ジードライブ!~起こすぜ!奇跡!!~   作:キータ

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コロナから仕事の復帰が忙しくて随分と時間が経ってしまいましたが、徐々に頻度上げていこうと思います。
ウルトラマンZがとうとう始まりましたね!それにしても、今までのウルトラマンは随分と日本語が流暢だったんだな……


14話 わたしのやりたいこと(2)

「デカいなぁ……」

「はい、すごいですね……」

 

先輩の頼みで西木野さんが落とした生徒手帳を届けるため、一緒に手帳に書かれていた住所まで来たんだけど、そこにあったのは見るも立派なお家だった。

西木野さんのお家ってお金持ちだったんだ……

先輩も私と一緒に圧倒されていたけど、途中から先輩は自分の影を向かってぼそぼそと何か言い始めた。

 

「……分かってるよ。いちいちうるさいぞ、ペガ」

「先輩、何しているんですか?」

「!!――な、なんでもないよ、それより早く届けないと!」

 

そう言って先輩はインターホンを鳴らした。

程無くして返事があると、中から西木野さんのお母さんが出て、家の中に案内してくれた。

通されたお部屋もすごく大きくて、なんだか緊張してしまう。

立派なソファに座ってから改めて部屋を見渡すと、西木野さんがコンクールで受賞したトロフィーが何個も飾られていた。

 

「お茶をどうぞ。ちょっと待ってて、真姫は今病院の方に顔を出している頃だから」

「病院?」

「ええ。家で病院を経営していて、あの子が跡を継ぐことになっているの」

「そうなんですか……」

「でも良かったわ。あの子、高校に入学してから友達の話を一切しなくて、ちょっと心配だったの。だから安心したわ。あの子の落とし物を届けるために、お友達と先輩が来てくれるなんて」

 

その時、ガチャッと扉が開く音がすると、「ただいまー」と声が聞こえた。

西木野さんが帰ってきたみたいだ。

お茶を淹れに行ってくれたお母さんと入れ替わりで、西木野さんが部屋に入ってきた。

 

「こ、こんにちは……」

「あなたは……それに何で先輩も?入部の話はお断りしたはずですけど」

 

西木野さんが私を見て少し驚いた後、私の横にいた陸先輩を見るや怪訝な顔をして対面のソファに座った。

 

「いや、今日はそうじゃなくて……」

「これ、落ちてたの……西木野さんのだよね」

 

私は西木野さんに生徒手帳を差し出した。

 

「2人共わざわざこれを届けに……? あ、ありがとう……」

「どういたしまして!」

「どこでこれを?」

「廊下で……西木野さん、μ’sのチラシ見てたよね。たぶんその時に……」

「はぁ!?し、知らないわよ。誰かと勘違いしているんじゃない!」

 

西木野さんは顔を赤くして否定しているけど、実際に手帳を拾ったのはそこだし、カバンのポケットにも折りたたまれたチラシが入っているのが見えた。

 

「なんだ、穂乃果にお願いされた時は嫌がってたけど、本当は素直になれないだけだったのか!」

「だから違うっt……!」

 

先輩に反論しようと思わず立ち上がった西木野さんが、右膝を机の縁にぶつけてしまった。

痛みのあまり右足を抱えて片足立ちの状態となった西木野さんはバランスを崩して倒れそうになる。

 

「危ない!!」

 

陸先輩が咄嗟に手を伸ばして助けようとしたけど、間に合わず2人ともドッシーン!と大きな音をたてて、そのまま転んでしまった。

 

「大丈夫?何か大きな音がしたけど……」

 

ちょうどお茶を淹れて戻ってきた西木野さんのお母さんが、先輩と西木野さんの姿を見て固まった。

陸先輩は倒れた際に、西木野さんが下敷きにならないように自分の体が下になるようにしたらしい。

そして西木野さんは陸先輩の上に倒れていると気づき、床に手をついて急いで自分の体を起こしたところだった。

つまり―――傍から見ると、西木野さんが陸先輩を押し倒しているような構図となっているのでした。

 

「いたたた……」

「お、お母さん!?ち、違うの!これは……」

「真姫……お母さん安心したわ。友達だけでなく、しっかり彼氏も作っていたなんて。でもそういうのは2人っきりの時にやるべきだと思うの。勿論、真姫が他人に見られていないと燃えないというなら……」

「だから違うのーーー!!!!!」

 

西木野さんと先輩、そして私が説明して、漸く西木野さんのお母さんは納得してくれた。

でも去り際に「まぁ嘘から出た誠って言葉もあるし。うふふ……」と言って西木野さんを怒らせていたけど……

紅茶を飲んで落ち着きを取り戻した西木野さんに、私は思い切って理由を聞いてみた。

 

「あの……西木野さんは何でスクールアイドルをやらないの?ピアノも上手だし、歌だって……」

「そういえば僕も理由を聞いたことがなかったな。何で?」

「私、将来は医者になって家の病院を継がないといけないんです。だから進学も医学部って決まっていて……要するに私の音楽は―――遊びの時間はここまでってことです」

「そうなんだ……」

 

将来の目標が決まっていない私には、明確な目標を持つ西木野さんがすごく大人に見えた。

でもそう言う西木野さんが切なそうに見えたのは、きっと音楽が西木野さんにとって遊びの時間なんかではなかったからだよね。

 

「それより先輩!私なんかよりこの子はどうなんですか、μ’sに」

「え、私!?」

「実は今日、穂乃果が勧誘してたよ……かなり強引だったけど」

「その光景が目に浮かびますね。それでどうなの?好きなんでしょ、アイドル。この前のライブも熱心に見てたじゃない」

「いや、でも、私なんかじゃ……あれ、西木野さんもいたの?」

「私のことはいいでしょ!それより、やりたいならやればいいじゃない!そうしたら私も少しは応援してあげるから」

 

西木野さんは照れくさそうだったけど、その言葉は私に勇気をくれた。

 

「そうだ!小泉さん、これから穂乃果の家にみんなで集まるんだけど、良かったら君も来ないか?体験入部ってことで」

「いいじゃない、行ってみなさいよ。やりたい事があるなら逃げちゃダメ!」

 

だから私もほんの少し勇気を出して一歩前に進んでみることにした。

 

「あの……えと……よろしくお願いします」

 

 

 

陸先輩に連れられて穂乃果先輩の家に向かう途中、

 

「それにしてもいろいろ事情はあるんですね、みんな」

 

私は西木野さんの話を聞いて感じたことをそのまま口にした。

 

「そうだね。西木野さんのように周囲から評価されているのにやりたい事を続けられない人もいれば、やりたい事をやっても中々周りに認められない人もいる。難しいね……」

 

そう答えた陸先輩は何だか辛そうだった。

 

「先輩?どうかしたんですか?」

「いや、何でもないよ。それより、ここが穂乃果の家だよ」

 

陸先輩が指を指した方を見ると、何と和菓子屋さんだった。

和菓子屋”穂むら”。たまにお店の前を通るけど、まさかここが穂乃果先輩の家だったなんて。

私が驚いている間に先輩がお店の扉を開けた。

 

「いらっしゃいませ!――なんだりっ君か。あれ?花陽ちゃんも!?」

「お、おじゃまします」

 

お店の中には割烹着姿の高坂先輩がいた。どうやらお店の仕事のお手伝い中だったみたいだ。

 

「さっき小泉さんに会ってね。まだ忙しいなら手伝おうか?」

「ううん!もう終わるから先に2階で待ってて」

「分かった。小泉さん、こっちだよ」

 

陸先輩に案内されて私は階段を上がって2階にある穂乃果先輩の部屋の前へ

 

「そっちが穂乃果の部屋。僕は妹の雪穂に挨拶したらすぐに行くから先に行ってて……」

 

と言いながら陸先輩がドアを開けると、そこには鏡に向かって必死にバストアップ運動をしている女の子がいた。

 

「ぐぬぬぬ……この位になれればきっと兄さんだって!」

 

陸先輩は何事も無かったかのようにそっと扉を閉めた。

だけど陸先輩が無言のSOSを目線で出してくる。それを受け取った私は、その場から逃れるために穂乃果先輩の部屋のドアを開けた。

 

「みんな~!応援ありがとう~~!!」

 

そこには1人でノリノリのアイドルポーズを決める海未先輩がいた。

私は何事も無かったかのようにそっとドアを閉めると、陸先輩に無言でSOSを送った。

 

(見てはいけない物を見た気がする……)

(どうしよう……)

 

私たちが逃げ場を失いどうしようか手をこまねいていると、ダン!と勢いよく音を立てて両方のドアが同時に開いた。

 

「「見ました(ね)……(ゴゴゴゴゴ)」」

「「ごめんなさい(ブルブルブル)」」

 

 

 

海未先輩と雪穂ちゃんがものすごい剣幕で私たちに迫ってきたところに、お手伝いを終えた穂乃果先輩が間に入ってくれて助けてくれた。

その場は丸く収まり、私たちは今、穂乃果先輩の部屋で机を囲んで座っている。

 

「あっはっは。りっ君は相変わらずタイミングが悪いなぁ。花陽ちゃんも災難だったね。……それにしても海未ちゃんがポーズの練習ねぇ」

「穂乃果が店番で遅かったからです!それに陸ももう少し早く来てください!」

「仕方ないだろ、落とし物を届けに行ってたんだから」

「そうだとしても……」

 

このままでは先輩たちが喧嘩するのではと心配になった私は止めようとしたけど、なかなか割って入るタイミングがない。私がどうすれば良いのか困っていると、

 

「ごめんなさい、遅くなっちゃった」

 

ことり先輩が遅れてやってきた。ドアのそばにいた座っていた私にすぐに気づいたことり先輩と目が合う。

 

「お、お邪魔してます」

「え!もしかして本当にアイドルに?」

 

ことり先輩が嬉しそうに私に近寄って聞いてきた。でも急に話しかけられた私は緊張してすぐに答えられなかった。

 

「今日は体験入部みたいなものなんだ」

「そっか、ゆっくり見て行ってね」

 

私の代わりに陸先輩が説明してくれた。ことり先輩が笑顔で言うと、空いているところに座ってカバンからタブレットを取り出した。

 

「ごめんね、ことりちゃん。家のパソコン肝心な時に調子悪くて……」

「ううん、大丈夫だよ。それに携帯の小さな画面じゃなくて大きな画面でみんなで見たいもんね」

「それで動画というのは?」

「ああ、レムが教えてくれたんだけど……」

 

先輩たちがタブレットを操作して何かの動画を再生し始めた。

その画面に映し出されたのは、あのファーストライブの映像だった。

 

「誰が撮ってくれたんだろ?」

「さぁ?でもレムが調べてくれたんだけど、この映像をアップロードしたのは音ノ木坂のパソコンらしい」

「じゃあ学校の誰かが?」

「見て見て!もうこんなに多くの人が見てくれてるんだ!」

「本当!すごい再生数ですね」

「これはウルトラマンを抜くのも近いかもね」

「そうでもないぞ、この前の戦いでちょっと支持率が上がったんだからな!」

「へぇー良かったじゃん!あ、ここ。綺麗に決まったよね」

「何度も練習してたから、決まった瞬間ガッツポーズしそうになっちゃった!」

「でもここはまだまだ甘いですね。今度はここをもっと重点的に……」

 

先輩たちが盛り上がっている横から私もライブ映像を見た。

やっぱり先輩たちすごい。本番を実際に見たはずなのに、画面から目を離せない。

私はこんな風に人を惹き込むことができるだろうか?やっぱり私には……

 

「…み…さん?小泉さん!」

「!?」

 

海未先輩の呼びかけで我に返った。

どうやら映像に集中しすぎて、呼ばれていたことに気づいていなかったみたい。

私、先輩たちになんて失礼なことを……

でも先輩たちは叱るどころか優しく私を見ている。

そして穂乃果先輩が言った。

 

「スクールアイドル、本気でやってみない?」

 

それは学校での勢いに任せたものではなく、優しく真摯な誘いの言葉だった。

 

「え!?でも私向いてないですから……」

 

でも私は唐突だったこともあり、また誘いを断ろうとしてしまった。

……そうだよ。なけなしの勇気を出してここまで来てみたけど、結局緊張して何も言えない自分にはやっぱりアイドルなんて向いてない。

折角また誘ってくれた先輩には申し訳ないけど断ろう。そう思ったのだけど……

 

「私だって人前に出るのは苦手ですよ。自分で言うのもなんですが、とてもアイドルに向いているとは思えません」

 

海未先輩が向き不向きなんて関係ないと力強く否定してみせた。さらにことり先輩、穂乃果先輩が続く。

 

「私は歌を忘れちゃうこともあるし、運動も苦手だからダンスが遅れちゃったりするんだ」

「私なんてすごいおっちょこちょいだよ!」

 

”だから自分からやりたい事を諦めないで!”

先輩たちがそんな気持ちが伝わってくる気がした。

 

「こうして聞いてみると欠点だらけのグループだけど……でもそれでいいんだ!プロと違って、やりたいって気持ちさえあれば、それぞれの目標に向かって始めることができる。それがスクールアイドルなんだって、穂乃果たちを見ていて思うようになったよ」

「……確かに私たちは欠点だらけですけど、陸も人のこと言えないですよね!」

「そうだ、そうだ!」

 

欠点だらけという余計な一言のせいで、陸先輩に先輩たちが詰め寄る。

でもそんな先輩たちが何だか楽しそうで、可笑しくて、思わず笑ってしまった。

先輩たちも私を見てつられて笑いだした。

 

落ち着いたあと、私は先輩たちが勇気づけてくれていたのに笑ってしまったことを謝ったけど、先輩たちは怒るどころか優しくこう言った。

 

「花陽ちゃん。ゆっくり考えて、答えを聞かせて」

「僕たちはいつでも待っているから!」

 

この日は先輩たちの優しさに甘えて、この場で答えを出さずに帰ることにした。

でもこの時の先輩たちの言葉は、私にとって希望の光のようだった。

本当にやりたいって気持ちさえあればいいのなら、才能も素質も無い私でもアイドルをやっていいのかもしれないと思えるほどに。




~キャラ設定~
西木野 真姫
音ノ木坂高校1年生で、μ’sの作曲担当。
媒体によってはツンデレだったり、ナルシスト気味だったりといつからファンになったかでイメージが違うかもしれませんが、今回は基本的にアニメ準拠なのでツンデレな真姫ちゃんです。
本作では今やりたい事と将来のためにやるべき事の狭間で悩み苦しむ人です。医者を志しているので多少の応急手当の心得もあり、生傷の絶えない陸の手当担当にもなります。

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