現在俺たちはイシュタルと名乗る老人に案内され、十メートル以上はあるテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
そこに全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。
皆の妄想を具現化したような美女、美少女メイドだ。当然男子の大半はメイドさんを思わず凝視。思春期だからしょうがないね。
普段俺なら同じように凝視しただろうが生憎ここに来てから体調が優れない為、そんな余裕はない。
「雫…すまないがイシュタルとかいう老人の話を後で教えてくれないかい?少し体調が優れなくてね…今、話を聞く余裕がないんだ…」
男子を冷たい目で見ている女子を見て苦笑いしていた雫に話の内容を教えてくれと頼む。マジで聞く余裕がない。インフルエンザの時よりも体がダルい。というか窓から差し込む日光が眩しい…
目の前に置かれた飲み物を口に含む。紅茶のような色をしているがどうやら紅茶ではないようだ。しかし味がとても薄い。言うなればカルピスの原液と水の分量が合っていない時のような薄さだ。
周りの他に飲んでいる奴を見ると皆美味しそうに飲んでいた。なんでや!?これ味うっすいやろ!!
「雫…この飲み物少し、いや…かなり薄くないかい?」
「え?十分濃くない?」
これが濃いなんて正気か!?いやまて…味が薄く感じるのもこの体調のせいだクソッタレ…!
「ねぇ…大丈夫?もうイシュタルさんの話終わったわよ?」
もう終わったのか…?ヤバイ…意識が朦朧としてきた…
「ッ!!?ディオ!!貴方!!体から煙が出てるわよ!!」
ったく雫は何言ってんだ…そんなわけないだろ…俺は人間なん…だ……か…ら?
手を見るとそこからは煙が立ち昇っていた。否、これは煙ではない!!!
「こ、これは!!?まさか!!?」
灰だ!!俺の体が灰になっているんだ!!しかもこの灰が出ているのは日光が当たっている部分だ!!
「クッ…!!避難しなくては!!」
具合の悪い体に鞭打ち立ち上がる。今思えば召喚された場所も大広間も日光が入り込んでいた。
日光が当たらないエリアを探し、メイドが出て来た扉に目をつけた。そのまま脇目も振らずに突撃。扉を突き破って通路の隅に身を隠す。
ハァ…ハァ…助かった…大分マシになった…まさか体調不良の原因が日光だったなんて…太陽の光を浴びて灰になる…それに…
腕に爪で軽く引っ掻き傷を作る。だがそれはすぐに消え去った。
この再生能力…もしかしなくても吸血鬼じゃあねえかァアッ!!!!
ディオという運命からは逃げられない。
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日光に耐性があってよかった…なけりゃあ一瞬で灰になって消え去っていただろう。
あれから俺はイシュタルさんに体を隠せるコートを貰い日光から身を守る。そしてその後、王宮に連れて行かれた。ここに来るまでがすごく大変だった。
何故って?あれだよ。聖教教会は神山とか言われる山の頂上にあるらしいんだよ。勿論雲より高い位置だ。そうなると日光を遮る物もなく、景色は幻想的なものであったが俺には地獄に見えた。
そんで向かう最中に雫にこの世界の話を聞いた。掻い摘んで話すとこうだ。
この世界には魔法があり、人間族、魔人族、亜人族と、三つの種族がある。
そして北を人間族、南を魔人族が治めており、二種族の間の樹林で亜人族がひっそりと暮らしている。
魔人族は個の力、そして人間族は数の力で長年拮抗していたそうだ。しかし最近魔人族が魔物を操るようになり数というアドバンテージが奪われた人間族は、滅びの危機を迎えている。
そしてそこに彼らが信仰しているエヒトという神が人間族の危機を助けるために俺らを召喚した。
ということらしい。なんとも自分勝手な神様だ。
王宮に着くとすぐに玉座の間に案内された。玉座の間に着くと、扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士2人がイシュタルさんと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。
ちょっとまて…!!王様中にいるんだろ!!?そんなことしたら無礼だろう!?暴君ならそっコロだぞ!!
イシュタルさんはなんら気にすることなく玉座の間へと入って行く。後をついていくと、王らしき初老の男が立ち上がって待っていた。
玉座の手前に着くと、イシュタルは俺達をそこに止め置き、国王の隣へとすすんだ。
周りを見渡すと、軍服のようなモノを着た人、文官らしき人がざっと30人は佇んでいた。
イシュタルは国王の隣に着くと、おもむろに手を差し出すと、国王はその手を取り、軽いキスをした。そこで俺はこの国に警戒心を抱いた。宗教が統治する国などロクなことはない。テンプレ的にはそうだ。警戒しておいて損はないだろう。
そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。
そして十歳ほどの金髪碧眼の少年はランデル王子、その隣にいる14歳程の王女はリリアーナという。
後は、騎士団長や宰相など、高い地位の人達の紹介がなされた。紹介されている間、たびたび視線を感じた。コートを被り姿を見せない俺を不審がっているのだろう。
紹介が終わると王女、リリアーナが口を開く。
「ところで…そこの彼は何故顔を隠しているかはわかりませんが、差し支えがなければお顔を拝見させてはいただけませんか?」
リリアーナの言葉にイシュタルさんが事情を説明するが少しの間なら大丈夫だといい覆っていた服を脱ぐ。
「私の名はディオ・ブランドー…事情があれど顔を王族の方々に隠していたことを謝罪いたします。」
俺が顔を晒すと俺に慣れてしまったクラスメイト以外が男女問わず息を飲む。
黄金色の頭髪、透き通る肌、男とは思えないような怪しい色気。その場にいた女性は全員顔を赤らめ、男性陣はディオの発した声に心を安らげられる。その中の1人、騎士団長のメルドはディオに恐怖する。自分と話すならともかく他人と話すだけで周りにいた自分までもが安らいでいることに。彼はディオの危険な甘さを感じ取っていた。
どうやらディオ様の魅力は異世界でも通用するようだ。女性達の心をズキュンと射止めたようだ。単純に女性から好意を寄せられるのは嬉しいが、それが自分の本来の顔でなくこの未来の姿が約束されたディオ様の顔というのはなんとも言えない虚しさがある…
「そ、そうですか…!無理を言って申し訳ございません!!」
「いえいえ、こちらはこれから衣食住を提供してもらう身です。このぐらいのことでは無理とは言いませんよ。」
軽く微笑むとリリアーナの顔がさらに赤くなる。
が、すぐに真剣な表情に戻り、クラスの皆に聞こえるように大きな声を出す。
「勇者様とその御一行様方!!この度はこちらの都合で何の断りもなく召喚したことを謝罪いたします!失礼も重々承知ですが、どうか、貴方様方の御力でこの世界をお救いくださいッ!!」
リリアーナが頭を下げた。そう、王族が頭を下げたのだ。相手がもし他国の権力者なら国際問題にもなりかねない。
勿論、国王や王妃、イシュタルは止めるがリリアーナは断固として辞めない。
これに真っ先に反応したのが光輝だ。
「安心してください!!ここにいる皆は既にこの世界を救うために戦う覚悟は出来ています!」
クラス全員が光輝の言葉に同意する。
俺も当然賛成だ。帰る方法がないなら衣食住を提供してくれる所にいた方がいい。この世界を救えばエヒト様とやらが元の世界に帰らせてくれるかも、という話だそうだ。確信はないが試すしかない。あっちにいるジイさんバアさんが気掛かりだ。
「私も当然賛成です。これからお願いします。リリアーナ王女。」
俺達の異世界生活はここから始まった。