魔法少女リリカルなのは異伝~X Destiny~ 作:カガヤ
時の庭園
「んっ……こ、こは?」
フェイトは気が付くとそこは海鳴市ではなく、時の庭園だった。
プレシアが放った黒い鎧とクロスとの戦いを見ていたフェイトだったが、いつの間にか転移させられていたようだ。
傍らには狼の姿から人型となったアルフがいた。
「フェイト! 気がついたんだね。良かった」
「うっ、ア、アルフ? ここは……戻ってきたの?」
「あたしもさっき気がついたんだよ。多分プレシアが……プレシア!?」
「……母さん!」
2人の背後にはいつの間にかプレシアが立っていた。
無表情にフェイトを見下ろすその表情からは何も読み取れない。
ジュエルシードを集める事、それがプレシアから言い渡された事。
しかし、なのはとの邂逅などで思うように回収できず、その度にフェイトはキツイお仕置きを受けていた。
今回も管理局の介入があったとは言え、みすみすジュエルシードを逃してしまい、プレシアの手助けがなければ今頃管理局に拘束されていただろう。
フェイトもアルフもプレシアがかなり怒っているのだと思い、怒りの言葉を覚悟していたが……
「プレシア、今回は仕方なかったんだ! あんたも見てただろ? あの2人は強い、だから!」
「もういいわ、アルフ、フェイト。傷を治して管理局より早くジュエルシードを集めなさい。」
「……えっ?」
「な、なんだって!?」
返ってきたのは2人の予想を裏切る言葉だった。プレシアは先程と変わらぬ無表情だが、どこか様子も違う。
アルフは訝しみながらも、フェイトに何も折檻がない事に安堵した。
そして、プレシアが自分の部屋に戻ろうと背を向けた時、フェイトが少し嬉しそうな笑顔を浮かべ
「助けてくれてありがとう……お母さん」
―パシンッ!
そう言った次の瞬間、乾いた音が辺りに響き渡った。先程まで無表情だったプレシアが一変して鬼の形相となりフェイトの頬を叩いたからだ。
「つっ! 母、さん?」
「いきなり何するんだいプレシア!」
「言ったわよねフェイト? 笑みを浮かべて私を見るのは止めなさいって。いい事、あなたは私の言う事に黙って頷けばいいだけ、それだけよ。分かったら早く行きなさい!」
「はい……母さん」
今にもプレシアに飛び掛かりそうなアルフを宥めながら、フェイトが部屋を後にする。
すると、今まで鬼のような形相だったプレシアの表情が苦痛にゆがんだ。
「はぁ……はぁ。違う……違う! あの子は、アリシアじゃない。それなのに……あの笑顔は……ごほごほっ!」
「大丈夫ですか、マスター?」
突然背後から声が聞こえ、プレシアの影から1人の女性が現れた。
全身を黒いレーザースーツで包みこみ、顔を包みこむほどの黒いバイザーとメットを付けている。
メットからはクリーム色の髪が伸びていて、声は女性らしいがどこか機械的だ。
「大丈夫よ。そんなことはどうでもいいわ……それよりシャロ、首尾はどうだったの?」
「私のコピーと対峙した時の戦闘データから、90%間違いないかと思われます」
シャロと呼ばれた女性がモニターを映し出すと、そこには先程黒い鎧と戦闘していたクロスの姿があった。
クロスは何かを気にしながらも黒い鎧と剣で切り結びあい、撃破した。
「戦闘力と魔力数値はもう1人の管理局員を上回っていました。それに、私の事も気付いていたようです。どこにいるかまでは分かってはいないようでしたが」
「そう……」
そして、次の映像にはなのはに剣を向けた鎧をバラバラに切り裂く赤い閃光が映っている。
「ふっ、ふふふっ……はははっ、あっはっはっはっ! これよ、間違いないわ! この光! この強さ! この力が 【プロジェクトA】 の証! ついに見つけたわ、アルハザードの遺産! これがあれば、ジュエルシードとコレがあれば! アリシアはアリシアはっ!」
プレシアは映像を見て狂ったように笑い叫び、シャロは黙ってそれを見ている。
「シャロ、計画を一部変更するわ。準備に取り掛かるわよ」
「はい、マスター」
そう言って2人は庭園の奥へと消えて行った。
一方、海鳴市のクロス達。
フェイトとアルフには逃げられたが、なのはとユーノを無事に救出し、ジュエルシードも回収する事が出来た。
『急に通信と映像が途切れたから心配したわ。でもみんな怪我がなくて良かった』
「すみませんリンディ艦長。2人に逃げられました」
『そうね。でも、民間人を守れた事だし、ジュエルシードも無事に回収出来たし、それでよしとしましょう。2人をアースラにご案内してあげて頂戴。クロス捜査官、あっちの報告は後で聞くわ』
「(あっちの報告?)……わかりました。それじゃあ2人共、来てくれるね?」
「はい」
「は、はい」
普通に返事をしたユーノに比べ、またしてもフェイトとちゃんと話が出来なかったなのはの表情は少し暗い。
(今度こそ、ちゃんと話をしようって思ってたのに)
そんななのはをクロスはじっと見つめていた。
『マスター、何を考えているんですか?』
『……なんでもない』
そうして、クロス達はなのはとユーノを連れてアースラへと帰還した。
「うっわぁ~、すごいねユーノ君!」
「僕も管理局の艦船に乗るのは初めてだよ」
「見物は事情聴取の後にしれくれないか?」
アースラ内部へと転送され、物珍しさに辺り見渡す2人にクロノがため息をつきながら声をかける。
「ごめんなさい。つい珍しくて」
「まぁまぁ、クロノくん。ユーノくんはともかくなのはちゃんは全く知らない世界の技術なんだから、仕方ないよ」
「はぁ……」
ノアのフォローにクロノは更に深く溜息をついた。
「君、確か名前はなのは、だったね?」
「あっ、はい! 高町なのはと、言います」
突然クロスに声をかけられ、なのはは緊張したがユーノが大丈夫と声をかけてくれたおかげで少し落ち着いた。
「バリアジャケットはもう解除してくれて構わない。それと、ユーノ。言うの遅くなったけど久しぶり」
「そうだね。あっ、こっちもおそくなってごめん。お礼を言わなくちゃ、さっきは助けてくれてありがとう」
「あ、ありがとうございました!」
「これも仕事だ。礼を言われる事じゃない」
2人揃って頭をさげられてもクロスの表情は変わらず、ただ淡々と返した。
「それより、ユーノ。お前いつまでその格好で居るんだ?」
「そう言えば、ずっとこの格好だったから忘れてたよ」
そう言うとユーノの身体が光り出し、次の瞬間にはフェレットからなのはと背丈の変わらない栗色の短い髪をした少年の姿へと変わった。
「俺とノアが教えた変身魔法、上手に使いこなせてるみたいだな」
「おかげさまでね。遺跡調査には重宝したよ」
「2人が魔法を教えたのか?」
ユーノとは以前仕事で一緒になった。とは聞いていたが、魔法を教えていたとはクロノは聞いていない。
「正確には元々使えた魔法の精度を上げたんです。私もマスターも魔法の調整は得意ですから、あれ? なのはちゃん?」
「あっ……あぅ、ぇ……っ!?」
ない胸を張って答えたノアは、ユーノの傍らで腰を抜かして目を丸くしているなのはに気付いた。
「ユ、ユーノくんって……普通の男の子だったんだ!?」
「ええぇ~!? ちょっ、僕最初にこの姿だったでしょ!?」
「ううん、最初からあのフェレットの姿だったよ!?」
何やら2人の間に認識違いがあったようで、クロス達は顔を合わせて首をかしげた。
そして、次のなのはの言葉で目が点になった。
「あっ、だからお風呂とか温泉一緒に入るの嫌がったんだ?」
「「「えっ」」」
「な、なのは~!?」
爆弾発言に慌てるユーノだったが、突然背後から冷たい視線と殺気を感じ恐る恐る振り向くとそこには……
「なぁ、ユーノ。今のどういう意味だ? まさかあの変身魔法、そういう使い方までは教えたつもりないんだけど?」
「世の中の女性の敵ですね。もういっそ去勢しちゃいましょうか?」
「あ、いや、そのふかこうりょ……「「正座!」」……はい」
クロスとノアのあまりの迫力に思わず正座してしまう、ユーノ。
クロノは何も聞かなかった事にしたいようで、明後日の方を向いていた。
「あの、ユーノくんを無理やり誘ったのは私なんで、ユーノくんは悪くは……」
「庇わなくていいんですよ。例え誘われたからってホイホイ行っちゃう淫獣には、少しOHANASHIが必要なんです」
なのはが庇おうとしたが、ノアの言葉に押し黙ってしまい、クロノが深く息を吐いた。
結局2人の説教はエイミィが呼びに来るまでしばらく続いた。
クロス達がなのはとユーノを連れてやってきた談話室。
そこは桜の花びらが舞い、日本の茶室のような内装が施されていた。
日本人であるなのはの緊張を和らげようと、リンディが手配したものだ。
最も、用意されたお茶や和菓子は和風が好きなリンディの趣味によるものだが。
「遅くなりましたリンディ艦長。さ、2人共入って」
「し、失礼します!」
「ふふっ、どうぞ。そんなに緊張しなくても大丈……ぶ?」
部屋の中心には畳が敷かれ、静かに座り込んでいたリンディが入ってきたなのは達に微笑みかけた……が、
「えっと~……これ、どういう事かしら? なんで彼はぐったりとしているのかしら?」
「あ、あははは……」
苦笑しているなのはの隣で、ユーノがまるで魂が抜けたように白くなっている。
「「自業自得です」」
クロスとノアは無表情で答えた。
「そう、クロノ執務官?」
「……ノーコメントで」
「そ、そう。コホン、それじゃ気を取り直して……はじめまして、私はこの船アースラの艦長をしていますリンディ・ハラオウンと言います。彼らはもう自己紹介はしたわね。私の息子であるクロノ・ハラオウン執務官とクロスロード・ナカジマ捜査官、それにノア・ナカジマ捜査官補佐よ。それじゃ早速だけど事情を話してもらえるかしら?」
「あ、はい」
そして、なのはとユーノは今までの出来事を話した。
なぜ一般人であるなのはが魔法少女となったのか、2人はどうやって知りあったのか。
なぜフェイトと戦っていたのかを少し悲しそうな顔をしながらも話をした。
「あのロストロギア、ジュエルシードを搬送中に事故。地球の海鳴市近辺に落下、単身封印回収に当たったけどジュエルシードが暴走し重傷を負ってなのはちゃんと友達に拾われて」
「魔力値の高い彼女に協力を求めレイジングハートのマスター認証を行い封印、そして、同じくジュエルシードを集めていたフェイトに遭遇し争奪戦になり、2人の魔力にジュエルシードが反応して小規模な次元震が発生して」
「今に至る、か。ユーノ、なんでもっと早く管理局か、俺達に連絡しなかった? しかもレイジングハートを管理外世界の住民にマスター登録させるなんて」
なのは達の話を聞き終え、ノアとクロノが話をまとめクロスがユーノを睨みながら締めた。
クロスは、管理局に連絡しなかった事よりも、一般人でまだ幼いなのはを巻き込んだ事に怒っているようだ。
地球は魔法文化が存在しなく次元航行技術もない、管理外世界だ。
いくら緊急事態とは言え、ユーノがした事は軽率な行動だと言える。
しかし、クロスは時空管理局としてではなく個人的に怒っているようだ。
「まぁまぁ、過ぎた事をとやかく言っても仕方ないじゃない。それよりもこれからの事を考えましょう」
リンディがいさめるように言うと、クロスは深く息を吐きユーノから下がった。
「そうですね。事がロストロギア絡みだと厄介ですし」
「あの、ロストロギアって何ですか?」
「そうね。それじゃ今度はロストロギアも含めたこちら側の説明をしましょうか」
そうして、今度はリンディが自分達時空管理局の事やロストロギアについて語り始めた。
数々の国や世界を滅ぼした事もあるロストロギアの危険性については、映像も交えて説明するとなのはやユーノですらも声を失った。
「これらを見てもらえば分かるように、ロストロギアは非常に危険な遺産。私達時空管理局や保護機関が正しく管理しなければならないの」
「それにロストロギアを狙う犯罪組織は数多く、関わる事自体が危険な事だ。君もあのジュエルシードで何が起きたかは、身を持って体験しただろ?」
リンディとクロスの説明で、なのはは以前フェイトと自分の魔力がジュエルシードとぶつかった時に起きた爆発を思い出した。
「だからジュエルシードの事は俺達に任せて、君達はそれぞれの生活に戻った方がいい。勿論、全てが片付いたら経過は教えるよ」
クロノにそう言われ、ユーノの拳がぎゅっと力強く握られるのをクロスとなのはとリンディが気付いた。
「とはいえ、こう色々な事をいっぺんに言われても整理がつかないわよね。2人で一晩話しあってそれから改めて、お話しましょ」
「リンディ艦長!」
「クロス!?」
その言葉を聞いた途端にクロスがリンディに詰め寄り、慌ててクロノとノアが間に入ったが、今にも食ってかかりそうな勢いだった。
「わわっ、落ち着いて下さいよマスター!」
「どうしたのクロスくん?」
「どうしたの、じゃない! なんで……」
「だって、説明をずっと聞かされて2人共疲れたでしょうし。すぐに結論を出せるとは思えないでしょ? ささ、2人を送ってあげてもらえるかしら?」
怒りすら籠ったクロスの声にもリンディは涼しい顔で答えた。
「そういう話を言ってるんじゃ……わかりました。ですけど2人を送る前に、高町なのは」
「は、はい!」
突然自分の名前を呼ばれ、なのはは思わず声が裏返った。
そんな様子はおかまいなしで、クロスは真剣な表情でなのはに向き直り。
「俺と、少し戦ってもらうぞ」
剣をつきつけ、言い放った。
続く
クロスとノアの秘密が明かされるのはかーなり先ですが、無印編で半分くらいは明かされます。
次回はクロスvsなのはです。