次元世界の魔導士は最弱の錬成師と仲間達共に行く   作:ウィングゼロ

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幕間『少年達の非日常』(前編)

子供達と遊び……リリィが持参したお菓子をみんなで食べた後、院長に言われたとおり、帰ることで泣きじゃくる子供達にリリィが宥めてまた来ると約束をして下町から離れていった。

もうすぐ夕暮れになりそうな時刻。そろそろ王宮に戻らないといけない。

 

「一夏さん、榛名も今日は楽しめてくれましたか?」

「ああ、楽しめたよ」

「ありがとうね。リリィ」

 

今日は楽しめたかとリリィは俺達に確かめ、間を開けずに本心を言葉にすると彼女も「そうですか」と微笑む。

更に後ろにいる永和姉とユーリも表情からも楽しめたことは伺える。

 

「明日から、また訓練などの忙しい日々が続くと思いますが、頑張ってください」

 

「私も応援しております」と、リリィはまた明日に行う訓練に励むように応援され、もちろんと頷く俺と榛名。

それを何処となく不安そうに言いたげな永和姉の表情を見て、きっと俺と榛名が無理矢理戦場に立たされたらと、俺達の心配をしてくれているのだろう。

 

「……あっ」

 

もうすぐ王宮への隠し通路に辿り着くといったところでリリィが短く声を漏らし自然と俺達はリリィに顔を向ける。

 

「ごめんなさい。孤児院に忘れ物をしてしまったみたいです」

「それじゃあ、孤児院に戻ります?」

 

永和姉が孤児院に引き返すかとリリィに訪ねると直ぐにそうですねと、返事を返したことで孤児院から来た道を引き返した。

暫く歩き続け、下町の孤児院に辿り着くとリリィが孤児院の扉をノックする。本当なら誰か出てきてもいいのに誰も出てこない

 

「可笑しいですね。誰かいるはずなんですが……」

「……中に気配が感じるから、間違いない。何かあったのか?」

 

気配探知の技能で孤児院内に人がいることがわかったために、ノックしているのに出てこないのは何かあったのではないのかと、疑問に思っていると後ろから声を掛けられ振り向くと、そこにいたのは明らかに平気じゃない孤児院の院長だった。

 

院長の姿からただ事ではないことが起きていると確信した俺達は孤児院近くのベンチに院長を座らせて、事情を聞いた。

 

「そんな……子供達が攫われた!?」

「少し前から近隣の村やこの王都でも子供が居なくなるということが起きていて……私が……目を離したから」

「……院長さん。どうかお顔を上げてください。子供達は必ず私達で助けます」

 

リリィの言葉に院長は驚く中、リリィは決意した瞳で俺達を見る。

俺達に何も聞かずに事後承諾になってしまったがここで断る理由もない。

俺達も手伝うと頷き、孤児院を出ると直ぐさま、これからどうするかを話し合う。

 

「それで……リリィは心当たりはあるの?」

「……すみません。誘拐されていたことは今始めて知ったぐらいです」

 

ごめんなさいと浮かない顔をするリリィに榛名は大丈夫だよと、慰める。

そんな中、顎に手を当てて頭の中で思考している永和姉、考えが纏まるとリリィに向かって口を開けた。

 

「ということは、ことは複雑な状況かも」

「永和姉?どういうこと?」

「下町ではこれだけ騒ぎになっているのに王宮には噂も届かないということは、誰かが口止めしてるってことだよ」

「……それって」

 

永和姉の問に考えられるのは三つ

人々の平穏を守る警邏隊

この国の楯であり剣でもある王宮騎士団

そして三つ目は…… 

 

「貴族……でしょうか」

 

永和姉の問に答えたのは神妙な顔つきをしているユーリだ。

思わず呟いた答えに俺達の視線がユーリに集中し顔を赤らめる中、その続きを永和姉が喋る。

 

「可能性としては一番あり得ることだと思う。貴族なら下町で起きていることを隠蔽することも出来るし、警邏隊なんかにも圧力をかけられるしね」

「はい。永和様の言うとおり一番納得のいく推測だと思います」

「それじゃあ、貴族街に向かうの?」

「ううん、流石に貴族街で調べていたら犯人に気づかれちゃう。だからまず二手に別れよう。私とリリアーナ殿下は1度、王宮に戻って少し事情を話して装備なんかを取ってくるから三人は王都の入口の門番さんから色々聞いてみて」

 

そういって永和姉とリリィは王宮へと戻っていき、俺と榛名、そしてユーリは王都の入口である。門近くの詰所へと足を運んだ。

 

「あの、すみません」

「あ?なんだ、ガキか……仕事の邪魔だ」

 

「帰れ帰れ」と手を振り厄介払いされる。もうすぐ、閉門の時刻だからか、厄介ごとに絡みたくないといった表情だ。

でもここで引き下がるわけにはいかない。強引に話を切り出そうとしたとき、後ろに控えていたユーリが前に出る。

 

「ユーリ?」

「一夏様、ここはお任せを」

 

そう一言、俺に向いて呟いた後、再び顔を門番に向けてから、スカートの裾を軽く持ち上げ会釈する。

 

「お初にお目にかかります。私、王宮でメイドを務めているユーリ・イーグレットと申します」

「あ?王都のメイドだと?それにしては質素な服装を……」

「今回、お忍びでということで身なりを整えているだけです。それでお聞きしたいことがあるのですが……少し前より下町の子供が行方不明になったという話はご存じで?」

「ああ……あの件か……もう何件も起きてるって話だな……だがあの話は……」

 

ユーリは王宮勤めのメイドという身分を利用して誘拐の件を切り出すと、門番は少し言葉を詰まらせながらユーリから目を逸らす。

挙動不審から明らかに何かあると踏んだユーリは更に言葉の追い打ちをかける。

 

「此度の件、リリアーナ王女殿下はとても心を痛めておいでです。この王国の未来とも言える子供達が拐かされ……平然としていられるなど誰がおりましょうか」

「リ、リリアーナ王女様に……し、しかし本当にリリアーナ王女様の使いなのか?それを証明するものは!?」

「はい。あります」

 

リリィの名前が出ると顔を真っ青になる門番だが、俺達が本当にリリィの遣いなのかと半信半疑で証明する証拠を求めたがその言葉を待っていたのかユーリは顔を俺達に向けて微笑みを溢して俺達に向けて言った。

 

「一夏様、榛名様、ステータスプレートを」

 

言われるまま俺と榛名はステータスプレートを門番に提示すると先程の態度が一変した目を大きくして取り乱した。

 

「か、神の御遣いさま!?」

「はい。このお二人は我らが主に選ばれた方々。これが何を意味するか……主を敬愛する方ならおわかりいただけますね?」

 

にっこりと笑みを浮かべて問うユーリだが表情とは裏腹にやっていることがえげつない。

神の使徒の身元は教会と王国が保護しているという体制な上、その神の使徒を動かしているとなればそれほどの立場の人間ではないとありない。

そして先程のユーリが口にしたリリィの指示で動いているという言葉にも信憑性が増す。

 

「も、申し訳ございません!」

「信じてもらえて何より、それで先程の問ですが……」

「はい。実は我々も調査を開始しようとした矢先、貴族の召し抱える騎士達が現れ、この件は我々が引き受ける……と」

「……そうですか……もう一つ、一時間ほどぐらいで何処か可笑しい馬車は出て行きませんでしたか?」

「一時間ですか?使徒様がくる少し前に貴族御用達の商会の馬車が出て行きました。こんな時間だったのと中を改めさせて貰いましたが馬車にはあまり荷物が入っていませんでした」

「…………」

 

やっぱり永和姉の推測通り貴族が絡んで……しかも少し前に貴族関連の馬車が出て行った。これは結構怪しい。

けど中は連れ攫われた子供がいないとなるといったい……

 

「ありがとうございます。リリアーナ王女殿下の勅命とは言え、お時間を割いていただいて……」

「と、とんでもない!で、ですが……使徒様に不躾な態度で……」

「いや、別に気にしてないから」

「大切な情報ありがとうございます」

 

流石は神の使徒、彼にとって雲の上のような存在だからか不躾な対応をしたことに負い目を感じていた門番に俺達は別に気にしていないことを伝え、門から離れる。

そして門番から見えなくなった所でユーリは気を張っていたのか、途端に気を抜けその場でよろめいた。

 

「だ、大丈夫!?」

「は、はい……大丈夫です。榛名様」

「それにしてもユーリっていつも人見知りであまり初対面の人には接しないのに……今回は悠然としていたな……さっきの駆け引きもだけど」

「あれは……内心では怖かったのですが……皆様のためにお役にたちたかったので……それとあれは……ミュゼお姉様の入れ知恵です」

 

ああ、ミュゼさんの……確かにこういう駆け引きとは上手そうな気がするな……

 

「と、ともかく、情報は手に入れましたから、あまり時間は残されていませんが1度、リリアーナ王女殿下の元へ戻りましょう」

 

先程の悠然とした態度は何所へやらあわあわと取り乱すユーリの言われたとおり俺達はリリィ達との合流を急いだ。

 

 


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