全然に気にしていない。
何故このような事態になってしまったのか、思い返せば今日の朝……
「ねえ、一夏くん。永和お姉ちゃんに呼び出されたけど……どうしたのかな?」
「さあ……一応思い当たりそうなのは考えたけど、検討がつかないんだよな。それに俺と榛名だけじゃなく。ユーリまで」
突然、永和姉に呼び出され思い当たる節が全く見当たらないことに首を傾げながら、王宮の通路を堂々と歩く、俺と榛名。
ユーリも俺と榛名の数歩後ろを付いてくるように歩いている。
そうして、永和姉に割り振られている部屋に入る前にノックをすると、部屋にいる永和姉の声が聞こえてくる。
「開いてますよ~」
「永和姉入るよ。それで何の……えっ!?」
「もしかして……リリィ!?」
「ミュゼお姉様まで!?」
俺達は部屋の中に入り、中にいた人物を見ると、そこには部屋の主の永和姉は勿論、ユーリの姉のミュゼさんや、何故か金髪ではなく茶髪の髪に藍色の瞳で、王族が着るドレスではなく少し裕福そうな家庭の服を着こなすリリィの姿があった。
「三人とも待ってたよ」
「ふふ、ちゃんとユーリも来てくれてよかったです」
「急に呼び出してしまって、ごめんなさい一夏さんに榛名、ユーリも」
既に部屋にいた永和姉達は三者三様の言葉をこちらに向ける中、直ぐに気になっていたことを訪ねる。
「別に良いけど……リリィだよな……その髪と瞳は……」
「これですか?これは髪色と瞳の色を変えることが出来るアーティファクトを付けているからです」
「それは……わかるけど」
「えっとね、三人を呼び出したのは、私と一緒にリリアーナ王女の付き添いをして欲しいからなんだ」
「つ、付き添い……ですか?」
永和姉の言葉に首を傾げながら答えるユーリ。
それに続くようにリリィが胸に手を当てて話し始めた。
「はい。私は王女という身分もあって軽はずみに王宮から出ることが出来ません……ですが、偶にですがこうやって変装して王宮の外に出来ることもあったんです。
今回は溜まっていた執務も終わりましたし、外へと行きたいところなのですが……クゼリー辺りが心配するので、一人で出歩くわけにも行きません。なので一夏さん達もご一緒にと思いまして」
だめ……でしょうか?と、首を傾げて不安そうにこちらを見上げるリリィに、流石に断るのは気が引けた。
そもそも今日は休日で何かするつもりもなかったから、付き添うぐらい問題ないだろう。
横にいる榛名も同じなのか、言葉を言わなくとも相槌だけでお互い意思疎通を取るが、反対側にいるユーリはというと少し顔を青くしていた。
まあ、無理もないか……いきなり王女様から付き添えと言われたら
「そ、そんな……一介のメイドである私に姫様の付き添いなど……」
「そう畏まらなくてもいいですよ。年も近いことですから、あなたとはお話をしてみたかったので」
「~っ!!む、無理です!申し訳ございません!姫様!こ、これで失礼します」
リリィの言葉を受け止めきれなかったのか、ユーリは顔を更に青くすると、大きくお辞儀した後部屋から出て行く。
俺達はともかく、この国の人間からしたら恐れ多いことなのはよくわかる。
「あらあら、逃げてしまいましたか」
そんなことを考えていると、ミュゼが頬に手を当てて部屋から出て行ったユーリのことを口にする。
「ご安心ください。姫様に皆様。ユーリに関しては私がしっかりと説得してまります」
「では失礼いたします」とミュゼは裾を上げお辞儀すると、落ち着いた表情で出て行ったユーリを追いかける。
それから暫くして、顔を赤らめるユーリと笑みを浮かべるミュゼが戻ってきて、「行き……ます」と声からわかるほどに恥ずかしがっているユーリが口にする。姉の説得はどうやら上手くいったようだった。
そして、お忍びということで重鎮しか知らない王宮の隠し通路から城下町へ出てきた俺達は、露店などを見て回って休日を楽しみ、昼下がりに平民や貧困な人達が住まう王都の下町までやって来た。
リリィはどうしてもここに来たかったらしい。
そして、以前にもここには来たことがあったリリィが歩き慣れた足取りで下町を歩くと孤児院へと辿り着き、それから孤児の子供達と遊び始め今に至る。
リリィ自体、偽りの身分でここに何度も足を運んだことがあったみたいで、子供からの信頼も厚く、見ていて微笑ましく思える。
「珍しいかい?」
眺めていると、横から孤児院の院長をしている女性が飲み物を持ってやって来て、リリィを見ていた俺達に声を掛けてくる。
「もう何年も前だったか、商家の娘のリリィちゃんがここにやって来てからは、子供達も笑顔が増えたのよ。みんなリリィちゃんに会いたがっててね、別れ際はいつも子供達が泣きついて、もう大変なくらいに。それでいつも、リリィちゃんが困った笑みを浮かべて、珍しい甘味を持ってまた来るからって約束して行くの」
「……本当に慕われているんですね」
リリィと子供達との間にあった昔話を聞いて、ユーリは心の底から慕われていることを理解して微笑みを浮かべながら呟くと、それを聞いた院長は「まあ、リリィちゃんより甘味の方がっていうことも少なくはないんだろうけどね」と、冗談なのか事実なのか、いまいちわからないが、その言葉を聞いて苦い笑みを浮かべた。
「だからこそ、何事もなければいいんだけどね」
「……??」
「今何か……」
「ああ、ごめんなさいね。さてと子供達はリリィちゃん達に任せるとして、今のうちにお洗濯しないと……」
言葉を濁すように院長はその場からいなくなり、不思議に思った俺とユーリだが、リリィ達にこっちに来て子供達と遊んで欲しいと誘われて、言われるままにリリィ達の元に向かった。