次元世界の魔導士は最弱の錬成師と仲間達共に行く 作:ウィングゼロ
「…はぁ…」
そう溜め息が溢れるのを耳にする。
俺は読んでいる本から視線を外しその溜め息を吐いた本人を見る。
「ハジメ…大丈夫か?」
「あ、うん…ごめん…」
見るからに大丈夫ではないな。
トータスに来てからより落ち込みが酷くなっているのは日に日に悪化しているのは明らかだった。
トータスにやってきて既に2週間…
SOSサインも相変わらず空振り…だから趣向を変えて自由時間ではこの王立図書館に来て、帰還方法の模索やトータスに関する情報や記述を調べていた。
やはり気になるのは神代魔法か…
今のトータス式の原点とも言える魔法で凄まじい力だとか…それを解析すれば地球に帰れるのではないか…
これが今、俺が出している結論で確証は何処にもない。
空振りになる確率はあるし危険な旅になるだろう。
それなら俺一人と言いたいがあの二人がそれを許すとはとても思えない。
それに今はハジメの問題が最優先だろう。
ハジメが1人能力が平凡となった問題、それはクラスメイトに味方があまりいないハジメにとって、とてもいいものではなかった。
周りはどんどん強くなる中、完全に取り残されたハジメ…それをあざ笑う檜山を初めとする小悪党達。
何か打つ手を打った方が良いかと頭の中で考え、ふと本を閉じて語りかけた。
「ハジメ…この世界、旅行するなら何処行きたい」
「え?」
いきなりのことで、ぽかーんとするハジメ、だが直ぐに質問されていることから慌てて考えて、行きたいところをいう
「や、やっぱり、亜人の国の樹海かな~」
「ああ、ウサミミか…ハジメそういうの好きだったもんな」
「ちょっ!?それ言わないでよ……でも亜人族は海人族以外は差別されて樹海の奥地から出て来ないみたいだし……西の端のエリセンかな…でもその前にグリューエン大砂漠があるから無理か…っとなると帝国かな…でもあそこは奴隷制度があるし…流石に正気を保てる気が……」
この2週間、休み時間に知識を詰め込んでいるのは伊達ではなかった。
次々と出てくるこの世界の地名。どれも亜人族に関わりのある所だ。
「ってどうして正人くんはそんなこと聞くの?」
熱弁していた。ハジメは正気に戻り、どうしてと聞き返した。
「そりゃあ、俺がしばらくしたら此処から離れるのは知ってるよな?だったら旅は道連れだ。ハジメも連れて行こうかなと」
この2週間で分かったことは今の環境はとてもハジメにとって悪影響しかない。
成長を伸ばすなら世界を知るべきなのだと俺は理解した。
だったら元からこの王国から出るつもりの俺に付き添う形でハジメもつれだそうと考えたわけだ。
「でもいいの?僕なんて付いてきて足手まといだよ?」
「別に構わん、アリサとすずかも付いていくって言ってるし、一人増えたところで問題は無いだろう。」
因みにアリサとすずかは自主練習中、俺に付いてくるために必死に力に研きをかけているのだ。
天之河はそれを戦争のためにと勘違いしているのは余談である。
メルド団長にもそのことは伝えていて、「戦争に関しては強制はしておらん。正人達の努力が実れば光輝達も帰る手立てを得ることに繋がるのだから止めはしない」っと認めているため、出ていっても問題は無いだろう。
ハジメを旅に連れていくことを決め、休憩時間ももうそろそろ終わりに差し掛かり俺達は訓練所へと戻る。
訓練所には生徒達が自主練や談話しているのが目立つ。
「行くわよ!すずか」
「うん!アリサちゃん!」
その中にはアリサとすずかもいた。
2人とも戦闘用の服に着替えており、アリサは赤とオレンジを強調するジャケット型で下は激しく動くためにズボンで利き手の右腕にはガントレットを装着しておりその手には身長と同じぐらいの大剣を悠々と振り回す。
多分、筋力と体力を強化しているのだろう。あれだけ動いているのに息が乱れていない。
そんな大剣をすずかは紫を強調する服で何処かの貴族のようなだが動きやすいドレスで確りとアリサの大剣の軌道を見て回避している。
この2週間、まだまだ改善の余地はあるが荒削りながら連れて行っても問題はないだろう。
そんなアリサ達を眺めていると隣のハジメが短い悲鳴と共に前のめりで倒れた。
咄嗟に後ろを振り向くとそこにはニヤニヤした檜山達の姿があった。
それを見て俺は目を細め、ハジメは倒れたのではなく。倒されたということは檜山の顔を見て明白だった。
「よぉ、南雲。なにしてんの? お前が訓練しても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」
「ちょっ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」
「なんで毎回訓練に出てくるわけ? 俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ」
「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」
無様な姿を晒すハジメをあざ笑う4人に苛ついた目で様子を覗う。
トータスに来てからこの4人のハジメに対する横暴は日に日に激化していった。
やはり力を突然与えられれば今までの自制が外れているのか、隠れて暴力を振るおうとする。
そうなる前にいつも俺はハジメを庇い、ハジメに実害はない。
「お前ら…よくもまあ、こりないな…いい加減、ハジメに構うの止めたらどうなんだ?」
「なんだよ八坂、俺達は南雲の特訓に付き合ってやろうって言ってんだよ」
「それにしては、さっきの不意打ちはとても特訓には見えないな…それと南雲には俺がついてる。檜山達に心配される必要なんて無い」
「はぁ?いつまで舐めた口、聞けると思ってるのか?」
舐めているわけでは無いが檜山達からはそう聞き届いたのだろう。固まっていた檜山達は左右に移動して拳をポキポキと鳴らし、ニヤついた笑みを浮かべる
一触即発、いつでも仕掛けられるように体制を整え、周りも巻き込まれないように遠ざかっていく。
足に力を入れ懐に飛び込もうと思った矢先俺は目にしてしまった。
横からくるくると回転しながら飛んでくる長方形の何か、研き抜かれた鉄はきらんっと光る。
その何かが飛んできた先を見ると、明らかに投球フォームの姿勢でいる。アリサの姿とあわあわしているすずかの姿。
俺は思わずあーっと頭に手を当てる。
檜山達は俺にしか見えてなくて飛んできている何か……っというかアリサの大剣が振ってきているのに気付いてない。
「檜山…聞き分けてはくれないと思うが一応いっておく…絶対に動くなよ?」
「何指図してやがるんだよ!!」
俺の忠告も檜山達にとっては挑発に捉えたのか、今にも襲いかかろうとする檜山達が動き出そうとした瞬間、俺と檜山達の間にアリサの大剣が地面に落ちた衝撃で土煙が舞う。
俺以外、いきなり飛んできた大剣に尻餅を付いて唖然とする中、駆け足でやってくる元凶の姿。
「ごめん、つい、手から大剣がすっぽ抜けちゃって…怪我は…してないみたいね」
どの口で言うかこのやろう…!
そんなことをじと目の目線だけで語る俺だが、アリサも助かったでしょ?っと片目でそう訴えている。
確かに一触即発だった状況に魔が入ったお陰で事なきを得たがもう少しやり方があったのではと本当に思ってしまう。
「あなたたち!何をしているの!」
そんな状況の中、天之河一行が登場、その中の雫が声を上げて、やってくる
「や、やべえ」
流石の天之河達の登場に不味いと感じた檜山達は俺達から離れていき。
これでちょっかいをかけられることは無いだろう。
そんなことを思いほっとする俺は近づいてくる天之河をどう対処するか頭の中で考えるのであった。