魔法少女リリカルなのは異伝~X Destiny~   作:カガヤ

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大変お待たせいたしました。


第20話 「笑顔」

私は、あの子の笑顔が嫌いだ。

 

『お母さん』『おかあさん!』

 

声も顔も同じなのに、あの子はアリシアとは違う。

私はアリシアの笑顔が好きだった。

だからもう一度私に笑ってほしかった。

だからアリシアを蘇らせようと必死だった。

 

なのに……生まれてきたのはアリシアの姿をしたナニカ。

 

『おかあさん、今日もおしごと遅くまで?』

 

仕事とはいえ、アリシアを毎日遅くまで1人にしてしまった。

そのせいでどれだけ寂しい想いをさせてきたか……

それでも、私が帰るのを毎日食事まで用意して待ち続けて、どれだけ眠くても笑顔で出迎えてくれた。

 

『おかあさん、おつかれさま。ごはん、食べよ?』

 

それだけで私は毎日どんな事でも乗り越えられた。

そして、仕事が一段落する目途がようやく付いて長い休みが取れる事になった。

ようやく、アリシアと2人でゆっくりと過ごせる時間が取れると思った。

 

『テスタロッサ君。例の新型駆動炉10日後に行う事が決まった。本社から増員も来る。これは決定事項だ』

 

上層部の愚かな判断で、全てが狂った。

私が再三反対した不安定な新型駆動炉実験の日程繰り上げ。

しかも、増員という名目で本社から送られてきたのは、私達昔からのスタッフを外す為だけに呼ばれた、ただの能無しばかりだった。

実験は失敗、しただけならまだ良かった。

アリシアだけがたった1人の犠牲者になった。

そして、私は……悪魔に魂を売った。

 

【プロジェクトF.A.T.E】

 

とある科学者が残した理論、生体操作技術の更に先を行く禁忌の技術。

人のクローンを作り、性格も人格も全てを移しかえる事で死んだ人間すら蘇られる事が出来る。

当時は基礎理論のみが描かれていたが、私は藁をもすがる思いでその研究を完成させた。

その途中、あの実験を起こした会社が倒産し、上層部や当時の研究員達が次々と病死や事故死するニュースが流れた。

 

『ふん、当然の報いね』

 

私は研究を続け、とうとう完成させた。

アリシアの完全なクローンを作り、蘇らせる。

そんな夢がようやく叶う……そう思っていた。

 

生まれた子はアリシアとは似ても似つかない欠陥品だった。

 

最初はアリシアのように接してきた。

だけども、すぐに違和感に襲われた。

そして、ついにはあの子の笑顔を見る度に、吐き気がするようになった。

 

『あぁ、あの子はアリシアじゃない……』

 

あの子を見るだけで気分が悪くなる事が多くなった。

あの子の笑顔が私には、毒だった。

 

『アリシアの体はまだ綺麗なまま、命がないだけ……なら命を蘇らせれれば……』

 

それから私は今までとは違った角度から、アリシアを蘇らせようとした。

禁忌と呼ばれる様々な魔法や儀式にも目を通した。

それでも、死者を完全に蘇らせる魔法も技術も見つからなかった。

私はかつてアルハザードを調べていた事を思い出した。

 

『アルハザード、ミッドやベルカ、現在まで存在した全ての魔法技術の発祥の地。そこならば……』

 

かつて確かに存在したが、今でもあるかどうか分からない幻の世界アルハザード。

現在のどの魔法文明よりも遥かに進んでおり、死者を蘇らせる魔法技術もあったと言われている。

しかし、存在すら不確かな伝説とまで言われているアルハザードに頼るのは意味がない。

そう、あの時は気に留めなかったが、今は違う。

私の目的は決まった。アルハザードの技術でアリシアを完全に蘇らせる。

アルハザードの事を調べていくうちに、太極の書と呼ばれるアルハザードの全てが詰まった魔導書が次元世界のどこかにあると分かった。

その魔導書を求めて様々な世界へと行った。

でも、収穫はなかった。

そこで私はアルハザードが次元断層に沈んだと言う説に注目した。

次元断層の向こう側にアルハザードがある。ならば、そこに行く為にはどうすればいいか。

しかし、私には手駒がなかった。

研究だけで精一杯で、外で色々と働く為の手ゴマが私にはなかった。

傀儡兵などではなく、私の手足となって働く……道具。

その時、私の目に止まったのは、アリシアの姿をした失敗作の姿。

 

『そうだ。あの子がいるじゃない』

 

私はあの子の教育係として、アリシアの愛猫だったリニスを使い魔として契約を結んだ。

リニスはあの子によく指導をしてくれた。

おかげで私は研究に集中する事が出来た。

 

『あなたが、プロジェクトF.A.T.Eを完成させたプレシア・テスタロッサさんですね?』

 

あの子がようやく一人前になろうかとした頃。

ある科学者が私に接近してきた。

最初、技術を盗みに来たのかと思ったが、彼は技術提供を申し込んできた。

目的は、私が行きつこうとしているアルハザードの技術。

数多くの者がアルハザードを目指したが、私が一番近い方法を見つけたので協力したいと言ってきた。

彼は自分の手ゴマとして有能な戦力を提供してきた。

それが【アスク】と【シャロ】と言う人造魔導師部隊。

アスクと名付けられた鎧はシャロの戦闘データを完全に再現できる、いわばシャロを中心としたコピー軍団。

しかも、アスクはあの子よりも強かった。

管理局が気付いた時の防衛としては完ぺきな存在だった。

正直、彼の事は信用もしていない。

アルハザードを見つける算段がついた所で裏切りもあると思っていたが、それ以上に私には手駒がもっと必要になっていた。

それは、私がウイルス性の病に冒されていたからだ。

病状の進行速度は抑えられるが、不治の病だった。

私にはもう時間がなかった。

だから私は利用できるものはなんでも利用する事に決めて、彼の提案を受け入れた。

元々、アルハザードと言っても、私は死者を蘇らせる技術にしか興味はなかった。

それ以外の事はどうでもよかった。私の病すらも。

 

そして、ついにジュエルシードと太極の書、アルハザードへの道標が2つとも見つける事が出来た。

後は準備を整えて、アルハザードへ向かうだけ……だった。

しかし、私は阻まれた。

彼から聞かされたエヴォリューダーと言う太極の書の主と、あの子の手によって。

 

『もう……終わりね……』

 

もう疲れた。アリシアが蘇られない世界にはもう、興味はない。

 

私は深い闇の底へと沈んで行った……

 

 

「それでいいのかよ!!」

 

 

っ!?

 

「勝手に1人で盛り上がって絶望して諦めて……全てを投げ出そうとしてんじゃねぇよ!」

 

だれ? なぜ私にそんな事を言うの?

 

「お前にはまだ娘が、フェイトがいるだろうが!」

 

フェイト? あぁ、あの子ね……失敗作には興味はないわ。

 

「っ、てめぇにとってはそうでも、フェイトにとっててめぇは母親なんだ。てめぇがどんだけクズでも、フェイトには必要なんだよ、この大バカ野郎!」

 

叫び声と共に紅い光が私を包みこんで行った。

 

 

 

次に気がついた時、私の前にはモニターのようなものが映し出されていた。

 

『私はわがままを言って、母さんを困らせてばかりいた』

 

っ、この声は……あの子ね。

 

『あの日、母さんのいた場所が遠くで光った』

 

これは、あの事故のアリシアの、記憶……記憶だけ移されただけの、失敗作が……

 

「よく見ろ! フェイトから、目をそらすな!」

 

またあの声、この声は……

 

『事故の怪我でずっと眠っていた私を看病して、見守っていてくれた母さん……』

 

違う、違うわ。眠っていたんじゃない……あなたは、その時生まれた!

 

『ここがあなたの部屋よ、アリシア』

 

そこに映しだされていたのは、アリシアではなくあの子の記憶。

アリシアとして生まれたはずなのに、別の子になってしまった、記憶。

 

『どう? アリシア、美味しい?』

 

あの子と2人でピクニックに行った。

手造りのお弁当を持って、2人で笑って楽しんだ。

 

『ほら、可愛いわよ、アリシア』

 

花の冠を作って、お互いにかぶせ合った。

楽しい日々だった、私がアリシアと夢見た日々……のはずだった。

 

『違うよ、母さん。私はフェイトだよ?』

 

あっ、ぅあぁぁ~~!!!

やめて、その顔で、その目で、その笑顔を私に向けないで!!

 

『それから母さんはまた仕事に集中するようになって、笑顔がなくなっていった』

 

そうよ、そう! 全てはアリシアを蘇らせる為に!

 

『私はリニスから魔法を教わった。魔法を使いこなせるようになれば、母さんの手伝いが出来ると思ったから』

 

そう……あなたは私の手駒!

 

『そして、ようやく私はアルフと一緒に母さんの手伝いが出来るようになった。これで母さんに笑顔を取り戻せる』

 

…………

 

『私は必死で母さんの手伝いをした。ジュエルシードを集めた。けれども、母さんは笑ってくれなかった』

 

………

 

『きっと、私が母さんの期待にこたえられないからだ。母さんにこれ以上悲しい顔はさせたくない、だから……』

 

違う、違うわ……

 

『母さんの大好きなケーキ。一緒に食べようと買ってきたけれど、母さんの姿は見えなかった……どこにいるのだろう?』

 

ぁ、あぁ~……

 

『この子、は……私? 本当の娘? なら、私は……だれ?』

 

うぅ……あぁぁ~!!

 

『私は……だれ、わたしは……私は…・・・・・・フェイト・テスタロッサ』

 

……え?

 

『私の名前はフェイト・テスタロッサ。プレシア・テスタロッサの、娘!』

 

あの子の笑顔は、アリシアとは違う……違うのはずなのに、どうして今は、あの子とアリシアの笑顔が一緒に見えるの?

 

「それは、アリシア・テスタロッサとフェイト・テスタロッサはお前の娘で、お前が2人の母親だからだ!」

 

アリシアも、フェイトも私の娘?

 

「そうだ! これはフェイトの記憶だ。俺がフェイトの心に入った時、フェイトは必死にお前との思い出を探して自分を保とうとしてたんだ!」

 

フェイトが、私との思い出を?

 

「確かにアリシアは死んだ。でもな、アリシアと同じくらいにお前を母親として愛する、フェイトがいる! なんでそれに気付かない! お前にはまだ娘がいるんだ!」

 

フェイトが、私の娘……そう、そうね。確かにフェイトは私の娘ね。

今、分かったわ。私がフェイトの笑顔を拒んだ理由。

私がフェイトの笑顔を受け入れたら、アリシアを否定する事になると思った。

もう二度とアリシアは帰って来ないと思ったから。

だって、フェイトの笑顔は、私が大好きな笑顔そのものだったのだもの。

 

「フェイトは、今もその笑顔をお前に向けている。そして、お前にも本当の笑顔を取り戻して欲しいと、心の底から願っている。あとはお前次第だ」

 

私、次第。

 

私はアリシアを取り戻したかった。

あの子の笑顔をもう一度見たかった。

けれども、もう……取り戻していたのね。

 

アリシア、私はもう寂しくないわ。だから……さようなら、私のアリシア

そしてフェイト、私のもう1人の娘……今まで、ごめんね。

 

 

続く

 




シリアスや戦闘中心なリリカル小説、こっちがメイン投稿のはずだったのにいつの間にかサブにまで追いやられた……どうしてこうなった。
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