通称「RWBYOC」を主人公とした物語です。
全5話、ひとまずの最終回です。
※同内容の作品を、pixivにも投稿しています。
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「結局のところ、これしかなかったんだよ、あたしは。あたし達は」
目の前の少女はそういうと、瓶のコーラを一口あおった。
「お前とかさ、よく《正しい》《正しくない》って言うけどよ、その基準があるのも、お前がある程度いわゆる《正しい》世界に生きてきたからだと思うぜ。屋根のついた建物で、クッションのある場所で寝られて、決まった時間にメシが食えて、その辺を歩いてても、滅多に盗まれたり犯されたりしない、《正しい》世界にな」
手元のフライド・ポテトの入った袋をごそごそと弄る。中身が足りなかったのか、いきなり私のチキンウィングに手を伸ばして、ばりばりと食べ始めた。
「まあ、安全なことを《正しい》って定義づけるのは分かるぜ。しっくりくる。生きて、産んで、増えれば、生き物は安泰だからな。生き残ったり、存続することが《正しい》ってのは、たぶん間違ってないんだろーぜ。
でもそれは、社会のあり方にとっての《正しい》だ。それが、あたしとか、お前とか、個人の人生についてだと、どうだよ。
お前はぼちぼち金持ちの家に生まれて、色々あったんだろーけど、物質的な不自由はなかっただろ? で、お前はそう生きてきた中での《正しさ》を知ってる。そう生きてきた上で、物事の《正しい》《正しくない》をお前なりにジャッジしてるんだろ。 そんなお前から見たら、そりゃああたしは《正しくない》んだろうさ。騙すし、盗むし、殺すしな。
でもよー、繰り返すが、あたしにはこれしかなかったんだよ。あたしがーーあたし達が生き残って、存続するためにはこれが《正しかった》んだ。
痩せっぽちの犬が生きるために可哀想な小鳥を食い殺してもよ、それは《正しくない》ってこたあねえだろ?」
チキンウィングを食べきってあっというまに骨だけにすると、ペーパーナプキンを10枚くらいの束でごそっと持っていく。
真っ赤な大きなマウンテンジャケットに食べかすとか塩とかが落ちてないか、やけにしっかり見たあと、指先を念入りに拭くと、こう言った。
「結局のところ、納得できてるかどうかなんだよ。あたしにとって一番大事なのは《カネ》と《自由》だ。それが増えることが、《正しい》。前向きだろ? そのためになら、どんなことだってする。で、お前にとっての《正しい》が、人と仲良く、とか、平和に、とか言うんなら、それはそれでいいのさ。ただし、お前が納得してればな」
納得。
私はいつだって《正しく》あろうと行動してきた。
力及ばずに人に迷惑をかけたり、好きな人に蔑まれたり、良いことはあまり、なかったけれど。
納得できたことなんてない。でもそれは、私の能力が足りないからで。
「どーだかね。あたしから見れば、お前のいう《正しい》ことってのはいつも、誰かに気に入られるためにやってることみてえだ。でもそれを、必死こいて自分のためだと言い聞かせたり、塗りつぶし続けてるみてえに見えるぜ。笑えるな。お前、自分にとって何が《正しい》のか、ちゃんと考えたことねえんじゃねえの?」
私のお金でご飯を食べておきながら、ひどい言い草だ。
なんでこんなこと言われなきゃいけないのだろう。
私は、この人をーーキセラ・バルサミカを捕らえにきたと言うのに。
「――今だって、あたしを縛り上げてアカデミーに報告すりゃあいいのに、こんなに喋らせてよ。何が正しいか、なんて考えてるから、お前みたいに優しいやつは色んな奴のことを想像しちまって、何もできなくなってんだろ。そうじゃなくて、お前はお前のことだけ考えろよ。お前しかいない、お前だけの世界で、お前が一番満足できることがなにか、考えろ。どーせ人間は一回しか生きられねえんだ。死ぬほど満足して死ぬしかねえじゃねえか」
黄色いサングラス越しの目が少し細くなる。
こんなお説教までされるとは。
なんでここまで言われなきゃいけないんだろう。
なんでここまでーー言ってくれるんだろう。
「さて、ごちそーさん。うまかったぜ。あたしはもう行く。ユナとかを探しに行かなきゃいけねーからな。お前は?」
単に、まだここにいるのか、とか(まだ食べきっていないし)、この後どうするんだ、とか、それくらいの意味で言ったのだろうが、その「お前は?」は私にはやけに鋭く感じられた。
私は、どうしたい?
《これしかない》まで、考えて考えて、考える。
家も学校も関係なく、私たる私が、いましたいこと。
正直に。大胆に。
傍若無人に。唯我独尊に。
最高に我儘になったら、私はーー
「わたっ、私は、キセラさんとまだアカデミーで会いたい! おなじアカデミーの生徒として! ……お友達として」
急に蛇口を全開にしたみたいに、不恰好な言葉が私の口から溢れ出た。
顔が熱くなって、心臓がどきどきする。ぜんぜんうまくしゃべれなかったし。
でもたぶん、これが私の《これしかない》。
しかし、言い終えた時にはもう彼女の姿はなかった。
「もう、ひどいなあ……」
シロップを入れたアイスティーを少し飲んで、自分を落ち着かせる。少しだけ。
ふう、とため息をついていると携帯端末(スクロール)がメッセージの着信を知らせてきた。
私たちにキセラさん達――チーム《XUXA》の追跡と捕獲の指令を出してきた、エイズル先生からだった。
[街にはいたかい? 彼女たちは]
少し考えて、返信。
[先生、申し訳ありません。見当たりません。目立つ風貌だから、目撃情報があるかと思っていたのですが。もう少しここで情報を集めてみます]
これは、私が初めてついた嘘だった。
――かもしれない。
※※※
「わたしが欲しい、とか言ってたよね? だったらかかってきなよ」
アマレットは腰に手を当て、挑発する。
《オアシス》の仮面をつけた闘士たちは一瞬ためらいを見せたが、すぐに武器を手にアマレットに殺到した。
「待て、同志たちよ! 近づいてはーー」
エイズルは闘士たちに警告するが、その進撃は止まらない。
その様を見てアマレットは扇を口元に当て、目だけで嗤う。
すると、身体の表面から赤金色の光が溢れ出した。
その光は煙のように空気に溶け、周囲の《オアシス》闘士たちにまとわりつく。
しかし、その光に怯むことなく、闘士たちはアマレットに攻撃を加えるーー
「アマレット!!」
星火は絶叫し、駆け出す。
が。
アマレットに近づいた数名の闘士たちは急に糸が切れたように脱力し、そのままふらふらと周囲を歩き回っていた。
「な、何だ……?」
数秒、闘士たちはあたりを不規則に歩き回ると、再び武器を構えた。
――同胞であるはずの《オアシス》闘士達に向かって。
そしてそのまま、同士討ちを始める。
現れた10名程の《オアシス》仮面の闘士たち。
その半分が、一瞬にして敵に回ったのだ。
アマレット・D・K。
そのセンブランスは《傾城》。
彼女のオーラに触れたものを一定時間、言いなりの操り人形にする能力であった。
「最初は《魅了》とか呼んでたんだけど、何番めだったかなあ、私を《保護》してくれたオジさんがつけてくれたんだよ。《傾城》って。ちょっとかっこいいでしょ?
まあ、わたしを性愛の対象にするセクシャリティの人にしか効果ないんだけどね」
「……これほどとはね。アマレット・D・K」
「《オアシス》、メンバーの多様性足りてないんじゃないの? この世は男と女しかいないわけじゃないんだよ」
エイズルは引きつった笑みを見せる。
「下がれ! 同志たちよ! あの娘に近づいてはいけない。距離をとって無力化するのだ!」
正気を保っているように見える闘士たちはその号令に慌てて後ずさりし、武器を持ち替えた。
「ほら! 何してんのおバカさんたち! さっさと援護してよ!!」
アマレットの声に弾かれたように、チーム《XUXA》は走り出した。
「あいつの方が向いてるんじゃないのか、リーダー」
「うるせえよクソメガネ」
「僕は歓迎」
星火は空中にオーラを放ち、アマレットの《ナインテイルズ》に《鏡面》を張る。
「アマレット! これで君の攻撃はカンタンには見えない! 薙ぎ払え!」
「ふん、悪くないねーー行けっ!!」
鏡を纏った、見えない刃が四方八方――正確には九方向から襲いかかる。
ただでさえ夜間で視界が悪い中、カモフラージュが施されたそれは、集団戦闘においてはえげつないほどの効果があった。
どこから攻撃が飛んでくるかわからない。
ひとつひとつが致命傷になる攻撃ではないにせよ、その心理的な圧力は陣形を乱すには十分すぎた。
「おいおチビ! 狐女のアレ、あたしたちにもどこにあるか分からねえじゃねーかよ!」
「アマレットの安全が第一だ」
「味方の武器にやられるなんてのは御免被るぞ」
「……味方の武器、ね。ねえキセラ、ユナカイト。こういうのはできるかい?」
「ああ?」
どこから短剣が飛んでくるか分からない、それじたいに恐怖はない。
そんなことは《オアシス》の闘士になるための訓練で慣れている。
はずだった。
味方の半数が急に敵の戦力になり、自分たちに武器を向けてくるという想定外の事態が、思考力のリソースを食いつぶしている。
そんな状態に加えて、敵の見えない武器の戦術。
思考力が万全の状態であれば冷静に対処できるものを。
歯噛みしながら彼は残弾数を確認するため、自分の銃に目を向けた。
ない。
武器がない、訳ではない。そこには自分の狼狽した顔が映っていた。
鏡。自分の手にした武器から前腕にかけて、メッキ加工をしたように《鏡面》が貼り付けられていた。
慌てて空いている方の手でかきむしるが、なんの効果もない。
思考が完全に混乱しそうになる中、辛うじて残った理性が「落ち着いて敵を撃て」と命じる。
混乱を振り払うように視線を前に向け、敵に狙いをつける。
まずは、同志エイズルが指示する標的のひとり、濃いピンク色の髪をした、小柄なーー
多い。
濃いピンク色の髪をした、小柄な女生徒。確か名前は《キセラ・バルサミカ》。
それが、視界の中に、何人もいた。
自分と同じ方向を向き銃を撃つもの、こちらに向かってくるもの、何人もの《キセラ》が。
恐怖と混乱に支配されそうになった彼は、自分を守るものーー手にした銃に縋るように視線を向けた。
鏡面が貼られたその銃には。
憔悴した表情の《キセラ・バルサミカ》の顔が映っていた。
「うっ、うわああああああ!」
銃をめちゃくちゃに撃つ。弾丸は明後日の方向にばらまかれ、夜空に消えていった。
「はは、これぞプレスティッジってやつだ! 上手くハマったね、ユナカイト」
「ふん、この大人数をブスに《偽装》するのは苦痛でしかないがな」
「ぎゃはは、あたしそっくりの美少女だらけだ。天国みてえじゃねえか」
敵の武装を星火の《鏡面》で覆い、武装の状態を確認できなくなるように撹乱。
さらにユナカイトのセンブランスで敵勢力の全員をキセラに《偽装》し、追い打ちの撹乱。
アマレットの見えない《ナインテイルズ》が方々から襲いかかるという状況に加えて二重の撹乱を行うことで、相手のチームワークと判断力を極限まで奪う作戦。
狙い通り、《オアシス》闘士たちは恐慌状態になっている。
そこにーー
「こいつで仕上げだ。――ぶっ潰れな!!」
キセラが渾身のオーラを込めて足元の建材を広範囲で《裏返す》。
次々と悲鳴が上がり、建材に挟まれ気を失った闘士たちの身体が転がっていた。
許容量の限界近くまでオーラを瞬間的に使ったキセラは鼻血を手で拭うと、嗤った。
「悪くねえな、チームってのもーー。さて、先生よ、立ってるのはあんただけだ。どうする?」
エイズル・ヌウはしばらく俯いたままなにかを考えると、姿を消した。
※※※
「エイズル君、あまり騒ぎを大きくしないでくれ。あのお方のシナリオに障りがでるようなら、私は君を庇いきれない」
「……私は《レリック》などには興味はありません。私が望むのは差別のない世界のみです。その実現のためなら、セイラムの思惑にも乗りましょう」
「……! 軽々しくその名を口にするのは……!」
「しかし、《ホワイト・ファング》のように子飼いになるつもりはない。あれは、破壊活動で溜飲を下げるだけの集団に成り下がった。私はあくまで、平和を目指します。破壊の先にしか実現し得ないものであっても」
「であれば、まずはアカデミーの平穏の維持に尽力してくれたまえよ。なんだったか、チーム……」
「XUXA」
「掴まれたのだろう。ならば、除いてもらわなければ、困る。私もーー君も」
「ならば除きましょう。どうやら彼らは、後ろ暗いことがあるようだ。そう、難しいことではないでしょう」
「そうか。どうするのだね」
「学長。お手を煩わせてしまい恐縮なのですが、ミストラルのプロハンターネットワークに、今から申し上げる情報を流してください。あとは私が」
※※※
「お嬢! いけません。危険です! 今朝のニュース、見てないんですか!」
「いや、離して! 嘘よ! キセラさん達が、こんな……!」
ゼオラ・ウルアリアスが率いるチーム《ZBLA(ゼブラ)》の部屋に、朝から言い争う声が響き渡る。
その声に起こされ、目をこすりながらリリフローラがベッドから身を起こした。
「ふああ、おはよ、ゼオラ、ベジョータ。……どしたの?」
「どうしたの、じゃないわ。スクロール見てみなさい」
「……?」
リリフローラは枕の下敷きになっていたスクロールを掘り出すと、アカデミーからの緊急メッセージが来ていたことに気づく。
「ウソ……この映像って」
メッセージにはウェブサイト上の動画へのリンクが貼られていた。
そこには。
チーム《XUXA》の面々が、アカデミーの教師達と争う場面が克明に映っていた。
星火・ジャスパーがエイズル・ヌウ先生に彼の武装をぶつける様。
キセラ・バルサミカが同じくエイズル先生に殴りかかる様子。
ユナカイト・アバグネイルが火器を発砲する場面。
アマレット・D・Kが、ラスティ・ネイル先生を斬りつける瞬間。
その一方的な暴力がありありと捉えられていた。
「ラスティ先生は顔面を斬りつけられて大ケガ。片目も失明は免れないだろうって……」
「ウソだよ! たしかにアイツら、乱暴なところはあるけど、理由もなくこんなことするはずないよ! ねえ、ゼオラ、あんたもそう思うでしょ⁉︎」
「思います! だから、確かめに行きたいの! 直接会って、話を……!」
「リリ。これ見て。新しいメッセージが来てる」
いつのまにか起きていたアリカンテがぼさぼさの頭を掻きながら自分のスクロールを見せてきた。
メッセージの表示。
エイズル・ヌウ先生からの。
「これ……!」
その場にいた全員が慌てて自分のスクロールを確認した。
その内容に、チーム《ZBLA》の面々の表情は凍りついていった。
・今朝の報道にもあったように、アカデミー職員に対する悪質な暴力行為の科により、我がアカデミー所属のチーム《XUXA》は解散および退学処分とする。
・また、学内より既に逃亡していることが確認できたため、ミストラル全域に指名手配。
・ミストラルのプロハンターネットワークに追跡および捕縛の任務が出されている。
・チーム《ZBLA》にも、エイズル・ヌウからの直接の指示として、チーム《XUXA》の追跡を命じる。
画面を凝視したままのゼオラの肩に、ベジョータはそっと手を置く。触れたその肩は震えていた。
「お嬢……流石にこの任務は、お嬢にはーー」
「ううん、ありがとう、ベジョータ。でも、私もあの人たちを追いたい。直接会って、確かめたいの。何があったか。みんなを巻き込んでしまうけれど、私は行きたい」
「……ゼオラ、少し強くなったね。あたしはもちろん、着いて行くよ。ゼオラがリーダーだもん」
「オレも。リリを危ない目に合わせたく、ない」
チームを組んで一週間足らずではあるが、この時《ZBLA》は初めて同じ目的に向かって行動することになった。
彼らは程なく思い知ることになる。
たった4人とはいえ、チームを維持することの困難さと、
チームという繋がりの脆弱さを。
「……行きましょう」
ゼオラが、弱々しく笑った。
※※※
物々しく武装した集団が通り過ぎるのが、路地から見える。プロハンターのチームだろうか。
「……行ったな」
「見つかるかと思った……。ねえ、ユナカイト。僕ら全員ずーっと《偽装》しとくとか、できないの?」
「俺のオーラが無尽蔵ならとっくにやってる。そう上手くいくか、馬鹿野郎」
「星火くん、あんたのマント頂戴。これ以上ここにじっとしてたら、肌に傷がつく」
ゴミだらけの路地裏で、チーム《XUXA》は息を潜めていた。
「これからどうするんだい、リーダー。僕たちミストラル中のお尋ね者になっちゃったよ。ああ、全国区で有名になるなら、奇術で有名になりたかったなあ……」
「うるせーよ、おチビ。どうするもこうするもねーだろ」
「ああ、やることは決まってる」
「え? なに、どうするの」
ゴミ溜めで、キセラは立ち上がる。
その勢いで、近くにあった生ゴミなどがばらばらと散った。
アマレットが露骨に嫌そうな顔をして、星火のマントを引っ張って身体を拭く。
「ちょっと、きったない! 何すんの、キセラ」
「ぎゃはは、悪い。そーだな、きたねえよなあ」
でも、そんなのは慣れっこだ。
ずっと昔から、汚いのも、苦しいのも。
馬の死体に挟まれてたころよりは、だいぶマシだ。
見上げると、建物の間から、狭い青空が見える。
壁と壁に挟まれて、一本の細い線のような青空。
キセラはそれを、指でなぞった。
「……まあ、これしかねえよな」
「何やってんの? キセラ」
「うっせーぞ星火。考え事してたんだよ。あたしは賢いからな」
「キセラ。お前の考えそうなことは大体わかるーーが、話せよ。決めたんだろ?」
ユナカイトを一瞥し、にやりと笑う。
そうだ。これしかない。
「ああ、決めたぜ。おめーら、分かってると思うが、状況は最悪だ。連中に見つかりゃあ、まあ、怪我じゃすまねーだろう。だからよ、あたしらも連中をタダだすまさねえ」
「……え?」
「決まってんだろ。やり返す。ぶっ殺す。あたしらをナメたこと、死ぬほど後悔させてやる」
少しの沈黙。
しかし、それはすぐに、少しずつ崩れていった。
笑い声で。
「ぷっ……くっくっ……はははははっ」
星火が堪えきれず笑い出した。
アマレットも口を覆って肩を震わせる。
ユナカイトは目を閉じ、にやりと口の端を歪めている。
「あー笑った。でもキセラ、どうするの? 具体的には」
「馬鹿かよお前は。あたしらチーム《XUXA》、まだできて間もねえけどよ、やりかたは決まってるじゃねえか」
少しだけ不思議そうな顔をしていた星火は、すぐに得心がいった顔をする。
「……そうだね。決まってた。――いや、《決まってない》って、決まってた」
「ひょっとしてアレ? めいめいテキトーに仕掛けて」
「そうだ。どっかのバカがエラーを吐いたら」
「テキトーにフォローする、だね」
にやりと、キセラが嗤う。
「ああ、そうだ。だから、あたしらは一旦ここでバラバラになる。逃げも隠れもする。ただし、その後でかならず仕掛ける。連中をぶっ殺すためにな」
「了解だ、リーダー。まあ、こんな目立つ見た目の奴らが固まってるだけでやりづらいからな」
「まあ、そうするしかないでしょうね。でも、星火くんはわたしと来ること」
「え! いいの、アマレット……?」
「身の周りのめんどくさいことやってくれる人がいないとストレスだからね」
「使用人かよ……」
それぞれ、いつのまにか立ち上がっていた。
それぞれ、違う方向を向きながらも。
「また集まるタイミングも、決めねえ。それぞれが連中をぶっ殺す算段をつけたら、テキトーにそれぞれで仕掛ける。それで十分だ。ただしーー」
四人の視線は、交わらない。
「死ぬなよ。お前らのことはーーそこそこ気に入ってる」
同時に歩き出す。
しかし、別々の方向に歩き出したから、お互いに見えなかった。
チーム《XUXA》四人ともが、笑っていたことを。
不敵で、邪悪で、けだものじみた笑顔で。
嘘つき。
ペテン師。
奇術師。
詐欺師。
そんな四人からなる、当代随一の問題児チーム〈XUXA(シューシャ)〉。
それは、瞬間的に最も有名になり、そしてヘイヴン・アカデミー史上――
最も早く解散したチームの名前である。