魔法少女リリカルなのは異伝~X Destiny~   作:カガヤ

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第14話 「灰色の思い出」

なのはは、何が起きたのか理解できないでいた。

傷付いたアルフとフェイトが現れ、それを追ってきたシャロやアスクに囲まれゼスト達が助けに現れた。

と思ったら、空間モニターに映し出されたプレシアも現れた。

プレシアは、娘であるはずのフェイトを、自分の本当の娘であるアリシアのクローンであると言った。

クローンがどういう存在かは、なのはもニュースなどで聞いた事があったのでそれは理解できた。

それでも、フェイトがそのクローンだと言うのが理解出来なかった。

クロスもまた普通の人間ではない事も、数多くの人を殺した殺人鬼だという事も、なのはには衝撃的だった。

そして、クロスはプレシアの言葉に今まで見た事もない怒りや殺気を露わにして、プレシアを睨んだ。

その瞳は血のように赤く、なのはもユーノもまともにクロスの方を向く事すら出来なかった。

 

更になのはとユーノが驚くような事が起きた。

目を赤く染めて空間モニターを睨むクロスに対して、なんとゼスト達が一斉にデバイスを向けたのだった。

 

「止まれ、クロス」

「それ以上は、ダメだ」

 

ゼストの槍とティーダの銃口がクロスに突きつけられる。

メガーヌもクロスから少し離れ、背後のシャロ達に気を配りながらも視線と両手はクロスに向いている。

 

「クロス」

 

クイントは、拳を構えながらもゆっくりとクロスに近付き、声をかけた。

 

「クロス、大丈夫、大丈夫だから、ね?」

 

あやすようにクロスへ声をかけ、優しく抱きしめた。

すると、クロスの目は赤からいつもの色へと戻り始めた。

 

「……大丈夫、だよ。母さん、師匠達も俺は、大丈夫です。少し怒りは、してますけど」

『私がついてますから大丈夫ですよ! それに、さっきのプレシアには私も結構怒ってますから』

 

大きく息を吐き、目をあげたクロスの目はいつも通りのユニゾン状態の色に戻っていた。

ユニゾン中のノアからの声も聞き、ゼスト達はホッと安心したような顔をして、すぐにデバイスを再びシャロ達へと構えなおした。

 

「なのは、ユーノ、クロノ……訳は後で話すよ」

「ちゃんと話してもらうからな、クロス」

 

クロノはクロスの様子を訝しみながらも今はそれどころではない。とシャロ達に構えを取った。

だが、なのはとユーノはまだ固まったままだ。

 

「えっ? うそ、うそだよね? クロス君が、人殺しだなんて」

「………」

 

何が起きたのか分からずに、なのははただ混乱していた。

申し訳なさそうにクロスが、なのはの方へと向き直った。

 

「……ひっ!?」

「っ!!」

 

それ見て怯えたなのはが、クロスから一歩、二歩と後ずさりした。

 

『ふっ、あはははは! そうよね、それが普通よね。そんな殺人鬼なんかに近寄ってほしくないものね!』

「「「「黙れ!」」」」

 

またも高らかに笑うプレシアの空間モニターに、ゼスト達四人の攻撃が一斉に命中した。

 

『ガガッ……ふ、……ザッ……もう、……無駄よ』

 

空間モニターはノイズを発しながら消えていったが、プレシアは最後まで笑みを崩さずにいた。

そして、それを合図にシャロやアスク達は一斉に動き始めた。

ゼストがシャロの攻撃を防ぎ止め、ティーダとメガーヌの射撃魔法がアスクを牽制する。

遅れてクロノもアスクに攻撃をしかけた。

クイントは、なのはとユーノに襲い掛かるアスクを殴り飛ばして、無表情のままアスクを切り裂いていくクロスに駆け寄った。

 

「クロス。なのは、ユーノ、アルフ、フェイトの4人を連れてアースラに戻りなさい」

「っ!? でも、こいつらを!」

「これは命令だ! クイント、お前も一緒に戻れ。こいつらは俺達だけで十分だ」

「了解。クロス、アースラに戻るわよ。フェイトちゃんとアルフちゃんの手当を急がないと」

 

アルフを背中にしょったクイントの言葉に、クロスは渋々ながらも頷き、うつろな目をしたままのフェイトを抱きかかえた。

 

「なのはちゃん、ユーノ君。今はアースラに戻るのが先決よ。話は後で必ずするわ」

「……はい」

「分かりました」

 

クロスに近付くのを躊躇っていたなのはとユーノだったが、クイントが優しく二人に呼びかけたので恐る恐るクロスの側に寄った。

 

「(これは……最悪ね。クロスにも、なのはちゃんにも、フェイトちゃんにも) いいわ。お願い、クロス」

「ジャンプ!」

 

赤い光に包まれ、クロス達はこの場から消えた。

その時、シャロはゼストを攻撃しながらも、そのマスクの下で小さな笑みを浮かべた。

だが、ゼストたちはそれに気付けなかった。

 

 

 

アースラ

 

アースラのブリッジでは、アースラスタッフ達が心配そうで、それでいてどこか警戒心を出したまま、戻ってきたクロス達をみている。。

クロスがユニゾンを解くと、身体からノアが辛そうな顔をしながら現れた。

 

「おかえりなさい。すぐに二人を医務室に運んで。話は後で、ね?」

「はい」

 

クロスとクイント、ノアはすぐに医務室にフェイトとアルフを運び出した。

なのはとユーノも二人の後を、少し躊躇いながらも追いかけた。

2人の様子を辛そうに見てリンディは、小さく声をかけた。

 

「なのはちゃん、ユーノ君。クロス君を、信じてあげて」

 

なのは達は、その言葉にどう答えていいか困惑した表情を浮かべ、ただ黙って医務室に向かった。

医務室ではすでにアルフとフェイトの容体を聞いていたようで、医療スタッフが治療の用意をしていた。

すぐに二人はそれぞれ治療ポットに入れられ、治療が開始された。

フェイトは外傷がないが精神的ダメージが大きく、アルフもクロスが回復魔法をかけたおかげで大事には至っていなかった。

2人の治療を待つ間、クイントがなのはとユーノにプレシアの過去について話した。

 

「プレシア・テスタロッサは、昔ミッドチルダの科学者だったの。でもとある事故で実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしてから行方を眩ませたわ。そして、恐らくアリシアを蘇生させようと様々な実験を繰り返していたみたいね」

「そこで目をつけたのがプロジェクトA。俺が生み出された人造魔導師計画、その理論を元にクローン人間を作るプロジェクトF.A.T.E。フェイトの名前はそこから取ったんだろうな。で、プロジェクトAと俺に関する事はプレシアが言った通りだから別に説明する必要もないよな?」

「クロス!」

「マスター!」

 

クイントの後にクロスが続けて言ったが、淡々とごく自然にプレシアの言葉を肯定した。

それはつまり、過去に人を沢山殺した事を認めたと言う事だ。

 

「クロス君、本当に」

「あぁ、俺は人を殺した。俺を生み出した研究所の奴らと、俺の前に生み出されて失敗作と呼ばれていた俺の兄や姉達も全てな」

「やめなさい、クロス!!」

 

クロスの言葉を聞きなのはやユーノだけでなく、フェイト達を治療していたスタッフも一瞬だけ動きが止まった。

 

「母さん、今更隠す事もないでしょ。それにここにいる人はみんな知っている事だし」

 

そう、ゼスト隊やリンディ以外にもクロスとノアの過去について知っている人はいる。

例えばアースラの医療スタッフだ。人造魔導師であるクロスの身体に何かあった時の治療のために必要な事だったので、彼らがアースラに配属された際に明かしている。

勿論、リンディとゼスト達が厳選したスタッフ達だからこそ明かした事実だった。

 

「イルイ先生、フェイトとアルフの容体はどうですか?」

「あぁ、あの使い魔の方は問題ない。治癒魔法のおかげで、傷もふさがっているからね。ただ、彼女の方は……」

 

そう言ってイルイと呼ばれた女性医師は、フェイトの方を辛そうに見た。

 

「フェイトが? でも、彼女に外傷はなかったはずですよ?」

「外傷は、ね。彼女は精神的に深い傷を負ったのよ。だから、心が生きる事を拒否しているの。このままじゃ、精神が完全に壊れていずれ、死ぬわ」

「そんな、フェイトちゃん、フェイトちゃん!」

 

なのはが駆け寄りフェイトをしきりに呼ぶが、彼女の目に光はなく、虚無を映し出していた。

 

「先生、治す方法は?」

「難しいわ、完全に心の問題なのよ」

 

つまり、今フェイトに出来る事はなかった。

クロス以外は。

 

「だったら、俺が何とかする」

「クロス? 一体どうするの?」

 

クイントやイルイもクロスが何をするのか分からなかったが、ノアだけは何か見当がついたようだ。

 

「時間がないんだ。今フェイトが目を覚まさなければ、間に合わないかもしれない」

「っ、そうね」

「えっ? それってどういう意味?」

 

なのはとユーノにはクロスとクイントの会話の意味が分からなかった。

だけど、クイントの渋い表情を見て、何か良くない事が起きる前兆だとは分かった。

 

「俺の魔法、精神同調(シンクロマインド)でフェイトの精神に入って、意識に直接話しかけて起こす」

「でも、それはマスター自身の意識も危険になるんですよ?」

 

シンクロマインド、それは文字通り他者の精神と同調する魔法。

本来は一時的に同調して他者の記憶や知識を覗くための魔法だ。

今回クロスが行おうとしているのは精神と完全に同調し、半ば精神を一体化させようとしている。

ただ、この魔法には重大な欠点があり、精神を同調している間、術者であるクロスは無防備となり、相手側に防御魔法などで精神の同調を防がれたら自分自身の精神にダメージを負ってしまい、最悪精神が消滅してしまうのでうかつには使えない魔法だ。

今フェイトが心を閉ざしている理由は、プレシアに自分がアリシアのクローンである事を告げられ、娘ではないと拒絶された事だろうとクロスは推測した。

自分自身で乗り切れれば問題ないが、幼いフェイトにそれは酷な話だ。

だから、クロスがフェイトの心に直接呼びかけるしかない。そこまでフェイトの快復を焦る理由。

それは、プレシアとの戦いがもうすぐ終わりを迎えると言う予感と、もう2度と母親に会えないかもしれないと言う焦りだった。

 

「無理しちゃダメよ。危険と感じたらすぐに魔法を解除しなさい。でないとあなたも取りこまれるわよ」

「分かってるよ、母さん」

 

心配するクイントに笑みを浮かべて答えたクロスは、次になのはとユーノにふり返った。

 

「フェイトは必ず助ける。人殺しの俺を信じなくてもいい。けどこの約束だけは、信じてくれ」

「クロスくん」

 

なのははさっきは怖くて見れなかったクロスの目を見た。

いつにもまして真剣な眼差し。

その瞳はとても澄んでいて、そしてどこか深い悲しみを感じさせた。

 

「私達は隣の部屋にいるわ。何かあったらすぐに呼んで、クイント」

「えぇ、ありがとう」

 

イルイ医師と医療スタッフ達がアルフを別の部屋へと運んだ。

この部屋に残ったのは、クロス、ノア、なのは、ユーノとクイント、ベッドに横たわるフェイトだけだ。

クロスはフェイトの側に座り、胸元に両手をかざした。

クロスの両手が淡く輝き始め光の粒子を放ち、フェイトの身体を包みこんでいく。。

 

「フェイト、今助ける精神同調(シンクロマインド)

 

両手の輝きが一層増した後、クロスの身体から力が抜け、フェイトへと倒れこんだ。

クロスの身体をクイントが支え、ゆっくりとベッドに寝かせた。

 

「クロスくん、フェイトちゃんをお願い」

 

祈るように目を瞑るなのはの肩にクイントが優しく手を置いた。

 

「大丈夫よ、あの子は絶対にフェイトちゃんを助けるわ」

「そうです。だってなのはちゃんと約束したんです。マスターは約束を必ず守ります」

「うん!」

 

ノアの力強い言葉に、なのははアースラに戻ってから初めて笑顔を見せた。

 

 

今クロスは、フェイトの精神世界へと辿り着いた。。

その場所は一面灰色に覆われていて、その空間にはいくつもの泡が浮かび上がっていて、様々な映像が映し出されていた。

その中の一つにクロスが近付くと、独白のようなフェイトの声が聞こえた。

 

――わたしは、母さんに迷惑ばかりかけていた。

 

プレシアとフェイトが丘の上でピクニックを楽しむ姿。

 

――楽しかった思い出を沢山くれた。

 

栗色の猫と共に昼寝をしているフェイトに、プレシアが優しく布団をかけている。

 

――仕事が忙しいのに、わたしとの時間を一生懸命作ってくれた。

 

夜遅くまで仕事で遅くなったプレシアの為に、フェイトは料理を作って待っていた。

これらは幼いフェイトの記憶、ではない。

 

「違う、これはアリシアの記憶だ」

 

フェイトの精神世界に映し出されている映像には、ほとんどノイズが走っている。

これは全てフェイトのクローン元となったアリシア・テスタロッサの記憶だ。

 

「ここには、いないか。優しくて、楽しい偽りの記憶で自分を覆って、精一杯の自己防衛をしているって所か。フェイト、確かにお前はアリシアのクローンだ。けど、お前はお前だ。これはアリシアの記憶だ! お前のじゃない! お前の、お前だけの大切な思い出があるはずだ!」

 

その時、空間に大きなヒビが走った。

ヒビは少しずつ大きくなり、映像を映している泡が次々にはじけ飛んでいく。

よく見ると泡を弾け飛ばしている何かがそこにはあった。

 

「精神崩壊が予想より早い! 違う、何かがフェイトの精神を侵食している?」

 

クロスは更に精神世界の奥へと潜って行くと、行く手を阻む門のように黒い煙が渦を巻いていた。

渦はクロスを拒むように立ち塞がり、更に渦から稲妻が走り精神世界にヒビを入れている。

 

「この奥にフェイトがいる。この先が本当のフェイトの記憶か。悪い、フェイト。お前の心の奥底に入らせてもらう」

 

クロスは渦の奥にいるであろうフェイトに呼びかけ、渦に飛びこんだ。

渦は異物であるクロスを弾き飛ばそうと、その勢いを増した。

 

「くっ、これは、フェイトの意思が拒んでいるだけじゃない。やっぱり何か魔法が仕込まれている! プレシアの奴、フェイトに何をした! うおおぉ~!」

 

クロスは拳を握り魔力を籠めた。

 

「ゼロ・ブリット!」

 

赤く輝く拳が渦の中心を殴る。

すると、渦が勢いを弱めてやがて全て吹き飛んだ。

すると精神世界全体を照らし出すかのように、白い閃光が走った。

 

「行くぞ、フェイト」

 

クロスは、今度こそ本当のフェイトの記憶がある場所に向かい、奔流を突き進んでいった。

 

 

続く

 




数年前に書いた作品って今よりも更に表現に粗が多いなぁ、と手直ししていますが、特に完璧に直せている自信は全くないです。
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