『どうだレム!少しは俺のこと思い出したか?』
『はい。ウルトラマンゼロ――自意識過剰と記憶しました』
ズコッ『おいっ!?』
ゼロがレムの辛辣な評価にずっこけた。だがそれも当たり前である。ゼロが令人との出会いを語る中で、数々の自分の武勇伝をはさんでドヤ顔してくれば辛辣にもなろう。
「ゼロが話すと長くなるからここまでにして、次はなんだっけ?」
「ファーストライブの後だろ。そうなると花陽、凛、真姫の1年生トリオが入部した話だな」
「それじゃあ、かよちんの出番にゃ!」
「え、私!?」
「私と凛はあの時、花陽のために頑張ったんだから。それに、もうあの頃とは違うでしょ?」
唐突に話を振られて驚いた花陽は凛と真姫の顔を交互に見た。そして「大丈夫」と目で返事をすると、みんなにハッキリと聞こえる声で、入部の時に起こった騒動について話し出した。
「あの時の私は自分から一歩を踏み出す勇気がなくて……」
~~~
私の名前は小泉 花陽。今年から音ノ木坂高校の1年生になりました。好きな物はアイドルと白いご飯。憧れのスクールアイドルはUTX高校のA-RISEとμ’s
そして私がやりたいことは―――
「か~よち~ん!どの部活に入るか決まった?」
お昼休み
幼馴染の凛ちゃんが一緒にお弁当を食べていると、入部する部活を中々決められない私を心配して聞いてきた。
「え?え~と……まだ……」
「もう!他のみんなは入部済ませちゃってるよ。早く決めないと」
そう。オリエンテーションから数日経ち、ほとんどの1年生は部活動を始めている。入部していないのは、私と凛ちゃん、それから西木野さんくらいだろう。
やってみたい部活は確かにある。でも私なんかが……
「凛ちゃんは入るとこ決めたの?」
「凛は陸上部かな」
話を逸らそうと凛ちゃんの入りたい部活を聞いた。
そうだよね。凛ちゃんは運動神経が良いからぴったりだよね。
私は陸上苦手だし、一緒に部活動をすることはできないかな……
「もしかしてかよちん、スクールアイドルやってみたいと思ってるの?」
「!」
「誤魔化そうとしても無駄。嘘をつこうとすると指合わせるからすぐ分かるよ」
幼稚園からずっと一緒だったせいか、凛ちゃんは私が何か悩んでいるとすぐに気づいちゃう。
それは私もだけど……
「それならさっき会った先輩たちに言えばよかったのに」
~~~
話は少し前に遡ります。4時間目の体育の後、教室に戻る前に飼育委員の仕事で学校で飼っている2頭のアルパカの水を交換しに行くと、μ’sの先輩たちが小屋の前で何やら騒いでいた。どうやらアルパカが急に鳴きだして驚いたみたい。
私が興奮している茶色のアルパカを撫でてあげるとすぐに落ち着いてくれた。どうやら怒っていたんじゃなくて、じゃれて遊ぼうとしていただけみたい。
「ありがとう、助かったよ」
「いえ……」
男の先輩がお礼を言ってきた。でも男の人にあまり慣れていない私は俯きながら答えた。
「あ!あなたはライブに来てくれた……」
「は、はい……1年の小泉 花陽といいます……」
「だよねー!あの時は来てくれてありがとう!」
穂乃果先輩は嬉しそうにお礼を言うと、私の手を握って勢いよく上下に振った。
まさか私なんかを覚えていてくれたとは思わなかったから嬉しかったけど、何も言えなかった。
その後、ことり先輩、海未先輩、陸先輩が私に自己紹介してくれた。
あれ?そういえば、さっきもう1人いた気がしたんだけど……(今思えばあれはきっとペガ君だったんだろうね)
「ねぇ、花陽ちゃん!アイドルやりませんか?」
私がアルパカの水を交換し終わったところで、穂乃果先輩が私の肩を掴んで言った。……何故かすごく力が入っていて動くことができない
「穂乃果ちゃん、そんな急に……」
「君は光っている!大丈夫、悪いようにはしないから!!」
ことり先輩が止めようとしたけど、穂乃果先輩はそのまま熱心に勧誘を続けた。正直に言うと、あの時の穂乃果先輩は必死過ぎてちょっと怖かったです……
「悪徳事務所の勧誘か!」
陸先輩がそうツッコむと穂乃果先輩の頭をペチッと叩いた。
「うー……だって少しくらい強引に頑張らないと……」
穂乃果先輩は痛そうに頭をさすりながら言った。
1年生からスクールアイドルになったという話は聞いていないから、先輩たちも焦っているみたいだ。
たしか正式な部活動には5人の部員がいるんだっけ……
私がもしここで入るって言えば5人に……
「あの……えと……」
「ほら、小泉さんも困っているじゃないですか。すいません」
「あ!ごめんね。困らせるつもりはなかったんだ」
「いえ、そういうわけじゃ……」
でも入るとは言えなかった。だって今日も授業で先生に当てられても、声が小さすぎて全部読み切る前に他の人に代えられてしまった私だ。入ってもきっと迷惑をかけちゃうに決まっている。
「か~よち~ん!早く行かないとお昼休み終わっちゃうよ!」
そこにタイミングよく私を呼ぶ凛ちゃんの声が聞こえてきた。
私は先輩たちに「失礼します。」と言って、逃げるようにその場を去ってしまった。
~~~
「先輩たちはかよちんを誘ってくれたんでしょ?それってスカウトじゃん!何で入りたいって言わなかったの?」
「違うよ。それに誘ってくれたのはたまたまだよ。別に私じゃなくても……」
凛ちゃんは誘いを受けるべきだったと言うけど、それはたまたま、偶然だ。
たまたま私が最初に講堂に着いたから覚えていてくれただけ。そして今日はたまたま会ったから誘ってくれただけ。
特に他人から秀でているものがない私をスカウトするなんてあり得ない。
私をスカウトするくらいなら西木野さんをスカウトするべきだ。前に音楽室の前を通った時に聞いちゃったんだけど、西木野さんは歌もピアノもすごく上手だったし……
「もう!一緒に行ってあげるから。かよちんはこんなに可愛いんだよ、きっと人気がでるよ!」
凛ちゃんが強引に私の手を引っ張って連れて行こうとする。だけど自分1人だけでは勇気がない。
もし……
「あのね……もし、私が『凛ちゃんも一緒にアイドルやらない?』って言ったらやってくれる?」
私はここ数日考えていたことを凛ちゃんに打ち明けた。もし凛ちゃんが一緒だったら、こんな私でも頑張れるかもしれないと思って……
「凛が!?……ムリムリ!!ほら、かよちんと違って女の子っぽくないし。似合わないよ、アイドルなんて……」
でも凛ちゃんの答えはノーだった。
私も無理に誘うのは気が引けたのでそれ以上はお願いをしなかった。
だけど、その言葉の全てが本心ではないことも長年の付き合いで分かってしまった。
凛ちゃんは今でこそ制服でスカートを履くことが増えたけど、私服で出かけるときは必ずズボンだ。
その原因は小学生の時にある。
小学生の頃から凛ちゃんは元気一杯で毎日ズボンを履いていた。
でもその日は珍しくスカートで登校していた。スカートを履いた凛ちゃんはすごく可愛いかったのを今でも覚えている。
でも凛ちゃんのスカート姿を見た同級生の男子達が珍しがり、それをひどく気にした凛ちゃんは着替えに家に戻ってしまった。
あの時の男子達は特に悪気なんてなかったのだろう。でもその日以来、凛ちゃんが私服でスカートを、いや女の子らしい恰好をしたのを見たことがない。
凛ちゃんは自分には女の子らしい可愛い物は似合わないと思っているみたいだけど、私はそうは思わない。それどころか誰よりも女の子らしさに憧れているのも知っている。
だから自分のことを自信なさ気に言う凛ちゃんを見るのは悲しかった。
そして結局、先輩の所に行く決心がつかず放課後になってしまった。
掃除当番で遅くなった私は、凛ちゃんも用事で先に帰っちゃったので1人で帰ろうと教室を出た。
すると廊下には西木野さんが居た。掲示板前に置かれた何かを手に取って見ているようだけど……
私は別にやましいことはしていないはずなのに、何故か教室に戻って隠れてしまった。
教室から様子を伺うと、西木野さんは辺りを見渡してから手にしていた物をカバンに仕舞い、すぐにそこから立ち去った。
私も西木野さんが見ていた物を手に取ってみると、それはμ’sの勧誘のチラシだった。
西木野さん、アイドルに興味あるのかな……
「やっぱり興味あるの?」
「!?」
突然後ろから声を掛けられて驚いた私は、その拍子に手に持っていたチラシを落としてしまった。
振り返ると、先ほど会ったμ’sのマネージャーの陸先輩がそこに居た。
「ごめんごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど……」
そう言うと、陸先輩は私が落としたチラシを拾ってくれた。
「小泉さんだよね?お昼は穂乃果が強引に誘っちゃったけど、もし本当に興味あるなら入ってくれるとすごく嬉しい。もちろん穂乃果たちも」
そして陸先輩は私にチラシを手渡した。私はどう答えたらいいのか分からなくて困っていると、
「あれ?学生手帳も落ちているけど、小泉さんの?」
陸先輩は落ちていた学生手帳を拾うと私に見せた。でも私の学生手帳はカバンの中に入っているから違う。手帳を開いて確認すると西木野さんのだった。
それを見て、これはきっと何かの運命なんだろうと思った私は陸先輩に、西木野さんをμ’sのメンバーに推薦することにした。
「あの、西木野さんは歌もピアノも上手なんです。きっと私なんかよりμ’sの力になってくれますよ」
「西木野さんか……確かに穂乃果からも歌が上手だって聞いているよ。でもこの前も断られちゃってさ」
「え!?あの、すいません、余計な事言っちゃって……」
まさか先輩たちが西木野さんのことを知っているとは思わなかった。余計なお世話だったことに気づき、恥ずかしくなった私は急いでこの場から立ち去ろうした、
「待って!」
でも陸先輩に呼び止められてしまい立ち止まった。
何だろう?
「西木野さんにこの手帳を届けたいんだけど、後輩の、しかも女の子の家に男子だけで行くのってハードル高くてさ……悪いけど、一緒に行ってもらえないかな?」
~キャラ設定~
小泉 花陽
音ノ木坂高校1年生で、小さな体に似合わないわがままボディの持ち主。そして白米天使。
本作では、他人より秀でたことがないというコンプレックスを抱いており、それが劣等感となって一歩を踏み出す勇気が持てないでいる。
でもアイドルへの愛と情熱はμ’s随一で、それを支えてくれる仲間と共に自分の弱さを乗り越えていく。