「僕が少年にあっていた時に、穂乃果が先生に助けてもらったって言ってたけど、それってゼロだったんだ」
『へっへーん!どうよ、俺様の教師っぷりは!』
「あの時はありがとうね、ゼロ!」
礼を言われてますます調子に乗るゼロ。だがそこへ令人が割って入った。
「どうよ!じゃないですよ。あれから学校と家でも大変だったんですから……」
「何があったんですか、先生?」
苦々しい顔をしている令人に、絵里が訳を聞いた。
「それが……」
~~~
「伊賀栗先生、どういう事かご説明願いますね!」
秋葉原駅での騒動の後、令人は事件の説明をするために理事長室に呼び出されていた。
理事長はこの学校で1番偉い奴だって聞いていたから偉そうに踏ん反りがえっている奴をイメージしていたが、実際は物腰柔らかそうな美人の女性だった。
そしてその横には、見るからにピリピリした雰囲気のおっさんが立っている。こいつは校長先生って奴らしい。そして、令人が到着するや校長が口を開いて怒鳴りつけた。
「先ほど警察からもご連絡がありましたが、伝統ある音ノ木坂の教師が、学生を助けるためとはいえ街中で乱闘とは……」
「申し訳ございません!」
「先生、今の音ノ木坂の状況を理解していますか?告知されたとはいえ、OBが中心となって廃校を阻止しようと働きかけをしているんですよ!そうでなくても、あなたや他の教職員の先生はこれから再就職先を探さなくてはならないというのに……それなのにこの事件がマスコミにでも取り上げられたら!!」
「本当に申し訳ありませんでした!」
「だいたい荒事なんて先生のキャラじゃないしょう?先生はむしろそういう事があったら震えているタイプでしょうに!」
「いや、あの、それは……」
「理事長からも何か言ってください!理事長だって本当は廃校に納得していないから、理事会と話し合いを続けているんですよね!?それなのにこのままでは……」
校長はそう言うと椅子に座っている理事長に話を振った。
まずいな、俺が勢いでやっちまったせいでこのままじゃ令人が……
そしてさっきから黙りこくっていた理事長がようやく口を開いた。
「いいんじゃないでしょうか」
「「へ!?」」
令人と校長が理事長の予想外の返事に、同時に驚きの声を上げた。
「伊賀栗先生も初めは話し合いで解決なさろうとしたみたいですし、何より生徒を護ることも教師の大事な仕事ですもの」
「それはそうかもしれませんが……」
「それに、世間の評判も悪くないみたいですよ」
言い終わると理事長は先程まで自分が見ていたパソコンの画面をこちらに向けた。
そこには令人の身体を借りた俺があの男共をぶちのめしている映像と、その映像に対してのコメントが書かれている。
そのコメントの多くも、「この人教師とかマジ?」「生徒のピンチに颯爽と現れるとかヒーローかよ!」「こんな先生がいるなら安心して預けられるな」と令人を称賛する意見が多い。
「どうやら我が校の評判も上がったようですし……今回は厳重注意ということでよろしいのではないでしょうか、校長先生?」
校長もしばらくパソコンの画面を見た後にこちらを向くと、
「いやー伊賀栗先生、良くやってくれました!これからも是非、その手で生徒を護ってあげてください!!」
さっきまでの態度はどこへやら……校長は上機嫌で部屋を出て行った。
『何だったんだ?』
「さあ?」
とにかくこの場は丸く収まったようだ。
「それにしても先生、普段は頼りなさそうなのに、いざとなったらあんなに強いんですね。まるでウルトラマンみたい」
「!?」
「いえ、ウルトラマンみたいな教師ですから、ウルトラティーチャーでしょうか?ふふふ」
「ハハハ……えーと、では問題ないみたいですし、私もこれで失礼します」
まさか一体化しているのがバレたのかと焦ったが、ただの冗談だったみたいだ。これ以上ここにいて、本当にボロが出てもまずいので令人は早々に立ち去ろうとする。でも、ウルトラティーチャーか……悪くないな。
「待ってください」
「? 何でしょうか?」
「動画が不鮮明で身内以外には分からないでしょうが、先生が助けた学生というのは高坂さんと園田さん、そして娘のことりですね?」
「あ、それは……」
「伊賀栗先生、改めて理事長として、そしてことりの親としてお礼を言わせてください。危ないところをありがとうございました」
理事長が令人を呼び止めて最後に深々と頭を下げた。令人も慌てて頭を下げた。
部屋を出ると、令人が「ハァ」と大きくため息をついた。
「クビになるかと思いましたよ……」
『まぁ良かったじゃねぇか。これであの理事長と校長ってのからお許しが出たんだから』
「そういう問題じゃありませんよ。僕には妻も娘もいるんですから。クビになったら一家で路頭に迷うことになります……」
『娘か。そういやあの理事長って一番偉いんだろ?娘を助けてもらったとはいえ、部下に頭を下げるとはな……』
「親ってそういうものですよ。何よりも子供を大切に思うものです」
『そういうものか……』
「ゼロさんも親になれば分かりますよ」
『ハハ、それこそ2万年早い話だな』
その後、雑務を片付けた令人はようやく家に帰った。
すっかり遅くなったが、家に帰ると令人の奥さんは食事の支度をして待っていてくれた。
「ただいま」
「おかえりなさい。遅くなるなら連絡頂戴よね、ご飯とかあるんだから」
「ごめんなさい。はぁ~、お腹減った。……真由は?」
「もう寝てるわよ、起こさないでね」
そう言うと、奥さんは令人の飯を用意するために台所に向かった。
『へぇ、なかなか美人な奧さんじゃねぇか。やるな令人!』
「えへへ、まぁ!瑠美奈さんは僕の自慢の妻です」
『それじゃあ真由ってのが……』
「はい、僕の娘です。今年で5歳で……」
『なるほどな。あ、そうそう。家族といえども、俺が一体化していることはバレないようにな』
「分かってますって」
「令人君、さっきから何を1人でぶつぶつ喋っているの?」
「!!」
俺と会話中に突然声をかけられて、令人が驚きの声をあげた。
まだ俺との会話に慣れていないのか、頭の中で話せばいいのにまた口から出ていたようだ。
「きゃあ!?」
だがその令人の反応に驚いた瑠美奈が、誤って手に持っていた皿を放り投げてしまった。
俺は即座に令人と入れ替わると、落下する前にその皿をキャッチした。ふー、やれやれだ。
「……」
「えーと、体が勝手に……あは、あはは……」
「あ、ありがとう……」
まずい、いくら咄嗟の行動だからって、早く動き過ぎたか?
瑠美奈が面食らってやがる。
というか、令人ももう少し誤魔化しようがあるだろう……
だが、何とも言えない微妙な空気になりかけたところに天使の助けが入った。
「おかあさーん」
「もう、大きい声を出すから起きちゃったでしょ!はいはい、今行くねー」
瑠美奈が天使―――もとい娘の真由がいる寝室に向かった。
「あのー、さっそく不審がられているんですけど……」
『それは自分で何とかしろ、夫婦だろ』
と言ったものの、確かに考えてみると今まで俺が人間と一体化した時は、俺のことを隠す必要がないほど人々の生活が脅かされていた。
何かが起きているのは確かだが、この地球は一見平和そうで、令人にもこの星での生活がある。それを俺の都合で壊すわけにはいかない。だから俺も今までとやり方を変えていかないとな。何て言ったってWinーWinだからな。
「ほら、パパ帰ってきてるよ」
「ホント?」
可愛らしい声がすると、寝室から出てきた娘の真由が令人に駆け寄ってきた。
令人が真由を抱き上げてやると、感覚を共有する俺にもその感触が伝わってくる。
何て柔らかく、そして温かいのだろう。確かに、何に代えても護りたいと思うのかもな……
俺が家族の温もりってやつを噛みしめていると、
「パパ~」
真由が耳元で言ったその言葉を聞いた瞬間、俺に電流が走った。
(何だこの感覚は?そして俺の胸から沸き起こる、この熱い想いは!?)
後にゼロはこう語る。
『この日、この時、この瞬間、俺は絶対に、何があっても俺の娘を、そして娘が住むこの地球を護り抜くことを固く心に誓ったんだ』と……
それから数日間は特に事件もなく過ぎ去り(何故か令人を遠巻きに見たり、握手を求めてくる女子生徒がいたが)、俺たちも新入生歓迎会の日を迎えた。新入生歓迎のオリエンテーションが終わると、学生たちが慌ただしく1年生たちに声掛けしたり、チラシを配ったりしている。
『みんな何をやっているんだ?』
「これから体験入部が始まるんです。どの部活も新入部員が欲しくてたまらないんですよ」
『へぇー……』
「言っておきますけど、教師は部活動できませんからね」
令人が俺の考えていることを先読みして釘を刺す。俺がしぶしぶ納得していると急に背後から、
「先生!」
と元気な声で呼びかけられた。驚いて振り向くとそこに居たのはあの時助けた嬢ちゃん、つまり穂乃果だ。
「高坂さん?」
「この前のお礼です。今日のライブに来てください!」
「ライブ?あー、この前言ってたなんとかアイドルの……」
「スクールアイドルです!私と南さんに園田さんの3人で。あ、あと朝倉君がマネージャーなんです」
そして穂乃果はチラシを俺たちに渡すと、手を振って足早にどこかに行っちまった。
『何だこれ?』
「高坂さん達がやっているスクールアイドルのライブが放課後あるそうで、その宣伝ですね」
『スクールアイドル?』
「僕も良くは知りませんが、アイドルの真似事みたいです」
『へぇ……面白そうだ。後で行ってみるか!』
「まぁチラシも貰っちゃいましたし……」
だが本番が始まる前に怪獣出現の警報が鳴り響いた。
部活動中の生徒がパニックになる。令人たち教職員が生徒たちの避難誘導を行う中、1人の生徒が学校の外に駆け出していくのが見えた。その顔に俺は見覚えがあった。
「あれは朝倉君!?どこに行くんだ!」
『おい!急いであいつを追うんだ!』
「え?」
『あいつがウルトラマンジードだ』
「!!」
俺たちは陸の後を急いで追いかけたが、逃げる人が多くてなかなか先に進めない。ようやく街に着くと、既にダークロプスゼロとウルトラマンジードが戦っていた。
「あれが朝倉君……僕たちは戦わなくていいんですか?」
『ああ……まだ前の戦いの傷も癒えてないし、何よりあいつを見極めたい』
「そうですか。」と令人は心配と安堵が入り混じった返事をした。確かに生徒が体張って戦っているのを見てるだけなのも歯痒いのだろうが、戦うのはやはり怖いらしい。当然だ。
ここ数日でハッキリ分かったが、校長が言ってたように令人は荒事には向いていない。仮に戦う覚悟ができてない令人がこのまま変身しても、いつぞやのチビトラマンになって満足に戦えないか、最悪の場合、命を落としかねないからな。
戦況は次第にジードが不利になっていった。だがダークロプスゼロの様子も変だ。あれだけの力量差であれば、そのままジードを易々と倒せてしまいそうなのだが、あと一歩のところで何故か攻撃の手を緩めている。まるで何かを待っているように……
ジードの動きが鈍った瞬間、ダークロプスの瞳から放たれた光線が命中した。ジードがダウンすると同時にカラータイマーの点滅が始まる。
令人が心配そうにしているが、ここがあいつの見極めどこだ。まだ出ていくわけにはいかない。
あいつが本当にウルトラマンなら、きっと……
すると誰かがジードを応援する声が聞こえてきた。その声を聞き、ジードは再び立ち上がる。
そうだ!お前が本当のウルトラマンなら、その想いをを裏切るなんて許されない。
そして何処からか飛来した小さな光がジードに吸い込まれた。するとその姿が真紅の肉体を持つ硬質の闘士に変化した。だが―――
『あの力は親父と師匠の!?ウルトラカプセルはあいつが持っているのか!』
そう。あいつが今使ったのは間違いなく俺が探していたウルトラカプセルの力だ。しかも俺に縁深いあの2人の……
俺がその事実に驚愕する中、姿を変えたジードは先程までの劣勢がまるで嘘であったかのように怒涛の反撃に転じ、見事ダークロプスゼロを打ち倒してみせた。
戦いはジードの勝利に終わった。そしてウルトラカプセルの所有者も明らかとなった。だが、ここで俺には新たな疑問が生まれた。
そもそもウルトラマンジードとは何者なのか?何故盗まれたカプセルを持っているのか?
確かにあいつはウルトラマンとしての資質を見せた。だが奴が盗んだにせよ、誰かが手引きして渡したにせよ、未熟者に預けておくにはヤバすぎる力だ。
それに何よりも、初めてあいつを見たときに感じたベリアルの面影……
果たしてジードを本当に信用していいのだろうか?
疑問といえば今回のダークロプスゼロの行動もだ。何で攻撃の手を緩めた?俺が助けに出て来るのを待っていたのか?いや、それならさっさとジードを倒して街で暴れればいい。そうすれば俺は出ていかざるを得ない。まるでジードのピンチをわざと演じて逆転のチャンスを用意していたかのような……
だがそんなことをわざわざする理由はなんだ?くそっ!さっぱり分からない事だらけだ!
「……さん?ゼロさーん!」
『おわっ!?なんだよ、ビックリしただろ』
「ジードは飛んで行っちゃいましたけど、これからどうするんです?」
『あいつのことをもっと知りたいんだがな……』
「朝倉君のことですか?だったらアイドル部のマネージャーになったみたいなんで、ライブのために学校に戻ったのかもしれませんね。飛んだ方向も学校の方でしたし」
『なに!?そうと分かれば急いで学校に戻るぞ。令人、全力ダッシュだ!!』
「えー!?ここまで全力で走ってきて、まだ3分しか休んでないんですけど……」
「なんだよ、だらしねぇな。それじゃ身体を借りるぞ」
俺は令人と入れ替わると、全力で学校まで走っていった。
ちなみにそれから数日間、令人が筋肉痛で苦しむ羽目になるのだが、まぁそれはどうでもいい話だな。―――どうでもよくないですよ!
講堂に着いた。周りの部活動は既に解散したみたいだが、講堂からは人の気配がする。どうやら、予定通りライブってのをやっているみたいだな。
入口まで来ると、不思議な気配のある嬢ちゃんが、手にしたカードと俺を交互に見て意味深な笑顔を向けているが、それを無視して講堂内に入る。
中に入るとすぐに陸を見つけた。俺は陸を問い詰めようとしたが、その前に舞台上の輝きに目を奪われた。
あれがスクールアイドルってやつか。アイドルがどういう物か良く知らないが、懸命に輝こうとする少女たちの想いが俺にも歌を通して伝わってくる。
その歌を聞いているうちに、陸を問い詰める気が無くなってしまった。もちろんライブ中に無粋な真似をしたくなかったというのもあるが、彼女たちを見守る少年の瞳がまっすぐで
ああ―――そういうことか
それを見た俺は理解したからだ。
あいつの素性が何なのかなど関係ない。あいつには護りたい大切なものがある。それがある限り、あいつはウルトラマンとして戦っていける。だから信じてみよう。
もちろん聞きたいことは山ほどあるが、今は力の使い方を誤らないように、教師としてあいつを教え導いてやろう。
なぜなら俺は、ウルトラ・ティーチャー・ゼロだからな!
~キャラ設定~
伊賀栗 令人
ウルトラマンゼロのサイドアースでの変身者。原作ではサラリーマンでしたが、学校がメイン舞台なので教師に変更したくらいです。
しかしゼロと一体化しての教員生活。これで事件が起きないわけがなく……
~次回予告~
花陽「アイドルが好きです。アイドルに憧れています。
でもやっぱり私なんか……
こんな私なんかが、アイドルになってもいいのかな……」
次回、「わたしのやりたいこと」