パタリと足が崩れ落ちる。
腰が抜けたのだろう。
乗り切ったのだと安心すると、ブワッと汗が一気に放出した。未だ震えが治らない自らの身体を両手で抱く。それを深く深呼吸をしてどうにか落ち着かせる。
なんだかよく分からないが、あの鬼らしき塵はしっかり死んでくれたみたいだ。力強く掴まれたせいで腕が鬱血しているし、未だにジンジンと痛みが治まらない。一発殴っておけばよかったかもしれない。
それにしても、まさかこの世にあんな塵が存在していただなんて思いもしなかった。身体中に棘生えてて寝づらくないのだろうか。いや、もしかしたら鬼に睡眠は必要ないのかもしれない。知らんけど。私があんなに気色の悪い鬼だったら絶対に自害してるだろう。
呼吸を整えた所で、現状把握に努める。
まず一つ、めっちゃ明るい。
反応が遅れたが、私が啖呵を切った瞬間から何か強い光が私の頭上から降り注いでいるのだ。
空を眺めてみると月があったであろう場所へと太陽がぐんぐんと登っていた。しかも月が沈んでいく方向から登ってるので、某天才一家のような状態だ。月は月でちゃんと出てるし、意味分からん。終末だろうか。もしくは世紀末か。
もう一つ、めっちゃ暑い。
もうやばい。やばすぎてやばい。多分、というか確実にあの太陽モドキのせいだろう。
さっきは寒くて死にそうだったが、今は暑くて死にそうだ。こんな極端な気温変化に晒されたら風邪を引いてしまう。
まだ薄着だったから我慢出来たが、冬着だったら確実に脱いでいた。嘘である。私は肌が弱いので直射日光が当たると皮膚が荒れるのだ。ファンデーションも持ってきてないのでこのままでは私の玉の肌が見るにも耐えない事になってしまう。
あれのお陰で助かったのだろうが、正直邪魔である。もういらんし、消えてもいいよ。……あ、消えた。
ある程度予測はつけていたが、やはりあれは私の意思で出していたのか。いや、もしかしたらたまたまかもしれない。何度か試しておこう。
……うん、たまたまではないようだ。
一気に訳の分からない事が起こりすぎて一周回って驚かなくなってきてしまった。いや、実際のところ驚くよりも不明点が多過ぎるため困惑しているだけなのだが。
中でも一番の筆頭はやはり背が縮んでいる事だろう。幼くなったと言った方が良いか。質量保存の法則がどうとか、頭の良い事言ってみたいが三年も営業をしていたら大学の受講内容なんてすっかり忘れてしまった。というかそんな事どうでも良いのでどうにか元の年齢に戻らないだろうか。正直これが一番困るのだ。
何故なら私は一介の社会人。まだ一週間の始めの方なので明日も仕事があるのだ。行きたい行きたくないとか、責任だのどうとかではなく、単純にお金を稼げない事が困る。せめて一報を入れたい。
とは言いつつ、これは退社案件だろうと確信している。何せ10歳前後まで幼くなってしまったのだ。世間体的にこんな子供を働かせる訳にはいかないだろう。そして会社から解放された私は人類初物理的に若返った少女(笑)としてギネス世界記録に認定され、国からの支給金で今後は一生グータラ過ごすのだ。
証拠がある訳ではないが記憶はある。昨日も帰りにマンションの人に挨拶した覚えがあるのでアリバイもあるし、両親の存在もある。きっと幼い頃の私の写真もあるだろうし、向こうも昔の私の姿を忘れてはいない筈だ。それにDNA鑑定を受けたら一発だろう。何故若返ったと問われれば知らんとしか答えようがないのだけども。
まぁそういうことは国に任せるとして、そもそもあの太陽はなんなのだろう。あんなのどこから持ってきているんだ? というか本当に太陽なのか?
念じれば出てきて消えろと思えば何事もなかったかのようにサッと消える。ヒルデガーンの親戚か何かだろうか。
……万が一、いや億が一にもないだろうが……実は裏側から移動させてきてるとか?
だとしたら全くもってシャレにならない。全人類滅亡待った無しだ。それこそ終末だ。ラッパが吹き荒れる。ただでさえ持て余しそうだというのに、どうしたものか……。
と言いつつ、正直なところそこまで悩んでいる訳でもない。というのもこんな宇宙規模なことを私程度が何を考えたところでどうこうなる訳でもないのだ。開き直って今後とも活用させてもらおう。
鬼は太陽を出せばブッコロ出来る事が分かった。
予備動作もいらないから問答無用でしゅんころ出来るし、周りに人がいたとしても念じれば出し入れ出来るので私がしたと気付かれることはない。
おまけに洗濯物もよく乾く。
おや、もしかして意外と使える……?
他に何かないの? と太陽を出して心の中で聞いてみる。
すると太陽は怪しくフレアを蠢かせて、その後いくつもの光をまるで流星群のように私の後方約100m先の地面を穿ち始めた。
ドドドォンと戦車の砲撃のような音が山中に響き渡る。中々のど迫力である。
近付いてみるとクレーターが沢山出来ていた。熱いし暑い。ジュウジュウと溶岩のような物体が土や石を溶かしている。確実にこれがたった今降らせたやつだろう。これがあればサバイバル生活であっても火には困らない。どう持ち出すかとか地形壊すとかいう問題は別として。
他にも色々と聞いてみると、割りかしバリュエーションが豊富で、無差別太陽拳(私含む)だったり、更に気温を上げたりする事も出来た。前者はともかく後者は全く要らない。
思わず殺○ぞと呟いたら元の気温(それでも暑い)に戻った。意思疎通が出来てる事には微塵も疑問を抱かなかった。なんとなく自分自身と対話しているような気がしたのだ。
さて、太陽の事も把握出来たところで、そろそろ警察署を探しに歩き始めるとしよう。麓までは辿り着いたので後は平坦な道をひたすら真っ直ぐ進むだけの簡単なお仕事だ。
……と思いきやここで問題が二つ発生した。
理由は単純。地面が熱いのだ。
塗装もされていない砂利道ではあるが、太陽を出しすぎたせいか結構な熱を持ってしまった。
おまけに私は裸足だ。怪我の他に火傷までしたくない。
二つめはただ単に暗くて怖い。
鬼に出くわして何を今更って話だがそれとこれとは話は別だ。怖いものは怖い。
さてどうしたものか、と呟くものの私の意思は既に固まっていた。無論、待機である。しかし、待機したとしても怖いのは変わりないのでどうにかならないかと太陽に尋ねる。するとあいつは再び空でパッと輝き始めたので私は慌てて消えるように念じる。お前はバカか? 暑いっつってんじゃんかよ。よくよく考えずとも周りに住んでる人がいたら大迷惑なのだ。規模が規模なのでSEKAI NO OWARIだと勘違いしてしまう人もいるかもしれない。思わず電灯感覚で使っていたが普通にダメだと思う。
野球のボールくらいにならないかと聞いたら無理、と言われた気がした。もっと小さくなれば利便性が高くなると思ったが、そう上手くはいかないようだ。とはいえこれに助けられたのも事実。文句は言うまい。
「……女の子? ねぇ貴女、こんな時間にそんなところで何をしているの?」
こんばんわ死ね! 太陽拳!!!!
「キャッ!?」
ぐああああ!? ……し、しまった、太陽拳は無差別攻撃だった!
少しの間蹲り、そのあとはすぐに山の中へとジグザグに駆け出した。咄嗟に太陽拳を繰り出せたのは、色々と考えつつも警戒だけは怠っていなかった為だ。
すると逃げる私に気が付いたようでその声の主は慌てた様子で私の事を追いかける。なんとなく声をかけた知らない人間が逃げた場合、それを追いかける人は普通はいない。しかし、この声の主は追いかけてくる。
つまり、私に用があって近付いてきたという事だ。なんの理由かは知らない。私を心配しての事か、向こうが迷子になったのか。──もしくは、私という肉に用があるのか。
「えっ!? あ、ちょっと待って!?」
待てと言われて待つ者がおるかヴァカめ!
膠もなく返事を返す。思わず立ち止まりそうになるが、綺麗な声で騙そうたってそうはいかない。私は今日明日は自分に声をかけてきた奴は全員鬼だと思って行動すると決めたんだ。
「女の子がそんな野蛮な言葉遣っちゃダメよ!」
塵な上に阿婆擦れとは救いようがない! 私に指図をするな!
「ご、ゴミ!? アバズレ!?」
ガーンとでも擬音が付きそうな声で言葉を繰り返す。どうせこの声の主も鬼に決まっている。聴き惚れる様な美しい声だろうが、鬼であれば先と同じ様にその姿はきっと醜悪だ。その声を餌にすれば男など一も二もなくホイホイついて行ってしまうのであろう。やはり塵じゃないか! 塵が塵と言われてどうして傷付く? 自覚症状もないのか可哀想に。生まれてきた事自体が可哀想だ。
「待って! 本当に待って頂戴! 私、怪しい者じゃないから!」
怪しい奴は大抵そう言う! それにこんな時間にこんな場所で一人でいる方が怪しい!
「それさっき私が言った言葉じゃない!? 寧ろ私は怪しいのを探す方だから! 貴女の話を聞きたいだけだから!」
……って事はやっぱり私の事じゃないか! 見た目は幼い少女が深夜に一人で人気もないところにいるなんて明らかに怪しすぎる。やはり足を止めないで正解だった。
──それに、もしもその言葉が本当の事だとしても、話したところで誰も私の体験を信じる者はいないだろう。
「信じるわ! 分かっているわ! 貴女──鬼に襲われたんでしょう?」
私はその言葉にピタリと足を止めてしまった。その隙にすぐそこまで迫っていたらしい声の主は、背後から優しく私を抱き締めて耳元でゆっくりと慈しみを込めた声で囁いた。
「私は鬼殺隊隊士の胡蝶カナエ。鬼の話を、聞かせてもらえないかしら?」
耳に息が当たって思わずウヒヒと声が漏れる。あまりの美声に耳が孕みそうだ。
深夜に寝ぼけながら書いてたらいつのまにか寝てました。
pixivもハーメルンも面白いものばかりなのでついつい夜更かししてしまいます。
ちなみに不定期更新なので次回もいつ投稿出来るかは不明です。
〜その頃の無限城〜
無惨「まるで目から酒を飲んだかの様な熱い痛み、間違いない。先程のは忌々しい太陽の光であろう。血鬼術越しでなければ死んでいた」
鳴女「……目から酒を」
無惨「片手で数える程度だ。美味い酒は何処から呑んでも美味いだろうとやってみたが……あれは失敗だった」
鳴女「……」ベンベン
無惨「酔えるのは酔えるのだがな。痛みで酔いがすぐ醒めてつまらん。ただ酩酊感を味わいたいだけであれば血管へ直接取り込めば良い。香りや味をまず楽しみ、その後胃を介さず血管へ行き渡るよう身体内部の構造を組み替えるのだ。血は全身に行き渡るからな。そこに酒を加える事によって、それはもう筆舌に尽くし難い状態に陥ってしまうのだ」
鳴女「はぁ……」
無惨「どうだ? 気になるだろう。これから一杯引っかけぬか?」
鳴女「……それよりもまず、先の太陽の光について探りを入れた方が良いのでは?」ベ-ン
無惨「……そうだな」
一瞬とはいえ死なずに太陽の光を浴びる事が出来て御満悦の無惨様であった。