次元世界の魔導士は最弱の錬成師と仲間達共に行く 作:ウィングゼロ
馬車に揺られ、ゴツゴツした岩石が目立つ荒野を走り抜ける。
朝に出発したが既に太陽が真上へと昇っていて、かなりの時間、馬車に揺られているのが分かる。
そんな俺が乗る馬車は俺の他にハジメやアリサとすずか、それと天之河、坂上、雫、香織の8人にメルド団長とかなり豪勢なメンツが揃っている。
ただ豪勢とはいえ空気は物凄く重い。
主に俺と天之河のせいなのだが
何でまた同じ馬車に乗せたのかその犯人はおおかたメルド団長なのだろうが、そのメルド団長も苦い顔をしていた。
「どうするのよ、正人…物凄く空気が沈んでるわよ!」
「知るか!寧ろ俺がこの状況どうにかしてと言いたいぐらいだ」
隣にいるアリサが周りに聞こえない位に小声でこの状況の打開を俺に訪ねるが寧ろ俺が聞きたいことでありその言葉をそのまま返した。
そんなこそこそ話をあの男が見過ごすわけがない。
「何をこそこそと話しているんだ?俺達にも関係のあることなら教えてくれないいか?」
天之河だ。
天之河が自分が原因の一つだとはいざ知らず、アリサに訪ねてくる。
俺でないのは単に話を聞いても教えてくれないだろうといういつも通りの自論からだろう。
といってもアリサとすずかもこれまでの天之河の奇行を見てきたことで信用の欠けらもない。
しかしアリサという少女は物事はハッキリという少女だ。故にアリサは天之河であってもはぐらかさず。話し出す。
「ただ単に空気が重いってだけよ!あんたと!正人のせいで!」
「…アリサ、直球だな……俺はともかく、あっちがその気がなければどうしようも無いぞ」
「八坂?それはどういうことだ?」
「俺が何を言おうが俺を悪だと切り捨てるだろ?」
「なっ!?そんなことはない!?」
そう断固否定するが天之河だが、とてもじゃないが説得力に欠けている。
現に俺を切り捨てている辺りを考えれば、自ずとそういう考えに行き着いてしまうのだ。
重い空気は晴れるどころか更に重くなっていき、流石に見かねたハジメが意を決して話し始めた。
「あの…天之河くんと正人くんって…結構付き合いが長いけど…昔からこんな感じだったの?」
「んあ?光輝と八坂か…いつもこんな感じだった気がするが…」
「そうね、言われてみれば、あった当初から犬猿の中だった気がする。」
「私が紹介したんだよね…確か…」
坂上が頭の中の記憶を振り絞り、初めて会った日のことを思い浮かべ、雫も当初から俺と天之河が仲が悪かったことに改めて頷く。
そして香織が初めてあわせたあの日のことを思い出したのか、明確な日時を思い出そうとすると俺が先に口が開く。
「6年前の1月の上旬だ。わざわざ八坂神社まで来ただろ?」
「そうそう、正人くん、覚えててくれたの?」
「……覚えていたというより、あの時期は色々ごたついていて、記憶に残ってただけだ。」
「…あの事件の後か…」
「仕方ないといえば仕方ないよね…」
正確な日時を教えるとそんな昔の出来事を良く覚えていることに香織は不思議がり俺は上手く誤魔化すが小声で話す。事情を知っているアリサとすずかを見て、他に聞こえていないのを見渡しほっとする。
あの事は今回のことに関係のない話だ。香織やハジメであっても教える気はない。
そして香織達が俺と天之河の初めて顔合わせしたときのことも少し思い出した。
出会ってすぐはそこまで険悪では無かった。
だけど天之河の自論や正義論を聞いて、あの事の俺…というより今の俺でもどうしてもそんな考えを認めることは出来ず。強く反発した。
それっきり天之河とは犬猿の仲で衝突することが多かった。
「そうだったんだ……」
ハジメも聞くべきものではなかったと顔を暗くして俯かせる。
後で少しフォローもしてやるかと考えながら、俺はまた外を眺めるのであった。
それから日が地平線に沈み始めた頃、何度か休憩を挟んで停車しながら進み続け、俺達はオルクス大迷宮前の町。ホルアドに辿り着いた。
ホルアドは王都との城下町とは違い、荒野の岩場ということもあってか大きな岩壁を掘ってくりぬきそれを施設として利用している。所も一つ二つでは無く。騎士団御用達の宿に向かうまでに往来する人達を見ても多くは冒険者が目立つ。
そして宿に到着し食事をとった後の深夜、割り振られた部屋で寛ぐ。
部屋は訳あって1人部屋で備え付けられた椅子に座り、持ち出してきた情報端末を机に置いて明日のことを考える。
明日は遂にオルクス大迷宮へと挑むことになる。
既に明日に備え寝るべきなのだが、臨時とはいえクラスの指揮官として動くことを想定して、情報端末に備えられているシミュレーターでシミュレートしていた。
「……やっぱり不確定要素が多すぎる」
シミュレートしているウィンドウを見て顎に手を添え、深く考える。
幾ら精巧に出来ていてもシミュレートなのは変わらない。その事態に直面するのは実際の場合は機械では無く人だ。
それらに直面する人の感情や思考、性格などはどうしてもその時でなければ分からない。
かといって何もしないわけにはいかなかった。
持ちうる全ての可能性を考慮しその中での最善を導き出す。それが今俺がやるべき仕事だ。
「………7年前を思い出すな…」
あの時もこんな感じだったか…
迫る時間の中、持てる全ての力を出して最善を模索し動いていたあの時期…
自分を偽り、他人を欺き…裏切って…ただ一つの目的のために邁進した。
それが最悪の過程を生み出してしまった。
「…………」
何を今更、ぶり返してるのだろうか……もうあの結果は変えられないというのに……
そんなことを思いながら条件や行動を変えながら最善に適した戦略をシミュレーターで模索する。
どことなく没頭して嫌な気持ちを晴らしたいからかタイミングスピードも早くなっている気がする。
「………駄目だ!」
タイミングが早くなったが何処か感情が高ぶっている。
「…紅茶もどきでも飲むか」
こういうときは落ち着くのが1番だろう。
そう思い備え付けられているティーポットに紅茶もどきの茶葉とお湯を入れて、紅茶もどきを作る中、外からノックする音が聞こえてくる。
「こんな夜更けに誰だ?」
既に時刻は深夜…しかも俺を訪ねてくるなんてアリサ達かメルド団長か…訪れる人物は限られている。
そんなことを思っていると外から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「正人くん?起きてる?香織だよ」
「香織?」
香織だ、正しくこの声は香織で間違いない。
しかし、あんなことがあったのでお互い不干渉という取り決めを決めてからはあまり話さないでいたが、こうやって香織が来るなんて何を考えているのだろう。
しかしこのまま無言で返すのも忍びない。
少し、頭をかいて面倒臭がりながらドアノブを捻ってドアを開けると…
「こ、こんばんは」
顔を赤くし、純白のネグリジェを身に纏う、恥ずがしがっている。香織の姿があった
そんな香織の姿を目の辺りにした俺は追い返そうとした言葉など遠くの彼方へと飛んでいき、唖然としていると、香織は今の姿を見られるのが恥ずかしいのか手で、露出している部分を出来るだけ隠しながら下から覗き込むような姿勢で口を開けた。
「ま、正人くんあんまりじろじろ見ないで…それとお邪魔だったかな?」
「い、いや…別にまあ入れよ。流石にそんな格好で廊下に立たせるわけにはいかないし」
「う、うん」
お邪魔しますと俺は香織を部屋の中に入れると、取りあえずと紅茶もどきを振る舞おうとカップをもう一つだしポットから紅茶もどきを注ぎながらふと香織に紅茶もどきをいるか訪ねた。
「香織、紅茶もどきいるか?」
「…………」
「……香織?」
返事が無いことにポットを机に置き、香織の方へと視線を向ける。
当の香織はちゃんと部屋の中にいる。
しかしその表情は信じられないものをみて固まった表情を見せていた。
なんだ?っと香織が固まる視線の方向を見てみるとそこにあったのは先程まで俺が先程までシミュレーターとして使っていた情報端末だった。
「っ!?」
俺は咄嗟に駆け出して、情報端末を片手で持ち電源を切るとすかさず隠す。
多分無理だろうなっと思いながらも俺は香織の顔を伺った。
香織が見ていたときは、先程まで絶賛使っているためにウィンドウやパネルは投影されている。ただの板とは最早言い逃れることも無理だろう。
どうすべきかと思考を回していると、固まっていた香織が動いた。
「えっと、正人くん……もしかして見ちゃ駄目な…ものだったのかな?」
そうもじもじと顔色は困惑している。
俺は少し考えた後、盛大に溜め息を吐いた。
絶対にあやふやに出来ないと…香織になら端末程度なら話して良いだろうと俺は隠していた端末を机に再び置き椅子に座った。
「別に…見られたのは俺の不注意だし…天之河や他の奴らなんかよりかはマシだな」
天之河に見つかった日には絶対にどうして黙っていたんだ。とか言われそうだし他の奴らも同じくで嫌な予感がする。
因みにアリサやすずか、後はハジメと雫辺りはそれからは除外している。あいつらならまだ見せてもいい。
香織に関してもそれに含まれる。まだ香織で良かったよ本当に…
そんなことを考えながら俺の向かいの椅子に座り紅茶もどきを入れたカップを差し出すとありがとうと香織はお礼を言って紅茶もどきを少し飲む。
俺も紅茶もどきを飲んで少し落ち着き、どうするか考えていると先に香織の方から話しかけてきた。
「ねえ、正人くん…さっきの空中投影型の端末だよね」
「ああ、そうだな」
高くなかった?っと値段のことを口にしたがこれは管理局が用意してくれたものなので値段などは知らなかった。
取りあえずまあなっと言葉を濁して誤魔化すが、端末のことがバレたのは事実。
いくら、あの事件で地球の技術水準が上がったとしても、一学生が持っているにしては些か不自然でもあった。
「正人くん、端末で何してたの?」
「明日に攻略のシミュレート…有事の際どう動かすか考えていたんだ」
そういいながら端末を再び起動しスリープモードだったので画面は閉じる前のままで、ウィンドウに映るシミュレートを香織に見せる。
「考えられる最悪のケースをセッティングして、そこからどうすれば最善なのかを模索していたんだ。ただその時の感情や性格までトレース出来るほど精密に出来てないからこの通りに行くとは言えないが」
「そっか…正人くん私達のために必死に考えてくれてたんだ…」
俺が何をしているのかを説明し納得する香織は笑みを浮かべ何処か嬉しそうに思えた。
「香織?」
「……よかった」
俺は少し気になって訪ねると短い言葉と共に安堵の表情を見せる香織が言葉を続ける。
「……正人くん、やっぱり変わってなんてなかった」
「俺が?」
「うん……この世界に来て直ぐ、正人くん……凄く怖かったから…正人くんがあんなこと言って…私の知ってる正人くんじゃないって思えて……でも、アリサちゃんや南雲くん達に対する正人くんの接し方がいつもと同じで……どっちが本物の正人くんなのか分からなくて…不安で眠れなかったから……だから確かめたくて」
「それで俺の部屋まで来たのか」
「うん、でも、もう大丈夫、正人くんはみんなのために一生懸命なんだって分かったから」
そういって語っていたときは顔を暗くして神山での俺を思い出していたのか震えていたが、今は嬉しそうな顔をして俺を見ている。
そんな香織に俺は心配させられていたんだなっと自覚。ありがとうとお礼を言う。
それから少し2週間というギクシャクしていた時間を埋めるようにお互い語り合い。一時間ほどして香織はすっきりしたのか、部屋のドアノブに摑み俺を見た。
「それじゃあね、正人くん、明日…頑張ろうね」
「ああ、また明日」
そうお互い頑張ろうと言い残し、香織は自室へと戻っていった。
「……さて俺も少ししたら寝るとするか…」
香織が出ていったのを見て、寝不足でコンディションを損なわないようにシミュレートを一区切りしてからベッドに入り、俺は眠りについた。
この時俺は気付かなかった。こんな夜中に香織が俺の部屋から出て行く光景を目撃していた人物がいたなんて…