仕事もあるし。
遅くなって申し訳ありません。
全校生徒の半数が、講堂に集まった。
「意外に集まりましたね」
「予想外と言った方がいいだろうな」
「当校の生徒にこれ程、暇人が多いとは・・・・・・学校側にカリキュラムの強化を進言しなければならないのかもしれませんね」
「笑えない冗談は止せ、
市原・・・・・・」
順に、深雪、達也、鈴音、摩利の台詞である。
「壬生さん見当たらないよ?摩利ちゃん」
「実力行使の部隊が別に控えているのかな・・・・・・?」
あやなの言葉に聞いて、摩利は独り言のように呟く。
あくまで「ように」であって、独り言ではないのは明らかであったが。
「同感です」
達也も同じことを考えていたようだ。
会場を見渡し俺は呟いた。
「放送室を占拠した面々もいませんね」
一科生と二科生の割合は、ほぼフィフティ・フィフティ。鈴音の冗談はともかくとして、思ったよりも多くの生徒がこの問題に関心を持っているということだろう。
その中に同盟メンバーと判明している生徒は、10名前後。
先ほど言った通り、放送室の占拠したメンバーの姿はない。
「何をするつもりなのかは分からないが・・・・・・こちらから手出しはできんからな」
摩利の言う通りだった。
先手は常に向こう側にあり、こちらは出方を窺うことしかできない。
風紀委員という立場もあり、こちらから手出しすれば職権乱用になってしまう。そんなことをすれば、この討論激化してしまうだろう。
「専守防衛といえば聞こえはいいが・・・」
「渡辺委員長、実力行使を前提に考えないでください。始まりますよ」
「生徒会長、今季のクラブ別予算配分に着いて質問します。私たちが手に入れた資料によりますと、一科生の比率が高い魔法競技系のクラブは二科生の比率が高い魔法競技系のクラブより、明らかに手厚く予算が配分されていますが、これは一科生優遇が、授業のみならず課外活動においてもまかり通っている証ではないんですか!生徒会長が本当に平等な待遇を考えているのならば、この不平等予算はすぐに是正すべきです」
「クラブ別の予算配分において魔法競技系のクラブに予算が手厚く配分されているように見えるのは、各部の対外試合実績を反映した部分が大きく、また非魔法系クラブであっても全国大会で優秀な成績を収めているレッグボール部などには魔法競技クラブに見劣りしない予算が割り当てられているのは、お手元のグラフでおわかりいただけると思います。クラブの予算配分が一科生優遇の結果と言うのは誤解です」
同盟側は何か具体的気な要求があったわけではない。
予算配分一つ取っても「平等に」と言うだけであった。
討論会は、やがて、真由美の演説会の趣を呈し始めた。
「『ブルーム』と『ウィード』・・・・・・生徒の間に、同盟の皆さんが指摘したような差別の意識が存在するのは否定しません。ただし、それは固定化せれた優越感であり、また、劣等感です。学校も生徒会も、風紀委員も禁止している言葉ですが、残念ながら、多くの生徒がこの言葉を口にしています。この意識の壁こそが問題なのです。一科と二科の区別は学校の制度として厳然と存在するものですが、これは全国的な指導教員の不足を反映した、すぐには解決しがたい背景によるものです。全員に不十分な指導を与えるか、それとも半数の生徒に十分な指導を与えるか。当校では、後者の方法が採用されています。そこに差別は、確かに存在します。そして、私たちにはどうすることもできません。当校で学ぶにあたり、当校の生徒に受け入れるべく強制されているルールですから。しかしそれ以外の点では制度としての差別はありません。もしかしたら意外に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、第一科と第二科のカリキュラムは全く同一です。進捗速度に差が生じることはあっても、講義や実習は同じものが採用されています」
そう。レオとエリカの2人が課題をクリアできていなかった時に俺と深雪が手本を見せてやれたのは、一科生も全く同じ内容をやっていたからということだ。そこに担当教員がついているかいないかだけ。
「制度上の差別を無くすこと、逆差別をしないこと、私たちに許されるのは、このふたつだけだと思っています。ちょうど良い機会ですから、皆さんに私の希望を聞いてもらいたいと思います。実を言えば、生徒会には一科生と二科生を差別する制度が1つ残っています。それは生徒会役員の指名に関する制限です。生徒会長以外の役員は一科所属の生徒から指名しなければいけないということになっています。この規則は、生徒会長改選時に開催される生徒総会においてのみ、改定可能です。私はこの規定を、退任時の総会で撤廃することで生徒会長としての最後の仕事にするつもりです」
どよめきが起こった。生徒たちは、野次を飛ばすことを忘れ、前後左右の生徒同士で囁きだした。真由美はそのざわめきが自然に収まるのを無言で待っていた。
「私の任期はまだ半分が過ぎたばかりですので、少々気の早い公約になってしまいますが、人の心を力づくで変えることはできないし、してはならない以上、それ以外のことで、できる限りの改善策に取り組んでいくつもりです」
満場の拍手が起こった。そこには少なからず、アイドルに対する声援と取れる雰囲気が漂っていたが。
突如、轟音が講堂の窓をを震わせ、拍手という一体行動の陶酔に身を委ねていた生徒たちの、酔いが醒めた。
動員されていた風紀委員が一斉に動いた。
普段、訓練などまともに行っていないとは信じられない、統率の取れた動きで、各々マークしていた同盟のメンバーを拘束する。
俺も一人拘束している。
「ク、クソ。離せ。お前こそこちら側にいるべきなんだ。お前は・・・」
「はい、おやすみ。」
CADの引き金を引いて《
同盟生徒は意識を失う。
どうやら、向こうでも服部先輩が活躍したみたいだ。
「ん。あれは・・・。」
「零令、そいつは!」
「森脇・・・。こいつよろしく。手柄はお前にやるから。」
そういって、その場をあとにする。
「僕の名前は森崎駿だー」といっているが。キコエナイキコエナイ ウン オケ
走りながら、あやなに連絡をする。
「あやな?いまどこにいる?」
「ゼロくん?雫ちゃんと、ほのかちゃんと今講堂を出たところだよ」
「2人を絶対に守ってくれ、できる限り早くそっちに向かうから」
「わかった」
レオが多人数を相手にしているところに遭遇した。
達也と深雪、あれは・・・エリカか。
深雪が、CADを操作しレオを取り囲んでいる敵を吹き飛ばした。
「「「「うわあぁぁーー」」」」
「達也、陸久!」
「レオ、ホウキ!・・・っと、援軍が到着してたか」
「敵だ。生徒以外は手加減なしで構わない」
「これ、達也くん?それとも深雪?」
呻き声をあげて緩慢に這いずる侵入者を同情の欠片もない眼で眺めながら、簡潔に問うエリカ。
「深雪だ。俺ではこうも手際よくいかない」
「この程度の雑魚にお兄様の手を煩わせるわけにはいかないわ」
「ハイハイ、麗しい兄弟愛ね・・・。それでこいつらは、問答無用でぶっ飛ばしていいわけね」
「生徒でなければ手加減無用だ」
冷やかしをアッサリ、サッパリ無視して微妙に方向性の異なる答えを返した達也に、エリカはにっこり笑った。
「アハッ、高校ってもっと退屈なトコだと思ってたけど」
「お~
「だまらっしゃい」
エリカの右手が半ばまで上がりかけたが、さすがに特殊警棒でド突くのは自重したようだ。
「エリカはついてきてくれ!レオ、陸久、ここは任せたぞ!」
「おう任せとけ」
「ああ」
そういって達也たちは去っていった。
「囲まれてるな」
「人数は15人ってとこか。レオ《
「おう、頼むぜ!」
「さあ、ゼロから始めよう」
《
「バシュン」
そして達也についていったエリカにも。
「うお?!スゲエ、力がみなぎってくる感じだ!行くぜ《パンツァー》!」
レオが5人吹っ飛ばしてくれた。
残るは10人。
「《ニブルヘイム》・・・」
俺の発動した魔法は振動減速系広域冷却魔法《ニブルヘイム》深雪の得意とする魔法でもある。
お株奪っちゃったかな?
「レオ、俺たちも手分けしてほかにテロリストを始末するんだ。」
「おう、わかったぜ」
そう言ってレオは去っていった。
「|W Why are you here.You were not a USNA magician《な、なぜ、お前がここにいるんだお前はUSNAの魔法師ではなかったのか》」
1人まだ、話せる奴がいたみたいだ。俺がUSNAの魔法師?
「
「I・・・・・・」
「どういうことだ?いや、考えるのは後にしてあやなたちを探さないとな」
《
sideエリカ
「あたしに任せて!」そういって私は飛び出した。
?! これは・・・。そっかこれが陸久くんの言ってた《
「ハァ!」
体が軽い。それだけじゃない、魔法の技能も上がってる?
「なによ?これ・・・反則じゃない・・・」
そんなことを考えていたら、足音が聞こえてきた。
ポニーテールが特徴の女子生徒は私の前で足を止めた。
「セーンパイ。はじめまして~」
「・・・誰?」
警戒心をむき出しにした声。
それに対して私は朗らかに返す。
「1年E組、千葉エリカでーす。一昨年の全国中学女子剣道大会」優勝の、壬生紗耶香ですよね?」
「・・・それがどうかしたの?」
「いえいえ、どうもしませんよ。ただ確認したかっただけです」
「急いでいるの。あとにしてもらえるかしら」
「一体、どちらへ?」
「あなたには関係ないでしょ?そこをどきなさい。痛い目を見るわよ!」
「これで正当防衛成立かな?まぁ、そんな言い訳するつもりはないけど・・・。あとは・・・!」
そう言った途端、《
ちゃんとした条件で勝負したいものね。
side陸久
講堂付近、テロリストに囲まれている女子生徒たちがいた。
「きゃああ!」
ドカッ!殴って気絶させる。
「え・・・?」
「ふう、間に合った」
「ゼロくん!」
「陸久さん!」
「ええっと、とりあえずお前たちは座ろうか」
そう言うとテロリスト達は跪いて動かなくなった。
重力制御魔法である。
「助かった・・・ありがと」
「ん、どういたしまして」
『ピローン』俺の端末が鳴った。
「一段落したみたいだ。俺は壬生先輩の話を聞きに保健室まで行くけどどうする?」
「ついていくよ。ゼロくん。」
「私は、少し休みたいです。」
「私も・・・」
雫はともかく、ほのかはとても疲弊しているようだ。
「じゃあ、講堂に戻ってくれ。風紀委員を中心としたメンバーで警護をしているから、万が一があっても安心だ。」
「わかった」
「わかりました」
保健室
保健室では、紗耶香の事情聴取が行われていた。
話は紗耶香が彼らの仲間に引き込まれたところから始まった。
去年、彼女が入学してすぐ司にこえをかけられたこと。剣道部には、その時既に司の同調者が少なからずいたこと。そして、摩利に試合を挑んだ紗耶香はすげなくあしらわれたということ。
「すまん、心当たりが無いんだが・・・それは本当か?」
狼狽の滲む声で摩利は問うた。
「今にして思えば、あたしは中学時代『剣道小町』なんて言われて、いい気になっていたんだと思います。だから入学してすぐの、剣術部の新入生向けの演武で渡辺先輩の見事な魔法剣技を見てご指導をお願いしたとき、すげなくあしらわれてしまったのがすごくショックで・・・相手にして貰えなかったのはきっと、あたしが二科生だから、そう思ったらとてもやるせなくて」
「チョッと待て。去年の勧誘期間というと、あたしが剣術部の跳ね上がりにお灸を据えてやった時のことだよな?その時のことはお前に練習相手を申し込まれたことも含め覚えている。だが、あたしは、お前をすげなくあしらったりしていないぞ?」
「傷つけた側に傷の痛みが分からないなんてよくあることです」
「エリカちゃん、しっ・・・」
あやなが静かにエリカのそれを制止した。
「待て、それは誤解だ、壬生」
「『すまないが、あたしの腕では到底、お前の相手は務まらない。あたしの剣は魔法ありきのものだから、お前には敵わない。だから、お前の腕に見合う相手と稽古してくれ 』ですか?」
「・・・え?」
「あ、ああそうだ。けど何故それを陸久くんが?」
「委員長、俺は零令ですよ?」
「ッ!!」
そう。俺に限らずあやなもそうだが零家は他者の記憶を視ることができる。
当時の記憶を視たところ、委員長の言っていることが正しい。
やはり、壬生先輩はマインド・コントロールをされていたのだろう。
「そう、零令くんがそう言うってことは、本当なのね・・・。なんだ、あたしバカみたい・・・。勝手に、先輩のこと誤解して・・・自分のこと、貶めて・・・。逆恨みで1年間も無駄にして・・・」
ただ、紗耶香の嗚咽だけが、沈黙の中に流れた。
「無駄ではないと思います。」
その沈黙を
破ったのは達也だった。
「司波くん?」
顔を上げた紗耶香の瞳を真っ直ぐにのぞき込んで、達也はっ噛んで含めるような口調で続けた。
「エリカが先輩の技を見て言っていました。エリカの知る先輩の、中学校の『剣道小町』の剣技とは別人のように強くなっている、と。恨みや憎しみで身につけた強さは、確かに、哀しい強さかもしれません。ですがそれは、紛れもなく、壬生先輩が自分の手で高めた、先輩の剣です。己自身を磨き高めた先輩の1年が
、無駄であったはずがないと思います」
「・・・・・・」
「紗耶香ちゃん、強くなるきっかけなんて様々だよ。努力する理由なんて、数えきれないほどいっぱいあると思うの。その努力を、その時間を、その成果を否定してしまった時にこそ、努力に費やした日々が本当に無駄にないちゃうんじゃないかな?」
「あやなさん・・・ありがとう、ありがとう」
そういって紗耶香は大声で泣き始めた。
コロナで亡くなられた方々。
心よりご冥福をお祈り致します。
コロナ闘病中の方々応援を申し上げます。
夏に一旦収まるとか言ってましたが、逆に増えて来ました。
緊急事態宣言の解除というのは「病院の寝床の数が確保されました。」というもので、決してコロナに感染する危険性が無くなった訳では無いので、これからも不要不急の外出を避け、マスクをつけ過ごす、手洗いうがい消毒をするといった行動して、対策をしましょう!