魔法少女リリカルなのは異伝~X Destiny~   作:カガヤ

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第13話 「2つのプロジェクト」

クロス達は高町家で一泊し、次の日は午前中高町夫妻が経営している喫茶店兼洋菓子店『翠屋』の手伝いをする事になった。

なのはの兄恭也と姉美由希がそれぞれ用事があり、休日の翠屋では人手が足りなくなるかもしれない。

と言う事で手伝う事になったのだ。

 

「ごめんなさいね。せっかく来てくださったのに、お店の手伝いをさせる事になってしまって」

「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ。今までこちらがなのはちゃんにいつもお手伝いしてもらってましたから、これくらいはお返ししないと」

 

流石にケーキを作るのは出来ないが、それでも皿洗いや給仕などをしている。

クロスも手伝うと言ったのだが、クイントとティーダがいれば大丈夫だからとなのはと2人で話をしていた。

と言っても、実際にはユーノとノアもちゃっかり混ざって4人でだが。

 

「昨日も言ったけど、ホントごめんななのは。大勢でおしかけて色々迷惑かけて」

「ううん、迷惑だなんて私もお父さん達もちっとも思ってないよ。お父さん達楽しそうだったもん。私もすごく楽しいよ? それに今日も手伝ってもらってるし」

「いいなぁ、私も混ざりたかったなぁ。ユーノ君みたいに何かに変身しようかな」

「ノアの場合、猫か?」

「ね、猫はちょっと勘弁して欲しいなぁ」

 

ちなみに今のユーノはフェレットではなく本来の姿、人間形態になっている。

誰かがきてもすぐに分かるようにしてあるので、士郎達が来ても問題はない。

 

「そう言えば、ユーノ君前にすずかちゃんの家で追いかけられてたっけ」

「あー猫にしてみればあの姿のユーノ美味しそうなんだろうな。よし、ノア。お前猫で」

「ラジャー!」

「やめて。本当に止めて! ってノアはなんでそんなにやる気満々なの!?」

 

なのはの言う通り、以前なのはの友人である月村すずかの家に遊びに行った時、ユーノは飼っている猫達に追いかけまわされた事がある。

すずかの家は猫が多いので、追いかけ回された数は1匹や2匹ではない。

ちなみに同じくなのはの友人アリサ・バニングスの家は犬が多い。

 

「冗談だよ冗談。ユーノ君あの姿で結構役得あったんだから、それくらいの天罰はあってもいいじゃない」

「まだそれを言うの!? もう勘弁して……」

 

ノアの言う役得とは、なのはと一緒に入浴したり温泉に入った事だ。

勿論、もうなのははユーノと一緒には入ってはいないが。

 

「あははは、それにしても、なのはちゃんのお母さんが作ったケーキどれも美味しい! マスターに負けないくらいの美味しさです!」

「俺なんか足元にも及ばないだろ、桃子さんは本職なんだから」

「えっ、クロス君ってケーキ作ったりするの?」

 

ノアが桃子特製のケーキの数々を幸せそうに食べていると、なのはが少し驚いた顔をした。

 

「マスターはこう見えて料理が大得意なんですよ。特にお菓子作りは母さんやメガーヌさん達の大好物になるくらい。ユーノ君は食べた事あるよね?」

「うん、あれはとても美味しかったよ。前に色々作ってくれたんだ」

「ユーノもそんなに煽てるなよ。母さんに色々教わったから、作れるってだけだ。それが美味しいのは母さんが上手だからだ」

「ふふっ、本当にクロス君ってお母さんと仲が良いよね」

 

なのはに言われ、誤魔化すように無言で紅茶を飲むクロスの頬はほんのり赤い。

 

「あ、照れてますねマスター♪ でも、なのはちゃんの家族だってみんな仲が良いですよね。」

「うん、そうだよね……」

 

そこで少しだけなのはの表情が曇った。

 

「どうしたんだなのは?」

「何か、家族の事で悩みがあるんですか? それとも、やっぱり寂しかった?」

 

その様子にクロスとノアは、やはり家族と少しの間でも離れていた事が原因なのかと罪悪感があったが、それはすぐになのはが否定した。

 

「ううん、そうじゃないの。ただ、少し思い出しただけなの。私がもっと小さい時に、お父さんが仕事で大怪我をしてずっと入院してた事があったの」

 

クロスとノアが心配そうに見ると、なのはは大丈夫だと笑顔で少しずつ話だした。

 

「あの頃はお店も開いたばかりだったから、お母さんとお兄ちゃんはずっと忙しくて、お姉ちゃんはお父さんに付きっきりだったから、だから私は最近まで家だと1人でいる事多かったんだ」

「なのは……」

 

クロスはなのはと違い、親と同じ仕事をしているし、ノアがずっと一緒なので家で1人になると言う事がない。

ユーノも両親がいないとはいえ、一族総出で遺跡の調査をしていた。

それでもそれぞれに寂しさを感じる事はある。

ユーノは両親のいない寂しさを、クロスとノアはとある事情による罪悪感も含めて。

 

「だからかな。フェイトちゃんを見て思ったの、あの頃の私に似てるって。最初は誰の為にあんなに頑張るんだろう? と思ってたけど。今はそれが家族の為だと分かって、だからあんなに必死に我慢してるだって。フェイトちゃん、本当は寂しいんだって」

 

それ聞き、クロスとノアは思わず顔を見合わせた。

フェイトに関してのある重大な秘密。それをなのはに打ち明けるべきかどうかだ。

リンディやゼストは、今は打ち明けるべきではない。

そう言っていたが、いずれ分かる事だと言うのは誰もが分かっていた。

だからこそ、今はまだなのはにそれを伝えるべきではない。

それはクロスとノアにも分かっているつもりだ。

 

「なのはは本当に強くて、優しいんだな」

「そ、そんな事ないよ。ただ、私でもフェイトちゃんの辛さを少しでも和らげる事が出来たらいいな。ってそう思ったの」

「それが優しいって言うんだよ、なのはちゃん。絶対にフェイトちゃんを助けましょう、ね? マスター、ユーノくん?」

「ああ、勿論だ。管理局員としても、1人の魔導師としても、人としてフェイトは必ず助ける」

「僕もだよ、なのは。なんでも力になるよ」

「みんな、ありがとう!」

 

その後も楽しい談笑が続き、昼ごろに恭也と美由希が戻ってくると入れ違いにクロス達はアースラに戻る事になった。

 

「それじゃあ、クイントさん、ティーダくん、クロス君、なのはをよろしくお願いします」

「はい、任せてください」

「ユーノくんもまたね」

「キュイ♪」

 

翠屋を出てしばらく街中を歩く。街を出た所で、クロスのギアでアースラに戻る事になっている。

ちなみにノアは、ゼストとメガーヌと共に本局に用があるとかで、昼前から出かけている。

 

「アリサちゃんとすずかちゃん、2人とも用事がなければクロス君を紹介したかったなぁ」

「この一件終わったら、クロスには休暇が与えられるからその時に紹介してあげて、なのはちゃん」

「また母さん勝手に、と言うか休暇って何さ?」

「クロス、お前休暇結構溜めこんでるだろ。兄貴も心配してたぞ」

 

時空管理局にも有給休暇はあるが、クロスはそれをかなり溜めこんでいる。

ただでさえ子供であるクロスに休暇を取らせないのか、とオーリスやリンディに苦情が良く来る。

クロス自身が休暇を使おうとしないのが、クイントやゲンヤの悩みの一つでもある。

 

「母さん達だって結構溜めこんでるでしょ。オーリスさんから俺からも注意してくれ言われたくらいなんだから」

 

クロスやクイント達、結局は似た者親子なのかもしれない。

 

 

 

「さて、この辺でいいわね。クロス、跳躍お願いするわ」

 

人気のない山に入り、誰も周りにいないのを確認してからアースラに帰ろうとしたその時だった。

 

「っ!?」

 

突然、何かに気付いたクロスがとある方角を睨みつけると同時に、空間モニターが開き緊迫した表情のリンディが映し出された。

 

『みんな。緊急事態よ! たった今その付近で空間跳躍の反応があったの。すぐに向かってくれる!? ゼスト隊長達もすぐにそちらに向かうように連絡しているわ!』

「了解、こっちでも気付きました。この魔力反応、恐らく転移してきたのは、アルフとフェイト!」

「フェイトちゃん!?」

「急ぎましょう!」

 

クロス達が現場に到着するとそこに居たのは、気絶しているフェイトと、それを抱きかかえた傷付いたアルフだった。

 

「フェイトちゃん! アルフさん!」

「どうしたんだ2人共! 待ってろ、今魔法で」

「あ、あたしは大丈夫、それより後ろに、追手が」

 

クイントがフェイトを、クロスがアルフの怪我を回復させようとしたが、それを制したアルフが2人の背後を指さした。

 

「やはりこの世界に逃げ込みましたか、アルフ」

「シャロ!」

 

そこには、十数体のアスクを率いたシャロが佇んでいた。

クロス達は一斉にバリアジャケットを纏い、戦闘態勢に入った。

 

「お前らか、フェイトやアルフを傷付けたのは、一体どういうつもりだ!」

「これは私達の問題、部外者は黙っていてもらいましょうか。エヴォリューダー」

「クロスをその名で呼ぶな!」

『あらあら、本当の名で呼ばないとその子にも失礼じゃない。それとも……その子にはもっと別の名があったわよね?』

 

ティーダが銃口を向け怒りをあらわにするが、それをあざ笑う声が辺りに響いた。

 

「プレシア・テスタロッサ!」

 

声の正体は空間モニターに現れたプレシアだ。

プレシアはどこかの建物内部にいるようで、シリンダーが立ち並んだ通路から映像を送ってきている。

 

その映像は、アースラで見守っていたリンディ達にもはっきりと映し出されている。

 

「すぐに映像元の座標軸を探索して! それと武装局員達の転送準備も、急いで! クロノ、あなたもすぐに飛んで!」

「はい!」

「(プレシア、どういうつもり? まさかクロス君やフェイトさんの正体を!)」

 

 

リンディの予感は的中していた。

 

『プロジェクトA、アルハザードの遺産、エヴォリューダー……どの呼び方がいいかしら?』

「やめなさい、プレシア!」

 

クイントがモニターに向かって突進したが、数体のアスクがそれを阻んだ。

すぐにティーダが援護射撃を行ったが、それでもアスクによってクイントは弾き飛ばされてしまった。

 

「母さん! くそっ!」

「クロス、だったね? 私はいいから、お母さん達の方を……あぐっ!」

「お前は黙ってろ。浅い傷なんかじゃないなんだ。じっとしてろ」

 

クロスは今アルフに回復魔法をかけていた。

フェイトの方はただ気絶しているだけで、特に外傷はなくなのはが側についている。

だが、アルフの方は重傷で、所々に切り傷や電撃による火傷などがあった。

 

「(ちっ、ノアがいればもっと早く回復出来るのに……まだか、ノア!)」

 

管理局本局と言う地球から次元世界の距離上遠く離れた場所にゼストとメガーヌ、ノアは向かっていたが彼らと連絡がつかなくなっていた。

ノアもクロス同様に特別な転移魔法【次元跳躍】が使えるので、例えどんなに離れていてもすぐにクロスの所に来れるはずだが、何かに手間取っているのか一向に連絡も付かない。

クイントとティーダが迫るシャロやアスクと戦っているが、形勢は圧倒的に不利だ。

なのはとユーノも加わろうとしたが、クロスがフェイトを守れとそれを止めた。

 

「あんた達は、自分の子供だけじゃなく、私の子供まで愚弄する気!」

『私の子? あなたの子? 違うでしょ、そうじゃないでしょ? 私もあなたも実の子供はいない。私とあなたは同じ、嘘の子にすがった。そうでしょう?』

「っ!?」

 

プレシアの言葉に、一瞬だけクイントの動きが止まった。その隙を逃すシャロではなかった。

 

「あぁ!」

「母さん!」

「姐さん!」

「しまっ!?」

 

クイントに振り下ろされた刃……は、別の刃に止められていた。

そこに立っていたのは、ゼストとメガーヌだった。

 

「遅くなった、はっ!」

「トーデス・ドルヒ!」

 

ゼストが握った槍に力をこめ、シャロを押しのけるとメガーヌの射撃魔法の追撃が入った。

 

「ちっ、もう来ましたか。早いですね」

「これ以上俺の仲間や息子を愚弄するのは我慢できなくてな。行くぞ、クイント、メガーヌ、ティーダ!」

「「「はい!」」」

 

4人揃ったゼスト隊は、フェイトやアルフを中心に戦闘を開始した。

 

「クロノ・ハラオウン。到着しました! 援護に回ります」

 

そこへクロノも到着し、形勢は逆転しつつあった。

 

「マスター、遅くなりました!」

「ノア! 行くぞ!」

 

更にクロスと到着したノアがユニゾンしてユーノにアルフを任せ、なのはも今度こそと参戦しようとしたが、ゼストが3人を止めた。

 

「待て、まずはあの2人をアースラに運ぶのが先だ。なのは、君もクロスと共に一度アースラに戻るんだ」

「……了解」

「は、はい」

『滑稽ねぇ』

 

その様子をモニター越しに見下ろしていたプレシアは、静かに笑う。

 

『殺人鬼が模造品を助けようだなんて、見せものとしてはなかなかね』

「……何だと?」

 

その言葉に場の空気が止まったように感じた。シャロもアスクも一旦ゼスト達から離れ、ゼスト達もクロスやアルフを守るように体勢を立て直した。

 

『エヴォリューダー、あなたは……千人以上も殺した殺人鬼。なのに、今更そんな模造品を助けると言うの? 罪滅ぼし?』

「……黙れ!」

 

プレシアが何を言っているのか、なのはとユーノには分からなかった。

クロスの事情を知ったクロノも、プレシアの言葉に動きが止まった。

 

「クロスが、千人以上も殺した殺人鬼?」

 

信じられなかったが、クロスに対して様々な疑念が湧きあがっていたクロノには、その言葉を否定出来ないでいた。

更に、クロスがプレシアの言葉に怒りを示している事も、真実性を増していた。

 

『何を怒っているの? エヴォリューダー。そちらのお嬢さんと、小さな執務官さんには話していないようだから、私が代わりに教えてあげるわ』

「やめて、それ以上はやめなさいプレシア!」

「やめろ、プレシア!」

『待ちなさい、プレシア・テスタロッサ!』

 

クイントやゼスト、空間モニター越しにリンディも叫ぶが、プレシアは話を止めない。

 

『エヴォリューダー、今はクロスロード・ナカジマと名乗っていたわね。その子は人間じゃない。古代アルハザードの遺した魔導書【太極の書】の技術から生み出された人造人間。それも全てを壊し、殺し、支配する為だけに生み出された人造魔導師計画【プロジェクトA】の生き残り』

「えっ……うそ、クロスくんが?」

 

突然の事でなのはとユーノは、プレシアの言った意味を理解出来ずにいた。

クイントやゼストは忌まわしげにプレシアを睨むが、止める術はない。

クロノはクロスへと向き直った。

クロスは、ただじっとプレシアを見ていて、その表情はほとんど無表情だ。

 

『プロジェクトAは成功し、最高の被験体が生まれた。けれども、計画自体は失敗に終わったわ。他に生み出された子供も研究者達も全員皆殺しにされた。そこにいる被験体【A-1583号】によってね!』

 

プレシアに指をさされたクロスはそれを肯定も否定もしなかった。

クイントやメガーヌはそれを、辛そうに見つめるだけで動く事ができずにいた。

アースラでは、エイミィや他のスタッフが不安げな表情でリンディを見ていたが、それ以上にリンディの表情は悲痛さが浮かんでいて、誰も何も言えないでいた。

 

『でも、あなたが生まれたおかげで私の実験は更に進歩を遂げたわ。死んでしまった我が子、アリシア・テスタロッサのクローンを生み出すという【プロジェクトF】がね!』

 

プレシアが身をよじり、自身の背後をモニターに映し出した。

 

「あ、あれは……フェイトちゃん?」

 

そこには巨大なシリンダーに女の子が浮かんでいた。

その格好は幼いが、フェイトにそっくりだった。

 

『可愛いでしょ? この子が正真正銘私の娘、アリシア・テスタロッサ』

 

自分の過去を暴露されても身動き一つしなかったクロスが、その言葉にピクリと反応した。

 

『けれども、私の実験は、結果的には失敗したわ……生まれたのはアリシアに似ているだけのただの模造品、ガラクタ……それが、そこに倒れている人形よ』

 

その言葉に、意識がないはずのフェイトの瞳から涙が零れ落ちたのがクロスとなのはには見えた。

 

「てめェ……もう、何も言うな」

 

クロスの口から禍々しい口調でその言葉がこぼれると、辺りの空気は一変して冷たくなった。

 

「クロス、くん?」

 

少し離れていたなのはにも、クロスの異変が感じ取れた。

今のクロスは何かがおかしい。そう感じた。

 

『何を言うなというの? あなたが殺人鬼である事を否定したいの?』

「ちげぇよ……確かに俺は太極の書を使いこなす為の殺人の道具として生み出されたさ」

 

顔を伏せ、呟くように話すクロスの言葉は、まるで刃のように聞く者全てに突き刺さって行く。

 

「正確には1012人殺した。研究者の顔も名前も忘れていねぇし。他の被験体達も……名を与えられたなかった俺の兄や姉達もしっかりと顔は覚えている。俺が殺人鬼って事は否定しねぇ。だけどな!」

 

ゆっくりと顔をあげて行く。

クイントとメガーヌがかけよろうとしたが、その歩みが止まった。

いや、止められた。クロスの体から見えない何かが吹き上がるのを感じた。

 

「模造品でも、ガラクタでも、人形でもねぇ……フェイトは、てめぇの大事な娘だろうが!」

 

そう叫ぶクロスの瞳は、まるで血ように赤く変色していた。

そして、クロスを中心に風が吹き荒れた。。

それは、魔力と殺気。

クロスの全身からプレシアに向けて殺気が放たれているだけだった。

その殺気を見て、なのはとユーノは恐怖を覚え、モニター越しで見ていただけのアースラスタッフも、モニターから目を逸らすほどだった。

 

「プレシア・テスタロッサ……お前は、俺が……コロス!!!」

 

 

続く




やっと明かされたクロスの秘密の1つです。
原作ブレイクな無印はもうちょっと続きます。
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