魔法少女リリカルなのは異伝~X Destiny~   作:カガヤ

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第15話 「罠」

フェイトの心を救う為、危険な魔法を使いフェイトの深層心理へと入って行ったクロス。

クイントとなのは、ノアはただ黙って待つ事しか出来なかった。

誰も黙ったまま重い空気が流れる中、クイントは意を決したようになのはとユーノに向き直った。

 

「なのはちゃん、ユーノくん、約束通りクロスとフェイトちゃんの事話してあげるわ。でも、それを聞く事がどれだけ辛い事か、分かる?」

「はい」

「分かります」

 

そこでなのははベッドの上でまるでフェイトを守るかのように眠るクロスに目を向けた。

 

「本当は聞くのが怖い、です。でも、聞かせてください。聞かないままだときっと、後悔します」

「なのはちゃん、無理しないでいいんですよ? マスターも私も、なのはちゃんには知られたくなかったですし、今も知られたいとは思いません。だけど、なのはちゃんが知りたいのなら、私もマスターも止めません」

 

なのははノアの言葉を聞いて、ユーノと頷きあってクイントの目をしっかりと視た。

 

「教えてください。私、知りたいんです。知ってクロスくんに謝りたいんです」

「謝る? クロスに?」

「私、クロスくんを傷付けたから。さっきクロスくんがすごく怖くなって……」

 

あの時、クロスに恐怖を覚えた時、思わずクロスを見て悲鳴をあげた時。

クロスが一瞬だけ、悲しさと寂しさが混ざったような浮かべた時、なのはは後悔した。

あんな表情を自分のせいで、クロスにさせてしまった。

優しくて自分を守ってくれた人を、拒絶してしまった。

それを謝りたいとも思っていた。

だけど、そのためにはクロスの事を良く知らなければいけないと思った。

 

『滅多にそんな表情を出さないクロスの事に気付くなんてなのはちゃん、本当に優しい子ね』

『マスターが私達の世界から遠ざけようとした程の子ですから。当然です』

 

なのははクイントとノアが念話でそんな事を言っていた事に気付くはずもなく、ただ真剣な表情で2人を見ていた。

ユーノも2人をじっと見ている。なのはよりも少しだけクロスと長い付き合いがあるユーノもクロスの事をとても心配していた。

 

「だから、お願いします!」

「僕もお願いします! クロスの事、僕ももっと良く知りたいんです。友達として」

「なのはちゃん、ユーノくん」

 

クイントもノアも頭を下げるなのはに驚いたが、それ以上にユーノがクロスを友達と言い切ったのにも驚いていた。

 

「分かったわ。最初に言っておくけど、クロスの過去に何があったか、それを正確に知っているのはクロスだけよ。ノアでさえ知らない事もあるわ。そして、クロスの過去を話す事は原則禁じられているの。私達の上司であるレジアス少将からね」

「えっ?」

「それはプレシアが言っていた、プロジェクトAに関する事だからですか?」

 

プロジェクトA、それによってクロスが作られたのは、なのはには何となく予想が付いた。

 

「そうよ。古代に滅びた異世界アルハザードの魔法技術を現代に復活させる計画。クロスはその計画の為に生み出されたの。これは超機密事項よ。でも、クロスの母親として、なのはちゃん達には知っていて欲しい。だから、よく聞いて欲しいの。クロスが話すのが一番いいのだけど、あの子自分の事はとても自虐的に話すから、それが真実とは限らないわ。ノア、いいわね?」

「そうですね。きっとマスターは本当の事を話さないかもしれません。私でさえまだ知らない事もありますから」

 

ベッドに横たわるクロスの側に寄り添うノアは、悲しそうに頷いた。

それを見てクイントは深く息をして、不安そうな顔をするなのはに微笑み、軽く頭を撫でて話を続けた。

 

「今から4年前、私達ゼスト隊とリンディ提督が率いた部隊がある人からの密告を受けて、地球のある場所にあった研究所へ向かったわ」

「えぇ~!? 地球に来た事あるんですか!?」

「そう、日本の富士山。その麓に広がる樹海の一角に結界を張ってあって、研究所はそこに作られていたわ」

「ええぇ~~!? に、日本!?」

 

地球、それも日本の富士の樹海にそんな場所があった事を知り、なのはは驚いた。

しかし、なのはが驚くのはここからだった。

 

「クロスとノアはそこで生み出されたの。ノアの場合、正確には違うけど今それは置いておくわ。話をつづけるわね。なのはちゃん、人造人間って聞いた事ないかしら?」

「えっと、本や映画でなら……」

「そう、なのはちゃん達みたいな魔法技術に縁がない世界の人なら、それが普通よね。でも、私達の世界では現実の話なの。勿論、違法。作ろうとしただけで逮捕されるわ」

「フェイトちゃんが、クローン人間だと言うのも、ですか?」

「そう。そして、クロスはその中でも特別なの、他の人工的に作られた命、人造魔導師を見ただけで分かっちゃうの共鳴とも言うのかしら。だからフェイトちゃんを一目見て、人造魔導師だと気付いたの。そして、だからこそ私達が来たのよ」

 

次々と明らかになるクロスの秘密。

クイント達、ゼスト隊。

地上本部勤務の彼らがアースラにやってきたのにはわけがあった。

 

「私達は人造魔導師専門の捜査部隊なの。まぁ、私達が来た理由はそれだけじゃないけれどね」

 

そこでクイントは眠るクロスをちらりと目を向けた。

 

「話を、戻すわ。4年前私達はリンディ提督の船で研究所に強制捜査にやってきて、そこの光景を見て驚いたわ。研究所は炎に包まれていて、研究員と思われる人達は全員殺されていて、その中で血まみれのあの子がいたわ」

「「っ!?」」

 

ノアがぐっと歯を噛みしめ、なのはとユーノの身体が強張ったが、クイントは続けた。

 

「クロスは、泣いていたわ。あの地獄の中で血の涙を流して、ただ恨みと憎しみと怒りだけで動いていたわ。私達はどうにかそれを鎮めれたわ。あの時の事は今もクロスを苦しめているの」

「クロス君に一体何があったんですか?」

「勿論研究所の職員を殺したのは、クロスの意志ではなかったわ。簡単に言えば洗脳されて暴走した、と言えばいいかしら。」

 

なのはの胸が痛んだ。

クロスは確かに人を沢山殺したが、それは決してクロスの本心ではなかった。

クロス自身がその事でどれだけ苦しんだか、なのはには想像もつかない。

 

「クロスとノアはね、魔力とは違う特別な力があって普段はそれを抑えているの。その力はとても危険で、使い方を誤れば暴走して周りの全てを破壊してしまう。その恐ろしさはクロスもノアも私達もリンディ提督も知っているわ」

 

それを聞いてなのはには心当たりがあった。

フェイトと一緒にジュエルシードを封印した直後、プレシアからの攻撃から2人を守る為にクロスもノアも、普通の魔力とは違う力を使った。

そして、それを使った後のクロスの様子がおかしかった。

それ以外にも何度か不思議な力を目にした事があった。

クロスの目が異様に赤く輝くのも見た。

 

「私、その力、見たかもしれません」

「そうね。クロスはここに来てからも何度かその力を使ったみたいね。短時間だけど、それでも使う事自体が危険な力をね」

 

それほど危険な力を使い、クロスはなのはとフェイトを助けた。

 

「もしその力が暴走してしまった時、抑えこめるのはリンディ提督か私達だけ。だから、今回の一件でクロスがその力を使いそうになったから、もしもの為に私たちが来たの。どちらかと言えば、本来の目的はこちらの方ね」

「それでさっきクロス君にデバイスを向けたんですか?」

 

プレシアの言葉に怒りをあらわにして、目を紅く染めたクロスへと刃を向けたクイント達。

それは万が一にも暴走してしまった時の為、なのはもユーノも分かってはいても理解は出来なかった。

 

「それじぁあのままクロスが怒りをぶつけようとしていたら、暴走しようとしていたら……」

 

何が起ころうとしていたか、ユーノは恐る恐る尋ねるとクイントは黙って首を振った。

 

「だからって! それじゃクロス君」

「もしもの時は自分を殺してでも止めて欲しい。私達がお母さん達に保護された時、それがマスターが出した絶対条件なんんです。それほどにマスターの、エヴォリューダーの力は危険なんです」

「エヴォリューダーって一体?」

 

プレシアの言葉にもあったエヴォリューダー、その言葉にクイントもノアも悲痛な面持ちになった。

 

「人造魔導師エヴォリューダー、クロスはその唯一の成功体。これ以上は、今は言えないわ」

「こればかりは私からも言えません」

 

2人の硬い表情になのはもユーノもそれ以上は聞けなかった。

断片的にではあるが、クロスの秘密と苦しみが分かった。

それだけで十分だった。

 

「最後に言えるのはクロスはね、自分が殺人鬼だって事を自覚していて、その事実から逃げるつもりもないの。例えよく事情を知らない他人からその事を断罪されたとしても、あの子はそれを受け入れるわ」

「じゃ、じゃあなんであの時クロス君はあそこまで怒っていたんですか?」

 

なのははクロスがプレシアに殺人鬼であると言われ、それで怒ったのかと思った。

ユーノはその事実を、なのはや自分達に知らされたのを怒ったのだと思った。

けど、それは違った。

 

「それは、フェイトちゃんの為よ」

「フェイトちゃんの?」

「えぇ、フェイトちゃんはクローンとは言え、紛れもなくプレシアの娘。なのに彼女はフェイトを否定してガラクタと、人形と言った。それにクロスは怒ったのよ。あれを聞いた時は私だって怒りでどうにかなりそうだったのだけどね」

 

そう言うクイントの顔には、思わずなのは達が怯える程の怒りが現れていた。

ノアもプレシアには相当怒っているようで、表情は険しい。

そして、なのはとユーノは思い出した。あの時のクロスの言葉を。

 

『正確には1012人殺した。研究者の顔も名前も忘れていねぇし。他の被験体達も……名を与えられたなかった俺の兄や姉達もしっかりと顔は覚えている。俺が殺人鬼って事は否定しねぇ。だけどな!』

『模造品でも、ガラクタでも、人形でもねぇ……フェイトは、てめぇの大事な娘だろうが!』

 

クロスは自分が殺人鬼と言われる事を、全く否定していなかった。

怒っていのはフェイトの事だった。

以前にもプレシアはクロスをエヴォリューダーと呼んだ時も、クロスは何も反応しなかった。

けれども、プレシアがフェイトの事を何か言おうとしてクロスは怒ったのだ。

 

「クロス君、フェイトちゃんの事で怒ったんだ」

「この子はね、自分の事をあまり考えていないの。だから、何を言われても動じないし、怒りもしない。自分よりも周りの人を優先させるわ」

 

クイントとノアはとても悲しい表情を浮かべた。

きっと、クイントやノアは何度もクロスに自分を大事にしろと言ったのだろう。

でも、クロスは聞こうとはしなかった。

自分の為ではなく、人のために怒り、哀しむ、それがクロスロード・ナカジマ。

なのははエイミィから聞いた、クロスが両親やゼスト隊の悪口を言った局員に激昂した話を思い出した。

それを言うと、クイントもノアも苦笑いを浮かべた。

 

「あれねぇ。結構問題にはなったのよね。勿論殴った局員達の方だけど」

「ですねぇ、同情の余地はありませんけど」

「えっと、アレ以外にも何かあったんですか?」

 

どうやらあの話には続きがあったようだ。

 

「クロスがね、あの後殴った局員達の事徹底的に調べ上げて、色々不正の証拠を掴んで内部告発したのよ」

「私やオーリスさんって言う地上本部の人も協力したから、ですけど。マスターは暴力を使わずに徹底的に追い詰めたんです。だから、マスターを怒らせると怖い。と言うのは地上本部では有名ですよ」

「「うわぁ~……」」

 

これにはなのはもユーノも驚くより、若干引き顔になった。

確かに言われるがままで、挑発もせずに一方的に殴られた事で完全被害者となり、加害者は暴行罪で逮捕されたが、それだけで収まらずトドメを刺したのだ。

それだけクロスの怒りが凄かったと言う事と、両親やゼスト隊などを大切に思っているのがなのは達には分かった。

 

「本当に、クロス君、優しいんですね」

「えぇ、自分以外……にはね」

 

今までの話を聞いて、なのはの中に前よりも罪悪感が溢れだしてきた。

クロスの事を誤解していた事に、そして、傷付けた事に。

 

(後でちゃんと謝ろう。そして、クロス君ともちゃんとお友達になろう)

 

なのははそう決意した、その時だった。

 

<警告、膨大な魔力反応あり>

「フェイトちゃんから、魔力反応!? 危ない、みんなフェイトちゃんから下がって下さい!」

 

ミラノールの警告と共に、フェイトの身体から光が溢れだした。

 

「みんな! フェイトから離れろ!」

 

と、同時にクロスの意識も戻り、ベッドから飛び起きながら叫んだ。

するとフェイトの身体から発せられた光が大きくなり、近くにいたクロスを包みこんだ。

 

「クロス君! フェイトちゃん!」

「っ!? 来るな、なの……」

 

クロスが止めるよりも早くなのはがクロスとフェイトに駆け寄り、3人は光と共に消えてしまった。

 

「消えた? これはまさか、プレシアの罠!?」

「マスター! 返事をしてくださいマスター!」

<反応消失。クロス様、なのは様、フェイト様、3名を完全にロストしました>

 

クイントが何かに気付き、ノアがクロスに懸命に呼び掛けたが反応はない。

ユーノはただ茫然と3人が消えた後を見つめる中、ミラノールの悔しそうな声が部屋に響いた。

 

 

続く




自分にシリアスメインの話は向かないのかなーと少し思ってしまったり……
次回からは無印最終決戦です!
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