やっと原作ヒロインが出せる……
とある職員の日誌より
〇月×日
明日はいよいよ被験体マシュ・キリエライトの英霊第二号との融合実験が行われる日だ。
マシュは、英霊を人間と融合するこの実験の為だけに、遺伝子を操作されて生み出されたデザインベビーの1体。
だから寿命は30年と短いし、今回の実験で更に縮まるだろう。
短い寿命で大いなる成果を出さなければならないのは非効率的だと思うが、結果が出れば問題ないだろう。
これまでも多くの個体を生み出したが、そのどれもが実験に必要な魔力回路がなく産まれ無駄に死んでいった。
だから、魔力回路とマスター適正をも備えたマシュ・キリエライトはまさに実験向きの個体と言えた。
更に彼女の魂は無垢そのものと言っていいほど純真で、こちらの思い通りに動いてくれる。
これならば英霊と融合し膨大な力を得ようとも、簡単に御する事が可能だろう。
明日が楽しみだ。
〇月△日(全体的に文字が震えている)
結論から言えば、実験は大失敗だった。
いや、大失敗どころではなかった。
私は、私達は、それ以上のモノを視た。
抗う事できず、絶望を受け入れる事しかできなかった。
だが、それでも、記録に残さなければならない。
あれこそが……
実験自体は半分は成功と言ってもいいだろう。
マシュ・キリエライトは確かに召喚された英霊と融合し、その力を行使して見せた。
が、それだけだった。
マシュと融合した英霊は、すぐに大きな盾と鎧を装着し我々へと襲い掛かってきた。
どうやらマシュの意識は完全に乗っ取られているようだ。
そこまではいい。想定内の事だったのだから。
だが、ここから先は想定外の連続だった。
マシュに憑依した英霊は防衛システムを突破し、こちらへと攻撃を仕掛けようとした。
その瞬間、私達と英霊の間に歪みが生まれた。
それと同時に声が直接頭に響いてきた。
その声は、私が今まで聞いた声の中で一番怒りに満ちて脳髄を凍らすような冷たい声だった。
――少し、邪魔するぞ。
かろうじて男と分かる声の主は歪みの中から現れた。
その男は、ノイズがかかったような霧に覆われていて、複数の人影と共に現れ英霊と私達全てに向けるように腕を振るった。
瞬間、巨大な盾を振り降ろそうとしていた英霊も、突然の乱入者に対処しようとしていた職員たちも、全ての動きが止まった。
マリスビリー所長は、まるでこうなると予測していたかのような苦笑いを浮かべているが、冷や汗が出ている。
やがてノイズの霧が晴れ、男の全貌が明らかになった。
男は、まるでゴルフにでも行くようなカジュアルな服に身を包み、紺色のハンチング帽をかぶっている。
顔は笑っているが、目は笑っていなく、男から醸し出す雰囲気は、憤怒そのものだ。
それに、男から感じる膨大な魔力は、その膨大さだけではなく明らかに我々とは違った魔力を感じた。
男と一緒に現れた複数の人影もまるで砂塵のようにカルデア中へと散って行った。
そのどれもが、目の前にいる男と同様に異様な気配を漂わせていた。
「やぁ、マリスビリー・アニムスフィア。要件はわかっているね」
「だれだ、お前は!」
男への恐怖心を魔術で無理やり押し込めた職員の一人が懐から魔術礼装を取り出そうとした。
だが、その手は悪手だった。
「五月蠅いわね」
男の側にいつの間にか現われた和服の女性が腕を一振りした。
すると、実験室にいた職員全員に異変が起きた。
「腕が、石に……」
「お、おれどうなったんだ!? からだが……」
職員達の身体が顔だけを残して次々と木や石へと変わり、動けなくなっていった。
かくいう自分の身体も炭へと変わって行った。
こんな一瞬で複数の人間の身体をそれぞれ別のもの変える魔術など聞いたことがない。
「流石はラス嬢。見事な手際ですね。弁明はないよ、天藍。こうなる事も予測済みさ」
ラス、天藍、目の前に佇む男女を見て、マリスビリー所長は確かにそういった。
ならば、彼らこそが草薙家だと言うのか。
魔術師にとっては有名すぎる一族、草薙家。
時計塔創設以前に根源へと至った魔術師の家系。
その血筋の者はありとあらゆる分野において天才的な才能を発揮し、魔術世界だけではなく外の世界にも広く溶け込んでいて、影響力をもっている。
この男、草薙家の当主であり、法政科の現君主でもある草薙天藍。
そして、彼の側に立つ女性は彼の妻、ラス。
魔術師ならば畏怖の対象である2人を見ても、不思議とそこまで動じていない自分に気付いた。
あぁ、きっともう手遅れなのだろうと、心の底から諦めているのだ。
「さて、マリスビリー。今日はここで不当な人体実験が行われていると聞いてね」
「天藍さん、あの子は私が看ていますね」
そういうってラスは、天藍の乱入の衝撃で気絶したマシュを抱きかかえて外へと出てしまった。
所長は何か言いたそうだったが、どうにもできない。
この場の主導権、生殺与奪の権利すら草薙天藍の手の内にあるのは、誰の眼にも明白だ。
「……人体実験など魔術師では良く行っているのだろう? それに君達だって行ってきたはずだ」
「あぁ、シュウが作った霊薬の実験などをね。でも、それは我が草薙家に連なる者から志願を募って行っている。どこからか攫った一般人を利用したり、君みたいに実験の為だけに遺伝子から操作して科学と魔術を融合させた人間を生み出す……そんな非道なものとは一緒にしてほしくないね」
「それでも、法政科の君主たる君が直接ここに乗り込んでくるのは異常すぎないかい?」
所長は、天藍の追求をのらりくらりとかわしているが、その顔にはいつもの余裕と冷静さは微塵も感じない。
「勘違いしないでくれ。魔術の発展に伴う実験については、どれだけ非道であれ隠匿がなされていれば私はどうこうするつもりはない」
「『魔術の犠牲は魔術師のみであるべき』 かい?」
「その通り。このカルデアは我が草薙家が出資し、魔術的にも科学的にも技術提供を行い完成させた施設だ。そこで我らの信条を裏切る行為が行われている事を、見過ごせるはずはなかろう?」
「私達が後ろ盾しているからと言って、少しやるすぎましたね。職員は全て拘束いたしました。データも既に押収済みです。あぁ、研究設備は破壊いたしましたわ」
と、そこへ初老の男女二人がやってきた。
彼らには私も見おぼえがあった。
まさか、彼らまで来ているとは……
「おや、これはこれは皇伽殿にキトラ殿までおいでとは、草薙家本家勢ぞろいとは珍しいですね?」
草薙皇伽、当主の座を天藍に譲り渡してから一線を退いているとはいえ、絶大な力をもつ前草薙家当主。
その妻キトラも、女豹と呼ばれ封印指定の執行者として名が知られている。
所長の言う通り、草薙家がここまで勢ぞろいしている場面は見た事がない。
「さてと、それでは詳しい弁明を聞く事にしようか。あぁ、オルガマリー嬢は健人とが一緒にいるから安心したまえ、マリスビリー」
そう言って天藍達は所長を連れてどこかへと消えていった。
それからすぐに、さっきまで炭へと変わっていた身体が元へと戻った。
「っ……プハッ! い、今のは一体……」
「所長は、どこへ?」
他の職員達の身体も元に戻っている。
と、同時に脳裏に先ほどまでの草薙家の魔術師達の姿がよぎり、身体が震えだし止まらなくなった。
それは私だけではないようで、数人の職員が頭を抱えてのたうち回っていた。
「ぅあ、あぁ、ああぁぁぁ~~!!」
「ダメだ、ダメだダメだダメだ。あれはダメだ!」
カルデアの職員全てが魔術師というわけではない。
魔術の事を知っていても、魔術回路を持たない職員もいる。
その者達が先ほどまでいた草薙家が放っていた重圧に耐えかねて、発狂したようだ。
いや、魔術師であっても発狂している者もいる。
三流魔術師が、とあざ笑うのは簡単だが、私も手の震えがまだ止まらない。
所長もいない今、どうすればいいのかと呆然としている中、別室で実験をモニターしていたロマニ・アーキマンとレフ・ライノールがやってきた。
「みんな大丈夫かい? 痙攣しているものを急いで医務室へ運ぶんだ! ロマニ、君は他の区画の様子を見に行ってくれ。おそらくカルデア中が麻痺状態だろう」
「あぁ、分かった」
草薙家への恐怖に麻痺している中、2人の冷静な指示のおかげで徐々にみな落ち着きを取り戻し、核施設の被害状況を確認していった。
その結果、草薙家は僅か数名でカルデア内を短時間で制圧し、様々な実験データを回収し機材や施設を破壊していった。
勿論、カルデア側もただ黙ってされるがままになっていたわけではない。
何人かが、止めたり迎撃しようとしたが、誰もが皆何もできずに逆に返り討ちにあっていった。
幸いな事に死者は出ず、返り討ちにあった職員も精神的には重症に近い者もいたが、皆軽傷で済んでいた。
破壊と言っても、壊されたり強奪されたものはどれも英霊融合実験やそれに伴うデザインベビーに関わる機材やデータのみで、カルデアスやシバの維持やライフラインに関わる物には何も手をつけられていなかった。
それでもカルデアは、一度確かに崩壊した。
「という事があったんだよ。いやぁ、暴れた暴れた」
「いや、暴れた暴れたじゃないでしょうが、兄さん」
カルデアが崩壊したと連絡を受けて、俺達は向かう準備をしている時、フラッと兄さんだけが帰ってきた。
で、カルデア崩壊の原因は兄さんや父さん達のせいだと聞かされた。
更にそもそも父さん達がキレた原因は、カルデア所長のマリスビリーが出資者である草薙家に内緒で、草薙家が嫌悪している人体実験を行っていたからだそうだ。
何と言うか……どうして俺を待ってくれなかったかな。
俺が今日帰ってくるって知ってたなら待ってくれても良かったのに。
「なら修行から戻ってくる予定だった健人はともかく、私も連れて行ってくれても良かったじゃないの兄さん!」
姉さんも俺と同じことを思っていたようで、兄さんに詰め寄っている。
「せっかく今日健人が帰ってくるというのに家に誰もいないのは寂しいだろう? カルデアの実験だって今日行うって知ったの結構ギリギリだったからさ。念のためマリーをここへ避難させる必要もあったし」
「それは、そうだけど。それとこんな話をマリーに……あら、マリー? 大丈夫?」
兄さんからカルデアで行われいたという実験と、その為に多くの実験体と言う名の人間が生み出された事を聞いてからマリーは青白い顔をして震えている。
「……お父様が、そんな、酷い事をしていただなんて……」
マリーは父マリスビリーの所業にショックを受けたようだ。
流石に魔術師とはいえ、人道に反しすぎだもんな。
「兄さん、何もマリーに全部言わなくても良かったんじゃない?」
「魔術師としてまだまだとしてもマリーもお前も、もう立派な大人だ。隠す必要はないし、親の所業はいずれ子に降りかかる。それが魔術師なのはわかっているだろう?」
「それはそうだけど……ともかく少し休みましょマリー」
姉さんは納得いかない様子だったけど、マリーを部屋へと連れて行った。
とは言え、姉さんはカルデアで行われていた事自体にはかなり怒っていたけどね。
「さてと、健人。マリスビリーの尋問は父さん達に任せて、お前の修行の成果は僕が試そうか」
どうやら兄さん1人だけ戻ってきたのはこのためらしい。
さっきまであんな話しておいて切替早いな。
「あ、もちろん後で父さんやおじい様達も試すって言っていたからね?」
「……あ、そうですか」
なんとなーくそんな予感はしていたけどね。ハハッ……
と、思っていたが、まさか俺の修行の成果を見たいと、兄さんや父さん以外にも20人以上も相手にする羽目になるとは思ってもいなかったのであった。
うちの家系って色々極端すぎる。
続く
というわけでマシュ登場!本人トランス状態ですけどね
あと数話で原作開始に行きたいところ……
さて、Aチームの扱いどうしようかな。