魔法少女リリカルなのは異伝~X Destiny~   作:カガヤ

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無印編の決戦始まりです


第16話 「決戦、時の庭園」

海鳴市近郊 上空

 

ゼスト隊とシャロ達の戦いは続いていた。

アースラからの増援出来た魔導師達が結界を張ったので、周囲への影響はない。

ただアスクの数が圧倒的に多いので、対処に時間がかかっている。

 

「やりますね。アスクも以前より強化してあるのに」

「お前の能力は読めたぞ、シャロ」

 

シャロの相手をしているゼストが、何かに気付いたようだ。

 

「何の事ですか?」

「あの機械兵、アスクにはお前の戦闘データだけが入っているわけではないな。人格を、いや、魂と呼べるものがそのまま移されている。それがお前の能力だ!」

 

シャロの動きが一瞬だけ止まった。

 

「よく、気付きましたね」

「動きを見ていれば分かる。戦闘データが入力されただけの機械兵なら戦った事は何度もある。だがこれは精度が段違いだ。まるでお前がそのまま鎧を着込んだような……それがアスクだ」

「私達を、クロスを甘く見ていたようね。ある程度の予測はついていたわ、あなたが人造魔導師だと言う事もね!」

 

アスクの頭を魔力弾で撃ち抜きながら、メガーヌとティーダがゼストの元へかけよった。

 

「どういう事ですか、ゼスト隊長」

 

クロノも周囲のアスクを片付けたようだ。

 

「原理は分からないが、シャロは自分の戦闘データだけではなく、記憶も何もかもを鎧など無機物に移しかえる事が出来るのだろう。それがアスクの動きに人間臭さがあって強い理由だ」

 

ゼストは近くに居たアスクの首をはね、鎧の中を見せた。

鎧の中はただの空洞だった。

 

「この鎧は傀儡兵では出来ないような、精密な剣さばきを見せた。人間らしい動きをな。しかし、この通り中身は空洞、魔力反応も微量だ。今までの常識では考えられない兵器。それを可能にする能力……それがお前にはある!」

 

自分の能力を解明されたのに、シャロには動揺は見えない。

 

「別に隠していたつもりはありません。あなたのような近接戦の達人ならば、すぐに気付くと思いましたよ。おっしゃる通り、私は人造魔導師です。【戦闘機人】 そのプロトタイプの1機が私です」

 

戦闘機人。人造魔導師専門の捜査官であるゼスト達でも聞き慣れない言葉だった。

 

「戦闘機人とは何だ! それも、プロジェクトFの副産物か!」

「いえ、違います。プロジェクトFとは似た経路ですが。戦闘機人は人の身体と機械を融合させ、常人を超える能力を得た存在」

 

そう言ってシャロは怪しい笑みを浮かべた。

 

「プロジェクトFも戦闘機人も、長年続けられてきた、プロジェクトAの副産物ですよ。コンセプトが違うだけです。あのエヴォリューダーには感謝しています。彼のおかげで人造魔導師計画は大幅に前進し私も生まれる事が出来ました。まぁ、正確には彼の兄や姉のおかげですが」

「黙れ!」

 

ティーダが魔力弾を放つが、シャロは手甲に付いた刃で簡単に弾いた。

そして、シャロの後ろからまた多数のアスクが現れた。

今度は全身がシャロと同じような格好をしていて、唯一の違いは頭部が全て覆われたヘルメットを被っている事くらいだ。

 

「戦闘機人にはそれぞれ特殊能力、【インヒューレントスキル(IS)】 を持っています。私のISは……」

 

シャロが新しく現れたアスクに手を当て、足元にゼスト達ですら見た事もない魔法陣が現れた

 

「ダミー・ソウル」

 

シャロの両手から光が発せられ、アスクのヘルメットの目が赤く輝きだした。

 

「私は無機物に自分の魂をコピーする事が出来ます。無機物が私と似た外見であればあるほど、精度が高まります。で、これらはアスクの完全版、今までのよりも私に近い構造をしています。あ、制限時間がありまして、2時間を越えると元の鎧に戻ってしまいます。ですから、2時間耐えればあなた達にも勝ち目がありますよ」

 

そう言いつつも、シャロは新たにアスクを呼びだし、新型タイプは合計20体ほどになった。

 

「そこまで話すと言う事は、僕達全員を始末する自信があると言う事か」

 

通信も転送も妨害されてはいない。

なので増援も撤退も出来るが、それでもシャロは不敵な笑みを浮かべている。

 

「いえ、少し違います。時間潰しのついで、ですよ」

「何!?」

 

その時、クイントから緊急連絡が入った。

 

『隊長、クロスがフェイトさんとなのはさんと共に、強制転移されました!』

「何? 一体何があった!?」

 

クイントからクロス達が消えた状況聞き、ゼスト達の顔色が変わった。

 

「それでノアは残っているのか?」

『えぇ、ですが、リンクが不安定なのでしばらくかかるそうです』

「……分かった」

 

ゼスト達を見たシャロの口元が歪んだ。

 

「時間稼ぎの意味が、分かったようですね」

「フェイトを囮にするだけではなく、魔法をかけてまでとはな、そこまで腐ったかプレシア」

「何とでも言って下さい。エヴォリューダーは罠に落ちました。さて、どうしますか?」

「ふっ、時間稼ぎ、か」

 

罠にかかり動揺していると思っていたゼスト達だが、その顔には余裕の笑みが浮かんでいた。

 

「ゼスト隊長、一度アースラに戻りますか?」

 

クロノが焦った声をあげるが、ティーダが肩に手を置いた。

 

「落ち着け、クロノ執務官。どんな時でも冷静になれ執務官として、時空管理局の局員として、大事な事だ」

「ですが、ティーダ捜査官! プレシアの狙いはクロス何ですよね? なら……」

「ティーダ、クロノ執務官。アースラに戻れ、ここは俺とメガーヌだけでいい」

「何を言うんですか、ゼスト隊長!? これだけの数を2人だけでは無理です!」

 

ゼストの指示にティーダは頷き、何か言おうとしたクロノを引き連れアースラに帰還した。

残されたのはゼスト、メガーヌ、そして結界を維持するための魔導師局員数名だけだ。

 

「どういうつもりですか? なぜあなた達だけが残ったのですか? まさか、2人だけで私達全員を相手にするつもりですか?」

 

シャロの実力はいまだに不明だが、ゼストとすら互角に渡り合えるほど強く、また新型アスクもそのシャロとほぼ同等の強さをもっている。

いかにゼストとはいえ、メガーヌと2人では厳しい、そうシャロは思っていた。

 

「相手にするだけじゃない。俺達だけで十分と言う意味だ。メガーヌ、白天王を!」

「もう準備は出来ています。究極召喚、白天王!」

 

メガーヌの詠唱と共に空に巨大な魔法陣が現れ、そこから白い外骨格と半透明の膜状羽を持った巨大な生物が現れた。

 

「ば、バカな……こんな魔導生物を召喚できる、だと!?」

「そちらの切り札は見せてもらったわ。そして、これが私の切り札。どちらが強力かしら? 罠にはめたつもりが、逆に嵌められるのは初体験かしら?」

 

ゼストとメガーヌの余裕の表情を見て、今度はシャロの顔色が変わった。

 

「まさか、そんな……」

「クロスを罠にかけたと言ったな。先程も言ったセリフだが、あえてもう一度言おう……俺達の弟子を弟分を、クロスを舐めるな!」

 

 

 

時の庭園

 

クロスとフェイトが光に包まれるのを見て思わず駆け寄ったなのはだったが、次の瞬間には見た事もない場所にいた。

 

「クロス君、ここは?」

「ここは、プレシア達の本拠地だ。見事に罠にかかったようだ。なのは、バリアジャケットを」

「は、はい!」

 

なのはは、レイジングハートを構えバリアジャケットを装着した。

クロスとなのはは、フェイトにかけられた罠にかかり、プレシアの本拠地である時の庭園へと転移させられていたのだ。

 

「ようこそ、時の庭園へ。歓迎するわ、エヴォリューダー。いらないオマケが付いているようだけど」

 

広大な大広間、その奥の玉座にプレシアは座っていた。

隣には俯いた表情のフェイトもいた。

 

「プレシア・テスタロッサ!」

「フェイトちゃん!」

 

駆け出しそうになったなのはを、クロスが止めた。

 

「待ったなのは。今のフェイトは、普通じゃない」

「どういう事? フェイトちゃんに何があったの!?」

「あら、このお人形が気になるのかしら?」

 

プレシアがフェイトに手をかざすと、俯いていた顔がこちらへと向いた。

 

「フェイト、ちゃん?」

「やっぱりか」

 

クロスとなのははそれぞれ別の表情を浮かべた。クロスは怒りを、なのはは驚愕の表情を。

フェイトの顔には生気がなく、全くの無表情。まるでプレシアの言う人形そのものになったかのようだ。

 

「なのは、フェイトの状態を簡単に言うぞ。今のフェイトはある種の洗脳魔法にかけられている。フェイトの深層心理に入ったタイミングで発動したんだ。何とか解除しようとしたんだけど、それより早く強制転移が発動した。恐らく、俺とフェイトが邪魔に入らない距離で2人きりになる時を狙ったんだろう」

「そう、フェイトを追い詰めてわざと逃がせば、あなたは必ず助ける。シャロ達よりもフェイトを助ける為にアースラに運ぶとね。追い詰めるのは簡単だったわ。フェイトにあなたはクローンだと告げれば、それだけであの子は壊れたんですもの」

 

フェイトとアルフをクロス達に見つけられるように、わざと逃がした。

しかも、フェイトにクローンである事を告げて。

 

「そうしてまんまと俺はフェイトを助ける為に、お前の都合のいいように動いたと言うわけか! 予め洗脳魔法を仕込んでおいて、万が一にはフェイトを操って俺をここに連れてくるために!」

「そ、そんな。ひどい、ひどすぎるよ!」

 

プレシアはまさにフェイトを人形としか、道具としか思っていなかった。だからこんな真似も出来たのだ。

叫ぶなのはを、プレシアは鋭い目で睨んだ。

 

「あのタイミングなら、エヴォリューダーだけを連れてこれるはずだった。お前が誤算だった。けれども、お前程度なら問題ないわ」

 

プレシアは杖を持ち、一歩一歩こっちに近付いてくる。

その後ろではフェイトが無表情のまま、バルディッシュを構えている。

クロスもなのはもそれに合わせて、一歩ずつ後ずさって行く。

だがすぐに背中が壁に当たった。

ここは敵の本拠地、逃げ場はない。

 

「なのは、良く聞くんだ。フェイトにかけられた洗脳魔法は半分は解けた。後は、外部から強い魔力衝撃を当てれば、洗脳は解ける」

「強い、魔力衝撃?」

「今の俺はノアがいない。まともに魔法は使えない。だから、なのは、君がやるんだ」

「私が?」

「プレシアは恐らく、邪魔者の君をフェイトに排除させるだろう。あいつの狙いは俺だ。なら俺が相手をしないとな」

「そんな、ダメだよ! 私も一緒に、そうすれば……」

 

クロスはノアなしでは満足には戦えない。

なのはの援護があれば、どうにかなるかもしれないが、それだけでは一手足りない。

それに、今はそんな事を言ってはいられない。

 

「今はフェイトを救うのが第一だ。俺は大丈夫、魔法が使えなくても俺には剣がある」

 

なのははまだ何か言いたそうだったが、他に手がなく仕方なく頷いた。

 

「さて、作戦会議は終わったかしら? フェイト、あなたはあの邪魔者を排除なさい。私がエヴォリューダーを無力化するわ」

 

フェイトは無表情のまま頷き、一直線になのはに向かって飛んだ。

 

「は、速い!?」

「ちっ、洗脳の上に強化までされているのか!」

 

あっという間にフェイトは、なのはに詰め寄りバルディッシュを振った。

 

<フライアーフィン>

 

一瞬早くレイジングハートが飛翔魔法をかけ、どうにかフェイトの一撃をかわせた。

 

「フェイトちゃん、目を覚まして!」

「………」

 

なのはの呼びかけにも反応せず、フェイトはバルディッシュをサイズフォームへと替え、襲いかかった。

 

「なのは!」

「よそ見をしている暇はないわよ?」

 

プレシアが杖を構え、電撃を放つ。

その威力は以前よりも数段強い。

 

「ちっ!」

 

魔法が満足に使えない以上、防御は危険。

クロスは全力で地面を蹴り、上空へと回避した。

これくらいの飛行魔法ならば可能なのだ。

 

「良い反応ね。流石はエヴォリューダー。身体機能が極限まで強化されているだけはあるわね」

「その名で呼ぶな。俺は、クロスロード・ナカジマだ!」

 

クロスとなのは、2人の決戦が今始まった。

 

 

続く

 




プレシアは何度か描写ありましたが、原作よりも強化されています。
というか原作でまともに戦った描写あまりないですけど……

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