雨がさらに激しさを増したので、帰宅が難しくなる前にその日は解散となった。
穂乃果、ことり、海未は僕と一緒に帰ったのだが雨宿りを兼ねて、星雲荘でペガも交えて作戦会議をすることになった
「中々難しそうだったね、にこ先輩……」
「ええ。先輩の理想は高そうですし、なによりあの勘違いで大変ご立腹みたいです」
にこ先輩の頑なな態度にことりと海未は途方に暮れていた。
「だけど、あそこまで毛嫌いしなくてもいいのにな!」
僕が穂乃果たちに3股を掛けていると疑われた事は別に気にしていないけど、何も弁明させてくれないのはやっぱり理不尽だと思う。
……全く、これっぽっちも気にしていないけど!
そんな不貞腐れている僕を見てペガが言った。
「それって羨ましかったんじゃないかな?」
「羨ましかった?」
「うん。ペガもこうやってみんなと会えるようになる前は陸から話を聞くか、陸の影の中からこっそり見ていることしかできなかったから……。だからみんなと自由に遊んでいる陸がちょっぴり羨ましかったんだ」
そうだったのか……。ペガがそんな風に思っていたなんて知らなかった。
「きっとね、にこって人もみんなが羨ましかったんだよ。だからこそ、応援してくれる人を裏切るような事をしていると思って許せなくなったんじゃないかな?」
ペガの言う通りだとしたら、にこ先輩はもしかしたらμ’sのことを1番見ていてくれた人なのかもしれない。
「そうだとしたら、にこ先輩に分かってもらえないのってなんだか哀しいな……」
でも勘違いとはいえ、ここまで拗れていると解決方法が分からない。
僕たちは途方に暮れたが、穂乃果だけはどうやら違うみたいだった。
「何とかなるんじゃないかな?だってにこ先輩はアイドルが好きなんでしょ。それでアイドルにも憧れていて、私たちにも興味があるんだよね。だからほんの少し何かあれば上手くいきそうな気がするんだけど……」
「何かって何だよ?」
「うーん……あ!」
穂乃果が何か思いついたようだ。
その顔には、いたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべていた。
~~~
今日も雨が降り続いている。
みんな連日の雨で憂鬱なようだが、天気程度で情けない。
私からすれば、低レベルな奴らがアイドルを語っていることの方が憂鬱な気分になるのだ。
おかげでここ最近はずっとそうだ。だけど、それももうすぐ終わるはず……
ようやく1日の授業が終わり、私はさっさと教室を後にして部室に向かう。
周りの同級生は放課後どこに遊びに行くとかくだらないことで相談しているようだ。
そんな会話を聞いていると心がもやっとしたが、別に友達が居なくて寂しいなんてことはない。
ただ、そう……私に釣り合う奴がいなかっただけよ!
部室の扉を開けると、部屋の中は昼間だというのに真っ暗だ。
あれ?いくら雨でもさすがに暗すぎる。カーテン閉めて帰ったんだっけ?
私は不思議に思いながら部室に入り、電灯のスイッチを入れようと手を伸ばす。
―――だが私がスイッチを入れるより先に勝手に灯りが点いた。
「お疲れ様です、部長!」
「なっ!?」
そこに居たのはなんと朝倉 陸だった。
「お茶です、部長!」
続いて穂乃果が私に湯飲みを差し出してきた。ありがとう……って部長!? 私が!?
理解が追い付かず困惑する私に、
「部長~。散らかっていた机の上は片づけておきました」
凛が机の上を叩いて今までに無かったスペースをアピールしてきた。
何を勝手に!? それと散らかしていたんじゃなくて、あれは私的ベスポジだったの!!
「次の曲の参考にするから部長のおススメを貸して」
「だったらこれを!!」
真姫が頬を照れくさそうに手を差し出すと、その横から花陽が秘蔵のディスクを勝手に持ってくると目をキラキラさせて私に見せてくれと訴えてくる。
「ところで部長。次の曲についての相談なんですが」
「やはりアイドルをもっと意識した方が良いでしょうか?」
「それと振り付けもお願いします!」
「あ、歌のパート割りもお願いします!」
「「「「部長!!!!」」」」
そして最後に2年生達が畳みかけるように捲し立ててきた。
でも、ここまで勢いだけでガンガン押してこられると逆に冷静になれた。
「……こんな事で押し切れると思っているの?」
こいつらの考えは読めた。私をおだててその気にさせて取り入るつもりなのだろう。
でも残念でした!
私はこの程度のおだてに引っ掛かるほど単純じゃ―――
「押し切る?私たちはただ相談しているだけですよ。音ノ木坂高校アイドル研究部所属、μ‘s7人が歌う次の曲について」
「7…人……?」
「はい。先輩が私たちの事を良く思っていないのは知っています。でも私たちには、にこ先輩が必要なんです!この学校で誰よりもアイドルであろうとしたにこ先輩が!!」
私が必要……!?
そんなことを今まで言われたこと無かったけど、悪い気はしないわね。
もしかしてこいつらは本当に私のことを……
「その為にはまず誤解を解かないとだな。にこ先輩、ちゃんと僕らの話を聞いてください」
陸が真剣な顔で話しかけてくる。
誤解……?
そういえば、どうして私は急にこいつらを許せなくなったんだろう?
たしかアイツが持ってきた写真を見せられた時に……
『騙されちゃいけないよ、にこ』
ここ最近の自分に対して疑問が湧いてきた所に、アイツの声が直接頭の中に響いた。
『こいつらは自分たちの為だけに、この部が欲しいんだよ。君が今まで1人で守ってきた大事なこの場所を。許せないよねぇ?』
そうだ、騙されるな!こいつらは体よく私の部を乗っ取るつもりなんだ!
『助けてあげよう。さあ、こっちへおいで』
その声を合図に魔法陣が現れ、あの手が私の身体を掴んだ。
間違いない。アイツが、■■■■が私を呼んでいる。
みんなが突然の出来事に悲鳴を上げる中、私はその手に引っ張られて魔法陣に吸い込まれていった。
気が付くと私は学校の屋上にいた。
そして私の横には相も変わらず右手だけのアイツもいる。
私は礼を言おうとしたが、
「にこ、君の願いはお遊びのアイドルを潰すことだったね……」
それを遮って私に語り掛けてきた。
そうよ。
お遊びでやっているような奴らなんて目じゃない。
私は自分の理想とする宇宙No.1アイドルになるの。
だからこんな所で燻ってなんかいられない!
そのためには才能を凌駕する程のアイドルとしての力が―――
「その願いを叶えよう……。気にいらない物は全て壊せ、他ならぬ君の手で」
―――え?
こいつが何を言っているのか直ぐには理解できなかった。
全てを壊す?私が!?
困惑する私を無視して、青い手から黒い光が放たれた。
その光を浴びた瞬間、私の身体は途端に自由が利かなくなった。
「……私に、何を、する気よ……」
力を振り絞ってどうにか口を開いた。
『言っただろう、君の願いを叶えてあげると。もう我慢なんかしなくていい。自由にその心を解き放つんだ』
右手が私に迫る。
私は恐怖から逃れようと必死に抵抗しようとするが、やっぱり身体は自由に動かない。
「モコォォオオ!」
そこへ突然、モコが何処からか現れて右手に体当たりを仕掛けた。
だが全く相手にならず、軽くあしらわれてしまう。
「!? バカ……逃げな、さい!」
それでも諦めず何度も体当たりを続けて、そしてあしらわれ続けてモコはボロボロになっていく。
まさか私を助けるつもりなの!?そんなのいいから早く逃げなさいよ!!
『ふぅ……いい加減にしてくれないとさすがに鬱陶しいな』
だけど私の言葉は届かず、モコはデコピンの一撃で弾き飛ばされ、屋上出入口の扉にぶつかって気を失ってしまった。
『さぁ、思わぬ邪魔が入ったけど続きといこうか』
私の顔前で右手が大きく広げられる。
その手を見て場違いな感想かもしれないけど、小さい頃にヒーローショーで握手した英雄の手ではなく、まるで悪魔みたいな手だなと今さら思った。
だとしたら因果応報なのだろう。
悪魔に頼った者の末路は破滅と相場が決まっている。
きっとあいつらに嫌がらせした報いなんだ。
「「にこ先輩!!」」
穂乃果と陸が私の名前を呼んだような気がした。
―――ごめんなさい。
口にできなかった謝罪の言葉は、私の意識と共に闇の中へと消えていった……
~~~
にこ先輩が謎の右手に連れ去られてしまった後、僕と穂乃果と海未はレムに何が起こったのか調べてもらっていた。
他のみんなは職員室に行って、誰でもいいから助けてくれる先生を探してもらっている。
……もちろん、突然先輩が消えたなんて話を信じてくれる先生がいるなんて思っていない。
これは僕がウルトラマンだと知らない1年生達を連れ出す為にことりが咄嗟に言った方便だ。
「レム、何が起こったか分かったか?」
『詳細不明。ですが先程発生した空間の歪みの波形は、先日ユートムが消失した際に観測された物と同一でした』
!? ユートム消失の犯人がにこ先輩を攫ったのか!?
先輩がどこに連れていかれたのかレムは即座に歪みの波形から割り出してくれた。
その場所は屋上―――僕らの練習場所だ。
僕はことりの携帯にメッセージを送ると、にこ先輩の救出に向かった。
屋上に着くと、あの不気味な青い右手と身動き一つしないにこ先輩がそこにいた。
そしてなんと足元ではモコがボロボロになって気絶している。
怪我をしたモコを海未に任せて、僕と穂乃果はにこ先輩の所へ。
「「にこ先輩!!」」
僕と穂乃果がにこ先輩に呼びかけたが返事はない。
今、にこ先輩は闇としか形容しようがない黒い靄に身体を包まれ、目からは輝きが失われて虚ろになっていた。
『おやおや、ヒーロー君のお出ましだ』
僕らに気づいた右手がおどけたように言った。
僕はそれを無視してにこ先輩を助けようと手を伸ばしたが、闇に触れた瞬間、凄まじい衝撃が走り弾き飛ばされてしまった。
それを見ていた右手が愉快そうに笑う。
「にこ先輩に何をした!!」
『お願いされた力をあげただけだよ。気に入らない物を潰す力をね』
そう言って右手がパチンッと指を鳴らすと、空に巨大な魔法陣が出現し、中から1匹の怪獣が降ってきた。
ズドォォォン!と大きな地響きを起こして着地した怪獣の姿は、この前僕が倒したムルチとよく似ていた。
『あれはゾアムルチ。君が倒したムルチを私が再生して強化した個体だよ』
右手が頼んでもいない説明してくる。
するとにこ先輩から稲妻のような光が放たれ、それを受けて覚醒したゾアムルチは街を破壊し始めた。
『にことゾアムルチは同調した。今やあれは彼女の嫉妬や憎悪の化身だ。彼女の気が済むまでゾアムルチは街を破壊し続ける』
「お前がにこ先輩にさせているんだろ!」
『いや……これは彼女の願いだよ』
「なんだって!?」
『思い通りにならない現実ならいっそ壊してしまえ!そんな彼女の心の奥底に眠っていた願いを私は叶えた。彼女の負の感情がゾアムルチに力を与えている。さて、果たして君に止められるかな?』
それだけ言い残すと、右手はバイバイと僕たちに手を振って魔法陣に消えていった。
その舐め切った態度に怒りを覚えたが、今はにこ先輩を助ける方が先決だ。
穂乃果と海未ににこ先輩を任せてジードライザーを構える。
「絶対に助けてみせる。ジーッとしてても、ドーにもならねえ!」
僕はウルトラマンとベリアルのカプセルをジードライザーでスキャンしながら駆け出し、屋上のフェンスをジャンプで飛び越えた。
「ジィィィィィド!!」
<ウルトラマンジード プリミティブ>
<プリミティブ>へのフュージョンライズが完了し、巨人となった僕は大地を震わせてゾアムルチの前に着地する。
僕の姿を見て、以前の己を葬った相手だと気づいたのかゾアムルチが敵意を露にした。
雨の勢いがさらに激しさを増す中、僕とゾアムルチの戦いは始まった。
まずは正面からぶつかり合い力比べだ。
だが強化されたゾアムルチの恐るべき腕力に敵わず、僕は地面に叩きつけられた。
さらに追撃の踏みつけがきたが、僕は地面を転がって回避すると素早く立ち上がり、助走をつけたラリアットで地面に押し倒す。
倒れたゾアムルチの上に跨って攻撃を仕掛けると、ゾアムルチはその大きな口による噛みつき攻撃で抵抗してきたが、逆にその口を掴んでそのまま頭を地面に打ち付けてやった。
そのまま一進一退の攻防が続いたが、一瞬の隙をついて手痛い一撃をお見舞いすると、ゾアムルチの動きが鈍った。
~~~
ウルトラマンジードとゾアムルチの戦闘がよく見渡せるビルの屋上で、中心から白と黒に色分けされた服を着た男が戦いの様子を楽し気に見守っていた。
気まぐれに人間の姿を真似てみたが、意外に趣があって気に入ったよ。
それにしても、まさか光の国の大罪人にご子息がいるとは驚きだった。
ウルトラマンキングと一体化した宇宙。
さぞ面白いことになっているだろうと期待して覗いてみたら、こんな逸材に出会えるとは。
しかし―――妙だな。ゾアムルチの力が想定したよりもずっと弱い。
矢澤にこを散々焚きつけて肥大化させた嫉妬や憎悪といった負の感情を力に変えているはずなのに何故?
……まぁいいか。それに、見ものなのはこれからだ。
~~~
僕の攻撃で動きが鈍ったゾアムルチにトドメを刺すため、エネルギーをチャージする。
『レッキングバァァスt―――』
「撃つなジード!!」
光線を放つために腕を十字に組もうとしたその瞬間、誰かの大声がそれを阻んだ。
(撃つな!?何で!?)
慌てて声がした屋上を見ると、声の主はなんと伊賀栗先生だった。
職員室に行ったはずのことり達もいつの間にか屋上に来ている。
どうやらことり達が連れてきたようだけど、伊賀栗先生いつもの緩い雰囲気と違くないか?
僕が先生の変貌に困惑していると、ことりが両手をメガホンのようにして僕に重大な事実を伝えた。
「ジードが怪獣に攻撃すると、にこ先輩が怪我しちゃうみたい!!」
『なんだって!?』
それを聞いてにこ先輩の方を見ると、ことりの言う通り黒い靄の中のにこ先輩の様子がおかしい。
息も絶え絶えでぐったりしていた。
僕は慌ててレムに解析を頼むと、直ぐに答えが返ってきた。
『矢澤にことゾアムルチの間で特殊なエネルギーが行き交っています。このままゾアムルチを倒した場合、そのエネルギーが彼女へと向かい、最悪命を落とすことになるでしょう』
『そんな……』
その恐ろしい事実を前に攻撃を躊躇する僕に、ゾアムルチが容赦無く口から青い破壊光線を吐いて攻撃してきた。
その直撃を受けて膝をついた僕にゾアムルチが近づいてくる。
僕は咄嗟に手を水平に広げ、レッキングリッパーを放ってしまった。
不意の反撃にゾアムルチの回避が間に合わない。だが―――
「きゃああああ!!」
屋上から、にこ先輩の悲鳴が響いた。
ゾアムルチが攻撃を受けたと同時に、にこ先輩を包んでいた黒い靄が激しくスパークを起こした。
先程のレムの説明の通りに、ゾアムルチのダメージがにこ先輩へと肩代わりされているのだ。
苦しむにこ先輩を穂乃果たちが助け出そうとしているが、エネルギーの奔流が激しく近づくことすらできない。
スパークが収まると、にこ先輩はぐったりと項垂れて気を失ってしまった。
くそっ、どうすればいいんだよ!?こっちから手出しできないし、かといってこのままゾアムルチを倒さなければ街の被害が拡がるだけだ。
『にこと街―――どちらを救い、どちらを犠牲にするか、君が選択するんだ』
そんな悪意に満ちた言葉が聞こえた気がした。
いや、もしかしたらあの右手野郎が本当に言ったのかもしれない。
だけど悔しいことに、今の僕にこの状況を解決する力はない。
一か八か、にこ先輩が死なない可能性に賭けて倒すしかないのか?
―――違う!ドンシャインならにこ先輩も、街も両方必ず救ってみせるはずだ。
何かあるはずだ!どちらも救う方法が!!
「モォォコォオオ!!」
悩む僕に意識を取り戻したモコの、その小さな体からは信じられない大きな声が届いた。
その意志に応えたのか、モコのリトルスターが体を離れて僕に宿り、新たなウルトラカプセルを起動させた。
起動したカプセルの力はウルトラマンコスモス―――青き体を持つ慈愛の勇者だ!
「ジード!コスモスの力は邪悪な力を祓うことができる。俺が怪獣を足止めするから、その隙に彼女を救え!」
伊賀栗先生から指示が飛ぶ。
怪獣を足止め!?それになんで先生がウルトラマンコスモスの事を知っているの!?
僕が戸惑っている間に、伊賀栗先生は両腕を交差させてゾアムルチを睨みつけた。
するとゾアムルチは突然苦しみだし、本当にその動きを止めてしまった。
「い゛ま゛だぁあ゛あ゛!」
呆ける僕に伊賀栗先生が叫んだ。先生も相当辛いのか苦悶の表情を浮かべている。
状況が全く呑み込めていないけど、確かにチャンスは今しかない!
僕にコスモスの力が使いこなせるか分からないけど、ジーッとしてても、ドーにもならねえ!
<ウルトラマンコスモス>
僕がジードライザーでコスモスカプセルの力を解放すると、一瞬コスモスの姿が僕と重なりその力を身に宿した。
『レッキングエキストラクト』
右の掌を突き出して破邪の光線をにこ先輩に向けて放った。
その光線を浴びて、にこ先輩を包んでいた闇が徐々に切り離されようとしている。
(やったか!?)
だが―――
~~~
「おやおや……まさか彼が微弱とはいえ浄化の力を使えるようになるとはねぇ」
あの程度で自分の呪縛を祓うことなんてできないだろうが、念のため■■■■は人間の姿から本来の姿に戻ろうとした。
だがそこへ突然、スーツ姿の男が杖を振りかざして襲ってきた。
それを躱し貫手で襲撃者の首を狙うが、それを察知した襲撃者も即座に距離を取って牽制する。
スーツ姿の男は一見したところ紳士然としているが、自分の障害となる者は確実に排除するという強い意志が感じられる。
どうやらストルム星人のようだが、微かに感じられる力から■■■■は襲撃者の目的を察した。
「なるほど。陛下の忠実な下僕といったところかな?」
「私が決めた物語の筋書きを邪魔しないでいただこうか!」
ハハハハハ……彼も中々面白そうじゃないか!!
■■■■はこの男が己の好奇心を刺激する対象か否か見極めるため、その挑戦を受けてたった。
~~~
―――やはり今の僕ではコスモスカプセルの力を全て引き出すことができなかった。
慣れない浄化の力はエネルギーの消費が激しく、点滅が始まったカラータイマーの速度はいつもより早い。
エネルギーが足りず、にこ先輩から闇を切り離す前に光線の出力がどんどんと弱くなっていく。
(このままじゃ……)
焦る僕に追い打ちをかけるように、先生の拘束する力を振り切ってゾアムルチが僕に破壊光線を吐いた。
その攻撃にどうにか耐えながら光線を放ち続けるが、もう限界は近い。
やっぱり駄目なのか?―――いや、まだだ。最後まで諦めてたまるか!
『にこ先輩!にこ先輩はアイドルになりたいんでしょ!だったら、闇になんて負けないで下さい!!街を壊すことが、にこ先輩のやりたい事なんですか!?』
僕はにこ先輩に呼びかけた。いや、僕だけじゃない。μ‘sのみんなもにこ先輩に必死に呼びかけ続けてた。
すると、にこ先輩の口元が微かに動いた。
「……じゃないわよ……」
項垂れていたにこ先輩が顔を上げた。
さっきまで虚ろだった目に光が戻っている。
そして叫んだ
「そうよ、ふざけんじゃないわよ!アイドルはね、みんなを笑顔にする存在なの!それなのに街なんて壊させるんじゃないわよ!!」
にこ先輩のアイドルとしての誇りが闇に打ち勝った瞬間、その胸でリトルスターが強く輝いた。
その光が炎となってにこ先輩の身体を包み込むと、覆っていた闇が全て焼き祓われていく。
闇から解放されて力なく倒れ込んだにこ先輩は伊賀栗先生に優しく受け止められた。
「そいつやっつけてよね、ウルトラマン……」
意識を失う前にそう呟いて
その想いはリトルスターへ、そして新なる力となって僕に引き継がれた。
にこ先輩のリトルスターで起動したカプセルに描かれた戦士の姿は、頭に2本のウルトラホーン、そして太陽のように赤い身体。そう、このウルトラマンの名は―――
『タロウカプセルが起動しました』
~~~
「タロウ……このような形でもやはり私の前に立ちはだかるか……フフ、フハハハハハ!!」
にこに与えた力が消え去ったのを察知した■■■■は、嬉しそうとも憎らしそうとも取れるように呟くと、突然狂ったように笑い出した。
そしてひとしきり笑った後、ここが今回のゲームの潮時と判断したようだ。
「今回のゲームはここまでのようだ。失礼させてもらうよ」
「散々好き勝手やっておいて、このまま逃げられると思うな!」
このまま帰したのでは収まりがつかないと、なんと襲撃者は陸の持つ物と同型のライザーと怪獣が描かれたカプセルを取り出した。
「ここで君たちと事を構える気はないよ。興味深いものが見つかったし、それに私は残業をしない主義なんでね」
だが■■■■は人をくったような口調で別れの挨拶を済ますと、忽然とその姿を消してしまう。まるでそこには最初から誰もいなかったかのように……
~~~
『一気に決める!』
僕は<ソリッドバーニング>にフュージョンライズすると、先生の拘束が解けて再び動き出したゾアムルチに真っ向から立ち向かった。
にこ先輩との繋がりが切れて、もはや先程までのパワーは無い。
だけど僕も残されたエネルギーは後僅か。時間をかけている余裕などない。
だったら―――
<ウルトラマンタロウ>
手に入れたばかりのタロウカプセルをナックルに装填してライザーで力を読み取る。
その力は爆発的な炎の力だ。体中から湧き上がる炎の力でバーニアが通常以上の出力に強化される。それによって加速された超高速パンチの猛打がゾアムルチの腹に叩き込まれた。悲鳴と共にゾアムルチの呼吸が一瞬止まる。その隙を見逃さず、僕はパンチの連打を止めると、大きく腰を落として残ったエネルギーを右拳に集約させた。
『ブーステッドアトミックバンチ!!』
トドメに放った最大加速の右拳がゾアムルチを天高く打ち上げた。
拳に宿った炎のエネルギーがゾアムルチの全身を焼き尽くし、空中で木っ端微塵に爆発した。
その爆発は空を覆っていた雨雲の一部を割き、その隙間から久しぶりに太陽が僕たちに顔を見せた。
長く続いた雨がようやく止んだんだ。
みんなが見守る中、にこ先輩は屋上で目を覚ました。
最初はさっきまでの出来事が夢か現か区別がついていなかったようだけど、破壊された街の景色が現実に起こった事なのだと嫌でも思い知らせてくる。
にこ先輩は立ち上がると、何も言わず屋上の出入り口に向かって歩き出した。
「にこ先輩!」
僕はそれを呼び止めた。にこ先輩は僕らに背を向けたまま、震えた声で言った。
「笑っちゃうわよね。真のアイドルが聞いて呆れるわ……見苦しい嫉妬に駆られてアンタたちに迷惑かけて、挙句の果てには街まで壊しちゃって……本当にごめんなさい……」
僕はにこ先輩に掛ける言葉が見つからず、ただその背中を見ている事しかできなかった。
「アイドル研究部はアンタ達にあげる。部室も好きに使いなさい。じゃあね……」
「辞めちゃうんですか!? アイドル、好きなんですよね!?」
去ろうとするにこ先輩に穂乃果が問いかけた。本当にそれでいいのかと。
「辞めたくないんですよね?」
「……当たり前でしょ!!」
にこ先輩はその問いに涙と共に溢れ出す感情のまま穂乃果に、いや僕たちにぶつけて答えた。
「だってアイドルは、私の夢なのよ!辞めたくなんてない。そんなの決まっているじゃない」
「だったら……」
「でも仕方ないでしょ!みんなを傷つけた私には、もうアイドルをやる資格なんて……」
「資格って何ですか!?スクールアイドルをやるのに必要なのは”やりたい”って想いだけ。資格なんて無い筈です!」
そうだ。しかもにこ先輩は利用されただけなのに、そのせいでやりたい事を諦めるなんて理不尽過ぎるだろ!
穂乃果の言葉はにこ先輩に確かに届いていた。それはにこ先輩の表情を見れば明らかだ。
だけど罪悪感からか、はたまた自分が堕ちた闇への恐怖からか「やりたい」と言えないにこ先輩に穂乃果は言った。
「一緒にやりませんか?」
「……え?」
その言葉と自分にまっすぐ差し出された手に驚くにこ先輩。
「私言いましたよね。私たちにはにこ先輩が…いえ、部長が必要だって。この学校で誰よりもアイドルであろうとしたにこ部長が!」
穂乃果のその言葉が、閉ざされかけたにこ先輩の心の扉をこじ開けた。
にこ先輩は袖で涙をぬぐうと、
「厳しいわよ」
差し出された手を力強く握り返した。
「分かっています。アイドルへの道が険しいことぐらい」
「分かってない!いい、アイドルは笑顔を見せる仕事じゃないの。みんなを笑顔にする仕事なの!それを良く覚えておきなさい!!」
「はい!」
「こうなったら今日私が傷つけちゃった人達みんなを、いえ宇宙中の人達を笑顔にするアイドルになってやるんだから!アンタ達、しっかりついてきなさいよ!!」
こうしてμ‘sは7人になった。
もう練習を邪魔する雨は降らない。
早速にこ先輩実演で、プロ意識の足りない6人に笑顔の練習することになった。
みんなが練習の準備をする中、にこ先輩がこっそり僕に近づいて耳打ちしてきた。
「ところでアンタ、本当にあの3人と付き合っているんじゃないのよね?」
「だから誤解ですって!」
「そう、ならいいわ!でも気をつけなさい。アイドルにとってスキャンダルは命取りなんだからね」
それだけ言って、にこ先輩は仲間の待つ場所に向かう。
「じゃあいくわよ! にっこにっこにー!」
雲の隙間から差す光の中、にこ先輩の笑顔はとびっきり輝いていた。
理想と現実は違う。
思い通りにいかなくて、ふと魔が差してしまうなんてこともあるかもしれない。
それでも人は理想の自分を思い描いて前に進む。
たとえ遠くても、理想に手を伸ばし続けるその姿は―――
「締めのモノローグ中に悪いけど朝倉君。ちょっといいかな?」
「うわっ!?何ですか伊賀栗先生?……あと、メタいですよ」
伊賀栗先生は穂乃果たちに聞かれないよう僕を校舎の中に連れて行くと、急に精悍な顔つきに変わった。その鋭い眼からは歴戦の戦士の風格すら感じさせる。
『俺はウルトラマンゼロだ。お前に聞きたいことがある』
「!?」
先生がウルトラマンゼロ!? あー、だからゾアムルチの動きを封じることができたのかな?こう、ウルトラ念力~ってな具合で……じゃないよ!僕の正体がバレてる!?どうしよう!?やっぱり解剖されて、いやゼロが来たんだからベリアルの息子ってこともバレていて捕まって殺されるんじゃ……?
突如知らされた事実に僕の頭はパニックになっていた。
だけどそこへ、
「りっく~ん!何してるの?」
穂乃果が急にいなくなった僕を呼びに来た。
話の腰を折られた伊賀栗先生、いやゼロはやれやれと顔をしかめると、
『……まぁ今日はいいか。じゃあな、練習頑張れよ』
僕の肩をポンッと叩いて、ゼロから僕の良く知る普段の先生に戻った。
「そういう訳だから。練習頑張ってね!」
伊賀栗先生は両手でガッツポーズを作って励ましの言葉を言うと、そそくさと階段を下りて去って行った。
「先生は何の用だったの?」
「こっちが聞きたいよーー!!」
~キャラ紹介~
矢澤にこ
音ノ木坂高校1ねグボハ……3年生にして我らがアイドル研究部部長。
理想と現実との差に悩みながらも、それでもアイドルの誇りを胸に努力を積み重ねてきたが、原作とは違いμ’sの誘いよりも先に悪魔の誘惑に乗ってしまい…
~次回予告~
陸「音ノ木坂高校に最近やって来た養護教諭の地味井さん。
地味で目立たないけど優しい人だけど、実は秘密があって……」
次回、「”ほけん”の仕事」