魔法少女リリカルなのは異伝~X Destiny~ 作:カガヤ
新年最初の更新です
――クロス君、君は、を……し、た…ある……かい?
クロス達はなのはの家族に事情を話し、楽しい昼食を終えて、アースラに戻ろうとしてた。
と、ここで士郎が突然、クロスを家の奥にある道場へと案内した。
そこで士郎はしばらくじっとクロスを見つめると、今まで見た事のない険しい表情になり……
「君は……あ、いや」
「……」
あまりに小声だったので最初の言葉以外、よく聞き取れなかった。
それでもクロスには、士郎が何を言いたいのか理解できた
「士郎さん。これだけは絶対に約束します……なのはは俺が全力で守ります。例え何があろうとも、必ず」
「クロス君。すまないね、どうやらこれは余計なお世話というものだったようだ」
「いえ、それだけ士郎さんがなのはを大事に思っているという事ですから」
まるで自分の事のように喜んだ笑みを浮かべるクロスに、士郎は安心したような笑みを浮かべ、そっとクロスの頭を撫でた。
頭に感じる手のぬくもりに、クロスは父ゲンヤに撫でられたような感じがした。
「なのはを、頼んだよ」
「はい!」
それからアースラに戻ったクロス達は、アースラスタッフになのはとユーノを紹介し、ユーノはクロノやエイミィとジュエルシード探索に入り、なのははクロスとノアに訓練室へと連れられた。
「なのは、俺は君を守ると言った。けれどもただ俺が守るだけじゃない、君自身にも戦い方を覚えてもらうよ」
「は、はい! よろしくお願いします!」
敬語は要らないと言われたが、クロスの雰囲気とこれから色々教わると言う事で、自然とまたなのはの口調が固くなる。
「あーべつに硬くならなくていいですよ? そういうの私もマスターも苦手なんで」
「お前は砕けすぎなんだよノア。それはともかく、楽にしてくれていい。タメ口で話された方が気が楽なのは本当だし」
「え、えっと……うん、クロス君がいいならそうするね」
よしっ、とばかりに2人はそれぞれデバイスを構えた。
ノアがなのはの側につき、助言をする形になる。
「さっきも言ったけど、俺がなのはに教えるのは近接型魔導師への対処法。それを実戦形式で教える」
「で、私が射撃・砲撃魔法の制御法と効率的運用ね」
よほど特殊な状況でなければ、短期間で強くはなれない。
けれども、なのはの魔力や瞬間出力や射撃、砲撃の精度を高める事は出来る。
「まずは俺から、行くぞっ!」
この前の模擬戦と違い、今回はクロスから先に仕掛けた。床を蹴りそのまま速度を乗せ、剣を走らせる。
「行くよ、レイジングハート!」
<オーライ、マスター>
なのはの両足に小さな羽が生え、飛んで避ける。
クロスはそれを読んでいたかのように、剣の軌道を変え、飛ぶなのはに追撃を放つ。
「わわっ!?」
「近接型魔導師は一度避けられても、すぐに次の攻撃に移る攻撃速度を持っている。一撃避けたくらいじゃ気は抜けないぞ」
「フェイトちゃんも次々と攻撃してきたよね。だったら!」
周囲に数個の魔力弾を生成するが、そこでノアが声をかけた。
「なのはちゃん。その魔力弾、数と精度のバランスが中途半端に悪いよ。もっと数を増やすか、数を減らしてその分魔力密度を高める余裕はあると思うよ」
「うん! やってみるよ!」
ノアに言われなのはは精神を集中させる、イメージするのはいくつもの光。
「ディバイン、シューター……シュート!」
「へぇ」
先程より倍近い数に増えた魔力弾が一斉にクロスに向けて発射された。
クロスは迎撃よりも回避を選び、飛びまわるようにして避けた。
だが、シューターは正確にクロスの行く先々へと追尾して行く。
「言ってすぐに実行って、素質があるとかそういうレベルじゃないですね。天性ですか」
それでもクロスを捕える事は出来ず、すぐに全て回避され剣で打ち払われた。
「うぅ、これでもすぐに落されるんだ」
「そんなすぐに当たるような鍛え方はされてない。でも、結構良かったよ、なのは」
「本当? ノアちゃんに言われて、イメージしてみたらなんかこう、うまく言えないけどコツみたいな感覚掴んだの!」
「あ、あはは。そんなすぐに実戦してコツ掴むとは思ってなかったですね」
その後もクロスの指導とノアの助言の元、特訓は続いた。
高機動で接近してくる敵への捌き方。距離の取り方など、最初は戸惑っていたなのはだったが、徐々にコツを掴んできたらしく自分にあった戦い方を見つけつつあった。
「それじゃ、次は私ですね」
「えっと、今更だけどノアちゃんが相手なの?」
クロスの対近距離魔導師の指導の後は、ノアによる射撃・砲撃魔法の指導だ。
さっきと同じようにクロスの代わりにノアがなのはの模擬戦相手となる。
いつもはクロスとユニゾンして戦っていたノアが、単体で戦闘出来るとは思っていなかったようで、なのはは驚いた。
「ふふ~ん、こう見えても今のなのはちゃんには負けない自信ありますよ? 遠慮なく来てください」
「それじゃあ、行くよ。ディバインシューター、シュート!」
ノアに向けて桜色の魔力弾が一斉に放たれる。ノアは余裕の表情を浮かべ、右手を突き出した。
「ウインドアロー!」
ノアが放ったのは、矢尻のような緑の魔力弾。大きさもシューターより少し小さく数も少ないが、速度はかなり早く貫通性もあるようで、シューターを次々と貫いた。
「は、速い!? けど、まだまだ! 次は……シュート!」
次になのはが放ったシューターは数こそ少ないが、不規則な軌道でノアに迫ってくる。
「だったら、フリーズクラッカー!」
今度は青く丸い魔力弾が、不規則な動きをするシューターを追尾して撃ち落として行った。
いや、正確には撃ち落としたのではなく、シューターを氷漬けにして砕いて行った。
「えっ!? シューターが凍ったの!?」
「ふふーん、私もなかなかでしょ?」
「そうだね。でもこれなら!」
<ディバイン>
「バスター!」
なのはのとっておきの魔力砲撃。しかも、威力が今までよりも少しあがっている。
だが、ノアは顔色一つかえずに両手をバスターに向けて、自身の砲撃魔法を放った。
「プリズム、ノヴァ!」
ノアの両手から白い閃光が放たれ、なのはの放った閃光を押しとどめた。
2つの閃光はせめぎ合ったが、すぐにノアの白い閃光が勝ち、桜色の閃光は吹き飛ばされてしまった。
「すごい。今の私の全力だったのに、ノアちゃんにまで通用しないなんて」
クロスはともかくノアにまで自分の魔法が通用しないのは、流石に軽くショックを受けたようだ。
「ま、まぁ。今のは結構本気でやったからこうなっただけで、実際なのはちゃんはすごい才能を秘めてますよ?」
「……少しは手加減しろと言ったろ」
実はノア、結構本気だった。クロスには加減しろと言われていたが、久々に魔法を使った模擬戦なので舞い上がったようだ。
「そう言えばノアちゃん、さっきの魔法風や氷を操ってたの?」
「流石なのはちゃん、そこに気付きますか」
「魔法名に思いっきりウインドとか付いてたらバレバレだろ。俺とノアは基本的に同じ系列の魔法を使えるんだ。ただ、俺は炎や雷の魔力変換素質があるからその2つの属性の魔法が得意で、ノアは風や水や氷の魔法が得意なんだよ」
ノアが使った遠距離攻撃魔法は3種類、連射と貫通力に優れた射撃魔法【アロー】。
誘導性と爆発力に優れた射撃魔法【クラッカー】。
そして、砲撃魔法【ノヴァ】。
更に【凍結】【烈風】と言った変換素質を合わせてノアは使用した。
「と言っても、俺は遠距離魔法使えないけどな」
「そう言えばクロス君って射撃魔法使ってないよね。初めて会った時も模擬戦でも」
「厳密には使えるけど、使えないと言う所だ。実際に見せるか、プリズムアロー!」
右手を突き出し、ノアが使った射撃魔法を唱えたクロスだったが、手には魔力が集まるがすぐに霧散してしまった。
「消えちゃった……」
「詳しい原因は分からないけど、俺は魔力弾を精製する事が出来ないらしい。だから射撃や砲撃魔法が使えず、遠距離魔導師相手にする時は接近するか、相手の魔法を利用するしかないんだ」
それがクロスの基本戦法。ロングレンジでの攻撃手段がないクロスは、なのはとの模擬戦で見せたように相手の魔力弾を撃ち返したり、フェイト達と戦った時のように隙を付いて接近戦に持ち込むしかない。
ノアが射撃魔法で援護出来ればいいのだが、ユニゾンしなければクロスが満足に戦えず、ユニゾン中のノアはクロスの攻撃に風や氷の属性を与えるなどの補助魔法を使うのに精一杯だ。
これがクロスの弱点の1つとなる。
「だから正直、遠距離攻撃が豊富ななのはちゃんが援護してくれると非常に助かるんですよ。クロノ君より柔軟性がある魔力運用なんで」
「が、がんばるよ!」
「おいおい、変なプレッシャーを与えるなよ。なのは、自分の身を守る事だけを考えてればいいからな? じゃ、今日はここまでだ。ノア、なのはを部屋に案内して、ユーノもそろそろ部屋に行くだろうから。俺はちょっと報告あるから」
「はい、まっかせてください!」
「ありがとう、クロス君」
なのはをノアに任せ、クロスは自分の部屋へと戻り、情報端末を立ちあげた。
<オーリスさんからプレシア・テスタロッサに関する追加資料、届いています>
「そうか、流石オーリスさん、早いな」
管理局地上本部にて防衛長官秘書を務める【オーリス・ゲイズ】。
彼女もまたクロスとノアの裏の事情を知る1人で、2人のよき理解者だ。
彼女には、ゼストとリンディの依頼で今回の事件で、プレシアが過去に関わった実験や研究の資料を探ってもらっていた。
フェイトやジュエルシードに関わる全ての出来事の原因が、プレシアの過去にあると読んだからだ。
その読みは正解だった。
「クロス君、入るわよ?」
「リンディ艦長? どうぞ」
そこへ、クロノやユーノ達とジュエルシード探索の為の会議をしていたリンディが入ってきた。
「どうです? ジュエルシード探索の手立ては」
「探知機の調整と、捜索範囲の策定はほぼ終わったから後は結果待ちね。それで、それがプレシアの資料?」
「はい、艦長にも個別に送られているはずですが、どうぞ」
2人は食い入るようにプレシアの資料を見た。
そこには、プレシアが魔導師としても研究者としても優秀だった事を証明する、数々の実績が述べられていた。
「アレクトロ社での新型の大型魔力駆動炉実験の失敗」
プレシアを研究主任として行われた新型魔力炉の実験、結果としては失敗に終わり1名の死者を出した。
それが、プレシアの1人娘。
「アリシア・テスタロッサ、フェイトにそっくりですね」
「そうね。恐らくこの子が」
リンディはその先を言う事が出来なかった。クロスの辛そうな顔が目に入ったからだ。
「クロス君……」
「大丈夫ですよ。それで、この事故の責任はプレシアに全部押しつけられたってわけか」
「でも記録上の事だけであって、裏では色々ありそうね。レジアス少将が極秘裏に再捜査を命じたみたいよ」
地上本部の最高責任者であるレジアス少将が動いたとなれば、この事故の裏側が見えて来るのも時間の問題だ。
それ以外のプレシアが関わった研究などに目を通し、2人は深く息を吐いた。
「プロジェクトF。思ったよりもずっと深いみたいね。プレシアだけが関わっているとは思ってなかったけど」
「一刻も早く捕まえて、全貌を明かさなきゃ、これ以上俺みたいなのが増える前に……」
「そう言えば、クロス君。あの時、士郎さんに何を言われたの?」
なのはの家族に挨拶に行ってから、クロスの様子がおかしい事にリンディは気付いていた。
「別に、なのはの事をよろしく頼む、そう言われただけですよ」
「そう、それならいいけど。クロス君も少しお休みなさい。なのはさんへの教導で疲れたでしょ?」
「教導って言うほどの事じゃないですよ。でも、少し休みます」
リンディはそれ以上深く尋ねようとはせずに、部屋から出た。
「ラファール、俺は少し仮眠をとる。1時間で起きるつもりだから」
<わかりました。おやすみなさい、マスター>
後に残されたクロスはベッドに寝転がり、ゆっくりと目を閉じた。
眠りに落ちる前に、士郎が言おうとしていた言葉が頭によぎった。
――クロス君、君は人を殺した事があるのかい?
続く
クロスが人を殺したことがあるのか、それについて本格的に触れるのはA’s後になる予定です。
まぁ、無印編でもチラリと出てきますけど・・・