ジードライブ!~進むぜ!未来!!~   作:キータ

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最初はメビウスの「オーシャンの勇魚」のような正体バレを防ごうとするドタバタ劇を描こうと思ったのですが……どうしてこうなった?



18話 大変!ニコが来た!(3)

部室内はまるでアイドルの資料室だった。流石はアイドル研究部といったところだ。

部屋中に飾られた様々なアイドルの写真やポスター、そして机の上や本棚にある古今東西のアイドル関連の雑誌やビデオの数々にみんな圧倒されてしまう。

 

「……勝手に見ないでくれる」

 

モコの手当ての為仕方なく僕らの入室を許してはくれたが、にこ先輩はやはり不機嫌そうだった。

 

「こ、これは!!」

 

だがそんなことを気にせず、目を輝かして室内を物色していた花陽が普段からは想像できないくらいに声を荒げた。

手に持っているのは何かのDVD-BOXのようだが?

 

「これは“伝説のアイドル伝説”全巻BOX!持っている人に初めて会いました!!」

「そ、そう……」

「はい、すごいです!!」

 

その熱量に流石のにこ先輩も少し引いてしまったが、花陽が純粋に尊敬の眼差しを向けていることに気が付くと少し照れたようだった。

 

「花陽、そんなにすごい物なのかそれ?」

「知らないんですか!?」

 

僕はただ興味本位で尋ねただけだったのだが、花陽が信じられない物を見たような顔をすると、ものすごい形相で僕に詰め寄った。

どうやら僕はアイドルオタクモードの花陽の地雷を踏んでしまったらしい。

 

「良いですか!“伝説のアイドル伝説“とはファンの間では伝説の伝説の伝説、通称”伝伝伝“と呼ばれ、各プロダクションや学校が―――」

 

そして普段のおとなしい花陽はどこへやら、一気にまくし立ててBOXの解説を始めた。

それを横から見ている穂乃果たちも普段の花陽とのギャップに戸惑っている。

 

「――――――というこんな希少価値の高い物を持っているなんて……尊敬です!」

 

どうやら花陽の解説が終わったらしい。

とにかくすごいDVDを持っているすごい先輩だということだけは分かった。

ちなみにその伝伝伝とやらは保存用だったらしく、この場で観ることはできなかった。

そのことを聞かされた花陽は、まるでこの世の終わりに遭遇したかのような悲痛な面持ちで涙を流し崩れ落ちた。

アイドルとドンシャイン、趣味は違えど同じオタクとしてその気持ちは痛いほど分かるのだが、また地雷を踏みぬくと面倒なので悪いがスルーさせてもらおう。

 

すると、今度はことりがロッカーの上をジーッと見つめていることに気づいた。

 

「何を見ているんだ?」

「え!?」

 

僕が急に声を掛けたせいか、ことりはひどく動揺した。

僕もその視線の先を見ると、ロッカーの上には誰かのサイン色紙が飾られていた。

 

「あら、お目が高い。それはアキバのカリスマメイド――ミナリンスキーさんのサインよ。まぁ、ネットで手に入れた物だから私も本人には会ったこと無いけどね。噂は良く耳にするけど、実は何処のお店にいるのかも良く知られていない一種の都市伝説のような存在よ。……こら、暴れないの!」

 

にこ先輩が消毒を嫌がるモコを抑えながら、自慢げにに教えてくれた。

へぇ、そんなメイドさんが秋葉原にはいるのか。そしてアイドルだけでなくそんな事にまで詳しいんだな、この人。

それにしても、ことりは何でミナリンスキーさんのサインをまじまじと見ていたんだろう?

今は心なしか安心しているようにも見えるが。

ミナリンスキーさんのことが気になりもう一度そのサインを見ようとしたが、ある物が僕の目に留まった。

あれは……!?あれはドンシャインのヒロイン、レムが囮のためにアイドルに変装した時の恰好のポスター!?

たしか写真集にも掲載されていない、今でもファンの間では高値で取引されているすごく貴重な品だ!それを持っているなんて、にこ先輩……なんてすごい人なんだ!!

この時、僕もにこ先輩への尊敬の念ですっかりミナリンスキーさんのことは頭の中から抜け去ってしまっていた。

 

「はい、手当てはこれで終わりよ」

 

どうやらモコの手当てが終わったようだ。

絆創膏をおでこに×字で貼ってもらったモコはすっかりにこ先輩に懐いた様で、先輩の周りをピョンピョン飛び跳ねて遊んでいる。

 

「で、アンタたちはどうしてここに来たわけ?」

 

部室内にある数々の貴重品ですっかりここに来た目的を見失っていた僕らに、にこ先輩がモコをあしらいながら要件を聞いてきた。

 

「あ、そうだった!私たちは……」

「まぁ、おおよその見当はついているけどね。どうせ希から部にしたいなら話つけて来いって言われたんでしょ。いずれそうなると思っていたし……」

「だったら話が早いです。なら―――」

「お断りよ!」

 

穂乃果が張り切って交渉しようとしたが、案の定にこ先輩は応じるつもりはないと即座に断言した。

 

「私たちはμ‘sとして活動する場が必要なだけで、ここを廃部にしろというわけでは……」

「お断りって言ったでしょ!」

 

続いて海未が懸命に食い下がるも、にこ先輩は耳を貸すつもりがないとその話をバッサリ切り捨てた。……のだが、頭の上にモコが乗っているためイマイチ締まらない。

にこ先輩もそう思ったようで、頭の上のモコを引っ剥がすとそのまま凛にパスした。

 

「昨日僕らに嫌がらせした人、にこ先輩ですよね。何であんなことしたんですか?」

 

ここで僕は思い切ってにこ先輩に昨日のことを問い質すことにした。

もちろん嫌がらせをしてきた理由を知りたいのは当然だが、あわよくばこちらが有利になるかもしれないという打算もあった。

だがにこ先輩に悪びれた様子は無い。

 

「昨日も言ったでしょ。アンタ達はアイドルを穢しているからよ!」

「でも歌やダンスだって練習して―――」

「そういうことじゃない!例えばアンタ達、キャラ作りはしているの?」

「……キャラ??」

「そう!アイドルはみんなに夢を与える存在なの。だったらそれに相応しいキャラってものがあるわけ」

 

にこ先輩が力説するが、みんな今一つピンときていないようだ。

あれかな?

ドンシャインに出ていた人には現実でもそのままでいて欲しい!みたいな?

 

「ったく、素人はこれだからしょうがないわねぇ。例えば……」

 

そう言うと、にこ先輩は僕たちに背を向けて深呼吸した。

そしてもう一度こっちを向くと、にこ先輩は先程までのにこ先輩ではなくなっていた。

振り撒くのはまさにアイドルスマイルというべき完璧な笑顔。

すごい、これがアイドル研究部部長の実りょ―――

 

「にっこにっこにー♪ 貴方のハートににこにこにー♪ 笑顔届ける矢澤にこにこー♪ にこにーって覚えてラブにこっ♡………どう?」

「……どうって言われても」

 

ハッキリ言って滑っている。というかこれ、キャラ作りなのか?

でも僕らのためにやってくれたんだしどうしたら良いやら……

他のみんなも僕と似たような感想のようだ(花陽だけは真剣にメモを取って参考にしようとしているけど)。

 

「ちょっと寒くないかにゃ~(ボソッ)」

「……今、何て言った!」

 

凛が小声で呟いたことをにこ先輩は聞き洩らさなかった。

凛、本当のことだけど余計なことを……

その迫力に凛と抱かれていたモコは恐怖で震え上がっている。

 

「いや、あの…すっごい可愛かったです。サイコーです!」

「えと……可愛かったですよ先輩」

「そうですね、お客様を喜ばせる努力は素晴らしいと思います」

「流石にこ先輩、勉強になります!」

 

みんなで必死にフォロー(花陽は本気で尊敬)したが、にこ先輩はプルプルと身を震わせて俯いている。

下を向いているせいで表情は見えないが、間違いなく怒っているよな……

 

「まぁいいわ。……どうせ素人のアンタ達にこんな事を言っても理解できるとは思ってなかったから!」

 

にこ先輩がゆっくりと顔を上げた。

きっと怒りで血走っているのだろう、目が少し赤い。

 

「でもね、それだけじゃないのよ!素人レベルのことも我慢ならないけど、それ以上に許せないのはアンタ達の秘密のことよ!!」

 

にこ先輩が僕たち2年生に向けて指を指した。

やっぱりにこ先輩は僕がウルトラマンだって知っているのか!?

マズイ、それがバラされたら僕は捕まって研究材料にされて…………あれ?何でそれがアイドルを穢すことになるんだ?

もしかして僕らは何か思い違いをしているんじゃないかと疑い始めた時、にこ先輩は勝ち誇ったように言った。

 

「ふふん、その動揺だとやっぱり私の目に狂いは無かったようね」

「あの、にこ先輩。先輩の知っている私たちの秘密って……?」

 

ことりや海未も話の噛み合わなさに気づいたようで、にこ先輩に説明を求めた。

 

「しらばくれても無駄よ。アンタ達の秘密―――それはアイドルとしての最大のタブー、つまり彼氏がいるってことよ!」

「「「彼氏!?」」」

 

穂乃果、ことり、海未の3人は身に覚えのない事を言われて驚愕している。

それはそうだ。こいつらに彼氏がいるわけ―――

 

「そしてその彼氏とはアンタのことでしょ、朝倉 陸!」

「僕!?」

 

僕が3人と付き合っているってなんの冗談だ!?

いや、そもそも3人と同時に付き合うわけないだろ!!

だが1年生たちはそれを真に受けたのか僕に軽蔑の眼差しを向ける。

 

「ご、誤解だよ!」

「白々しい。これが何よりの証拠よ!さっきも言ったけど、アイドルはみんなに夢を与える存在なの!それなのに彼氏がいるなんてアイドル失格もいいところだわ!しかも1人の男を3人で取り合っているなんて……」

 

そう言うとにこ先輩は机の上に何枚かの写真を叩きつけた。

それは僕や穂乃果たちが一緒に写った写真だった。

その中には昨日の穂乃果が僕の上に倒れた時の写真や、穂乃果が僕にポテトを食べさせようとしている時の写真、他にもことりの衣装道具の買い出しに付き合って荷物持ちさせられた時の写真や海未に正座で説教されている時の写真もあった。

 

「これって……」

「ええ、おそらく……」

「にこ先輩の勘違いだよね?」

 

穂乃果、海未、ことりと僕の4人でこっそりと耳打ちして話を整理する。

つまりにこ先輩の言い分だと、僕は穂乃果たち3人と同時に付き合っていて、そんなアイドル失格な事をしていながらアイドル活動を続けるμ‘sが許せないと……。

なるほど!

(どうやって撮ったとか、盗撮は犯罪だとか色々と言いたい事はあるけど)たしかにこの写真の光景だけを見たら僕が3人と付き合っているように勘違いされるかもしれない。これからはもっと気をつけないといけないなぁ、ははははは…………って、なんじゃそりゃぁぁあああ!!

要するに、にこ先輩はただの思い込みで僕らに解散しろなんて言ってきたわけ!?

 

にこ先輩のお説教はまだ続いている。

とにかく、まずはこのトンデモない誤解を解かなくては。

 

「にこ先輩、僕は彼氏じゃなくてマネージャーで、そもそも3人とは幼馴染……」

「言い訳無用!今はネットであっという間に拡散されちゃうのよ。アンタ達、もっとアイドルとしての自覚を持ちなさい!!」

「いや、だから……」

「とにかく話はこれで終わりよ!とっとと出ていきなさい!!」

 

だがにこ先輩は僕たちの言葉に耳をまったく貸そうとしない。

部室から出ていくように促されたが、部活承認の為にもここで引き下がるわけにはいかない。

もう1度説得を試みようとしたところ、突然にこ先輩の雰囲気が変わったような気がした。

僕たちを見る目も鋭くなり、まるで別人みたいだ。

 

「いいから出ていけ!!」

 

その剣幕に圧倒され、僕たちは瞬く間に部室から追い出された。

扉越しに呼びかけても一切返事が返ってこない。

どうしよう?μ‘sがこれから正式な部として活動するためには、どうしてもにこ先輩と話をつけなくてはいけないのに……

 

「やっぱり追い出されたみたいやね」

 

途方に暮れる僕たちの背後から誰かが声をかけてきた。

この声は―――

 

「副会長さん!?」

「ちょっと話を聞いてもらってええ?」

 

凛たち1年生がモコをアルパカ小屋に戻している間、僕たちは副会長さんからにこ先輩のことを教えてもらった。

1年生の時にスクールアイドルを結成していたこと。

求める理想の高さから他の部員と考えが合わなくなり孤立し、やがて1人になってしまったこと。

それでも諦めず、アイドル研究部を存続し続けてきて今に至ること。

 

その話を聞いて考えた。

もしペガや穂乃果たちがいなかったら僕はどうなっていたのだろう?

仲間がいない孤独に耐えられるだろうか?

答えは無理だと思う。というか、そんなの想像もできない。

そう考えると、ずっと1人で頑張ってきたにこ先輩は仲間が要らないくらい強い人なのかもしれない。

でも―――

 

「でも僕らの話もちょっとは聞いてくれてもいいのに……」

 

僕の愚痴に副会長さんは首を傾げた。

 

「おかしいなぁ?にこっちは確かに頑固なところはあるけど、人の話を全く聞かないなんて子やないんだけど……」

 

その時、副会長さんの言葉を遮るように雷鳴が響いた。

空を見るとこの後僕らに起こることを暗示するかのように、暗雲は太陽を隠し、雨は激しさを増す一方だった……

 

 

 

~~~

 

 

 

あいつらを追い出して私はようやく一息ついた。

この部室は私の聖域だ。誰にも踏み込ませない。ましてやあんな素人連中なんかに。

もしかしたら……なんて少しでも期待してしまった自分が恥ずかしい。

そう。仲間なんていらない!

やはり真のアイドルとは常に孤高の存在なのだ。

 

「どうやら無事に追い払えたようだね」

 

私以外に誰もいなくなったはずの部室から声がする。

だけど私は驚かない。だって―――

 

「あんたが教えてくれた通り、いいえ、それ以上の素人集団だったわ」

「そうだろ。ところで、私が提供した写真は役に立ったかな?」

「ええ。あいつら写真を見て慌てふためいていたわ。あんたの情報通りだったようね。最初は疑ったけど、実際にいちゃついているのも見たし」

「それはそれは。お役に立てて光栄だよ」

 

だってこいつは――ー

 

 

 

 

こいつが私の前に現れたのは数日前。

私はその時ちょうど部室のパソコンでμ‘sの動画を見ていた。

こんな素人レベルでアイドルを名乗ることも許せなかったが、腹立たしいことにそれが徐々に認められてランキングも上がっていた。

やる方もやる方なら、応援する方も応援する方だ!

私は腹いせにコメント欄に「あんなレベルでアイドルを語るなんて10年早い!(((┗―y(`A´)y-~ケッ」と書き込んでやった。

少しは気も晴れるかと思ったけど、やっぱり心のモヤモヤは晴れなかった。

逆にこんな意味もない事している自分が惨めに感じられた。

 

「はぁ…… 何がしたいんだろう、私……」

「そう、何がしたいんだい君は?」

「誰!?」

 

突然の声に驚いた私は急いで室内を見渡したがやっぱり誰もいない。

気のせいだったのか―――

 

「ここだよ」

 

パソコンの画面から右手が生えていた。

しかもその手は青く、とても人間のものとは思えない。

 

「―――!?」

 

私は声にならない悲鳴をあげ、驚きのあまり椅子から転がり落ちた。

 

「な、なんなのよ、あんた!?」

 

私がどうにか声を絞り出した。

それに応えるように右手が私の方へ伸びてくると、まるで誘うように手を差し出して言った。

 

「私の名は■■■■。君の願いを叶えにやって来た」

 

 

 

―――こいつは、私の願いを叶えにやって来たヒーローなのだから。

 

「さぁにこ、次の願いは?」

「決まってるでしょ。お遊びでアイドルやっている連中は全部潰してやるわ」

 





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