総武高校の弟達   作:スポポポーイ

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第3話

「待てぇい、待てえいぃ……。あいや、待たれぇえええい!!!」

 

 そう叫びながら、荒々しく開かれた扉からズカズカと部室へ足を踏み入れた一人の少年。

 現れたのは、材木座……ではなく、材木座を二回りくらい小型化して愛嬌を足してデフォルメしたような……それもう材木座要素残ってねえな。だってアイツに愛嬌なんてないし。

 

「は、はろはろー……」

「姫菜っ!?」

「海老名さんが一緒に来たということは、そこの彼は……」

 

 そう、どちらかと言えば海老名さんを男にして、少し幼くしたような小太りの少年……もう、これほとんど答え言ってるよな。これがアンサーだろ。

 

「ああぁ……、やっぱり来やがった」

「クソッ、一葉(かずは)が邪魔するから……」

 

 どうやら顔見知りらしい一葉と大志。新たに現れたソイツを苦い顔で出迎えた二人が、忌々しそうな顔で言葉を投げている。

 一瞬、喧嘩でも始まるのかと警戒したが、すぐにそれは杞憂であると思い直す。この三人が醸し出している雰囲気が険悪という感じではなく、むしろ気心が知れた仲のように感じられたからだ。

 

「ちょっと、一葉も大志もその反応酷くない? 僕、打たれ弱いから泣くぜ? ウォンウォン泣いちゃうぜ?」

「泣けよ」

「喚けよ」

「おおぅ、辛辣ゥッ!?」

 

 何なんだろう、このズッコケな三人組……。三人揃ったら面倒臭さが天元突破した気がしてならない。

 

「あんたも…弟いたの?」

「……不肖の弟、だけどね」

 

 驚愕を露わにする川崎からの問い掛けに、不承不承といった感じで頷く海老名さん。

 いつも飄々としている彼女には珍しく、どんよりと疲れたような表情をしている。おそらく先ほどの川崎への返答も誤用ではなく、そのままの意味で使ったのだろう。だって眼鏡越しでも分かるもん。海老名さんの目が俺並みに濁ってるわ。

 

「むむむっ!」

 

 そんな会話が聞こえたからだろうか、未来から来た青いネコ型ロボットが友達な国民的認知度を誇る小学生と同じ縁なし丸メガネをクイッと中指で押さえ、最後の乱入者たるコヤツは口を開いた。

 ちなみに”最後の”というところで、どこぞの遊戯部のS君が頭を過ったが一瞬過ぎて誰なのか思い出せないので気にしないことにした。フリじゃないぞ、フリじゃないんだからな!!

 

「……先輩が、ヒキタ…いえ、比企谷先輩ですね?」

「そ、そうだが……」

「僕はそこにいる海老名姫菜の弟で、名を海老名日向(ひなた)と申します。今日は、比企谷先輩に折り入ってお願いがあって参りました」

「……願い事ならちゃんと星が入ったボールを七個集めてこい」

「そこを何卒、どうか…どうかここはぁーーーっ!!!」

 

 そう叫ぶなり、俺の前まで移動した日向が徐にしゃがみ込む。

 瞬間、ゾワリと背筋を撫でる悪寒。直感する。これは…この体勢は……俺の十八番であり、いまや禁じ手と成り果てたあの……ッ!?

 戦慄する俺を置き去りにして、日向の準備が整った。整ってしまった。その体勢から繰り出される技は──

 

 

「比企谷先輩……いえ、兄上! お願いですから、家の姉を貰ってあげてください!!」

 

 

 ──初手、土下座。何なら靴舐めも余裕でやる勢いだった。

 こ、こいつ……、負けることにかけては最強を自負する俺に、あろうことか土下座を決めやがっただとっ!?

 

「……ヒキタニくん、無視していいよ」

「海老名さん……」

「折角の僕のお願いを無視してなんて、何を言うか姉上! 僕は姉上のことを思って……」

「無視して、これの存在」

「存在を否定されたっ!?」

 

 実姉である海老名さんからの辛辣な扱いに愕然とする日向。そして、そんな日向を指差してプギャーと爆笑する大志と一葉。

 どうでもいいが、大志は体育会系敬語キャラだと勝手に思ってたけど、同級生相手ならそんな砕けた態度もするのな。なんとなく新鮮というか、意外な一面を見た気分だ。

 俺がそんな風に大志を見ながらのほほーんと唸っているのとは対照的に、海老名さんが日向を見ながらどよよーんと呻くように溜息を吐く。

 

「……はあ。日向に奉仕部の部室に案内してくれってお願いされたときに気付くべきだった」

「腐ってやがる。遅すぎたんだ……気付くのがwww」

 

 頭痛を堪えるように項垂れる海老名さんの周りをスキップでグルグル回りながら、日向が指で突いて煽るようにおちょくる。なんと言うか、切替が早い奴である。そんでもってリアルで『ねぇねぇ今どんな気持ち?』を見たのは初めてです。うわぁ……。これはウザい……。

 どうやらそう思ったのは俺だけではないらしく、スッと真顔になった海老名さんが呆れたように様子を見ていた川崎へ懇願した。

 

「……ねえ、サキサキ。ちょっと弟交換しない?」

「絶対ヤダ」

「そうか、その手があったか! なあ大志。ウチのクソ姉とお前の姉ちゃん交換しねえ?」

「断固拒否!」

「川崎姉弟の人気に嫉妬なう」

「日向は黙って」

「日向は黙れよ」

「僕の扱いが酷いっ!?」

 

 海老名さんと一葉からの扱いに涙目で憤慨する日向だが、自業自得だと思うの。

 俺が割と本気で、もうこいつら帰ってくんねーかなと考えながら遠い目をしていると、それまで霊圧が消えたかのように存在感の無かった一色が復活を果たした。

 

「もがもが…んくっ……んはぁっ!? よ、ようやく食べ終わったーーー!」

「あ、姉貴まだ食べてたんだ。おかわりいる?」

「いるかぁ! 水分ゼロでマフィンが二つとか軽い拷問だったんだからね!?」

 

 喧喧囂囂と部室で繰り広げられる姉弟によるコント劇。

 部室に勢揃いした川崎姉弟と一色姉弟に海老名姉弟という総勢六人が織りなすこのカオス。もはや混沌から這い寄ってくるはずの神様が裸足で逃げ出すレベル。なんだったら俺も今すぐ逃げ出したい。

 けれど、現実というのはいつだって不条理で理不尽で残酷なのである。逃亡を図ろうとする俺を嘲笑うように、ひしひしと真横から感じるプレッシャーの正体。途中から命の危機を感じて、あえて触れないようにしていたけど、それももう限界だろう。とりあえず、あれだ。まずはこっちをどうにかしないと拙いと俺のサイドエフェクトがそう言ってる。

 はちまん、おうちに帰る!!! と泣き叫びたくなる衝動をなんとか堪え、戸塚が俺に向かってにっこにこにーと笑ってくれる姿を想像してどうにか自分を奮い立たせる。恐る恐るそちらに視線をやり、やっぱり見なければ良かったと即座に後悔した。

 

「……ねえ、ゆきのん。こいつら、どうしたらいいと思う?」

「そうね……。とりあえず、全員の口にマフィンを詰め込めばいいのではないかしら」

「じゃ、あたしがいろはちゃんと姫菜たちをヤるね」

「そう、なら私は川崎さんたちをヤるわ」

 

 待て待て待て!

 雪ノ下、マフィンを制圧の手段に使うのは止めろ! 

 由比ヶ浜、ハイライトが消えた瞳でマフィンを掴むんじゃない!

 

 

 ふぇぇ…小町ぃ……お兄ちゃん一人じゃツッコミが足りないょぉ……。

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