魔法少女リリカルなのは異伝~X Destiny~ 作:カガヤ
海鳴市 近郊海域
シャロが呼びだした漆黒の鎧、アスク。
一体一体がクロスやクロノの動きに着いて来れる程の性能の物が、次々と転送されてきている。
流石のクロスにも緊張が走り、剣を持った手が汗ばむ。隣を見れば、なのはとユーノも少し怯えている。
ここで、自分がどうにかしなければ、全滅するのは確実。
だけど、状況を打破出来そうな手段は1つしかない。
『ノア、ラファール、ミラノール……アレを使う、今度は無制限でだ。それ以外この状況を打破出来る方法はない』
『マスターダメです! 危険すぎます! プレシア1人の時より状況は悪いんですよ?』
<そうです。それに今のあなたは体力も魔力も消耗しています。その状態で使えば、どうなるか分かりません!>
『でも、このままじゃなのはとユーノも守れない!』
<それでもです! 今のクロス様がアレを使えば暴走する危険性が高すぎます! リンディ様もゼスト様もクイント様も今暴走したあなたを止められる人はこの場にいないんです!>
ミラノールの叫びにも似た指摘に、クロスは念話の中で黙ってしまった。
確かに、今の状況を打破出来る手段は1つしか浮かばないが、リスクが高い。
しかも、プレシア相手にしていた時よりも更にそのリスクは高くなっている。
「クロス君……」
なのはがクロスの後ろに下がり、少し震えながらクロスの袖を掴んだ。ユーノも少し怯えているようだ。
『俺は……約束した、なのはを守ると士郎さんに。そして、あの人は俺に託してくれた……俺はそれを守る為ならなんでもする!』
『マスター!』
シャロもアスクを転送し終えたようで、攻撃態勢に入っている。
状況的には勝利を確信してもいいものだが、シャロにはそんな様子はない。バイザーから見える口元に変化はなく、少し固いが無表情のままクロス達を見つめている。
「……行け」
そして、シャロの言葉にアスク達が一斉にクロス達目がけて殺到した。
なのはとユーノは恐怖に固まり、動けない。クロスはそんな2人の前に立ち力強く拳を握ると、体から何か半透明な赤い光が溢れだし……
「トーデス・ドルヒ!」
「……えっ?」
突如聞こえたその声に動きを止めた。
声と同時に、クロス達の背後から黒いダガ―状の魔力弾がいくつもアスクに突き刺さり、爆発していった。
「ウイング、ロード……ナックルダスター!」
続けて、声と共に青い光の道がクロス達を守るように現れ、その上を青い人影が残ったアスクの間を高速で走り抜けたと思えば、アスクが次々と砕けて行く。
「これは、一体?」
流石にシャロも何が起きたのか分からず、表情をゆがめた。
「クロスファイアーシュート!」
「何っ!?」
また声が聞こえ、シャロの周りに居たアスクに次々と十数発のオレンジの魔力弾が走り、正確に頭を撃ち抜いていった。
その魔力弾に合わせるかのように斬撃が走り、シャロの周りのアスクは全て爆発していった。
「そこまでだ、これ以上の抵抗は無駄だ」
困惑するシャロの背後から何者かが現れ、首に槍を突きつけた。
「いつの間に? 気付きませんでした」
「両手をあげ、ゆっくりとこちらを向いてもらおうか」
自分の周りにいたアスクは破壊され、隙をつかれたシャロには反撃する手が浮かばず、仕方なく両手をあげ後ろを振り向いた。
振り向いた先にいたのは、油断なくポールアックス状のデバイスを構えた黒茶髪の男、名は……
「ゼスト・グランガイツ。それにティーダ・ランスターですか」
そうシャロは噛みしめるように呟いた。
ゼストの背後には、二丁拳銃を構えたティーダ・ランスターもいる。
一方、クロス達の方に現れたのは、クロスとノアの母クイント・ナカジマ。
と、巨大な鳥に乗り両手に魔力を溜めいつでも魔法を発動可能にして残ったアスクを牽制している、メガーヌ・アルビーノ。
「危ない所、だったみたいね?」
「私達が来たからもう大丈夫よ、クロス」
「メガーヌさん、それに母さんまで? どうしてここに?」
ゼスト隊は最初、もっと早く合流するはずだったが、プレシアについて色々と追跡調査しなければいけない事が増えた為、そちらを優先させてもらい、もう少し後で合流するはずだった。
「それは後で話すわ。それよりもソレ、止めなさい。その必要はもうないでしょ?」
言われてクロスはハッとし、握った拳を緩めると陽炎のように立ちこめかけていた魔力が消えた。
「……これまでですね」
「っ!? 逃がさない!」
クロスの方にも援軍が来たのが見えたシャロは、ゼストとティーダを一瞥した。
それを察したゼストとティーダはそれぞれ攻撃したが、それよりも早くシャロは消えてしまった。
と、同時にクロス達の周りにいた残りのアスク達も転送魔法で消え、戦いは終わった。
「……はぁ、はぁ」
シャロ達がいなくなるとクロスの体から力が抜け、フラフラと倒れ込むように高度が下がって行った。
すぐにクイントが抱きかかえると、ノアも限界をむかえたかのように力なくクロスの体から落ち、メガーヌが慌てて受け止めた。
「クロス君! ノアちゃん!」
「大丈夫よ。消耗が激しいけど、怪我は大したことないわ」
「………」
クロスはクイントに抱きかかえられながら、心配するなと言うようになのはとユーノに笑みを浮かべて親指を立てた。
「ノアも同じよ。今魔力を分けてあげるわ」
「あ、ありがとうございます……メガーヌさん」
「それにしてもここまで疲弊してるなんて、よほどの強敵だったのね」
<マスターもノア様も全力で戦闘を行いながらなのは様、ユーノ様、フェイト、アルフの4名に防御結界を張り続けていたせいです>
「本当なのラファール!? 2人共なんて無茶するのよ」
「へへっ、マスターの無茶は慣れっこですから」
ノアの方もメガーヌに魔力を分けてもらい、一先ずは落ち着いた。
「遅くなって済まなかったな、クロス、ノア」
「間に合ってよかった。それと、久しぶりだね、ユーノ君」
「はい、お久しぶりです、ティーダさん。それにゼスト隊の皆さん」
ゼストとティーダも集まってきた。ユーノは初めてクロスやノアと会った時にゼスト隊にも面識がある。
なのはの方は突然現れた大人達に少し驚いていた。
「クロス君、この人達は? さっきお母さんって言ってたけど、ひょっとして」
「あぁ、俺とノアの母さんだ」
「あら、ごめんなさい。紹介が遅れたわね、私の名前はクイント・ナカジマ、よろしくね高町なのはちゃん」
「は、はじめまして、高町なのはです!」
「はははっ、本当に可愛いわね。クロスのお嫁さんにはぴったりね。私の事お義母さんって呼んでもいいわよ?」
「ふえっ!?」
――ゴンッ!
いきなりの爆弾発言に、メガーヌとティーダとゼストは揃って溜息をついた。
と、同時にクロスが目にも止まらぬ速さでクイントの脳天にチョップを落とした。
「いったぁ~い!? ちょっとクロス! 母親に向かって何するの!?」
「やかましい! 何いきなり暴走してるんだよ!」
「メガーヌ~! 私の愛息子が少し会わない間に反抗期でドメスティックバオレンス化してるよぉ……でも、それはそれでワイルドでいいかも…(ゴンッ!) 痛い!? またなぐったー!?」
息子に怒られたクイントは、親友に助けを求めたが……
「初めまして、なのはちゃん。ユーノ君はお久しぶりね。私はメガーヌ・アルビーノよ」
「よろしくおねがいします、メガーヌさん」
「ちょっと、無視しないでよ! 何気になのはちゃんもスルー!?」
クイントはクロスが絡むとトンデモナイ事を言い出すのは今に始まった事ではないので、特に気にせず話を進めていた。
ちなみになのはの場合は素である。
「俺の名はティーダ・ランスターだ。よろしく」
「ゼスト・グランガイツだ。ユーノ・スクライア共々今回の一件への協力、俺からも感謝と礼を言おう。ありがとう」
「い、いえこちらこそクロス君とノアちゃんには色々お世話になりました」
続けてティーダとゼストもなのはに挨拶と握手をした。
そこにやっと通信が回復したアースラから連絡が入った。
『みんな大丈夫!? ごめんね、映像は回復出来たんだけど通信や転送が回復しなくて、今クロノ君もそっちに行ったよ』
エイミィからの通信が入るとほぼ同時にクロノが転送してきた。
「すまない。遅くなった」
「……本当に遅いぞ、クロノ」
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アースラ
「改めて、俺は管理局地上本部所属ゼスト・グランガイツ、この部隊の隊長をしている」
「俺はティーダ・ランスター」
「で、私はメガーヌ・アルビーノ。よろしくね」
「そして、私がクイント・ナカジマよ。クロスとノアの母親もしてるわ、今後ともうちの息子と娘をよろしくね……「で、皆さんどうしてこっちに?」……何よ、まだ話の途中なのに」
改めて各々の紹介をした所で、クロスが話を切り替えた。
これ以上は何かよからぬ話になりそうだという直感からだが、クイントは不満そうだ。
「こっちの捜査がひと段落ついたのでな、経過報告でアースラに連絡したのだが」
「誰にも繋がらなくて、おまけに地球にクロスがいるのが分かって少し強引に飛んだんだよ」
「強引って……地上本部からここまで結構な距離なのに」
次元転送には個人で行う物と艦船などのシステムを使う場合がある。地上本部のあるミッドチルダから地球では、個人での一発転送は無理であり、中継ポイントを経由しないと行けない。
今回はアースラが連絡不能であり、中継地点もない中での転送は通常では不可能に近い。
「新システムの試験運用と目印のおかげね」
「新システム? それに目印ですか?」
聞き覚えのない事にクロノはメガーヌに尋ねたが、それ以上はまだ機密だと教えてはくれなかった。
ただ、クロスやリンディには心当たりがあるようで納得の表情を浮かべている。
「これ以上はまだ機密事項だ、クロノ。でだ、俺達がここに来た手段はこれでいいな」
と、ここでリンディがエイミィに目配せをした。エイミィはすぐに分かったという表情を浮かべ、なのはとユーノに話しかけた。
「2人共、今日は色々御苦労さま。疲れたでしょうし、魔力も消耗しただろうから食事を取って、早く寝た方がいいよ?」
「あ、はい。それじゃあお先に失礼します」
なのはとユーノがエイミィに連れられて、部屋を出て行く。
途端にクロスとノアが何か言いたそうな視線をリンディに向けた。
「リンディ艦長。いくらなんでも毎回似たようなパターンで、なのは達を離席させるのはどうかと思うけど?」
「私もそう思います。勘付いてるかもしれませんよ?」
「そうねぇ。次はもっとシンプルに直球でいきましょうか」
「そう言う問題ですか……」
クロノがやれやれと溜息をこぼすと、ティーダがポンと肩を叩いて慰めた。
ここから先は、なのはとユーノには知られてはいけない機密事項だからだ。
「数十年前の新型の大型魔力駆動炉実験についてだが、当時の研究者やアレクトロ社で関わった者達が全員死亡している事がわかった」
「それだけじゃないわ。肝心の新型駆動炉のデータが全て残っていないの、削除されたか、誰かに持ちさられた可能性があるわ」
「なんですって!?」
ゼスト達が調べていた事。それはプレシアの人生を大きく変えた事故に関する事だった。
当時のプレシアが務めていて、事故の原因にもなったアレクトロ社はもう存在しなかった為、資料集めに苦労したがそれでもレジアス少将の厳命の元、何とか調べがついたそうだ。
それによると、やはりあの事故はプレシアの反対を押し切ったまで強行したせいで、アレクトロ社上層部と一部の化学者による暴走にも近いものだった。
結果として、社は全ての責任をプレシアに押しつけたが、それでも責任を問われ会社の業績は悪化、倒産となり人員も資料もバラバラとなった。
問題を起こした駆動炉は、解体処分になったはずだが、忽然と姿を消したらしい。
そして、アレクトロ社上層部や事故に関わった者全てが不運な事故や病気などで次々と死亡。
末端の社員達は呪いとばかりに口をつぐみ、全てを忘れようとしていたらしい。
「この数日でよくもここまで調べられたわね」
「そりゃあクロスの頼みだもの。レジアス少将はクロスに甘いからね」
「甘いのはあなた達もでしょ、クイント」
クロノは1人、会議の様子に違和感を覚えていた。
(なぜレジアス少将というトップまでが動くんだ? クロスの頼みだから? クイントさんが直属の部隊の一員で、ゲンヤさんが地上本部の上層部だからか?)
いくら思案しても疑問は沸いては消える。前々からクロスとノアに関しては待遇や能力に関して疑問を持っていたクロノは、ここ最近の出来事で更に疑問を募らせていた。
ミッドの平和を守る地上本部の、それもトップ直属部隊であるゼスト隊が、こうして管轄がまるで違うアースラで合同捜査に当たっている事も通常ではありえない事だった。
「あ、そうだ。これ、フェイマス先生に送ってもらえます?」
そう言ってノアがゼストに渡したのは、ごく少量の赤い液体が入ったケース。
「これは……血?」
「はい、戦った時に突然吐血したプレシアの血です。少しプレシア自身に気になる事ができたんで」
「……分かった。すぐに調べてもらおう」
それはクロスの身体や剣に着いたプレシアの血だった。これを調べればプレシアのあの異常な力の事が分かるはずだ。
最も、クロスとノアはそれ以外にも気になる事があるようだが。
ちなみにフェイマス先生とは、本名ダウナード・フェイマス。クロスとノアのかかりつけのドクターの名前で、もっと幼い頃から2人の事をよく知る人物の1人だ。
(? 今ひょっとして……クロスとノアは念話でゼスト隊長と会話した? まさかな)
クロスとノア、そしてゼストの視線が妙に合わさったので、クロノは不思議に思った。
口に出さなかったのは、わざわざこのメンバーに内緒で話す事はないはずだから気のせいだと思ったからだ。
「それじゃあ次にノアちゃん、あのシャロという少女とアスクとの戦闘データを見せてくれる?」
「はい。ミラノール」
<了解です>
会議室のモニターに映し出されたのは、黒い少女シャロと鎧兵、アスクとの戦闘映像だった。
「あっ!」
一方、食堂でエイミィやユーノ出された軽食を食べていたなのはは、突然何かを思い出したかのように声をあげた。
情報管制のエイミィも本来ならば、会議に出なければいけなかったが、今はなのはとユーノについていてとリンディに言われている。
「どうしたのなのはちゃん?」
「何かあったのかい、なのは?」
突然声をあげたなのはに、ユーノとエイミィも驚いた。
「私、クロス君に聞きたい事あったんだ」
「うーん、今は大事なお話し中だから、また明日にでも聞いたらいいんじゃないかな? どんな事聞きたいの? 私でも分かる事かもしれないわよ?」
なのはが聞きたかった事は、先の戦闘中から気になっていた事だったが、とてもクロスやノアに聞ける状況ではなかった事。
「それじゃあ、エイミィさん。エヴォリューダー、って聞いた事あります?」
「エヴォリューダー? うーん、聞いた事ないなぁ。それがどうしたの?」
「あの……プレシアさんやシャロって子がクロス君の事をそう呼んでいたんです。プロジェクトAの生き残り、エヴォリューダーって……」
つづく
ギャグとシリアス、正反対の作品を同時に書くとなんか変な感じ……自分、やっぱ真面目な作品よりギャグの方がいいのかな。
こちらのゼスト隊はある意味クイントがもう1つのなのは小説より壊れています(笑)