「くそッ!!あの宝石は残ってないのかッ!!?」
俺とアドースさん以外が転移トラップで何処かに飛ばされた元凶である宝石を探すが見つからない。
「…あ、あのようなトラップは一度発動すると一定時間が経つまで現れることはありません!!」
「くっ…ッ!!ここで無闇に動くのは得策ではないッ!!しかしそれでは間に合わんかもしれん!!一体どうすれば…!!」
アドースさんによるとトラップによって復活する時間が異なるらしく、数十秒で復活するトラップもあれば数ヶ月かかるのもあるらしい。
無闇に動こうにも何処に転移したのか見当もつかない。下の階層、上の階層、ここで間違えれば詰む!!
「私は下の階層を探索するッ!!貴方は上の階層をお願いしたいッ!!」
「で、ですが…ッ!!」
「ツベコベ言うんじゃあないッ!!今は一刻を争うッ!!見つけ次第この魔法具を使え!!勇者達が見つからなかった場合は冒険者ギルドに救援の要請を頼むッ!!」
今日、大迷宮に挑む前に市場で買った魔法具をアドースさんに投げ渡す。これは『ペアブレイク』と呼ばれる魔法具だ。二個で一つという特殊な魔法具で、この二つの魔法具は特別な電波のようなもので繋がっていて、片方を潰すともう一つも破壊されるという緊急用のサインアイテムだ。どんな場所でも使えるが、消耗品で、価格も高いということで余り人気のない魔法具だ。買ったのは気まぐれだったが今朝の自分を褒めてやりたい。
俺はトラップ部屋を後にし下層への階段へと目指す。当然、過去にマッピングされている45階層までの構造は完璧に把握済みだ。俺がわざわざ下の階層を選んだのはこのためだ。アドースさんをはじめ殆どの団員は迷宮の構造を把握しきれていない。地図を見ればいい話だが、今はそんなことをしている時間も惜しい!!
技能の五感強化と剛力をフルで使用し、迷宮を駆け回る。道中で出会った魔物は無作為に凍らし砕く。ちぎっては投げちぎっては投げを繰り返し下層へと降りていくのだった。
「UREYYYYYYYYY!!邪魔だァーッ!!この虫ケラ同然の犬っころどもがァアーッ!!」
狼のような魔物の顎を膝で蹴り上げ、そのまま腹にストレート。狼は吹き飛び後ろにいた狼を巻き込みながら壁に激突する。
現在38階層。この数分でここまで降りれたのは快挙とも言えよう。ほんの数分でここまで降りれたのは俺の技能、豪運のお陰だ。落下系のトラップに何度か落ちたことで何階層かはカット出来た。それに見逃しという愚かな行為は行っていない。何故なら五感強化を聴覚に全振りしているため、今いる階層、一つ上の階層、一つ下の階層を全て聞き取ることに成功している。ごちゃごちゃとしていて詳細は聞き取ることが出来ないが人間がいればすぐにわかる。
魔力消費量がかなり高い為、魔力回復薬を煽り飲みながら走ろうとすると、狼の魔物を叩きつけた壁が崩壊し、二十階層のと同じような隠し空間が現れた。
「こ、これはッ…!!?」
中に恐る恐る入るとそこには二十階層で見たのと同じ鉱石が壁に埋め込まれていた。
「これは…!!?あの鉱石…!!何処に転移するかわからんが…!!賭けだ!!私はハジメ達がいる階層へと転移することに賭けるッ!!」
鉱石に触れると、床に魔法陣が現れ、眩い光を放ち、ディオを呑み込んだ。
後で分かる話だがこのトラップ。位置はランダムで、一度効力を発揮すると別の場所に移動するという厄介極まりない機能を持っているのだった、
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俺が飛ばされたのは障害物が何もないだだっ広い空間だった。縦横500mはあるであろう空間の真ん中には大きな魔法陣が刻まれている。俺は直ぐに聴覚を最大限に強化し、階層ごと捜索する。
……………………あれが見えないの!?みんなパニックになってる!リーダーがいないからだ!!
「フフフ…やったぞ!!『運』は私に味方してくれているッ!!」
一階層下からハジメの声が聞こえた!!同じ階層ではなかったがこれなら許容範囲だ!!後はこの階を下るのみッ!!ペアブレイクを握り潰し足を進める。すると突如、魔法陣が輝き出し、一体の魔物が姿を現す。
「ウオオォォォオオオオオオオオオオオオン!!!!!!」
雄叫びを上げたこの魔物。血のように赤い毛並み、額には黒い新月を表しているのか、黒い丸がある。体格は今までの狼達と比べ物にならない程に巨大だ。口からは足の膝にまで伸びる鋭い牙が生えており、目らしきものが八つ並んでいる。
コイツは…本で見たぞ…たしか64階層の魔物!!名は“ファングウルフ”!!かつて最強と呼ばれた冒険者チームを一匹で壊滅寸前までに追い込んだ魔物!!ここが64階層なら…ハジメ達の前にいるのはベヒモスか!!?早く向かわねぇと!!
たしか耐久性が低いかわりに筋力と敏捷が信じられないほ…ど…に………?
その瞬間、俺の腕に強烈な痛みが走った。自分の腕を見ると既にそこには俺の腕はなかった。振り向くとそこには見覚えのある手を咀嚼しているファングウルフがいた。すると、突如ファングウルフは体を震わせ、全て吐き出した。
「貴様は……誰の許可を得てこのディオの腕を食べッ!!剰えもそれを吐き出したなァッ!!」
俺の怒りの声と同時に腕が再生する。感覚も元に戻り違和感を感じさせない。
「貴様をッ!!惨殺処刑してくれようッ!!」
俺はファングウルフに接近しようと動く。すると目にも追えない速さで俺に牙を突き立てる。「仕留めた…!」と不敵な笑みをファングウルフは漏らすが、直ぐにその笑みは消える。
心臓部分に牙を突き立てた目の前の人間が何事もなかったように平然とした顔でこちらを見つめているのだ。ファングウルフが感じるのは本能的な恐怖。
そして子犬を撫でるような顔でファングウルフの顔に触れる。すると突如、俺の視線は養豚場の豚を見るような目に豹変し、触れた部分から氷漬けにされていく。
マズいと思ったファングウルフは牙を俺から抜き、大きく背後へ飛んだ。そして着地と同時に床を蹴り突進してくる。普通なら目に追えない程のスピードだが、五感強化で聴覚と視覚を強化。ギリギリで避けるが少し擦り、脇腹が抉られ持っていかれる。
しかし自動再生により瞬時に回復。そして反撃態勢に入る。
「どうした…!?ファングウルフ!!貴様の攻撃ッ!!なまっちょろいぞッ!!」
俺はさっき出来た瓦礫の破片を拾い、全力で投石する。
しかしそれをファングウルフはそれを全て回避し、口から赤黒い光線を放つ。それを俺は体を逸らすことで何とか避け、再度、瓦礫を投げ続ける。
ファングウルフは全て躱していたが一発当たり少し後ろに下がる。
筋力400越えのステータスに、吸血鬼としての天職補正、そして剛力から繰り出される瓦礫はまさに原始の大砲だ。
ファングウルフは怒りの咆哮をあげ、赤黒い光線を放つのではなく、体に纏うと、先程までとは比べ物にならないくらいの速さで俺の横を通り過ぎる。反射的に体が動き、横っ飛びで回避するように試みる。しかし、それでも直撃してしまい首から上の部分だけを残し、他は消滅してしまった。今の俺は完全な生首状態だ。
そんな俺の姿を確認したファングウルフは勝利の笑みを浮かべながら、魔法を解き、俺の目の前に歩み寄り前足を振り上げる。
「かかったな間抜けがァアッ!!
技能の肉体操作で、眼球内の体液に高圧力をかけ、目から水圧カッターをビームのように繰り出す。それはファングウルフの喉を貫通し、ファングウルフの目からは生気が消え、力無く崩れ落ちた。
それを確認した俺は安堵の溜息をつく。
「ふぅ…危なかった…後少しでも避けるのが遅れていたら私は灰になっていた…!!」
そこで俺が今すべ気ことを思い出す。
そうだ!!こんな場所でゆっくりしている暇は無い!!くっ!!早く再生しろ!!
自動再生があるものの、首以外が消滅してしまえば時間が掛かる。それに血を流し続け、魔力も殆ど残っていない状態では尚更だ。
「クソッ!!どうすれば…!!」
そこで、近くに力無く倒れているファングウルフの死体が目に入る。
いけるか?
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そのころ、一層下の65階層ではハジメが錬成を駆使し、ベヒモスの足止めをしていた。地面を隆起させ、ベヒモスの四肢を全て固定し、上半身を覆い尽くす。通常の魔物ならこれでオーバーキルなのだが、やはり相手は現在確認されている中での最強格にある魔物だ。ハジメの錬成など足止めにしかならない。しかも気を抜けば一気に破られる。
そしてハジメの魔力の残り残量はもう尽きかけており、ハジメ自身もそのことに気付いていた。ハジメは後ろをチラリと確認すると、どうやら全員撤退出来たようだ。
ハジメが立てた作戦はこうだ。ハジメが錬成を使いベヒモスを足止め、そしてその間に光輝達が背後のトラウムソルジャーを倒し階段への通路を確保。確保すると頃合いを見てハジメが避難、そして撤退したみんながベヒモスに魔法を放つというハイリスクな作戦である。
現在、その作戦の後半へと入り、後は隙を作り自身が撤退するだけだ。
ベヒモスがもがき、数十度目の亀裂が走ると同時に最後の錬成でベヒモスを拘束する。そしてハジメは一気に駆け出した!
ハジメが逃げ出した数秒後、地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮と共に起き上がる。そしてその目には憤怒の色が宿り、ハジメを捉えている。
ベヒモスが追いかけようと四肢に力を溜めた次の瞬間、あらゆる属性の魔法がベヒモスに殺到した。
夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージは無いようだが、しっかりと足止めになっている。
その時だった。無数に飛び交う魔法の中で一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ!
ハジメの顔は凍りつく。何故ならその火球はハジメを狙い誘導されたものだったからだ。
(なんで!?)
咄嗟に踏ん張り、止まろうと地を滑るハジメの眼前に、その火球は突き刺さった。着弾時に生じた衝撃波をモロに受けたハジメは来た道を引き返すように吹き飛ぶ。
ダメージは無いが、三半規管をやられ平衡感覚が狂ってしまった。
フラフラしながら少しでも前に進もうと立ち上がるが…
ベヒモスがいつまでも一方的にやられっぱなしではなかった。ベヒモスは怒りの咆哮が鳴り響き、ベヒモスの頭部が赤熱化し、眼光がハジメを再び捉える。
そして赤熱化した頭部を盾のようにかざしながらハジメに向かって突進する。
ハジメはなけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。その直後、ベヒモスの攻撃で橋全体が震動し、着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走り、橋が遂に崩壊を始めた。
「グウァアアア!?」
悲鳴を上げながらベヒモスは奈落へと落ちていく。橋は今もなお、崩壊が進み、ハジメがいる場所が崩壊するのも時間の問題だった。
その時、クラスメイトの背後から聞き覚えのある声が65階層に響き渡る。
「UREYYYYYYYYYYYッ!!!!」
階段から現れたのは産まれた時の姿をしたディオだった!!つまり素っ裸だ!女子達が顔を赤くさせキャーキャー騒ぐがディオは気にせず光輝からマントを、龍太郎からは黒いタンクトップのような物を奪い取り、此方に向かいながら着衣する。マントを腰に巻き終えたディオは、物凄い速さでハジメのいる所まで走りより、遂に崩壊に巻き込まれ、落ちていくハジメに手を伸ばし、ハジメの腕を掴む。
「ディオ!!?」
「私は死なん!!だから…ハジメも…生きろ!!」
ディオは掴んでいた腕を振り上げハジメを安全なメルド団長の元へ放り投げる。
「う、うわぁぁああ!!?ディ、ディオーーーーーーッ!!!」
これでいいんだ。俺は不老不死…いつかは王宮のみんなの元へ帰れるさ…帰ったら檜山は殺す…!!
しかしここでアクシデントが起こる。
「グッ!!?」
投げられメルド団長らの所へ飛んでいたハジメが蝙蝠型の魔物に衝突し、ハジメも落ちてきたのだ。
ディオはハジメとぶつかった魔物をよく見れば、それは二十階層付近に生息する魔物だった。何でこんな所に!!?
ディオとハジメは奈落の底へと落ちていった。崖の上では泣きながら飛び降りようとする香織と、同じく泣きながら香織を必死に止める雫の姿があった…
鉱石の設定は独自設定です。