伏井出ケイのコメントは既に多くの人によって拡散されていた。
賛同する声よりも批判の方がやっぱり多いみたいだけど、発言力の強い人が応援してくれるのはイメージアップになるから有難い。
「うわー、すごい拡散数!それで……この人誰?」
「穂乃果、伏井出先生を知らないんですか!?」
海未が穂乃果に信じられない物を見たかのような目を向ける。
僕だって伏井出ケイの名前くらいは知っている。
ドンシャインの新作で脚本の依頼がいったと、ネットで一時話題になったからだ。
噂だと元々ドンシャインのファンで、自分から脚本を書かせて欲しいと話を持ち込んだらしい。
ちなみに僕は伏井出先生の作品自体は読んだことがない。
前にことりが面白い本だと”コズモクロニクル”を貸してくれたこともあったが、活字ばかりで挿絵も少なかったから数ページでリタイアしてしまった。
そういえば穂乃果のおばさんや雪穂だって読んでいたから穂乃果が目にする機会はあったはずなんだけど……まぁ読んでないだろうな、穂乃果だし。
「いいですか穂乃果、伏井出先生はですね」
「ちょ、ちょっと海未ちゃん、落ち着いて……」
海未が伏井出作品の良さを語ろうと詰め寄るが、圧が強すぎて若干引いてしまっている。というか、ちょっと目が怖い……
ことりが間に入り、落ち着きを取り戻した海未はコホンと咳払いすると解説を始めた。
伏井出 ケイ
処女作”コズモクロニクル”を大学生の時に出版社に持ち込み作家デビュー。
その後も数々の人気作を書き続ける大人気作家で、その作品は宇宙を感じる事が出来ると専らの評判だ。
最近は作家業だけでなく、TVに新聞、ラジオなど媒体を問わず活躍の幅を広げている。
国内外に多くのファンがいるが、中でも熱狂的なファンは”フクイデスト”と呼ばれているらしい。
「いいなー、そんな有名な人に応援してもらえて。私たちも応援してくれないかな?」
「だったらまずはライブを成功させないとな!」
昼食も食べ終えたし教室に戻ろうとしたところ、
「ねぇ!ちょっといいかな?」
見知らぬ2人の男子生徒が声をかけてきた。制服の特徴を見るに3年生のようだけど?
「君たちがウチの学校でスクールアイドルを始めたっていう……?」
「はい!μ’sです!」
「え?、せっk「石鹸のではないですから」
先輩の言葉を遮って先に指摘しておく。
マネージャーとして、グループを変なイメージから護らないとね。
「俺の妹が1年生なんだけど、ネットで君たち見たって言ってたよ。」
ネットにアップしてからそんなに時間経ってないけど、さっそく効果が出てるみたいだ
「ねぇ、今度のライブどんなのやるの?ちょっとやってみせてよ!」
(おいおい、いきなり来ておいてちょっと失礼じゃないか?)
僕は先輩たちの不躾なお願いに不快感を感じたが、それを隠してやんわりと断ろうとした。でもそれより早く、
「うふふ、いいでしょう!もしライブに来てくれるなら、ここで少しだけ見せちゃいますよ」
穂乃果が調子に乗ってそんな事を言ってしまった。自分達の活動の成果が現れて、嬉しいのは分かるけど……
「当日にお友達を連れて来て下されば、もう少し多く見せちゃいます」
ことりまでが穂乃果の後押しをする。確かに集客に繋がるならそれに越したことはないが……
「マジで?行くし連れてくよ!」
先輩たちも調子良くそれに応えた。
これはもう止められる雰囲気ではないな。
「(こうなったら仕方ないか)おーい!海未、悪いけど準備を……」
海未を呼ぼうと振り返ってみると、先程まで熱弁を奮っていたその姿は何処にもなかった。
居なくなった海未は練習場の屋上で、膝を抱えて小さくなっていた。
「やっぱり無理です……」
海未が俯きながら呟いた。
海未が弱音を吐くなんて珍しい。きっと本番が近づいてきて、プレッシャーを感じているのだろうと思い、
「大丈夫だよ、あんなに練習したんだからきっと出来るって!」
と、僕は海未を元気付けようとした。
「いえ、できます」
だが、返ってきた反応は予想外のものだった。
「え!?できる自信はあるの?」
では一体何が問題だというのだろうか?
「歌もダンスも練習しました。本番も練習通りにできると思います。ですが、人前で歌うのを想像すると……」
「緊張しちゃう?」
海未の言葉をことりが繋いだ。
なるほど、確かに海未は昔から人前で何かをするのは得意ではなかったな。
「お母さんが、そういう時は人を野菜だと思え!って言ってたよ」
穂乃果がおばさんからのアドバイスを教えると、海未は少し想像した後、
「私に1人ぼっちで歌えと!?」
恐怖に満ち満ちた顔で泣きついてきた。
何を想像すればそういう結論になるんだよ!
「困ったな……」
「でも海未ちゃんが辛いなら何か考えないと」
ことりが僕に何か解決策はないかと目で訴えてくる。
確かにこのままステージに上がっても良いパフォーマンスなんてできるわけないもんな。
「ひ、人前じゃなければ大丈夫だと思うんです!人前じゃなければ……」
ここまで頑張ってきたのに、人前に立つことが怖くてどうしようもない。
そんな自分への不甲斐無さと、それでも仲間と共にステージに立ちたいという海未の矛盾した思いが悲痛な叫びとなる。
そこへ手を差し伸べたのは穂乃果だった。
「色々考えるより、慣れちゃった方が早いよ」
穂乃果は海未の手を取って強引に立ち上がらせると、我に秘策ありと顔面に書いてあるかのような笑顔をみせた。
「じゃ行こう!」
穂乃果が僕らを連れてきたのは学校の正門前だった。
「今から昼休みが終わるまでライブのチラシを配ってもらいます!配ればライブの宣伝にもなるし、大きな声を出していればそのうち慣れてくると思うよ」
そう言うと穂乃果は僕らにいつの間にか用意していた大量のライブチラシを手渡すと、早速手近にいた生徒に宣伝を始めた。
海未には荒療治だろうけど、慣れてもらわないと困るのも事実だしな。
「よし!僕らも始めよう。ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」
僕は準備万端のことりとまだ配ることを躊躇している海未を鼓舞してチラシ配りを始めた。
それから数分後、僕はチラシの半分程配り終えた。
これでも穂乃果の家で暮らしていた時はお店のチラシ配りもしたことがあるから実は得意な方だ。
さて、他のみんなはどうしているのか周囲を見てみると……
穂乃果はさすがにお店の手伝いで慣れているのか手慣れた様子で次々にチラシを手渡していく。
ことりはバイト経験とかないはずだが、臆することなく周りの生徒にライブを宣伝しながらチラシを上手く配っている。あの柔らかな雰囲気が自然と生徒がチラシを受け取らせるようだ。それにしてもさっきから男子生徒が率先して貰いに行こうとしていないか?
そして肝心の海未は……やはり苦戦しているようだ。
「あ、あの……」
どうやら緊張して生徒に声をかけることができずチラシに気付いてもらえなかったようだ。かと思ったら今度は通りすがった生徒にいきなり「お願いします!」と勢いよくチラシを差し出すも、驚いて受け取るのを拒否されてしまった。残っているチラシの枚数を見るに、始めてからあまり減っていないみたいだ。
思うようにチラシが配れずため息をつく海未が心配になって僕と穂乃果が近寄った。
「そんな顔じゃますます受け取ってもらえないぞ」
「陸や穂乃果はお店の手伝いで慣れているかもしれませんが……」
経験がないことを言い訳にしたいようだが、それはことりだって同じことだ。でも見事にやってのけている。
海未に足りないのは思い切りの良さだ。それさえ身につけてくれれば……
どうしたら踏ん切りをつけさせることができるのだろうかと悩んでいると、
「もう、それ配り終えるまで止めちゃだめだからね!」
「え!?無理です!!」
穂乃果が海未には無茶なノルマを出した。
そのムチャ振りにたまらず抗議する海未。だが、
「海未ちゃん、私が階段5往復もできないって言った時に何て言ったっけ?」
穂乃果は何やら挑発的な笑みを浮かべて言った。
確かあの時、海未は穂乃果に「無理、できないは禁止です!」と言ったんだっけ。
海未も自身でそう言った手前、反論できないようだ。
僕は内心、煽りすぎではとヒヤヒヤなんだけど……
「分かりました。やりましょう!」
穂乃果に上げ足を取られてちょっと怒ったのか、海未はムキになって宣伝を再開した。緊張していた先程までとは違い、大きな声でライブの宣伝をしっかりと言えている。
穂乃果は僕の方を振り向くと、作戦成功!と言わんばかりの笑顔を見せてきた。
(さっきの煽りはわざとか……穂乃果は意外に人をノせるの上手いな)
と感心していると横から、
「あの……」
とか細い声がした。驚いて声の方を向くと、眼鏡をかけた1年生の女の子がそこに居た。
「えっと、何かな?あ、もしかしなくてもライブのチラシ?」
僕が1年生の女の子にそう問いかけると
「は、はい……あの、ライブ、見に、行きます」
「本当!?」
1年生はおずおずと答えるとチラシを受け取った。
穂乃果は1年生から見に行くと直接言われたのが初めてだから大喜びだ。
それを見てことりと海未も集まってくる。海未は1枚と言わず全部などといってまとめてチラシを渡そうとするが、さすがにそれは許されなかった。
そうこうしているうちに昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
これで海未の特訓もおしまいかと思われたが、
「よし、続きは放課後だね!」
「まだやるんですか!?」
「もちろん!むしろ放課後の方が本番だよ!」
そして放課後、穂乃果に連れてこられてのは秋葉原駅の改札口前だった。
そして再び渡されるチラシの束。
なるほど。つまり昼休みは学校の生徒だけだったから、今度は学外の人でも声をかけられるようになろうってことか。……いきなりハードル上げ過ぎじゃないか?
「ワァ……ヤサイガイッパイアルイテル……」
ほら!案の定、海未が現実逃避しちゃってるし……
穂乃果とことりが海未を現実に引き戻そうとするが、これはもう特訓どころではないな。
(この様子じゃ無理だな。海未の特訓はもう少し学校で慣れてから段階を踏んでいけば……ん!?)
今後の事を考えながら雑踏の中に目を向けると、僕の目にあり得ないものが映った。
(あの子の……まさか!?)
僕は3人を置いてその場から駆け出した。
「ちょっとりっ君どこ行くn……きゃっ!?」
穂乃果が呼び止めたような気がしたが、それどころではない!
急いであの子を追わなくては!
確かあの角を曲がったはず……いた!
僕は人の流れを縫うように進み、
「ちょっと、少年!」
小学生(高学年くらい)の男の子を呼び止めた。
「お兄さん……だれ?」
急に見知らぬ人に声をかけられて、びっくりさせてしまったようだ。
僕は警戒を解かせるために笑顔でこう言った。
「驚かせてごめん。ねぇ、君のカバンに付けているキーホルダーどこで買ったのか、教えてくれないか?」
そう。この子がランドセルに付けているのはドンシャインのラバーストラップ。ドンシャイングッズは基本的に昔のグッズを中古で集めるしかないのだが、これは古びた様子がない。そもそも放送当時はラバーストラップなんてあるはずないのだから、これは新商品の可能性が高い。是非とも手に入れなくては!と僕のコレクター魂が燃えている。
「……お兄さん、ドンシャイン好きなの?」
「ああ、大好きだ!な、頼むよ!」
僕はまるで少年を拝むように両手を合わせて頼んだ。
高校生が小学生に拝んでいる構図ってちょっと情けないかもしれないが、今はそんなことを気にしてはいられない。僕の尊厳よりもドンシャイングッズの方が大事だ。
少年は少し悩んだ後、僕を連れて行ってくれることになった。
少年に連れられて行くと、着いたのはアニメショップの入り口前に設置されたガシャポンコーナーだった。
ショップ限定のガシャポンはノーマークだったな。
ボックスの中を確認するとまだいくらかカプセルが残っている。
早速1回、回してみる。……出た!ってなんだ、戦闘員か。
「ねぇ、お兄さんはヒーローはいるって信じてる?」
ムキになってもう1度回そうとする僕に少年が聞いてきた。
ヒーローはいるか?って、そんなの当り前じゃないか。
「ヒーローはいるよ、ドンシャインは僕の永遠のヒーローだ」
「でもドンシャインはテレビの中のお話じゃん」
「最近の小学生は現実的だな。でも現実にだって、ウルトラマンジードがいるじゃないか」
「ジードかぁ……あいつ、今朝コテンパンにやられちゃったからなぁ」
「ぐっ……(いや、子供の言うことだ、気にしてはいけない、気にしてはいけない)」
「だからね!僕がヒーローになるんだ!今の僕にはその力がある。お兄さんをここに連れてきてあげたのも、困っている人を助けるのはヒーローだったら当たり前の事でしょ!」
少年は自分がヒーローになれることに全く疑いがないようだ。
微笑ましいが、これを笑うのは同じくヒーローを志す者として失礼だ。
「ありがとうヒーロー。頑張ってね!」
僕は小さなヒーローにエールを込めて握手を求めた。
少年は元気よく返事をして僕の手を握り返す。
(あちっ!?)
握った少年の手のとてつもない熱さで、僕は思わず手を放してしまった。
少年も突然手を離した僕に驚いたようだ。そして、その胸にはリトルスターの輝きが……
「少年、もしかして……」
「りっくーん!もう!こんな所にいた!」
少年にリトルスターの事を聞こうとしたところに、穂乃果がいなくなった僕を探しに来た。遅れてことり、海未も駆け寄ってくる。
「探したんだよ」
「あなたがいなくなった後、大変だったんですよ!伊賀栗先生が助けて下さらなかったらどうなっていたか」
「そうだよ!先生すごかったんだから!それに引き換えりっ君は、か弱い幼馴染を放って遊びに行っちゃうなんて、主人公失格だなー、まったく!」
どうやら僕がいなくなった後、何かトラブルがあったようだ。
それは申し訳ないと思うが、それよりも少年のリトルスターの方が先決だ!
僕は文句を言う3人を一旦なだめて少年に話を聞こうとしたが、既に少年はこの場を去った後だった。
それから数日間、練習の合間を縫って僕は少年を探したが、名前も分からない少年1人を見つけることは難しかった。
リトルスターを宿すとなると、あの少年を狙ってまた怪獣が出るかもしれない。
そんな不安を抱えながら、ついにファーストライブが明日に迫っていた。
「できたよー」
「うん、バッチリ!」
ことりとペガが完成した衣装を見せに来た。
2人とも連日遅くまでの作業で明らかに疲労しているけど、それ以上に達成感が顔に表れている。
本当にすごいな、あのスケッチが実体化したみたいだ。いよいよ衣装も完成して、明日が本番なんだとより実感が増してきた。
「すごーい!すごいよ2人とも!本物のアイドルみたい!!」
「エヘヘ、本物とまではいかないけどそれらしくはなったつもりだよ」
穂乃果も衣装が予想以上に可愛い仕上がりに飛び跳ねて喜んでいる。
だが海未は何故か1人ワナワナ震えていた。
「どうしたの海未?」
「海未ちゃん?」
「ことり、ペガ……そのスカート丈は?」
「「あ!」」
「前に言いましたよね、スカート丈は最低でも膝下だと!なのに……なんですかこの短さは!?」
海未がことりの肩を掴んで必死に訴えている。
あー……確かに膝の半分位しかないな。
でも一般的な意見としては、スカートは短い方がいいと思う。……あくまで一般的な意見だよ!
とにかく海未を落ち着けないとな。
「海未、さすがに今から直すのは無理だしもう諦めて……」
「(ギロッ!)」
「はい、ごめんなさい!」
海未の鬼のような形相に僕は押し黙るしかなかった。
「だって、しょうがないよ。アイドルだもん」
「アイドルだから短くなんて決まりはないはずです!もういいです。ならば私は1人だけ制服で出ます」
穂乃果が話を誤魔化そうとしたが、これも火に油を注いだだけだった。
怒った海未はそのまま星雲荘から出ていこうとする。
「ま、待ってよ!」
「いいじゃないですか!別に出ないと言ってはいません」
必死に呼び止めた穂乃果だが、海未も強情になってしまっている。
だが、それで諦める穂乃果ではなかった。
「良くないよ!私、海未ちゃんも一緒にこの衣装を着て、歌ってもらいたいの。絶対に成功させたいの!」
穂乃果の真剣な言葉を聞いて、海未の顔もまた真剣な表情に変わった。
「歌を作って、ステップを覚えて、衣装も揃えて、ここまで頑張ってきたんだもん。みんなで頑張ってきて良かったって、最後にそう思いたいの!」
穂乃果が自分のありったけの想いを海未にぶつけた。
そしてその想いは僕らにもしっかりと伝わって、今まで漫然と抱いていた想いがしっかりと形に、言葉になっていく。
「それは、私も同じかな。私もみんなでライブを成功させたい」
「あぁ、僕もだ。ここまで頑張ったんだから、最後はそう思いたい」
「僕も最後まで応援しているよ」
『成功は保証できませんが、貴方達の頑張りは私のメモリーにしっかりと記録されています』
「ことり、陸、ペガ、レムまで……」
海未は僕らを見た後、「これじゃ私が悪者みたいじゃないですか」とため息交じりでつぶやくと、何やら納得した表情で穂乃果に向き合った。
「分かりました!成功させましょう!」
ここにきて僕らは、ようやく1つに纏まることができたみたいだ。
そして解散前に神社に願掛けに行くことになった。
各々が、明日のライブへの想いを神様にしっかりと伝える。
(無事にライブが成功しますように!)
~独自設定~
レムアプリ
レムがスマートフォン用に開発したアプリケーション。
これを立ち上げることで、離れた位置からレムと会話したり、画面上で情報を共有することができる。
また、星雲荘への出入りもこのアプリがあれば個人で可能となっている。