通称「RWBYOC」を主人公とした物語です。
※同内容の作品を、pixivにも投稿しています。
一面の白だった。
雪。空。雲。
その全ての白が視界を埋め尽くしていた。
彼女は、彼女が始まる前の記憶がある。
極寒の雪原に捨てられたのは、せめて死んだ後も腐らず綺麗なままでいられるようにと、両親のなけなしの慈悲だったのかもしれない。
吹雪と雪崩れに任せるがままに雪原を転がり、彼女は目覚めた。
弱々しく立ち上がる。
方向も分からないが、自重に任せて足を動かす。
雪に足を取られて倒れる。
それを何千回か繰り返したあと、彼女は動かなくなった。
何もわからない少女は、何者でもないまま消えようとしていた。
始まらないまま終わろうとしていた。
夜が来て、朝が来た。
半分雪に埋もれたまま、動かないまま、白い朝日を見つめる。
朝日は彼女の視界を登っていき、徐々に色を濁らせながら背後に沈んでいった。
少しずつ目の前の雪原が背後から赤く染められ始めていったとき、自分の眼前に長く伸びる影を見た。
「父さん! 手伝って! この子、まだ生きてる‼︎」
知らない声がする。なにかを叫んでいるようだったが、彼女は言葉を教えられたことがないから、意味はわからない。
影が、自分に重なった。
後ろから抱きかかえられ、強引に雪から掘り起こされた。
目の前にランタンの火がかざされる。
刺すような熱が、彼女の肌を炙る。
鈍くなっていた肌に、少しずつ感覚が戻っていき、熱さに身をよじる。
「俺は面倒は見ねえからな。お前が拾うっていったから手伝ってやったんだ。世話は全部お前がやれ」
「……」
「聞こえてんのか! 返事しろ、ユナカイト‼︎」
「……わかったよ、父さん」
意味はわからないが、なにやら二人の人間が声を出し合っている。
この声は、嫌な感じだ。大きくて、こわい。
大きな声から逃れるように身をよじると、小さな手が彼女をかばうように抱きしめた。
その手の強さに呼応するように、彼女の目にマッチのように小さな光が灯った。
目は開いていたが、いま初めて、彼女は眼前の光景を目にした。
夕焼けに照らされた赤い雪原。
さっきまで自分の視界を埋め尽くしていた、白ではない、赤。
果てない赤が広がっている。
血のような。
地獄のような。
朱砂のような。
それでも、彼女は綺麗だと思った。
綺麗だなんて感情も、その時、初めて覚えた。
始まりは夕焼けだった。
※※※
「あんまりキョロキョロしないでくださいよ、お嬢。まったく、恥ずかしい」
ベジョータは主人――正確には、仕えている主人の娘に悪態をついた。
ミストラルの大商家であるウルアリアス家の一人娘だというのに、この頼りなさはどうなんだ。幼い頃からずっと見てきたが、この挙動不審は変わらない。
情けない……、そんな感情を隠しもしないベジョータを見て、「お嬢」と呼ばれた少女は慌てる。
「ご、ごめんね、ベジョータ……。こんなに沢山の人がいるの、初めてだから」
ヘイヴン・アカデミーの大講堂。
入学式から何日かの講義や演習を経て、新入生はここに集められた。
300か、400か。様々な人種・種族の少年少女達がめいめい時間を過ごしていた。
「はあ……、ゼオラ様はウルアリアス家の後継なんですよ? あなたがそんなにオドオドしていると、お家の名にも傷が付くんです。そういうの、わかって行動してます?」
「……そうよね、ごめん、ごめんなさい、ベジョータ。私、がんばるから」
そういうとゼオラは俯いて黙り込んでしまった。長身で、仕立ての良い服を着たゼオラがあからさまに暗くしていると、とにかく目立つ。
広い講堂の中であっても、良くも悪くも人の目を集めてしまう。
豊かなプラチナブロンドの輝きも、却って暗い表情を際立たせてしまっていた。
「だから、そういうのが……!」
苛立ちに耐えかねて、思わず大きな声が出る。
周りの奇異の視線を感じ、慌てて声をひそめる。
「……頑張ってどうにかなるなら、とっくにもっとちゃんとしてますよ。いいから、余計に動き回らず、じっとしててください」
「……」
押し殺した声で 咤する。ゼオラの表情は、一層曇っていった。
はあ。
ベジョータは嘆息する。
ゼオラを上手いことサポートして、アカデミーでも良い成績を上げれば自分の評価も上がる。そうすればウルアリアス家での立場も、もっと強いものになるだろう。
そう思っていたのだが。
このお嬢様、思っていた以上に駄目だ。
学業も実技も決して悪くはないのだが、メンタルというか、決断力が無さすぎる。
メイドという立場である以上主人を立てるべきとはわかっているのだが、これでは立たせようもない。
このままでは何もできないままリタイアしかねない。
何とか、《残り二人》は優秀なのを捕まえないとな……。
このヘイヴン・アカデミーは、人類に仇なす敵性生物《グリム》を狩る《ハンター》を養成する機関である。
伝統的に《ハンター》は4人1組でチームを組み、行動することになっている。
入学式から数日。そろそろチーム分けの演習がある頃だ。
そこで優秀な二人と組むことができれば、この優柔不断なお嬢様をサポートしながらも、好成績を修められるはずだ。
品定めをするように辺りを見回していると、声をかけてくるものがあった。
「やっほーお二人さん。あんた達って、もしかして入学前から知り合い?」
「……誰?」
ベジョータは眉をひそめる。
声をかけてきたのは、とてもハンター志望とは思えない風体の少女だった。
とにかく派手。それが第一印象。
つば広帽子の下の白い髪には何色ものネオンカラーのメッシュ。
スレンダーな身体のラインがくっきりと出るタイトなトップスに、ひらひらのサイドスカート。
極め付けは底の厚いロングブーツ。
プロテクター付きのレザージャケットを着込んだ、実践的で無骨なベジョータとは真逆のスタイルだ。
というか。
ハンターなめてんのかこいつ。
そう漏らしそうになったのを堪える。
が、表情までは殺せなかったようだ。
「わお。怖い顔! いやね、あたし、コイツと地元から出てきたんだけど、知り合い全然いなくってさー。入学式からこっち、ぜーんぜん人と喋ってなくて。もうストレスでどーにかなりそーなの。ね、お喋りしよ?」
細くて長い腕でしきりにジェスチャーしながらまくし立てる。
コイツ、と示されたのは、この少女の後ろで佇む、陰鬱な雰囲気を纏った背の高い少年だろうか。
「ほら、アリカ! ここのみんな仲間になるんだから、アイサツしなきゃダメじゃん!」
「うう、オレ、仲間とか要らないし……」
少女にばんばんと背中を叩かれた少年は怯えたそぶりで抗議の声を上げる。
目深に被った黒いフードの下から長い前髪が。長い前髪の下には黄色いサングラスが覗く。
どれだけ人と顔を合わせたくないんだ、とベジョータは訝る。
しかし、この二人は……
「あ! っていうか、あたしもアイサツしてなかったよね。ゴメンゴメン! あたし、リリフローラ。長いから《リリ》って呼んで。 こっちの暗いのはアリカンテ。めんどくさかったら《アリカ》でいいよ。地元はウィンドパスのあたりなんだ」
「ウィンドパス……?」
「そ。ずいぶんガラの悪い田舎なんだけどね。あんた達はアーガスとか? そっちの子、ずいぶんオシャレだもんね。髪もサラサラ……」
「――もう、いい?」
「え?」
ベジョータの声音が変わる。不機嫌と敵対心をあらわにした声に、リリフローラの笑顔が凍りつく。
「いや、あたし達は、ただ」
「私たちは、アーガスのウルアリアス家。田舎者でも、資質がありそうなら話を聞いても、と思ったけど、その格好じゃハンターになる気も無さそうね。ふざけてるの?」
「おまえ……リリをバカにすんな!」
高圧的に言い放つベジョータに、影のように控えていたアリカンテが激昂する。
「ベジョータ、やめて……! いい人たちなのに、こんな!」
「お嬢は黙っててください。それとも、貴女だけこの者たちとチームでも組みますか? 私無しでどうにかできるなら、どうぞご随意に」
「……!」
ゼオラは何か言いかえそうとしたが、飲み込んでしまう。
飲み込んだ言葉たちが、涙になって目頭から溢れそうになったーー
「よお、ずいぶん楽しそうじゃねえか。あたしも混ぜろよ。一年生同士、仲良くしようぜ?」
いつの間にか。
ベジョータとリリフローラの間に少女がいた。
長身の二人に挟まれて、ひどく小柄に見える。
「いやー、あたしもクチナシのほうから家出同然で出てきてよー。一人ぼっちだったから話し相手が欲しくって」
真っ赤なレザージャケットがてらてらと光る。リリフローラの服装とはまた違う、攻撃的な派手さがあった。
そんな風貌にベジョータは再び不信感を抱く。
「なに、あなたは」
「ルジェ・ワイルドベリー。ルジェでいいぜ」
「ワイルドベリーさん。あなたもハンター志望よね?」
「そうだよ。あたしン家は曾祖父さんの代からハンターなんだ」
「私とお嬢の《話し相手》になりたいのなら、その下品な言葉遣いからどうにかなさい」
「ああ?」
「身体もずいぶん小さいし、訓練も大して受けてないんでしょう。礼儀も資質もないなら、お呼びではないわ。お嬢の学友にはふさわしくない」
ルジェと名乗った少女は俯いて肩を震わせる。
リリフローラもゼオラも何か声を掛けようとしたが、それには及ばなかった。
彼女が笑っていたからだ。けだものじみた顔で。
「あー笑った。ホントにいるんだな。お前みたいなやつ」
「何ですって……?」
「さっきから「お嬢」「お嬢」ってよー、何か人のため、みたいにしてっけどよー。全部お前がお前の悪意で人を攻撃してるんじゃねえかよ」
「……違う」
「あたしはウソつきだけど、嫌いなモンはハッキリしてる。自分を良いやつに見せるためのウソだ」
「私はウソなんかつかない」
「そういうのだよ。お前は自分が正しいって大声で喚いて、そっちのお嬢様を自分の言いなりにしたいんだろ? 今まで色んなロクデナシどもを見てきたが、正しさで自分以外のやつを奴隷みてえにしようって奴が、一番邪悪なんだよ。心底ヘドが出るぜ」
「私は……そんなことしない!!!」
ベジョータが激昂した。怒りに任せて顔面に一発入れようと足を踏み出すがーー
できなかった。
するり。
かしゃん、かしゃん。
ベジョータの足元に、なにかの金具が転がる。
「だろーな。あんたが極悪人なら、そんなに可愛いパンツははかねえ」
いつのまにか、ベルトやらファスナーやらがねじ切れたように壊れ、ベジョータの履いていたショートパンツがずり下がっていた。
黒い無骨なレザー生地の中から、パステルカラーの布地が覗く。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
褐色の顔を真っ赤にしてショートパンツを引き上げると、ベジョータは走って何処かへ去っていった。
ゼオラも彼女を気遣うように、慌てて追いかけていく。
「ふん。あー、スッキリした」
そう言って伸びをする彼女に、浮かない顔のリリフローラがおずおずと声をかける。
「えと、ルジェ、だっけ。その、ありがと」
「あ? あたしはムカつくから言いたいこと言ってやっただけだよ。礼を言われる筋合いはねえ」
「はは、あたしもちょっとスッキリした。きょうは珍しくツイてなかったな。ああでも、そうでもないか。あんたみたいな子と知り合いになれた。よろしくね、ルジェ」
そう言ってリリフローラは手を差し出す。
しかし相手はその手を取らず。
噛み付いた。
「うわあ⁉︎」
「ははっ、やっぱあんた、今日はツイてねーよ。あたしみたいなウソつきと会っちまったんだからな」
「もおお、何? 手ぇベタベタじゃない。あんたの地元の挨拶って変わってんだね、ルジェ」
アリカが素早く差し出したハンカチで手をぬぐいながら、リリフローラは半笑いだ。
「ぎゃははは、ちげえよ」
「違う? 挨拶じゃないの?」
「そこじゃねえよ。ルジェなんてやつはここにはいない」
「……は?」
「悪いな、あたしはウソつきなんだ」
「ええと、ちょっと待って。じゃあ、あんたは誰なの?」
「まあ、縁があったらその時に名乗ってやるよ」
そう言うと、キセラ・バルサミカはにいいっと笑った。
※※※
「本っっっ当に……申し訳ございませんでした!」
ユナカイトが長身を折り曲げて深くこうべを垂れる。
大講堂の備え付けのトイレから出てきたのを見計らっていたかのようなタイミングで現れた長身の男子生徒に、ベジョータは最初は面食らったが、やたらな低姿勢で謝り倒す姿に一定の筋は見出したのか、しばらく話を聞いていた。
「あのウルアリアス家のご令嬢に無礼を働いた上に、偽名を名乗る始末……友人として深くお詫び申し上げます。どうか……どうか平にご容赦を……!このとおり、キセラも深く反省しておりますゆえ……」
「いてててて、おいユナふざけんな。あたしは頭なんか下げねえからな」
「ぜんっぜん反省してるように見えないんですけど。なんなのこれ」
キセラの頭を力づくで押さえつけ、なんとか謝罪のポーズを取らせようとするが、キセラは全力で抵抗する。
「……もういいわ、ええと、アバグネイル君。わ、私もだいぶ感情的になってたし、その、みっともないところをお見せしてしまったから……お互い様です」
ごにょごにょと語尾が弱くなっているところを見ると、ベジョータもだいぶ気まずいようだ。
「ご寛大な御心に感謝致します。さすが、ご高名なウルアリアス家の方は懐が広い。これは、お近づきの印です。どうか、受け取っては頂けませんか」
そう言うと、ユナカイトはベジョータの前に跪き、なにかを差し出す。
「な、受け取れないわ、そんなもの。さっきも言ったでしょう。お互い様、だから……ひゃあっ!?」
ユナカイトはそのまま立ち上がり、ベジョータの鼻先近くに、自分の顔を近づける。
突然の急接近に、ベジョータはあからさまに狼狽えた。
「いえ。受け取って頂きたいのです。ウルアリアス家のご令嬢を守護せんとする貴女のその高潔な御心に胸を打たれた、僕の気持ちです」
「は、はわわわわ……ええええ、ええっと、そこまで言うのなら受け取ってあげてもいいけど……ど……」
目をぐるぐるさせながら頭から湯気を吹くベジョータを見て、すこし可笑しそうにゼオラは微笑んでいた。
「あんたんとこの色黒メイド、あんな顔するんだな」
「ふふっ、ええ、わたしも初めて見ました。殿方が苦手なのは知ってましたけど」
もともと眉が下がり気味なためか、微笑んでいてもすこし翳のある表情。しかし声音はだいぶ明るいように聞こえた。
「その、さっきはありがとうございました。ルジェ…じゃなくて、キセラさん。わたしのことで怒っていただいて。本当はわたしがもっとしっかりしなきゃいけないのに」
「全くだな。ましてやあんたはアイツの主人だろ? 好きに言わせてんじゃねえよ」
「ベジョータは、わたしを導こうとしてくれてるんです。ウルアリアス家の後継として、相応しいように。すこし言い方がキツいときもありますけど、わたしの為に言ってくれてるから……」
「は、どーだかね」
「わたし、頑張ります。ベジョータに心配かけないくらい、正しくあれるように」
「正しく……ね」
キセラの呟きが聞こえなかったようで、ゼオラは小首を傾げている。
「何でもねえ。ユナ! 行こうぜ。いいかげん演習が始まる頃だろ」
キセラに促されると、ユナカイトはベジョータに一礼してその場を離れていった。
ゼオラはそれを見送る。
「キセラさん……お友達になれるといいのだけれど」
「私は反対です。あんな野蛮な子。まあ、アバグネイル君は、見所ありそうでしたけど……」
そう言ってユナカイトから受け取った包みを開けるベジョータを見て、ゼオラはくすっと笑う。
「ねえ、ベジョータ。何を頂いたの? 男の子からの贈り物だから、大切にしないとね」
包みを開けたベジョータは、そのままの姿勢で固まっていた。
「……ベジョータ?」
包みの中から出てきたのは、キセラが壊したのとよく似たデザインのベルトと。
「お嬢。前言撤回です。あの男……」
パステルカラーの、女物のーー
「絶対に許さーーーーーん!!!」
※※※
「だから、何だって君は率先して揉め事を起こすんだよ。これから大事な演習だぞ? そんな生活態度じゃあ立派なハンターになれないぞ」
演習担当のエイズル・ヌウが壇上に上がって、注意事項などなどの説明を行う中、キセラに小言を並べているのは、同級生の星火(シンフォ)だった。
あの入学式の日、ユナカイト達とラスティ・ネイルの間に起きたことの一部始終を目撃していた少年。
新入生一同が大講堂に整列するとき、どういうわけか連れの少女と一緒にキセラ達の近くに陣取ってきたのだ。
「うるせえな、おチビ。エイズル先生のありがたいお話が聞こえないだろうが。あたしはこの演習に命かけてんだよ」
「いや、ウソだろそれ。っていうか身長! 君もおんなじくらいだろう」
「あたしのが1センチ高え。これは本当。だからあたしはお前をおチビ呼ばわりする権利がある」
「ないよそんな権利は。人の身体的特徴をあげつらってからかう権利は、この世界の誰にだってない。特に身長のことについては、絶対にだ」
「わかったよ、おチビ」
「だから! 人の身長を!」
[[そこのシルクハット君……、私の話が退屈なようだね。君が望むなら、このあと別室でとびきり刺激的な話をすることもできるが、どうかな?]]
壇上のエイズルが星火にしっかりと視線を向けて、口だけで微笑む。
あたりから聴こえるくすくす笑いに、星火は顔を真っ赤にして涙目だった。
「す、すいませんでした……先生」
エイズルはそのままの表情で頷くと、説明に戻った。
(……君のせいで怒られたじゃないか、バルサミカさん。っていうか君も先生の話聴いてなくていいのかよ)
(あー? あたしはもうアタマに入ってるし、演習内容)
(必要な資料は俺が事前に拝借してるからな)
と、ユナカイト。
(犯罪じゃないか!)
(っていうかよ、それを言うならお前の連れの女こそ、大丈夫なのかよ)
(いや、アマレットは静かにしてるだろ、ほら)
星火が自分の傍らを示す。豊かなシャンパンゴールドの髪と、狐のような大きな耳が目を惹くファウナスの少女が真っ直ぐな姿勢で微動だにせず立っていた。
(な? アマレットはちょっと変わった子だけど、行儀は心得てる。君らと違ってね)
ただし、目を閉じて。
(いや、寝てるだろこれ。ちょっとよだれ出てるし)
(アマレット! 寝ちゃダメだ! こんな良い姿勢で寝る人いる⁉︎)
星火はハンカチを取り出し、アマレットの口角ちかくに一筋の光を放つ涎を拭き取ったり起こそうとしたりしたが、一瞬エイズルと目があったような気がして、慌てて姿勢を正した。
[[以上で説明は終わりだ]]
説明が終わってしまった……星火は絶望的な顔で壇上を見上げる。
話が聞けなかったことに、というより、どうやら事前に資料を盗み見ていたらしい、この学園不適合者に教えを請わなければならないということに対しての絶望であった。
まあ、しかし。
背に腹は変えられない。
[[それでは優秀なる未来のハンター諸君、この場では解散とする。さきほど示された部屋にそれぞれ向かい、各々の課題をクリアーー]]
「な、なあ、バルサミカさん、アバグネイル君、さっき言ってた資料だけど、良かったらーー」
その後は言えなかった。
星火は言えなかったし、キセラは聞けなかった。
爆音。
大講堂の壁面が突如として崩れ、巨大なイノシシのようなグリムが現れたからだ。
高さだけでも人間の3倍強はあろうか。
長い牙で壁を突き崩し、講堂の中央で急制動を掛けたため、瓦礫と粉塵が舞う。
方々で悲鳴と、逃げ惑う足音が響く。
あるものは恐怖で座り込み、あるものは無我夢中で逃げる。
大講堂の入り口は全て閉鎖されていたが、どういうわけか鍵も開かなくなっていた。
半狂乱の新入生達がそれぞれの扉の近くで喚き叫んでいた。
そんな中で。
「めんどくせえ。やるか」
「まだ本調子じゃあないんだがな。仕方ない」
「怪我人を出さないようにしないとね」
「……ふあ。シン、おはよ」
四人が大講堂の真ん中に残っていた。
四人が戦闘態勢に入っていた(約1名を除く)。
キセラが手にしたアタッシュケースのようなものから、巨大な刃が現れる。
ユナカイトの機械仕掛けのブーツの各所が展開し、唸りを上げる。
星火の傍らには、棺桶のような箱が飛来する。
アマレットは、後ろに組んだ手に密かに鉄扇を握る。
「あたしらはチームでも何でもねえ。めいめいテキトーに仕掛けるぞ。エラーが出たら、そん時動けそーな奴がテキトーにフォローに回る。ふん、できねえ奴はいるか?」
「答える必要が?」
心底面倒臭そうに号令を出すキセラを、星火はとぼけたような顔で茶化す。
「……ねえな!」
四つの影が、グリムの巨体に飛びかかっていった。
※※※
見ると、キセラ達以外にも戦意を持った新入生が居たようだ。
顔に入れ墨の入ったファウナスの少年や、センブランスなのか景色に溶けるように姿を消しながら移動する少女、巨大なガントレットを構える少女を守るように立ち回る少年。
さっき顔を合わせたゼオラやリリフローラの姿も見える。
それぞれのグループはよく連携を取っているが、しかし。
「ああクソ、逃げ回ってる奴らが邪魔で仕方ねえ! すっげえイライラするぜ」
巨体ながら俊敏に動き回るグリムのせいで、 カバーしなければならない範囲が広すぎる。
猪型のグリムーー巨大な、通称《ボーバタスク》は近くの生徒を一人ずつランダムに狙って追いかけるという行動パターンのようだ。
あっちの少女に近づいては近くの者たちが逃げ惑い、こっちの少年に迫っては周辺の生徒たちが逃げ回る。
「バルサミカさん、僕の武器は遠距離がメインだ。これじゃ射線が通らない。どうする?」
「あたしの能力も、こーいうデカブツ相手だと大雑把な戦法しか取れねえ。逃げてるザコどももまとめてぶっ殺していいならやれるが」
「ダメ! 絶対!」
「んじゃあどーすんだよ。お前が人払いでもしてくれんのか」
「人払いね……ふむ」
阿鼻叫喚の生徒たちを見て、星火はにやりと微笑む。
「人払いは出来ないけど、人目を集めるのは得意さ。奇術師なんでね。……アマレットを頼むよ!」
そう言うと、錐揉み回転をしながら高く飛び上がる。
星火の武器である巨大な棺桶状の箱も彼を追いかけるように飛ぶ。
浮いたまま地面と垂直な姿勢でぴたりと静止した棺桶に、星火は軽やかに一本足で着地した。
「こういうのは、第一印象が大事さ」
大きな火花が飛ぶ。
とともに、星火の足元から、フットライトじみた派手な光が照射される。
棺桶から無数の機械仕掛けの鳩が飛び出し、星火を取り囲む。
フットライトがあちこちに光線の向きを変えると、機械の鳩に反射し、ぎらぎらと輝いた。
緊急事態の中、急に始まった謎の出し物に、逃げ惑っていた生徒たちは呆気にとられている。
が。
「呆気にとられる」ことで、さっきまでてんでんばらばらだった生徒たちの視線は、ただ一箇所に集められていた。
「御機嫌よう生徒諸君! 急に演習が始まったものだね。いやあ先生方も意地が悪い。これから《演習の本番》だと言うのに、こんな大層な《前座》を用意してくるなんて。そう思わないかい!」
この巨大グリムは前座。このあと演習の本番がある。
巨大グリムが出現する直前、ユナカイトから研修の情報を得ていたのだ。
《大講堂での説明のあと、新入生は指定された部屋に移動。ただしその前に、小規模な適性試験を行う》と。
小規模って。
急に降って湧いてきた新情報に、星火を見上げる生徒たちに動揺が走る。
なんであいつはそんなことを知っているんだ、あいつも先生たちとグルなんじゃないか、など、口々に漏らすのが聴こえる。どころか、却って混乱し、各々の判断でその場から逃げ出す生徒もいる始末だった。
(うむむ、ちょっと合わなかったかな……?)
思ったより生徒達の混乱が強い。しかし彼らが落ち着くのを待っている時間はない。
気を取り直し、芝居掛かった大音声でパフォーマンスを続ける。
「諸君、自己紹介が遅れたね。僕は星火・ジャスパー。その名も高きゲッコー・ジャスパーの血を引く、奇術師だ」
こんな時に何言ってるんだ。お前のせいでグリムがこっちに来たらどうしてくれる。
そんな声が聞こえる。
「突然だが、ここで一つ奇術をご覧に入れよう。まあ、いわゆる《消失マジック》って奴だ」
引っ込め。お前もグリムと戦ってこい。
生徒達の苛立ちが募る。
誰かの放った飲み物のボトルが、星火の右頬を掠めた。
※※※
「ちっとやべえんじゃねえのか、アレ」
キセラはグリムを誘導しながら星火を見遣った。思ったより荷が勝つか。
とよぎったその時、後方で避難していたはずのアマレットが、ふらふらと星火のいるほうに歩いていくのが見えた。
「あ、おい! どこいく気だ!」
星火が誘導しようとしている生徒たちと一緒に避難するつもりなのか。
しかしあんな足取りでは、グリムに捕まる。
「ちっ、手の掛かる。おいユナ! 援護しろ!」
「分かってる!」
ユナカイトのブーツの脛あたりからダスト弾がばらまかれる。
それに気を取られたグリムの脇腹を、キセラが切りつける。
鈍い弾力。鋭利な刃も通った感触がない。
「くそお、かってえ!」
しかし、注意を引くことには成功したようだ。グリムはキセラ達に釘付けになっている。
アマレットに襲いかかる心配は、当面なさそうだった。
しかし、当のアマレットの姿は、星火の方に向かう生徒たちに紛れて見えなくなっていた。
「……ん?」
キセラは訝る。
星火の方に向かう生徒たち?
先程まで無秩序に逃げ惑っていた生徒たちは、気づけば星火が孤軍奮闘する辺りを目指して一様に歩をすすめていた。
星火のパフォーマンスに、あの恐慌を収めるほどの力があったのだろうか。
なんだかよくわかんねえが、結果オーライか。
生徒たちが一箇所に集められたことで、グリム周辺は広い空間が空いていた。
キセラはけだものじみた笑みを浮かべると、身体を巡る自らのオーラに意識を向けた。
※※※
何がきっかけだったのかはわからないが、恐慌状態にあった生徒たちは、無事自分のところに集まってくれていたようだ。
人を集める、とりあえずのミッションは達成といったところか。
ボトルが掠めたおかげで少しひりひりする頬をさすりながら、星火は笑みを浮かべる。
「さあ、消失マジックの始まりだ! ただし、消えてみるのはーー諸君の方だけどね!」
身体の中のオーラを解き放つ。
薄く、広く、延ばすイメージ。
放出されたオーラは、集まった生徒たちを覆う、ベールのような形を取った。
あれ、これ、鏡……?
自分たちの姿を文字通り鏡写しにするオーラの幕を見て、生徒たちが驚きの声を上げる。
星火の固有の特殊技能――《センブランス》は、鏡面。
目の前のものを鏡写しにする特性を持った幕を自在に張ることのできる能力であった。
幕の内側にいる生徒たちは自分の姿を見、一方のグリムにはーー
「みんなの前に鏡を張った。これであの愚かなグリムには、諸君らの姿を見ることはできないってわけさ。これにて消失マジック、プレスティッジだ」
生徒たちが安堵の声と歓声を上げる。
途中から妙に生徒たちが素直に誘導に従ってくれたのはラッキーだったが、自分の力だけでこの場を収められたとは思えない。
安心した表情の生徒たちの中に、アマレットの姿も見えた。
状況がわかっているのかいないのか、眠そうにあくびをしている。
僕の力だけでは、この子も守れなかったかもしれない。
複雑な心境ではあったが、目の前の観客たちに、星火は恭しくお辞儀をしてみせた。
僕の仕事はここまで。
さあ、あとは上手くやってくれよ。
※※※
キセラの能力――《センブランス》は、至ってシンプルなものであった。
物体を《裏返す》能力。
伏せられたカードを表向きにすることもできるし、Tシャツを洗濯するときに裏返しにすることだってできる。少し力は使うが、先日襲いかかってきたブレイブブルにしたように、相手の着ている鎧のような硬いものもひしゃげさせることも可能だ。
使い勝手がいいような悪いような。
その能力をキセラは今、
「ははは、久しぶりの大仕事だぜ」
大講堂全体に対して使おうとしていた。
床板に両手をつき、ありったけのオーラを注ぎ込む。
身体の表面から紅色の光が溢れる。
床板一枚を裏返すのではなく、大講堂という容れ物ひとつを丸ごと。
裏返す。
ひっくり返す。
そんなイメージで。
めき……
建物全体が僅かに軋む。
天井が戦慄き、ぱらぱらと埃やら粉塵やらが降ってくる。
その様に、グリムに応戦していた他の生徒たちも困惑する。
まだだ。
もっと空間全体に意識を行き渡らせないと。
更に力を込める。
木造混じりの建築であるから、もっと楽にひっくり返せるかと思ったが、流石に大きすぎる。
まだだ。
まだだーー
そう思った時、キセラは口中に血の味を感じた。
オーラの過剰な放出に、彼女の矮躯が耐えられなくなってきたのだ。
「キセラ‼︎ 範囲を絞れ! 持たねえぞ‼︎」
遠くからユナカイトの叱咤が聴こえる。
はは、ガラにも無く心配してんじゃねえよ、と鼻血を素手で拭い、嗤う。
そうだな。今のあたしにゃあ流石に無理か。
呼吸を整え、再度、講堂に張り巡らせた自分のオーラに意識を向ける。
範囲を絞る。研ぎ澄ませる。
水面に波紋が広がるのを、逆再生するイメージ。
グリムの巨体を囲むようにオーラが集まったとき、ぴいん、と水の入ったグラスを弾いたような音が聴こえた気がした。
今だ。
「おおおおおおらああああああああああ!」
キセラが吼えた。
何かが裂けた音が響いた。
グリムの足元の床が内側に向かって湾曲していく。
歪ませる力に耐えきれなかった建材がひび割れ、裂け、花弁が閉じるようにグリムを捕らえた。
グリムが低く轟く声で悲鳴をあげる。
脱出しようと身をよじるが、歪曲し続ける建材がその巨体にめり込み、動きを封じていく。
めり込んだ建材が骨にまで達した頃、グリムは完全に身動きが取れなくなった。
さて。
「整ったぜ! てめえら、ぶちかませ!!!」
大音声に弾かれたように、戦闘態勢にあった生徒たちが一斉に突撃していく。
めいめいが持てる戦闘技術を尽くして、センブランスを駆使して、攻撃を叩き込む。
勇ましき少年少女たちの鬨の声がコーラスのように。
武器の接触音が打楽器のように。
グリムの唸り声がベースのように。
響き渡る。
無数の稲妻が交差するかのごとき、若き戦士たちの全力を尽くした戦闘風景の中、キセラは鼻歌を歌いながら悠然とした足取りでグリムに向かう。
途中、取り落としたアタッシュケース型の武器《パリンドローム》を拾う。
《パリンドローム》はアタッシュケースのように見えるが、その中にいくつもの武装を隠している。
持ち手のボタンを操作すれば、あるいは、キセラがセンブランスで《裏返せば》、忽ちその裡から刃や銃砲が現れる。
その動作を確認するかのように、仕込まれた武器を出したり引っ込めたり、繰り返す。
やがて、キセラはグリムのすぐ近くまでたどり着いた。
鼻歌を止めた。
「よお、やってるな。あたしも混ぜろよ」
誰にともなく、言う。
そして、嗤う。けだものじみた表情で。
瞬間、《パリンドローム》の内側が回転し、バズーカの砲身が現れた。
轟音。
巨大なダスト弾頭がグリムに接触するや、爆発した。
その反動でキセラは上空に飛び上がる。
天地逆の姿勢になる。
バズーカ砲の砲身が内側に回転すると、今度は機関銃のバレルが現れる。
連続する射撃音。
グリムの分厚い皮膚に雨のようにダスト弾が降り注ぐ。
空中のキセラは身体を回転させ、落下する。
《パリンドローム》から、幅広の刃が出現した。
それをそのまま真下に向け。
落下の勢いそのままーー
グリムの頭部に突き立てた。
狂ったように叫び出すグリム。
その頭頂部に深々と刃を突き刺したまま、身をよじる。
キセラは振り落とされそうになるが、《パリンドローム》の持ち手を強く握り、耐える。
こうも深々と刃身が刺さった状態では、《パリンドローム》の兵装の入れ替えは難しい。
しかしキセラは逆に、自らの《裏返す》能力を、最大出力で《パリンドローム》に込めた。
各所のパーツの隙間から、紅色の光が漏れ出す。
キセラのオーラに突き動かされ、内部の兵装がめちゃくちゃに動き回った。
刃はバズソーのように回転し、グリムの頭骨を抉る。
バズーカの砲身から、残った弾頭が全てグリムの体内めがけて発射される。
機関銃はけたたましく唸りを上げ、小さな弾丸を吐き出す。
火炎放射器が中からグリムの巨体を焚く。
切る。抉る。撃ち抜く。燃やす。焦がす。
穿つ。混ぜる。叩く。砕く。潰す。
《裏返り》続け、回転し続ける《パリンドローム》が、およそ考えられる暴力の全てを叩き込んだ時。
グリムの巨体は崩れ去り、
黒っぽい煙のようなものになって、
消えた。
※※※
その日の全演習が終了した。
巨大グリム撃退後、解錠された大講堂から出た新入生たちは、めいめい指定された部屋でそれぞれの課題をこなし、そこで見られた適正を元に、四人ずつ呼び出される。
そして今、壇上には。
キセラ・バルサミカ。
ユナカイト・アバグネイル。
星火・ジャスパー。
アマレット・D・K。
その四人が立っていた。
「……で? エイズル先生。この四人で、チームなのか? まあ、ユナと組むのは問題ねえが」
「いやいや、冗談じゃないぞ、バルサミカさん! たしかに一瞬連携をとったけども、僕は君たちみたいな社会不適合者とは組まないからな!」
「なんだよジャスパーくん、お前とは一目会った時から運命感じてたのによ。傷つくぜ」
「だからウソだろそれは!」
そんな楽しげな会話を、
「……もう、喋っていいかい?」
エイズル・ヌウの穏やかな声が遮った。
「け、結構です……」
星火はまた涙目だった。
「確かに君たちは、アカデミーの生徒として、模範的とは言い難い。しかし、迷いなく戦闘態勢に入った、危機に対して怯まない心、咄嗟に奇策を講じる柔軟さ。そのどれもが、迫り来る死をくぐり抜ける、ハンターとしての力になるだろう。君たちならではの力を、このアカデミーで磨いていってくれ」
エイズルは穏やかな、しかし力強い言葉でキセラたちを激励する。
星火は目を潤ませながらその言葉を胸に刻んでいた。
「はは、ありがとよ、先生。この四人で組むことに異論はねえよ。面白そうだ」
「僕は絶対に嫌だけどな」
「でもよ、一個質問だ。チームの名前ってのは、色に因んだ呼び方にするのが習わしだろ? あたしのイニシャルは“X“だし、こっちのおチビも”X”ときた。どの学校にも、結構なこじつけみてえな呼び方のチームがあるのは知ってるけどよ、あたしらのは流石に、無理じゃねえか?」
この世界――レムナントでは、過去の災厄から、人々は各々の個性の表現を妨害せしめんとする者への抵抗の証として、決して奪われない個性――色を、個人やチームの名前に織り込む慣習がある。
色は、個人や集団の在りようを表す、祈りの言葉でもある。
“X”。
頭文字になることの極めて少ない文字。
始まることを拒否するような。
決して始まらないような文字。
キセラ・バルサミカと星火・ジャスパー、ふたりの“X”を擁する、このチームの在りようは、いかなるものか。
「朱砂」
「シュー……シャ?」
聞きなれない響きに、キセラは眉をひそめる。
「X-U-X-Aで、シューシャ。朱砂。ミストラルの辺境に伝わる古い言葉で、赤い鉱石を指すそうだ。我々のダスト技術が発達するより昔、化学の前段階の技術体系でも重用された。《賢者の石》とも呼ばれていた。未知の化学反応を起こすかもしれない君たちに、相応しい名前だと思うが」
「はは、赤か。悪くねえ」
キセラは少し楽しそうに笑うと、今しがたチームメイトとなった三人を振り返る。
ユナカイトは面倒臭そうに他所を向く。
星火は困り果てたように天を仰ぐ。
アマレットは眠たそうに視線をふらつかせる。
見事に全員違う方向を向いている様に呆れるが、キセラはそれでいいと思った。
「まあ、よろしく頼むぜ」
嘘つき。
ペテン師。
奇術師。
詐欺師。
そんな四人からなる、当代随一の問題児チーム〈XUXA(シューシャ)〉。
結成の瞬間であった。
朱砂。
赤い色。
それはアマレットの瞳によく似た色であった。
その目は捉えていた。
彼女を射抜こうとする視線を。
如何なる光も逃げ出せないような深い黒。
影そのもののような気配の視線。
アマレットに向って、
エイズル・ヌウが微笑みかけた。