魔法少女リリカルなのは異伝~X Destiny~ 作:カガヤ
一番シリアスな話になる予定です。
でも将来的には・・・・?
第1話 「2人の魔法少女と1人の剣士」
次元空間航行艦船アースラ 訓練室
ここは次元世界と次元世界をつなぐ次元の海。
その次元の海を進む一隻の船があった、船の名は 【巡航L級8番艦アースラ】
次元世界の平和を守る【時空管理局】の所属する船だ。
その船の訓練室にて、今2人の少年が模擬戦を行っていた。
2人共管理局の局員の多くが扱う力【魔法】の源、魔力で構成された防護服バリアジャケットを着込みでいる。
杖状のストレージデバイス・S2Uを構える黒髪の少年、クロノ・ハラオウン。
そして、逆立った赤髪と灰色の西洋風のバリアジャケットを着てオレンジの瞳を輝かせ剣状のアームドデバイス、エクスカリバーを構えるこの少年の名はクロスロード・ナカジマ。
2人共まだ若いが、クロノはアースラ所属の執務官で、クロスは捜査官。
クロノは中遠距離戦を得意とした射撃型魔導師。
クロスは近距離戦を得意とする近接戦闘型魔導師。
魔法スタイルも役職も正反対な2人はアースラの切り札として、この1年間で多くの事件を解決してきた。
ちなみに見た目上は同い年か、若干クロスの方が年上に見られる事が多い。
でも、実際の年齢はクロスは9歳、クロノは14歳というクロノの方が年上だ。
この事はアースラスタッフの間では禁句とされている。
そんな2人が互いのデバイスを向け合いながら、静かに対峙している。
だが、何もしていないわけではない。
クロノはこの空間に既に十数個の魔力弾を配置して隙を伺っている。
しかも、その全てを完全に制御している事からもクロノの魔導師素質の高さが分かる。
対するクロスも魔力弾の動きや配置を冷静に分析し、攻撃の機会を窺っている。
「行くぞ、クロス」
「俺はさっきから待ちっぱなしなんだけど、クロノ?」
「ふっ、いけっ!」
先に動いたのはクロノ。S2Uを振い、魔力弾を一斉に放つ。
クロスは目を閉じ、左手に魔力を集中させるとと銀色に輝きだした。
その輝きを右手に持つエクスカリバーの刃に添えて、撫で上げる。
すると、刃はまるで磨き上げられたかのように銀色に鋭い光を放ち始めた。
その間にも魔力弾は不規則な動きをしながらもクロスのすぐ側まで迫っている。
「鏡面剣」
クロスはカッ、と目を見開くと同時に、エクスカリバーを大きく振りかぶる。
するとまるで野球のように、魔力弾は剣から溢れる銀色の光に撃ち返された。
続けざまに女の子の声が辺りに響く。
『ホーミングシェル!』
クロスが撃ち返した魔力弾が薄青色をした膜に覆われ、その軌道が変わり曲がりくねりながらクロノへと向かった。
「これくらい!」
<ブレイズ・キャノン>
クロノは迫る弾幕にS2Uを構え、砲撃魔法を放った。
キャノンの閃光は魔力弾を1つ残らず蹴散らし、威力が衰える事なくクロスへと向かう。
が、クロスはすでにその場にいなかった。
――タッ、タタッ
「後ろか」
床と壁を蹴る音が聞こえ、クロノが振り向くとそこには剣を構えたクロスがいた。
「読んでいたよ、クロス」
すると、クロスの周囲の空間から鎖が現れた。
特定の空間に侵入した相手を捕縛するトラップ型のバインド、ディレイドバインド。
クロスを束縛しようとバインドが手足に絡まる……しかし。
「……あぁ、俺もさ、クロノ」
<断魔剣>
突然、バインドが音もなくバラバラに切り裂かれた。
前もってバインドを予測していたクロスが、拘束される寸前の一瞬で鎖を切り裂いたのだ。
「なっ!?」
――カキンッ
クロノは驚きS2Uを向けるが、それより早くクロスの斬撃がS2Uを弾き飛ばした。
そして、クロノの喉元にエクスカリバーが突きつけた瞬間、勝敗は決した。
「バインドを読んで、魔力を分断する断魔剣で……」
「そう言う事、前はこの戦法でやられたからな。学習したんだよ」
してやられた。という顔のクロノと軽く息を吐き構えを解くクロス。
<はい、そこまで! 訓練終了、2人共お疲れ様!>
そこへ模擬戦終了を告げるアナウンスが流れ、1人の女性が入ってきた。
女性の名はアースラの管制担当であり2人の幼馴染でもある、エイミィ・リミエッタ。
「やれやれ、とうとうクロスに一本取取られたか」
「へっへ~♪ 勝利のVサインです!」
項を垂れるクロノの前に現れた緑の髪をした小さな少女、名前はノア・ナカジマ。
彼女はユニゾンデバイスと呼ばれる魔導生命体で、クロスと文字通り一心同体になる相棒だ。
デバイスなのにクロスと同じナカジマ姓を名乗っているのは、2人の両親の意向である。
「ノア、そんなにはしゃぐなよ、実質2対1だ。俺達の方が数的に有利だったんだから、そこまで誇る事でもないだろ」
ノアとユニゾンアウトした事で、クロスの髪が赤色から本来の茶色へと、瞳の色がオレンジから薄茶色へと変わる。
はしゃぐノアを諫めながら、エイミィが持ってきたドリンクを受け取り、一口飲んだ。
模擬戦初勝利に浮かれるノアに対して、クロスは冷静だ。
その仕草と醸し出す雰囲気はとても9歳には見えない。そうクロノとエイミィは思った。
<今の総合戦闘評価は、78点です>
「そうだな、それくらいが妥当だな」
クロスの左腕に巻かれた腕輪のクリスタルから声が聞こえた。
声を発したのは 【ラファール】 戦闘時には西洋剣状のエクスカリバー形態になるアームドデバイスだ。
<ラファールもクロス様も厳しすぎです。私の評価では90点を超えてます!>
「ミラノールの言う通りですよ!」
続けてノアの左手に付いている腕輪のクリスタルが淡く輝く。
声の主はノア専用のインテリジェントデバイス 【ミラノール】 で、独自の戦時評価を言ったのだ。
2つとも少し『特殊』なデバイスで、通常のデバイスに搭載されている人工知能よりも饒舌だ。
最も、特殊と言う意味ではクロスもノアもだが。
「遠距離魔法が使えないのに僕を倒したんだ。少しは喜んだらどうだ?」
「勝ち負けに興味はないよ。ありがとう、エイミィさん」
「あ、待って下さいよマスター!」
クロノの言葉に心底興味がない。
と、クロスはそっけなく答え、ドリンクをエイミィに返し訓練室を出ていき、ノアも後に続いた。
「やれやれ、相変わらずだなクロスは」
「うーん、ここに来た時よりは良くなってると思うけどね」
後に残されたクロノの言葉に、エイミィも頷いた。
「1年くらい前、初めてここに来た時はもっと無口で、見た目も言葉も冷たかったからな」
「ラファールも同じくね。ノアちゃんやミラノールは今もあまり変わらないけどね」
「クイントさん達からは詳しい事情は聞いていないけど、それはエイミィも?」
「うん、ちょっと昔色々、と言うくらいしか……」
若干9歳にして捜査官の資格を持ち、AAAランクと言う高ランク魔導師であるクロス。
時空管理局地上本部のエース部隊 【ゼスト隊】 のクイント・ナカジマが母親だ。
そして、ゼスト隊から直接師事を受けた戦闘の申し子。
最年少でAAAランクと捜査官の資格を取得し、本局のアースラ隊所属でありながら地上本部の部隊にも出向する事もある。
能力的には問題がないが、年齢的にも経験的にも不足と見て、クロスの待遇に不満を持つ局員も大勢いる。
が、クロス本人は全く気にしていない。
アースラに来る前から、要請があれば積極的に様々な部隊に出向した。
勿論、その度に期待以上の成果を上げて、不満を持っていた局員達をあ然とさせている。
それとは別の事に関して、クロノもエイミィも常々不満を持っていた。
自分達より年下の、まだ子供なクロスに負担をかけ過ぎだと。
「全く母さ、リンディ艦長も上層部も何を考えているのか……」
「でも……クロス君自身がそれを望んでいる。っていうのもなんだか、ね」
「と言うより、自分の特権を逆に利用している辺り、本当に9歳とは思えないな」
「背は14歳のクロノくんと同じくらいなのにね。」
「それは禁句だ、エイミィ!」
身長が低い事とクロスの大人びいた雰囲気のせいで、クロノは時にクロスよりも年下に見られる事がある。
本人も気にしているが、それを全く気にせずむしろ弄るネタに出来るのは、幼馴染のエイミィかノアくらいだろう。
≪クロノ執務官、クロス捜査官、まもなく目的地に到着します。ブリッジにお越しください≫
と、そこへ目的地への到着を知らせる館内放送が流れた。
「やっと、着いたか」
「そうだね。次元震の発生源、第97管理外世界【地球】に」
今アースラが向かっているのは、いくつもある管理外世界の1つ、地球。
先日、地球の日本にある海鳴市と呼ばれる地域で小規模な次元震が観測された。
更に詳しく調べたところ、ロストロギアと呼ばれる古代文明の遺物と巨大な魔力の激突が原因と言う事がわかり、付近の次元空間を航行中だったアースラが調査に向かっている所だ。
数日前、輸送中の次元輸送船の事故で、ロストロギアが管理外世界のどこかに放り出された報告は受けていたが、管理外世界と言う事もあり、ロストロギアの発掘者が先行調査に向かい、何かあれば管理局が出向くと言うスタンスだった。
人員や艦を割けない事情があるにせよ今回はそれが裏目に出た。と言う事になる。
「マスター……地球、ですね」
「そうだな、仕事で来るのは初めてだ」
自室に戻ろうとしたクロスも廊下でそのアナウンスを聞き、わずかに顔を曇らせた。
「もし、今回の仕事が早く片付いたら、あそこに行きますか?」
「いやいい。あそこには母さん達と行くって決めているから……あの日になったらな」
「そう……ですね」
どこか悲しげな表情を浮かべるノアを肩に乗せ、クロスはブリッジへと向かった。
アースラ ブリッジ
アースラの司令部とも言えるブリッジでは、クルー達が慌ただしく動いていた。
これから向かう海鳴市でまた魔力の衝突が確認されたからだ。
「小規模次元震のあった地域近郊にて、また大規模魔力感知しました」
「前回と同じ反応が4つ、さらに新しい反応が1つ。これは魔導師のものではありません」
「解析と映像を急いで」
「了解!」
クルーらに指示を飛ばし、険しい表情をしてモニターを見つめる女性、リンディ・ハラオウン。
アースラの艦長にしてクロノの母親であり、クロスとノアの【裏の事情】を知る数少ない1人だ。
そして、クロスが心を開いている人の1人でもある。
「映像出ます!」
「っ!? これは……」
モニターに映し出された映像に、リンディやクルー達は驚愕した。
『ディバイン・・・』
<バスター>
『貫け、轟雷!』
<サンダースマッシャー>
そこに映し出されていたのは、まだ幼い2人の少女が木の化物を相手に戦っている映像だった。
1人は栗色の髪に白いバリアジャケットを身に纏い、赤い宝玉が付いた白と金色の杖型デバイスを手にした少女。
もう1人は戦斧のようなデバイスを手に黒いマントを纏った、表情の裏に強い決意を感じる金髪の少女
どちらもクロスと変わらない歳に見えた。そんな2人が相手にしているのは、樹の姿をした化け物。
どうやらジュエルシードの影響であのような姿になっているようだ。
「あれレイジングハートですよ。マスター!」
「なんで地球に?」
ブリッジに来たクロスとノアは、モニターを見て驚いた声をあげた。
「ノア、レイジングハートとはあのデバイスの事か?」
「確か前にクロス君とノアちゃんが以前、遺跡調査に同行した時に発見したデバイス、よね?」
エイミィの言葉に2人は頷いた。クロスとノアはアースラに正式に着任する前いくつか任務をこなしていた。
その1つにある部隊の遺跡発掘調査に同行した事があった。
まだ経験の浅い2人を比較的危険度の低い任務に同行させ、経験を積ませる目的でだ。
その時、発掘スタッフと共に発見したのが 【レイジングハート】 だった。
デバイスが発掘される事は稀だったが、発見者である少年の手に渡ったはずだった。
そして、その時クロスと共にレイジングハートを発掘したのが……
「あそこにいるのはユーノ君!?」
ノアの声と共に、モニターの1つが現地で魔法を使い2人の少女の補佐をしている小動物の姿を捉えた。
「……イタチ?」
「いえ、あれはマスターが教えた変身魔法ですよ。小さい姿になれば狭い場所も調査出来るようにと」
モニターに今名前が出たユーノの情報が表示された。
ユーノ・スクライア。遺跡発掘を生業としているスクライア一族の少年。
映し出された情報にユーノの人間体の姿も出されていた。
「恐らくあの世界に落ちたロストロギアを発掘したユーノ君が、なんらかの事故で重傷を負って、やもなく現地のあの子に協力をお願いした……という事でしょうか」
<以前よりも魔力値が極端に低下しています。あの形態で魔力と体力の回復を測っていると思われます>
送られてきたデータからノアとミラノールが推測する。
クロスやラファール同様、ノアとミラノールのデータ処理と解析能力は群を抜いている。
「なるほどね。詳しくは直接話を聞いてみる事にしてまずは、クロス君?」
リンディは先程から会話に参加せずに黙っているクロスを見ると、途端に表情を硬くした。
「マスター? ……っ!?」
ノアも異変に気付き、クロスの肩に手を乗せた。するとクロスが小さく震えている事に気付いた。
視線はモニターに映る金髪の少女に釘付けになっている。
「あれ? もしかしてクロス君の好みは、こういう金髪の子……じゃないわよね」
エイミィが軽く冗談を口にするがそれに反応する事もなく、クロスはじっとモニター見つめている。
その表情は硬く、怒っているのか悲しんでいるのか、それともその両方なのかはエイミィには分からない。
『リンディ提督、ノア、話があります』
『マスター?』
『念話? クロノ達には聞かせたくない話と言うわけね?』
クロスがリンディとノアにちらりと目を向け、念話を飛ばした。
それはクロノ達にはまだ話せない重要事項で、クロスにしか分からない事。
「艦長? リンディ艦長?」
「えっ? あぁ、ごめんなさい。少し考え事をしてたわ。それじゃ……」
コホンと誤魔化すように咳払いをして、リンディはクロス達に指令を発した。
「クロノ執務官、クロス捜査官はただちに現場に急行して、ユーノ・スクライアさん達に任意同行を。ただし、あくまでも任意での事情聴取です。管理外世界だと言う事に十分留意して行動して下さい」
「「「了解!」」」
クロノはデバイスをセットし、クロスとノアはユニゾンを済ませ現地へ飛ぶ準備をし始めた。
(まさか、ここでも出会うなんて、クロス君達にとってこれ以上の因果はないわね)
モニター上では、樹の化け物を鎮静化し何か宝石のような物を中心に2人の魔法少女が対峙していた。
(それにしても、あの子が 【人造魔導師】 だなんて。もしそうなら、この事件裏が深そうね)
同時刻
第97管理外世界 地球 海鳴市 海鳴臨海公園
私、高町なのはは、ほんの少し前までは5人家族の末っ子で、ごくごく普通の小学3年生でした。
でも、数日前に今私の側で見守ってくれているフェレット、ユーノ・スクライア君と出会い魔法少女になって、ジュエルシードと呼ばれる宝石を回収する事になりました。
そして……今目の前で私にデバイスを向けているフェイトちゃんと出会いました。
フェイトちゃんはとても怖そうな子でしたけど、どこか寂しそうな目をしていて私はフェイトちゃんと友達になりたい。
フェイトちゃんとお話をしたい。そう思って何度も話をしようとしました。
けれども、ジュエルシードを巡って私とフェイトちゃんは幾度もなく争う事になってしまいました。
今もこうして、封印したばかりのジュエルシードを前にして交戦状態に入っています。
「ジュエルシードに衝撃を与えたらダメだね。レイジングハートもバルディッシュもこの前酷い目に合わせちゃったから」
<心配ありません>
「今度こそ持って帰る。でないと母さんをまた悲しませちゃうから」
<もちろんです>
構えた白い柄に金色の装飾が先端に施された杖、レイジングハートを握る手に自然と力が入ります。
少し前、私とフェイトちゃんがジュエルシードを取ろうとした時、魔力が暴走してレイジングハートとフェイトちゃんのデバイス、バルディッシュが壊れかけた事がありました。
だから、今回は慎重に扱わないとまた同じ事になっちゃう。
横目で封印されたジュエルシードを見ながら、目の前のフェイトちゃんと距離を取り……
「「っ!!」」
2人同時に飛び立ち、互いのデバイスを向けたその時でした。
「そこまでだ!」
突然私達の間が光り輝き、声が聞こえたかと思えばそこから立ち塞がるように2人の人影が現れて、私とフェイトちゃんに向きかえりました。
「そこまでだ! 両者戦闘行為を中止して事情を説明してもらおうか、僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウン」
「同じく捜査官のクロスノード・ナカジマ」
「そして私はノア・ナカジマといいます、よろしくね♪」
私の方を向いている黒いローブのようなバリアジャケットを纏った男の子、クロノ君。
フェイトちゃんの方を向いている灰色のローブを着た、少し年上に見えるクロス君。
そして、クロス君の肩に現れた小さな女の子、ノアちゃん。
これが私とクロス君とノアちゃん達との出会い。
ユーノ君と出会って魔法少女になった事ですら、始まりではなく、私がこの先、様々な戦いに身を投じるようになる本当の始まりでした。
続く
クロスロードとノアの設定はこれから明かされていきます。
ある程度明かされたら主人公設定ページを作る予定です。