魔法少女リリカルなのは異伝~X Destiny~ 作:カガヤ
「うぐぐっ……」
クロスのブレイカーが暴走したジュエルシードの制御装置を飲みこむ。
だがそれだけ、制御装置はびくともしない。
制御装置を弾き飛ばすには威力が足りないのだ。
『マ、マスターまずいです。仙気を使い過ぎて……』
「はぁ、はぁ、そんな事は最初からわかってる! でも、やるんだよ!」
先のプレシアのとの戦いで消耗しすぎて、ブレイカーの力が弱い。
魔力はリンカーコアを元にしているが、仙気は魔力のほかに生命力や精神力を元に生成されている。
だから使い過ぎると命に関わる。
クロスもノアも普段から仙気を使わず、それぞれのデバイスで仙気を魔力に変換して使用しているのには、機密保持とは別に消耗を抑える目的もあるからだ。
「……」
後ろには自分を救ってくれたクイントやゼスト達と、幼いながらも懸命に大切なものの為に戦ったなのはとフェイト達がいる。
クロスはどうしても彼女達を守りたかった。
そうしたいと思えば思うほどに力が溢れてくる。
「なのはの家族に約束した、絶対に守ると。それにせっかく、フェイトが……母親と、向きあえるように、はぁ、なったんだ……それをこんな事、でぇ~!!」
『そう、ですね……はあぁ~!!』
2人の仙気が上がり、ブレイカーの威力が上がった。
「クロス君!」「クロス!」
2人の少女の声援を受け、クロスの仙気は更に激しく燃え上がる。
「うおぉ~~!!」
そして、ついにジュエルシード制御装置はブレイカーに弾き飛ばされ、虚数空間の彼方へと吹き飛ばされた。
同時に制御装置の暴走によって引き起こされた次元震は収まり始め、辺りには静けさが戻ってきた。
「っ……はぁ、はぁ……お、終わった……」
クロスは苦しそうに息切れを起こしてその場に倒れこみ、ノアもユニゾンが解けてクロスの身体から外に出て力なく落ちた。
ティーダとクイントがすぐに2人を抱きかかえて、メガーヌが2人に回復魔法をかけた。
「クロス君、ノアちゃん……」
「あの、2人は大丈夫なんですか?」
「心配しなくても大丈夫よ。ちょっと力を使い過ぎただけ。しばらくすれば元気になるわ。私の子供達はとんでもなくタフなんだから」
ぐったりとしているクロスとノアを心配そうに見つめるなのはとフェイトに、クイントは優しく声をかけた。
「実はね。今回みたいな事は初めてじゃないの。何度か無茶をする事はあったわ。ブレイカーを使う事もね」
「えぇ~!? ス、スターライドブレイカーよりも強力な砲撃を何度も!?」
回復魔法をかけ続けたメガーヌの言葉に、なのはとフェイトは信じられないと言う顔をした。
素人同然とはいえ、同じ集束砲撃を使うなのはなら分かる。
クロスが使ったブレイカーは集束技術の使い方こそ違えど、自分のブレイカーよりも強力で負担も大きいはずだ。
そんなブレイカーを使うような、今回のようなアクシデントがそう何度もあるわけない。
なのはも生まれつきの魔導師であるフェイトも思っていた。
しかし、現実は違う。
管理局員ですら簡単に命を落とし、守るべき一般人も犠牲になる事も多々ある。
それでも、クロスとノアは自分の出来る限界を越える事を何度もしてきた。
「だから自分に出来る無茶も無理も躊躇わない。この子達はいつもそう言ってるんだよ」
ティーダは抱きかかえたクロスの頭を撫で少し悲しそうに言い、その言葉はなのはとフェイトの胸に深く突き刺さった。
その時だった。
――ドォン!
突然、大きな音が響いたかと思えば、また庭園内が激しく揺れ出し壁や天井が崩れ始めた。
「いかんっ。先の衝撃で庭園が崩壊しはじめている! すぐに脱出するぞ!」
「みんな集まって!」
ティーダはクロスを背負い、ノアはクイントがその手に抱きあげてメガーヌの側に集まった。
全員が揃ったのを確認して転移の魔法陣を発動したメガーヌだったが、フェイトがプレシアがいない事に気付いた。
「待って下さい! 母さんが!」
「っ!? プレシア、どこに……いたわっ!」
クイントが指さした先には、アリシアの入ったポットの側に立つプレシアの姿があった。
「母さん、何をしているの早くこっちに!」
駆け出そうとしたフェイト達だったが、それよりも先にプレシアは杖を向けた。
すると、フェイト達の周りを球体状の防御壁が包みこみ、そのまま庭園を離れ出した。
「フェイト、ごめんなさい。私は……もうあなたの母親を名乗る資格はない。アリシアと一緒に行くわ」
「母さん……おかあさん!」
「くっ、破れない! ちょっとプレシア、何をしているのよ! 勝手に終わらさないで!」
「ちっ!」
クイントとゼストがプレシアの元へ行こうとしたが、張られた防御壁は固く破れなかった。
眼下ではあちこちから爆発を起こし崩壊する庭園、その中でプレシアとアリシアが入ったポットがゆっくりと虚数空間に落ちていくのが見えた。
『私の娘をお願いね。その子は私に命じられただけ……罪はないわ』
「ったく、そう思うんだったら自分で証言しなさい!」
クイントは激しく拳を撃ちつけるが防御壁はビクともしない。
隣では声もなく泣き崩れずフェイトをなのはとアルフが側にいて慰めようとしているが、何も出来ないし何も言えない。
ティーダもメガーヌも、その場の誰もが自分達の無力さをかみしめているだけだ。
ただ1人を覗いては……
アースラ
ここには時の庭園から避難してきた局員達の手当てが行われていた。
と言っても、ほとんどが軽傷であり医務室に運びこまれるような重傷者はいなかった。
そこへプレシアによって転送されてきたゼスト達がやってきた。
地上局と言う畑違いの部隊とは言え、彼らの功績が今回の事件を解決したのは誰の目にも明らかであり、本来は歓迎すべき事だった。
しかし、彼らの目に映った1人の少女の泣き崩れる姿に、歓声をあげようとする者はいなかった。
「ぅっ……ぅぅ、かあ、さん」
「フェイト……」
「フェイトちゃん」
今のアルフに出来るのは、哀しみに満ちた主を優しく抱きしめ思う存分泣くまで側にいる事だけだった。
なのはとユーノは何も言えず哀しそうにフェイトを見つめるだけだ。
そんなフェイトにクイントは優しく声をかけた。
「大丈夫よ、フェイトちゃん。ほら」
「……えっ?」
クイントが何を言っているのか分からずただ顔を上げたフェイトの目の前に、突然赤い光が現れた。
「わっ!?」
「な、なんだ!?」
突然ベース内がまぶしく輝き、局員達は何事かと慌ててデバイスを構えた。
しかし、ゼスト隊とかけつけたリンディだけは冷静に微笑んでいる。
「きゃっ!? こ、ここは……どこ?」
光の中から出てきたのはなんと、プレシアだった。
すぐ側にはアリシアが入ったポットも現れ、その脇にはクロスが息も絶え絶えに膝をついていた。
「フェイ、ト?」
「かあさん? っ、母さん!!」
自分がどこにいるのか分からない風だったが、娘の姿を見つける目を見開いて驚いた。
フェイトは目の間にいるのが本物の母親だと分かると、涙を流しながら飛び付いた。
「私は、アリシアと一緒に落ちたはず。どうしてこんな所に?」
「ここは私達の母艦、アースラよ。そして、あなたを助けたのはこの子、クロス君よ」
リンディに言われ、プレシアはあの時に何があったか思い出した。
アシリアを抱きしめゆっくりと虚数空間に呑みこまれる中、自分に向かって赤い光が飛んできた。
『逃げるなっ!』
その叫びを聞いた直後、気がつけばこの場所に転移されてきていた。
しかも、アリシアが入ったポットも一緒にだ。
その全てがクロスによって引き起こされた事とは、プレシアには信じられなかった。
あのブレイカーを放って意識を失っていたクロスが自分が張った防御壁をすり抜けて、虚数空間に落ちた自分とポットを転移させる事など出来るわけがなかった。
「もう……逃げるな、よ……」
クロスはすぐ側にいるプレシアにも聞こえるかどうかのか細い声を出し、親指を上げながら今度こそ完全に意識を失った。
「無茶も無理も通り越して自殺行為だぞ、全く!」
あの時、クロスを背負っていたティーダやゼスト達だけが、何が起きたのか分かっているようだ。
「俺達を無理やり転送させようとした時、クロスはあんたが何をしようとしていたか一瞬で見抜き俺の背から降りた」
「そして、あなたが虚数空間に落ちる寸前。いえ、落ちた直後に一緒に跳んだのね。クロスの跳躍は魔力ではなく仙気で発動する魔法。虚数空間内では仙気での魔法使用は可能とは知っていたけど、実際に試した事はなかったわ。しかもノアとユニゾンせずにとはな」
ティーダとメガーヌの言う通り、クロスは全てを見抜いていた。
そこまでして自分を助けるのはなぜか、プレシアはもう疑問に思う事はなかった。
「自分の娘を使ってまでしでかしたお前のした罪は重い。しかし、クロスが与えた生の機会、無駄にする事は俺達が許さない」
ゼストがそう言うと、クイントやリンディ達も頷いた。
それに対して、プレシアは今までの険しい表情から一転し、憑き物が落ちたかのような笑みを浮かべ。
「えぇ、そうね。その通りね」
そう言って、静かに目を閉じた。
「母さん!?」
「プレシア!?」
フェイトとアルフが慌ててプレシアを揺するが、メガーヌがそれを止めた。
「大丈夫よ、ただ眠っただけ。クロスやノアと同じく彼女も疲れが一気に押し寄せたのね。薬の影響もあるし、医務室で寝かせてくるわ。取り調べも体調が落ちついてからでいいでしょ、ゼスト隊長? リンディ艦長?」
「そうだな。今更どこかに逃げるとは思えない。こちらとしてはそれで構わないが、艦長?」
「こちらも異存はないわ。医務室にはもう連絡つけてあります」
「じゃ、プレシアは俺が運びますかね」
「クロスとノアは俺が運ぼう」
ティーダとゼストがそれぞれ医務室へと運んでいき、メガーヌやフェイトとアルフも付き添いで向かった。
なのはもそれに続こうとしたがリンディとクイントに呼びとめられた。
「なのはちゃん、ちょっとお手伝いしてもらい事があるの」
「はい、なんでしょう?」
「クロスもノアも後1時間くらいで目を覚ますと思うわ。で、過去の経験上、2人共物凄くお腹が空いていると思うの」
仙気は生命力や精神力を元にしている分、体力などの消耗が激しい。
過去にも仙気の使い過ぎで倒れて、起き上がった途端にお腹が盛大に鳴った事があった。
「で、なのはちゃん料理上手だって聞いて、手伝って欲しいの。いいかしら?」
「あ、はい! ぜひ私もお手伝いさせて下さい!」
クイントからの申し出になのはは喜んで答えた。
「リンディ艦長。と言うわけで、キッチン使わせてもらっていいかしら?」
「えぇ、勿論。こうなる事は分かっていたし、色々準備は済ませてあるわよ」
「流石♪ 私も久々に手料理が振る舞えるから楽しみだわ。じゃ、行きましょうか、なのはちゃん」
「はい!」
クイントとなのはは意気揚々とアースラの厨房へと向かった。
それを見て、クロノとエイミィは呆れた顔をした。
「艦長、妙に食料品の備蓄が多いと思ったら、こういう理由でしたか」
「そうよ。アースラではクロス君も仙気を使う事なかったけど、万が一にと思ってね。クロノもエイミィも楽しみにしているといいわよ。クイントの手料理、私よりうまいんだから」
女として悔しいけどね。と苦笑い浮かべるリンディ。
実際、クイントの料理の腕はリンディやメガーヌよりも上手だ。
「わぁ~それは楽しみ! じゃあ、せっかくだから私も手伝いに行こうかな♪」
「ダメだ。今回の事件の後処理がたんまりと残ってるんだ。さぁ、仕事仕事」
「えっ、えぇ~!?」
厨房へ向かおうとするエイミィの手を引っ張り、クロノはブリッジへと向かった。
そんな2人を微笑ましく母親の顔をして見送り、待機ベースで治療したり談話している局員達やアースラ全ての区域に通信スクリーンを出した。
「さてと、皆さん。まだ取り調べや事後処理は残っていますが、今回の事件はこれで解決しました。これだけの規模の事件、死者を出さずに収集出来たのは幸いです。先の次元震の影響もあって、今後しばらくアースラは現宙域にて待機になると思います。本当に、みんなよくがんばったわね。お疲れ様でした!」
「「「お疲れ様でした!」」」
アースラのあちこで、今回の事件を労う声や安堵の声が飛び交った。
主犯格であるプレシアやクロスについてなど、後処理はまだ沢山残っている。
しかし、今はひとまず安息の時間がアースラに訪れていた。
続く
仙気は今のクロスとノアでは制限があるのでちょっと強い魔力程度ですがいずれは・・・