魔法少女リリカルなのは異伝~X Destiny~ 作:カガヤ
早く無印編終わらせたいなぁ
時の庭園
私は、あの子がいればそれで良かった……。
――私ね、いっぱい勉強して早くママのお手伝い出来るようになる!
あの子がいたから、私はどんな事でも出来た……。
――ママ、今日もお仕事遅い?
仕事で家を空ける事を、苦痛に思った……。
――大好きだよ、ママ。だからお仕事がんばってね。
それでもあの子はいつも笑顔で私を迎えてくれた……。
――ママとピクニック、楽しみにしてるね。
あの実験さえなければ、あの時私があの子の側にいてさえすれば……
――行ってらっしゃい、ママ。
私はどんな事をしてもあの子の笑顔を取り戻す……だから待っていて、アリシア。
「はっ!? こ、こは……私の部屋」
プレシアが目を覚ますと、眼の前には黒いメットを被ったシャロがこちらをじっと見つめていた。
「大丈夫ですか、マスター?」
「シャロ、大丈夫よ。アスクの補填は済んだのかしら?」
「もう終わりました。やはり、今の私では一度の精製は20体が限界です」
「それを含めた50体でもダメだった。まさかゼスト隊がこうも早く動くとは思わなかったわね。でもいいわ。あのエヴォリューダーがフェイトをとても気にしているのが確認出来た。第二段階に行くわよ。シャロ、ゼスト隊はどう?」
プレシアに問われ、メットの奥でシャロの瞳が薄く輝いた。
「最適化をしたのでやれます。全員相手では無理ですが、2人までなら相手に出来ます」
シャロの答えにプレシアは満足そうに微笑み、モニターを見つめた。
その先ではアルフが懸命にフェイトを治療しながら、自分への怒りを表しているのが見えた。
「そうよ、それでいいわ。今度こそ……手に入れて見せるわ、太極の書」
不敵な笑みを浮かべながら、プレシアはジュエルシードを手にさらに奥の部屋へと入って行った。
部屋にはいくつものシリンダーが並んでおり、その中でも部屋の中心にはひときわ大きなシリンダーが置かれている。
その中には金髪の少女が眠るように佇んでいた。
「……もうすぐ、もうすぐよ。私のアリシア」
高町家
「それにしても、リンディさんもでしたけど、クイントさんも子供がいるとは思えないほど若々しくて羨ましいですね」
「桃子さんと士郎さんこそ、お子さんを3人も育てられているのに若々しくて仲睦しいじゃないですか」
「あはははっ、いやぁ~そう言って頂けると改めて照れますなぁ」
クイントと高町夫妻が、数日前に聞いたようなやりとりをしている。
「へぇ、ティーダ君って私と同い年なのにもう働いているんだ?」
「両親を亡くして、今は妹と2人暮らしだけど、少しでも楽をさせたいから。姐さ……クイントさんの所で見習いって所だよ」
「そっか、こんな妹想いのお兄さんがいて妹さんも安心だろうな」
こっちはこっちでティーダと高町兄妹が、それぞれの身の上話をしている。
ティーダの両親は数年前に事故で死に、幼い妹のティアナと2人で管理局の寮に住んでいる。
クイントはティーダの両親とは仕事仲間だった為、葬式にも出ておりその縁でティーダ達の面倒を良く見ていたので姐さんと慕われているのだ。
だが、クロスとノアはティアナの事は知っているが、面識はまだない。
それはとある事情によるものだったが、クイントもティーダも近いうちにティアナと会わせるつもりでいた。
「なんか色々世話になってごめんな、なのは」
「ううん、お父さんもお兄ちゃん達も賑やかなの大好きだから大丈夫だよ。私も嬉しいし」
事の始まりは、民間協力者であるなのはとユーノを一時的に帰宅させるというリンディの決定だった。
プレシア達の動きが読めないが、ジュエルシード探索はひとまず終わりを迎えたので、本来ならばなのはとユーノにはこれ以上関わらなくてもいいと伝えた。
だけど、それでなのはが納得するはずもなく、それはリンディ達も分かっていたのでならばと少しだけ家族の元で休んでもらおうとの計らいと言うわけだ。
そして、クロス、クイント、ティーダが護衛兼、民間協力者であるなのはの家族への経過報告と御礼を兼ねての挨拶に来た。
なぜこの人選なのかは、多忙なリンディは船を離れるわけにもいかず。クロスの母である自分が同行した方がいいとクイントが申し出て、なぜかティーダも同行する事になった。
「なんで2人も来るのかな。ティーダさんだけで良かったのに」
『まぁまぁ、照れない照れない。お母さんと一緒で恥かしい気持ちは分かります、マスター』
『お前は余計な事言わず、とっととアースラでシャロの解析続けていろ!』
『は~い♪』
クイントや士郎達は互いの子供の事を自慢げに話して親馬鹿全開の会話をしているが、クロスは出来るだけ耳に入れないようにしていた。
なのはも若干恥かしいのか、顔を赤くしながら同じく聞かないようにしているようだ。
「これも何かの縁ですね。高町さん達のような御家族と知り合えて幸運ですよ」
「こちらこそ、これからもうちのなのはをよろしくお願いします」
「あなた、そんな言い方じゃ、まるでなのはがクロス君のお嫁さんになるみたいじゃない」
「おっと、これは失礼。気が早い話でしたね」
「そんな事はないですよ。うちのクロスもなのはちゃんの事よく気にしてますから、ひょっとしたら……」
「「ひょっとするかも、ですか?♪」」
奇しくもリンディと来た時に、クロスが懸念していた通りの展開となった。
「……」
『……クロス、御愁傷様』
「にゃ、にゃはは」
フェレット形態のユーノは、親馬鹿達の会話に固まるクロスに手を合わせ、なのははどう反応したものかと苦笑いを浮かべていた。
ちなみに、ゼストも隊長として挨拶をと言う話も出たが、どこからどう見ても軍人やそれ関係の人にしか見えないゼストが行っては下手に疑念を持たれるかもしれない。
と言う、ゼスト隊とアースラ隊一同の結論となり、ゼストは影で沈んでいた。
その夜、高町夫妻の好意となのはの懇願により、クロス達は高町家で泊る事になった。
「ふぅ~……なんか、疲れた」
「なのはちゃんの家族、みんな優しくて暖かい良い人達ばかりだったわね」
「うん、だからこそなのはを危険に巻き込みたくない……で、なんで母さんは自然とここにいるわけ?」
クロスの隣には、素っ裸のクイントがのほほんと微笑んでいる。
今現在クロスのいる場所は風呂場。
最初は1人で入っていたはずだが、クロスが考え事をしている間にクイントが入ってきたようだ。
「ふふーん、そんなの気配を消して、音も消して、こーっそり入ったに決まってるじゃない」
「こんな所で魔法使うなよ!?」
「あ、ついでに外に音がぼやけて聞こえるようにもしてあるから、色々話しても問題ないわよ?」
クイントがドヤ顔で言う事に、クロスは頭を抱えた。
質問の答えになってない。とか、こんな所で無駄に高性能な結界張るな。とか、そもそもここは管理外世界の民間人の家だ! などなど突っ込む所は沢山あるが、溜息一つで済ませる事にした。
「それは全部私がしました!」
これもいつの間にかこっそりと来ちゃったノアが、クイントと同じく丸裸でバスタブの淵に仁王立ちしていた。
「……」
「ちょっ、マスター!? 風呂場で、そんな大胆、なっ!? がぶばっ?!」
クロスはツッコミを諦め、無言でノアを掴み、風呂の底に沈めた。
「ば、ばぶげでぐだ……あづい~」
「ほらほら、茹でたノアなんて食べてもお腹壊すわよ。せっかくなんだし、久々に親子3人でのんびりしましょ」
どこか思いっきりズレた諌め方だったが、クロスは渋々ノアを引き上げた。
短時間だが、すっかり茹であがったノアは素っ裸にも関わらず目を回してぐったりしているので、色気はない。
「……久々も何も、家ではしょっちゅうこんな事してるじゃないか、母さんもノアも」
「それでも久々は久々でしょ。家に帰って来たの何週間前だと思ってるの」
「それは、そうだけど……ってそういう事じゃなくて!」
アースラ隊は本来、別の任務を終え、一度本局へ戻っている最中だった。
それが、なのはとフェイトが起こした次元震を探知して今回の事件となった。
なので、クロスもノアも半月以上家に戻っていない事になる。
「それよりも……お母さん、茹でても揚げても私は美味しくないですよ。でもマスターになら踊り食いでも~……冗談です。嘘です。ごめんなさい、調子に乗り過ぎましたから、右手を真っ赤に燃やしてヒートエンドしようとしないでください、マスター!」
何か紋章が浮かびそうな程真っ赤に燃えた右手を湯船に戻し、クロスは自分を後ろから抱きしめているクイントを見上げた。
「ん? なぁにクロス? あ、胸の事なら当ててるから、それとも直に揉みたくなったかしら?」
毎回のように息子に色目を使うクイントだったが、クロスはそれには反応せず、ただポツリと。
「どうして、プレシアはフェイトを攻撃したんだろう。自分の娘を、殺しそうなくらいの魔法だった」
「あっ……クロス、ずっとその事を考えていたの?」
まるで自分の事のように辛そうな声をあげるクロス。
クロスにとって、母親が子供に手加減抜きの攻撃をした事が、よほどショックだったようだ。
「フェイトが自分の産んだ娘じゃないから? クローンだから? でも、そんなの関係ないはずなのに……アイツは、プレシアは!」
「マスター、確かにプレシアは、フェイトちゃんの事をただただ利用しているだけにしか、見えませんでした」
ノアもクロスとユニゾンしていたので、フェイトに対するプレシアの目を良く見ていた。
「プレシアが許せないのね、クロス。でも、それは私も同じよ。管理局の魔導師としてではなく、1人の母親として、プレシアは絶対に許せないわ」
「俺みたいな殺人鬼でも、母さんや父さん、ゼストさんやリンディさんみたいに助けてくれて家族に迎えてくれた人がたくさんいるのに。なんでフェイトは、あんなボロボロになってでも母親の為にと一生懸命になる優しい子なのに、プレシアは、母親なのに、なんで……」
クロスの声は怒りと悲しみに満ちていた。
「全くこの子はどうして、他人の為にここまで感傷的になるのに、自分の事にはクールになるんだか。それと、自虐的な発言は禁止!」
「……母さん」
「そんなに責めないで。あなたもノアも、私とお父さんの子供、自慢の子。だから、殺人鬼なんかじゃないわ」
そんな我が子の頭を軽く叩き、クイントは優しく抱きしめた。
ノアも涙を浮かべつつも、黙ってクロスに身をよせていた。
「ええぇ~!? クロスくんってクイントさんの実の子供じゃないの!?」
「あれ? なのは、言わなかった……よな、うん。ユーノには前言ったからてっきり、なのはにも話したつもりでいたよ」
お風呂上がり、居間でクロスやなのは達が楽しく談笑している時だった。
クイントの歳がまだ20代前半で、すごく若いと言う話になり、そこからクロスとクイントからポロリと2人が実の親子ではなく、養子だと言う話が出た。
「他の家庭の事情に深く言うのもはあれですが、ですがよくここまで息子さんを立派に……クイントさんには感服しました」
「同じ母親として、見習う所が沢山ありますね」
「いえいえいえ、そこまでかしこまらなくても、私とあの人で育てましたけど、クロスは元が優しい子ですから」
やけにあっさりと話すクロスとクイントに、逆に高町一家の方が恐縮してしまった。
「クロスもだけど、姐さんも兄貴も昔からすごい人だったから。おかげで俺もティアナもどれだけ助けられた事か」
「も、もうティーダまでそこまでおだてるんじゃないの! 恥かしいでしょ!」
ティーダの言う兄貴とは、クイントの夫でクロス達の父、ゲンヤの事。
最初は兄さんと呼んでいたが、柄じゃないと本人が恥ずかしがり、兄貴になった。
それでもかなり恥かしいが、結局はゲンヤが折れた。
「クイントさんって、綺麗ですごく素敵な人ですね。私も姐さんって呼んじゃおうかな」
「うん、クロス君が大人びいてしっかりとした子になったのも、クイントさんが側にいたからだろうな」
美由希や恭也にまで尊敬のまなざしを向けられ、思わず息子に助けを求めるような視線を送ったが、クロスはなのはと話しこんでいて見ていなかった。
『クロス~どうにかしてよ、これ』
『母さんが綺麗で、優しくてすごいってのは事実でしょ。俺だって自慢の母親なんだか、照れる事ないじゃない』
『風呂場での仕返し!?』
『クイントさん、すごく嬉しそうですね』
『はにゅ!? な、なのはちゃんまで……』
こうして高町家では、珍しくクイントが褒め倒されるイベントが発生し、後にそれを知ったゲンヤが俺もその場に居たかった。と心底悔んだそうだ。
アースラ 艦長室
「艦長。今日はどうしても聞きたい事があってきました」
突然、今まで見た事もないような真剣なまなざしでリンディを見るクロノ。
対するリンディは、やはり来たかと言うように軽く息を吐き、クロノを見た。
「聞きたい事は、クロス君の事ね?」
「はい。クロスとノアの事。そして、地上本部所属のゼスト隊がなぜ、こうも短時間でここに来れたのか。それを聞かせて下さい」
本局と地上本部の仲は悪い。これは管理局員なら誰でも知っている事だ。
だが、ここ数年ではその状況に少しずつ変化が見られるようになった。
地上本部最高責任者である、レジアス少将の元で構造改革が進み、本局との技術的にも人材的にも連携も取れるようになった。
また、本局もデバイスやそれ以外の装備について地上本部への配備を優先させている節がある。
その動きに、クロスの存在が見え隠れしている事に、クロノは気付いた。
まだ9歳の捜査官になりたての魔導師に、そこまでの力があるのはなぜか。
それをリンディが知っていて、クロノにすら隠していると思ったのだ。
「……残念だけど、私には答える権限がないわ」
「そんな!?」
それは次元艦アースラの艦長であり、提督の地位にあるリンディですら権限が及ばない秘匿事項がクロスとノアにはあると言う事。
「だけど、クロス君やゼスト隊長達からあなたに話す許可が出ているから、少しは話せるわ。本当ならクロノには知っておいてもらいたい。とクロス君も言っていたのだけど」
「クロスが……あいつは気付いてたのか、僕が疑念を抱いているのを」
「私やゼスト隊長もみんな気付いているわよ。と言うより、疑念を抱かない方がおかしい。と言う話ね」
笑いながら、リンディはあるデータを見せた。
「これが、クロス君とノアちゃんに関する見せれるレベルのデータよ」
そこにはクロスとノアの経歴が簡単にだが、書かれていた。
「やはり、クロスはクイントさんとゲンヤさんの実の子ではなく……研究所から救助された子供だったんですね。そして、クロスは人造魔導師、ノアはその研究所で研究されていたユニゾンデバイス」
「それ以上は明かす事は出来ないわ。その研究所で何が行われていたのかもね」
クロスとノアが囚われていた研究所の名は、リジェネレイト。再生を意味する研究所。
そこをゼスト隊と複数の局員が襲撃し、2人を救出したと書かれていた。
「っ!? これを見ると、研究所からクロスとノアを救助したのはゼスト隊と……母さんも!?」
「私も向かったわ。ゼスト隊長に協力を頼まれてね。それ以外にも色々、と」
リンディは、それ以上は言わなかった。まるで話すのが辛いかのようだ。
「ともかく、貴方に話せる事はここまでです」
「だったら最後に、クロスがここアースラとゼスト隊にしか帯同した事がないのは、何か意味が?」
「えぇ、表向きは面識のある者がいる部隊の方が、と言う理由だけれどもそれ以外の重要な理由があるわ」
そこでリンディは深く溜息をつき、クロノをじっと見据えてこう言った。
「クロス君とノアちゃんには、世界を滅ぼす可能性のある力が眠っているわ。私やゼスト隊の役目は全力でそれを止める事。恐らく、プレシアもそれを狙っているわ」
続く
どうでもいい豆知識:
クイントの親馬鹿はもう1つのリリカルシリーズの作品と同じです。
けど、過去を知ってる分この作品の方が親馬鹿強めです。