ありふれてはいけない職業で“世界”超越   作:ユフたんマン

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再会

クラスメイトに落とされたハジメは目覚めると、知らない場所に打ち上げられていた。下半身が水に浸っていたことから、着ていた服が全部ビショ濡れになり、体も冷え、大きなクシャミをする。

 

このままではいけないとパンツ以外の服を全部脱ぎ、魔法で火種を作る。それで服を乾かし、暖をとる。

 

 

 

二十分ほど暖をとり、服も乾いたのでハジメは慎重に迷宮の探索を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこでハジメが見たものは正に自然の摂理、弱肉強食の世界だった。弱者は強者に淘汰される。そんな生物として当たり前な世界をハジメは見た。

そしてハジメは弱者だ。現にハジメの腕はこの階層の強力な魔物よりも別格の魔物に喰べられてしまった。

錬成を駆使しなんとか逃げ切れたが、出血多量と失った腕の幻肢痛により、今にも死んでしまいそうだ。

 

(なんで僕がこんな目に…!!)

 

そう思いながらも奥へ奥へと錬成しながら進んでいく。

更に進んだところで、ハジメは水源に辿り着く。そこにはバスケットボールくらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

それは石壁に同化するように埋まっており、下方に向かって水滴を滴らせている。それは小さな水溜りが出来ており、それに顔を擦り付けるように啜り飲む。

 

すると、体の内に感じていた鈍痛や靄がかかったようだった頭がクリアになっていき、倦怠感も治まっていく。

 

ハジメは知らないが、これは不死の霊薬、神水とも言われる歴史上でも最大級の秘宝ともされる伝説の鉱物だ。

 

この神水を飲むことで、回復することは出来たが、殺されかけた恐怖で、ハジメの心は砕けてしまった。

 

 

 

 

 

 

そこから地獄が始まった。

あれから四日経った。その間、神水を飲むことでハジメは生きながらえていた。神水を飲むことで決して死ぬことはないが、空腹感を消し去ることは出来ない。

それに幻肢痛にも苛まれ苦しんでいた。

何度も何度も意識を失うように眠りについては、飢餓感と痛みに目を覚ましの無限ループだ。

 

いつしかハジメは神水を飲むことを止めていた。無意識のうちに、苦痛を終わらせるもっとも早い方法を選択していたのだ。

 

 

 

それから数日経った。

 

まだハジメは生きている。あれから何も口にしていない。だがまだ死なない。一度治った飢餓感は、再び激しくなり襲い来る。幻肢痛は一向に治らない。

こんな理不尽な状況に心身共に絶望に追い詰められる。

 

 

 

そして更に数日が経った。

 

ここでハジメに変化が訪れる

ただひたすら、死と生を交互に願いながら、地獄のように苦痛が過ぎ去るのを待っているだけだったハジメの心に、ふつふつと何か暗く澱んだものが湧き上がってきたのだ。

暗く…暗く…激しい怒りと憎悪…真っ白だったキャンパスに黒のインクが落ちたようにジワリジワリとハジメの中の美しかったものが汚れていく。

 

 

そして全てが汚れそうになった時、唯一ハジメを助けようとした親友の顔が脳裏によぎった。

 

(ディオ…)

 

 

 

 

彼との出会いは中学生の時だった。いつも通りハジメが新刊のラノベを買おうと本屋へ向かうと、そこには金髪のガタイが良く、高身長な男がいた。

ハジメはその男の顔に見覚えがあった。学校は違うが、自分の通っている中学校でも耳がタコになる程に話題になっている生徒だ。

名はディオ・ブランドー。ラグビー部に所属しており、1年で即レギュラーとなる程の才能を持ちながらも、更にその甘いマスクで男女年齢問わず魅了するという完璧な超人だ。

 

ハジメは彼を遠目から観察すると、手に持っている籠には、ミステリー、SF、ホラー、アクションといった様々なジャンルの本が多数入れられていた。

そして彼が立っているのは、今からハジメも用があるラノベの本棚の前だったのだ。

彼は唸る素振りを見せながら本棚を睨み付けていた。

 

彼もこういう本を読むのか…意外だな…と思いつつ、ハジメも、目的の本を取りに本棚に向かう。買うものは決まっていたため、目的の本を取ると、すぐにレジへと向かう。

すると、突然彼に話しかけられた。

 

「突然すまない。私の名はディオ・ブランドーという。」

 

「はぁ」と言いながらもいきなり有名人に話しかけられ、緊張するハジメ。有名でなくとも190cm程の巨漢に声をかけられるのは普通に怖い。というか身長差がヤバイ。

 

「君はこのライトノベルに詳しいのかい?」

 

ハジメが持っている本を指差しながら問うディオ。ここでハジメはディオが何を言おうとしているのか察する。

 

「私にオススメの本を紹介してくれないかい?」

 

 

 

これがディオとの出会いだった。

 

それからも、ハジメとディオの気が合うことから、連絡を取り合うことが多くなった。ネトゲ等では協力プレイ、対戦ゲームでは二人で競いあったりと楽しい時間を過ごした。

次第にリアルでも度々会うことになり、ハジメの親が勤める会社にディオが見学に来る程になった。

遊んでいる内にわかったことだが、周りの噂と実際は大きく違っていた。チャットをしている時に、偶に素が出たりして、外面の自分を作っているということに気づいた。

このことを本人に言うと、二人の時だけ素で話してくれるようになったが、高校生になってから、だんだんと元に戻っていった。

外面だと思っていたのが、それが素になったとでも言う程に…だ。それでも彼自身は変わらなかった。

 

同じ学校になった高校では、余り目立ちたくないハジメを考慮して、必要最低限のことしか話しかけてこなかった。チャットやLINEでの愚痴や鬱憤は相変わらず多かったが…

 

ディオはいつもハジメの味方だった。少し口喧嘩をすることもあったが、自然に喧嘩は終わり、すぐにまた話すようになったりもした。

 

異世界に来てからもそうだった。ハジメを馬鹿にする檜山達を諫めたり、イジメが激しくなってきたハジメを心配したり…

 

あの橋でもそうだった…あの時、ディオだけが助けに来たのだ。二十階層から全力で走り抜け、ハジメ達のところへ駆けつけたのだ。

 

 

 

 

 

ハジメの意思は固まった。まずは生きる。生きる。簡単そうで現在もっとも難しい。そして一緒に奈落へ落ちたディオと、元いた世界、日本への帰還だ。

他はどうでもいい。

ハジメの意思は、ただ一つに固められる。鍛錬を経た刀のように。鋭く強く、万物の尽くを切り裂くが如く。

 

すなわち……

 

(殺す…)

 

悪意も敵意も憎しみもない。

ただ生きる為に必要だから、目的の為に、滅殺するという純粋なまでの殺意。

 

自分の生存を脅かす者は敵、目的を邪魔する者も全て敵だ。

 

そして敵は…

 

 

殺す…!

 

 

 

 

(殺して喰らってやる…)

 

いまこの瞬間、今までの南雲ハジメは消え去り、新しく、後に魔王と呼ばれるハジメが誕生した。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

その後、魔物を喰らい、身体が作り変えられる痛みに耐えながら力を溜め続けたハジメは、ディオを探すため、生きる為に階層を降り続けていった。

 

そして五十階層に辿り着き、同じ一族に裏切られたというハジメと同じ境遇にある、封印されていた吸血鬼の金髪紅眼の少女?を錬成で助け出した。そしてその吸血鬼の少女をユエと名付けた。どうやら彼女を封印した吸血鬼は、封印が解かれた際に発動する仕掛けを掛けていたらしく、現在ハジメは体長8メートル程のサソリと対峙していた。

 

 

 

ユエを背負いながら、ハジメが錬成で作り上げた相棒、大型のリボルバー式拳銃のドンナーを構え、サソリの攻撃を飛び退いて躱し続ける。

サソリの攻撃は尻尾の針から溶解液を噴出するというものだ。

 

ハジメはそれを横目で確認しつつ、ドンナーでサソリに向かい発砲する。

 

ドパンッ!

 

ドンナーの弾丸の発射速度、秒速3,9キロメートル!!そしてさらに魔物を喰って得た力、“纏雷”により電磁加速された弾丸はサソリの頭部に炸裂する。

ハジメは魔物を喰べたことで、本来魔物しか使うことの出来ない魔力操作を会得しており、この世界ではアーティファクトと呼ばれるドンナーに、詠唱無しで電撃を帯びさせることが出来る。

それを見たユエは驚愕する。何故なら彼女も魔力操作という技能を持っているからだ。

実はユエ、現在300年という長い間封印されていたせいで魔力が枯渇しており、ハジメの足手まといとなっているが、魔力さえあれば、魔力を直接操り、強力な魔法をポンポン放てる勇者顔負けのチーターなのだ。

 

自分と『同じ』、そして、何故かこの奈落にいる。ユエはそんな場合じゃないとわかっていながらサソリよりもハジメを意識せずにはいられなかった。

 

一方でハジメは足を止めることなく、くどいようだが、魔物を喰べて手に入れた“空力”を使い、跳躍を繰り返す。

するとサソリの尻尾の針がハジメに照準を合わせ、凄まじい速度で針を撃ち出した。

躱そうとハジメは動くが、針は散弾銃のように広範囲を襲う。

 

「ぐっ!!」

 

ハジメは唸りながら、ドンナーで撃ち落とし、“豪脚”で払い、“風爪”で叩き切る。どうにか全て凌ぎ切り、お返しとばかりにドンナーを発砲。そして手榴弾を投げる。

それはカッと爆ぜ、その中から燃える黒い泥を撒き散らしながらサソリへと付着する。

 

所謂『焼夷手榴弾』というやつだ。奈落の上層で手に入れたフラム鉱石というものを使っており、摂氏三千度の付着する炎を撒き散らす。

 

サソリが暴れ、炎を引き剥がそうともがく。その隙にハジメはドンナーを素早くリロードする。

 

それが終わる頃には焼夷手榴弾は燃え尽き、殆ど鎮火してしまっていた。サソリはダメージがあったようで怒りを露わにし、ハジメを睨む。

 

「キシャァァァァァアア!!!」

 

叫びながら、8本の足を猛然と動かし突進する。4本の大バサミがいきなり伸長し大砲のように風を唸らせながらハジメに迫る。

 

ハジメは技能をフルで使用し、全てのハサミを避け、跳躍しサソリの背中へと降りたった。そしてサソリの外殻に銃口を押し当て、ゼロ距離でドンナーを打ち放つも、僅かに傷が付いたくらいで、ダメージらしいダメージは与えられていない。

 

 

その後もあらゆる手を使うが、全てサソリの外殻に弾かれる。どうすべきかと、ハジメが思考を一瞬サソリから逸した直後、今までにないサソリの絶叫が響き渡った。

 

「キィィィィィイイイ!!」

 

その叫びを聞いて、全身を悪寒が駆け巡り、咄嗟に距離をとろうとするハジメだったが……既に遅かった。

 

 

すると突如、周囲の地面が波打ち、轟音を響かせながら円錐状の刺が無数に突き出してきたのだ。

 

 

これには完全に意表を突かれ、ハジメは必死に空中に逃れようとするが、それを読んでいたサソリはハジメに尻尾の照準を合わせ、散弾針と、溶解液が発射される。

 

ハジメは避けるのは無理だと歯を食いしばる。そして溶解液だけを空力でなんとか躱し、腕をクロスさせ急所を守る。

 

直後、強烈な衝撃と共に鋭い針が何十本とハジメの体に深々と突き刺さった。

 

「がぁぁああ!!」

 

悲鳴を上げながらなんとか致命傷だけを避ける。衝撃で吹き飛ばされ地面に叩きつけられ、そのまま転がる。ユエもその衝撃で背中から放り出されてしまった。

 

ハジメは痛む体に鞭打ちながら、ポーチから閃光手榴弾を投げつける。それはサソリの眼の前で強烈な光を放った。

 

「キィシャァァァァァアア!!」

 

突然の光に悲鳴を上げ思わず後ろに下がる。

ハジメはその隙に奥歯に仕込んでいた神水を噛み砕き飲み干しながら一気に針を抜いていく。

激痛の余り、呻き声が漏れるが耐えられないほどではない。

 

「ハジメ!」

 

投げ出されたユエがハジメを見つけ、駆け寄る。無表情が崩れ今にも泣き出しそうだ。

 

「どうして…?」

 

「あ?」

 

「どうして逃げないの?」

 

自分を置いて逃げれば助かるかもしれない。それを理解しているはずだと訴えるユエ。しかしそれに対してハジメは呆れたような視線を向ける。

 

ハジメは生きるためならどんなことでもする。闇討ち、不意打ち、etc,

だが、好き好んで外道には落ちたい等と思ってはいない。通すべき仁義くらいは弁えている。

 

だからこそ、ここで助けたユエを見捨てるという選択肢はない。

 

ユエは、ハジメに言葉以上の何かを見たのか納得したように頷き、いきなり抱きついた。

 

「お、おう?どうした?」

 

状況が状況だけにいきなり何してんの?と若干動揺するハジメ。

 

すると突如、閉まっていた背後の扉が開かれる。

何事かとハジメはユエを庇うように扉から遠ざけ、扉の方へと視線を向ける。

 

 

「あいつは……!!?」

 

そこには見覚えのある半裸の男が立っていた。彼はハジメとユエを一瞥すると、何を思ったのか再度扉を閉めた。

 

「すみません、間違えました。」

 

「ちょッ!?待てぇえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ちょッ!?待てぇえ!!」

 

「嫌です。通報しました。」

 

変態の言うことは無視に限る。ギルティだギルティ。昔からあるだろう?YES!ロリータ、No!タッチって。

あの人タッチしちゃってんもん。御用だよ御用。衛兵さーん!ここに犯罪者がいまーす!

 

「待て!!本気で行くな!!ディオ!!俺だよ俺!!」

 

ああ?なんで俺の名前知ってんだこいつ…

 

「私の知り合いに貴様のような厨二患者はおらん!騙されんぞ!」

 

色の抜け落ちた白髪に赤い眼。アルビノみたい。けど激しい戦闘音してたしアルビノではないだろう。

 

「ちゅ、厨二病……」

 

その言葉に白髪の男はショックを受けたようでorz状態になる。間違いない。こいつは…

 

「ハジメか…?」

 

「あ、あぁ。久しぶりだな…」

 

やはりハジメだ。厨二病と言われ過去の傷を抉るとこうなるのは豹変前と変わらないらしい。

ぶっちゃけると最初に声を掛けられた時点で気付いていた。

 

「…ハジメ、悪いけど時間がないから…」

 

そばにいた幼女がハジメの首筋にキス。と思ったら血を吸っていた。

 

吸血鬼…!?300年前に滅んだはずだが…!こいつ…まさかあの物語の女王か!!?

 

リリアーナに聞いた話を思い出す。

 

「オルクス大迷宮に幽閉されていた吸血鬼の女王か…!?」

 

「あぁ、そうらしい。っと、今は話してる場合じゃないな。ディオ、少しの間あのサソリを足止めしておいてくれ。」

 

 

「キシャァァァァァアア!!!」

 

 

部屋の奥からサソリのような魔物の咆哮が轟く。

 

ったく…まだ倒してなかったのか…あ!!おい!!ハジメ!隠れるな!!

 

ハジメは錬成で地面を隆起させ、自分の姿を隠し、サソリの注意を俺に引かせる腹だろう。

 

「仕方ない…!!このディオがやってやるッ!!」

 

 

サソリは奇声を発し、俺の方へと突進してくる。ひとまず俺も迎え撃ち、ハサミと俺の腕が激しくぶつかり合う。

すると、サソリのハサミは少しヒビが入り、サソリは驚愕する。

 

サソリは大きく後ろに退避しようとするが、俺がみすみす距離を取らせる訳がない。サソリは距離を取るのを諦め、溶解液と散弾針を大量に放つも、俺は発射口である尻尾の真下に潜り込み、難なく回避する。そのまま尻尾を掴み取り、気化冷凍法で中身の溶解液を凍らせ、針を詰まらせる。

 

そのまま尻尾を掴みながら俺は大きく跳躍する。豪力を使い、天井ギリギリまで跳ぶ。   

 

「UREYYYYYYYYYYYYYYYッ!!」

 

そして尻尾を持ちながら振りかぶり地面に叩きつける。

キシャァァァァァアア!!と悲鳴を上げながら仰向けになるサソリ。

 

「吸血完了、今…!!“蒼天”!」

 

その瞬間、サソリの頭上に大きな青白い炎の球体が出来上がる。それは仰向けになったサソリの腹に直撃し、青白い光が視界を埋め尽くす。

その魔法はとてつもない強度を誇った外殻をもドロドロと溶かす。

 

「さぁ!!最後の攻撃だァッ!!行くぞ!!ハジメ!!」

 

「お疲れさん。助かったよ、ユエ。後は任せろ。

ああ!!行くぞディオ!!」

 

俺はサソリの上に飛び乗り、腕に力を込める。

 

「KUAッ!!」

 

渾身の力を込め腕を振り抜く。それはユエの魔法にも負けない程の衝撃波を放ち、溶けかかっていたところから外殻を完全に破壊しきる。

 

そこにハジメが手榴弾を投げ込み、それをドンナーで撃つ。その瞬間爆発し、サソリは断末魔を叫びながら粉々に粉砕される。

 

 

俺とハジメはそれを見届けた後、拳と拳を打ち付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、俺のズボンは溶解液にやられ、ヒラリと舞い落ちた。

 

 


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