ありふれてはいけない職業で“世界”超越   作:ユフたんマン

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恐怖心

サソリ型の魔物を倒した俺たちは、破裂したサソリと、部屋の外で倒れていたサイクロプス二体の素材やら肉やらを回収し、ハジメが拠点としている場所へと持ち帰った。

 

サソリの血はしっかり吸っておいた。ミイラを見たハジメ達は驚いていたが無視無視。

 

拠点で今までの情報を交換し合った。語るも涙、聞くも涙の話を聞かされた。

どうやらハジメはかなり辛い道を歩んでいたようだ。

だからそんなにアルビノ風の厨二病になってしまったのか…

 

「うるせぇ、俺の傷口抉んな」

 

おっと、口に出ていたようだ。

 

対して俺のことを話せば呆れられた。何故だ…解せぬ。

 

「まぁお前らしいっちゃお前らしいな…」

 

 

 

「…ところでハジメ、次はその…ユエだったか?一体どうして吸血鬼の女王を助けたんだい?」

 

俺が作り置きしていた魔物の服を体に身につけた少女を見る。長い金髪、紅い目、まさに吸血鬼といった外見をしている。それに封印されていたということはそれ程危険な存在だったからだろう。

 

「あぁ、そうだなユエは「私が話す…」…わかった。」

 

そこから彼女はポツポツと話し出す。

どうやら彼女は先祖返りの吸血鬼だという。普通の吸血鬼よりも強大な力を持っており、国の為にその力を使い続けていたそうだ。

しかしある日、叔父に裏切られて、技能のせいで死ねないユエを、この大迷宮に封印したらしい。

 

なるほどなぁ…けどこの迷宮の最高到達階層って65階層じゃあなかったか?まぁ300年も前なら記録に残っていなくても不思議ではないな。

 

「次は私からの質問… ディオ、貴方は一体何者?吸血鬼のようだけど…私の知る、私と同類の吸血鬼じゃない。」

 

紅い目で俺を見る。そういや俺がハジメと同じく異世界からきた勇者の同胞って言ってなかったな…まぁここで言えばいいか。

 

「私はハジメと同じく異世界からきた者だ。まぁ、種族については聞いてくれるな。まだ私にも把握しきれていない。わかっていることといえば私は異世界の吸血鬼…といったところだ。」

 

「異世界の吸血鬼?」と呟くユエに、ハジメが詳しく説明する。太陽光に弱い、十字架に弱い、銀に弱い、ニンニクに弱い等etc…

まぁ弱点は太陽光と波紋だけだが…

 

「ところでユエは300年以上前から封印されてるんだよな?そうすると、ユエって少なくとも300歳以上なわけか?」

 

「……マナー違反」

 

ユエが非難を込めたジト目でハジメを見る。女性に年齢の話はタブーということを知らんのか!

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

 

「…私は特別。“再生”で歳もとらない……」

 

聞けば12歳の時、魔力の直接操作や、“自動再生”の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。

 

……?あれ?俺ってば自動再生持ってんぞ?それに不老不死も… 俺ってユエと殆ど同じなんだな。

 

 

っとそれより…

 

「ハジメ、私に血を分けてもらえないかい?」

 

「は?前に男の血は不味いって言ってたじゃねえか。」

 

すごく嫌そうな顔で俺を見るハジメ。傷つくから止めてくんない?

 

「魔物の血よりは幾分マシだ。ここのところ魔物の血しか飲んでいないからな。」

 

ハジメが錬成で作ったコップを差し出し血を要求する。何故コップだって?おいおい、俺が口で吸えば男女問わず快楽を与えんだぜ?男同士じゃあ絵面がヤバイだろ?

 

「俺じゃなくてユエじゃダメなのか?」

 

「ダメだ。」「ダメ…」

 

俺とユエの声が重なる。

 

「吸血鬼同士での吸血は禁じられている… 特に力を持つ者は…」

 

本に書いてあったことだが、吸血鬼同士で吸血すると、吸血した方は、膨大な力が体の中を駆け巡り体が暴発する、らしい。更に吸われた方は、どんなに少量でも体の中の魔力等が危篤状態になる程まで吸い取られるらしい。

ユエのような膨大な力を持った女王なら尚更だ。俺も死なないとはいえ爆発するのは嫌だ。というか俺が大丈夫でもユエがヤバイ。

 

どうやら技能の自動回復は魔力がないと回復出来ないらしい。知らなかったな… まあそんなわけで魔力が枯渇したらユエが死んでしまうというわけで、俺は現在美味しく飲めるのはハジメの血しかないということだ。

 

「チッ…しょうがねぇなぁ…」

 

やれやれとしながらハジメは自分の腕をナイフで軽く切り、コップに注いでいく。

 

「ほらよ…!」

 

投げやりに渡されたコップを受け取り、さっそく血を口に含む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゥンまあーいっ!!なんつーか気品に満ちた血っつーか、人間に例えると砂漠の中を飲まず食わずで彷徨い続けてよーッ!幻覚が見えてくるぐらい危ねー状態の時にオアシスを発見して初めて飲む水っつーかよぉーっ!!血!!飲まずにはいられないッ!!

 

「美味しそうで何よりだ。」

 

目の前で笑みを浮かべながら血を飲む親友を見たハジメは、苦笑いしながら止血しようと包帯を巻こうとする。するとそれをユエに止められる。

 

「ディオだけ狡い…私も飲む…」

 

ハジメから包帯を取り上げハジメの傷口をペロペロと舐め回す。

 

「ちょっ!!?おま!!止めっ…!?」

 

 

 

 

 

空になったコップを地面に置き、それを見た俺はボソッと呟いた。

 

「事案発生…」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「だぁー、ちくしょぉおおー!」

「…ハジメ、ファイト……」

「どうしたハジメ。近くにコ◯メ太夫でもいるのか?」

「うるせぇぇええ!!」

 

現在、俺たち一行は、猛然と草むらの中を逃走していた。

周りは約160cm以上ある雑草が生い茂っている。それを掻き分けながら、俺たちが逃走している理由は、

 

 

「「「「「「「「「「シャァァアア!!」」」」」」」」」」

 

200体近い魔物に追われていたからである。

 

「ディオ!!お前絶対俺よりステータス高いだろ!!アイツらの足止めをしてくれぇ!!」

 

「残念だが私は殲滅には向いていない… どちらかといえば殲滅ならユエとハジメが向いているな…それにステータスはプレートを失くしたと言っているだろう?」

 

ひとまず俺はジョースター家直伝の秘技でこの場を乗り切る!!ジョースター家じゃあないけど!!

 

 

俺は横から襲ってきたティラノザウルス型の魔物の頭にある一輪の花を掴み、力を少し入れ、魔物の頭に飛び乗る。

 

「これが我が逃走経路だッ!!」

 

ジョースター直伝の秘技!!逃げる!!

 

そのまま迫り来る魔物の頭を踏み台にしながらその場を離れていく。

 

「フハハハハハハッ!!後はハジメ、任せたぞ!!」

 

馬鹿笑いしながら俺はドンドンと距離をとって行く。

 

「ディオォオ…ぉぉ…」

 

なんだ?急に声が小さくなったぞ?

 

チラリと振り返ると…

 

「「「「「「「「「「キシャァァァァァァアアア!!」」」」」」」」」」

 

殆どの魔物が俺の後を追いかけて来ていた。

 

「何ィィィィイイイイッ!!?」  

 

何故だ…!!?何故俺の方にこんなに来やがるんだ…!?花をピラピラさせやがってェエ!!俺の方へ近寄るなァァァアアア!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

はぁ、怠い…やっと倒し終えた…

 

そこは死屍累々の山が出来ていた。それは全て先程襲ってきた恐竜達だ。しかも何故か全員頭に一輪の花を咲かせている。何故なんだ…?

 

しかし階層的にも魔物が弱過ぎる。ここはユエが封印されていた階層から10階層降りた約60階層だ。それなのにこれまでの階層とは違い、群れの癖に連携を一切行なっていない。ただただ敵を倒さんと動く殺戮兵器だ。

 

まぁそれ故に倒しやすかったんだが…

 

まぁ、それよりも… まずは血祭りだ…!!

 

俺は右手を切り落とし、その傷口から、エシディシのように血管を体の中からウネリながら出てくる。

これは肉体操作の応用で、原作ディオ様の首から出ていた触手のようにウネリ動く血管を、内部から外部に出すだけの技だ。もしも首だけになってもこれで逃げ出せれるぞ!!

 

血管を複数の魔物の死体に突き刺し高速で吸血する。

 

これ結構楽なんだよなぁ。味は勿論しないが複数を一気に吸血出来るから効率がいい。けど一体この数…いつになったら終わるんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 一時間後 〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと終わった……時間かかり過ぎだろ…しかも途中から増援が何百体と来るしよぉ〜…

というかそろそろハジメ達と合流しないと置いてかれる!!

 

俺は聴覚を強化し、ハジメ達の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

今現在ディオと別れたハジメ達は、ティラノザウルス達に花を寄生させ、操っていた本体がいるであろう部屋の中央へと訪れていた。

 

「ここでビンゴだろ。油断するなよ?」

 

「ん」

 

すると突然、全方位から、緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできた。それに気づいたハジメとユエは一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃していく。

 

次第に球の数が多くなっていき、今では100個を超えているだろう。ハジメは迎撃しきれないと踏み、錬成で壁を作り出し防ぐことに決めた。壁に阻まれ貫くこともできずに潰れていく球。大した威力もなさそうである。

ユエの方も問題なく、速度と手数に優れる風系の魔法で迎撃している。

 

「ユエ、おそらく本体の攻撃だ。どこにいるかわかるか?」

 

「………」

 

「ユエ?」

 

その時だった。

 

 

ドジャアアアアアンッ!!

 

 

外の寄生された魔物達が入って来れないように錬成して閉じていた入り口が破壊される音が室内に響き渡った。

 

「まったく…何故こんなにここに集まっているんだ… 時間がかかってしまったではないか…」

 

入ってきた人物はハジメ達がよく知っている人物だった。そしてハジメ達を置いて一人で逃げようとした男…

 

 

「ディオ!!」

 

ディオ・ブランドーだった。

 

なんだこれ?というように緑の球を手で破壊しながらこちらに歩み寄るディオ。なんともないのか?とハジメは思いながらもディオに現状を話す。

 

 

 

 

「なるほど…本体らしきモノの音は聞こえるな…」

 

ディオは本体がいると思われる場所へと向かおうと俺達に背中を見せる。

 

「二人とも…逃げて…!!」

 

いつの間にかユエの手がディオの背中に向いていた。ユエの手に風が集束する。ディオが振り向いたその刹那、強力な風の刃がディオを縦に両断する。

真っ二つになったディオは力無く地面に伏せる。

 

「ディっ!!ディオォオオ!!?何してんだユエ!?」

 

ディオが殺され、悲鳴のような怒号を上げるハジメに、ユエは涙を流しながら謝る。

 

「ハジメ……うぅ…ゴメン…なさい……」

 

ハジメはそんなユエを見て、少し冷静になり、ユエに起こった異常を理解する。そう、ユエの頭の上にも花が咲いていたのだ。それもユエによく似合う真っ赤な薔薇の花が…

 

「くそっ、さっきの緑球か!?」

 

ハジメは自分の迂闊さに自分を殴りたくなる衝動を堪え、続々と放たれる風の刃を回避し続ける。

 

ハジメはこの状態の解放方法を既に知っている。ハジメはドンナーをユエの薔薇に向けるが、飛び道具を相手は知っているようで、上下に激しく動くように動かしたり、腕等で花を守るような動きをしだした。

接近しようにも、ユエの手を操り、手を自分の頭に当てるという行動に出た。

 

「やってくれるじゃねぇか…」

 

つまり、ハジメが近づいたら、ユエ自身を自らの魔法の的にすると警告しているのだ。

 

ユエは確かに不死身に近い。しかし、上級以上の魔法を使い一瞬で塵にされてなお再生出来るかと言われれば否定せざるを得ない。

そしてユエは最上級の魔法ですらノータイムで放てるのだ。特攻など分の悪そうな賭けは避けたいところだ。

 

ハジメの逡巡を察したのか、それは奥の縦割れの暗がりから現れた。 

 

アルラウネやドリアード等とという植物と人間の女性が融合されたような魔物がいる。目の前にいる魔物はまさにこれだった。

醜悪な顔で笑みを浮かべながらディオの死体を踏み、ハジメを挑発する。

すぐさまハジメは銃口をアルラウネに向けるが、ユエが射線に入り込む。

 

「ハジメ…ごめんなさい……」

 

再度悲痛そうな顔で謝るユエ。口は謝罪しながらも、引き結ばれた口からは血が滴り落ちている。鋭い犬歯で唇を傷つけているのだ。

悔しいためか、呪縛を解くためか、あるいは両方か。

 

 

ユエを盾にしながらアルラウネは緑の球をハジメに打ち込もうとしたその瞬間…

 

 

 

 

アルラウネの右半身が凍った。

 

 

「ま、まさか……生きていたのか……!!?ディオ!!」

 

アルラウネの影から姿を現したのは、先程死んだと思っていたディオだった。だが少し様子がおかしかった。

真っ二つに分かれた右半身と左半身がズレて引っ付いているのだ。

 

「ンッン〜!」

 

下にある顎に手を添え、頭の天辺を叩くことで、体のズレを治す。直した直後、彼の傷は跡形も無くなった。

 

ニタニタという笑いを止め、表情も凍りついているアルラウネの肩に、ディオは手を置く。

 

「どうした?動揺しているぞ、アルラウネ。『動揺する』それは『恐怖』しているということではないのかね」

 

直後、ハジメとユエに、ディオの普段では考えられない程の威圧感と圧迫感に襲われる。汗が流れる。喉が渇く。ハジメもユエも、かなりの強敵と戦ってきたが、これ程までに恐怖心を煽られた存在には出会ったことはなかった。ハジメに関しては最初の頃の爪熊と同様、いや、それ以上だ。

しかもこれは自分自身に向けられたモノじゃない。これはあのアルラウネに向けられているのだ。その余波でこれだ。格下ならその威圧感と圧迫感だけで殺せるだろう。

 

「貴様は死ぬしかないな…!」

 

ディオはアルラウネの頭を握り潰す。ユエの頭にあった薔薇は枯れるようにポトリと落ちる。

支配から逃れたユエは、ディオの威圧感に気圧され、地面にへたり込んでしまう。ディオはそんなことは気にするか、とでも言うようにアルラウネからツルを剥ぎ取り、丸出しになったディオのアームストロング砲を隠す。

 

彼がこちらに来ると、先程までの威圧感は、嘘のように消え去り、いつも通りの雰囲気に戻っていた。

 

 

(一体何だったんだ…!?)

 

 


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