「にこ先輩、あれから右手は出てきました?」
「勿論あれっきりよ。それに出てきても、もう二度とごめんよ!」
「結局何者だったのでしょうね?」
「さあ?あいつと会っていた時の記憶もあやふやだし……。今にして思うと何でアイツの口車に乗っちゃったのやら……」
「でもそのおかげで、にこっちはμ‘sに加われたんやから、悪い事だらけではなかったんやない?」
「まぁそうだけど……」
「よく分からないからこそ不気味よね。また襲ってこないといいけど……」
事件の後、あの不気味な右手に関するにこの記憶はひどく曖昧になっていた。
果たして何が目的だったのか、全ては闇の中というわけだ。
事件当時アイドル研究部に所属していなかった希と絵里は、初めて聞かされたその得体の知れない事件に不安を感じた。
『安心しろ。よく分からない奴だったが、少なくともここら一帯には妙な気配を感じねぇから』
それを2人の表情から読み取った令人、いやゼロから安全のお墨付きを貰った2人、いやみんなはホッと安心したようだ。
だがその後ゼロが険しい顔で考え事をしていたことに気づく者は誰もいなかった。
「よく分からないといえば、地味井さんもよく分からないわね」
場の空気を変えようと真姫が別の話題を振った。
「そういえば、地味井さんが学校に来たのもこの頃だったかにゃ?」
『その地味井とはどなたの事ですか?この場にはいないようですが……』
話題に上がった地味井という人物にレムが興味を持った。
「地味井さんはね、僕らの所にモコの飼い主を名乗る人から連絡があった日に……」
その頃、アイドル研究部室で自分が話題になっているとも知らず、地味井は学校の保健室で書類の作成を行っていた。
書類といってもこの学校に関係あるものではない。
これは自分が所属する秘密組織の上司に宛てた報告書―――なのだが、どうやら先程から筆は全く進んでいないようだ。
「『今日中に春先からいままでの事件の報告書を提出しろ』だなんてゼナ先輩に言われたけど、学校の仕事もあるのに終わるわけないよ~……」
地味井は泣き言を言って机に頬杖ついて、自分の書きかけの報告書を見返した。
3月30日 晴れ
私の担当地区に後にスカルゴモラと呼称される正体不明の怪獣が突如出現した。
怪獣に対する公的な防衛戦力を持たないこの星では被害が拡大する一方であったが、新たなウルトラマンが出現して撃破に成功する。
だがAIB上層部からはウルトラマンベリアルとの関連を疑われ、要観察対象に指定されることになった。
4月5日 曇り
秋葉原地区にて不審な宇宙人の目撃情報が入った。
複数の監視カメラの映像を照合し、入星記録の無い三面怪人ダダであることが判明。
現場に到着後、ゼナ先輩と別れて捜査中に女の子がダダに縮小され誘拐する現場に遭遇。
誘拐された女の子を救おうとした少年たちを救助するため、別宇宙から取り寄せた新兵器“綿菓子銃”を使用。
ダダはその場から逃走したが、その後遅れて合流したゼナ先輩に捕らえられ、収容所に転送された。
同日スカルゴモラが再出現し避難所を襲撃したが、再び出現したウルトラマンジードに手によって撃破された。
後日、逮捕されたダダの取り調べから、リトルスターなる未知のエネルギー体についての情報を得た。
それによるとリトルスターの発言者は最近になって地球上で確認され始めたらしく、日本、特に秋葉原近辺で多く確認されるのだという。
発現者は特殊な能力を覚醒するらしく、宇宙人の間では(少女だと特に)高値で取引されるらしい。
なぜ最近になって急に現れたのか原因については現在も調査中である。
※綿菓子銃は見かけによらず命中精度は良好なのですが、綿菓子1個分しか発射できず、なにより相手の顔面に綿菓子をへばり付けるだけなので攻撃性能は皆無に等しいです。正式採用は見送った方がいいと思います。
4月×日 曇り
ウルトラマンジードを名乗る者からマスコミ各社を始め、あらゆる情報メディアにメッセージが送られた。以降、AIB内での正式呼称もウルトラマンジードに認定される。
時を同じくして、あのウルトラマンゼロまでが地球に飛来したことで、様々な星から地球への関心が強まり、無許可で地球に侵入する宇宙人の数が増大してしまう。
4月△日 晴れ
情報屋からピット星人の地球侵略計画のタレコミがあった。
ゼナ先輩と共に計画の首謀者であるピット星人シェルの逮捕に向かうと、高校生たちが事件に巻き込まれていた。
高校生たちを救出後、逃走したシェルを追跡し“綿菓子銃改”で怯んだ隙に逮捕に成功。
なお、逃走中にシェルが悪あがきで呼び出した宇宙怪獣エレキングはウルトラマンジードによって倒された。
その後、自らAIBに出頭したピット星人の少女トリィを保護。
侵略の意志は無く、またシェルの証言も手伝い、情状酌量となったトリィは保護観察処分となり、現在はAIBの協力者をしながら、この地球で高校生として生活を送っている。
また、トリィとシェルの取り調べから、リトルスターは今から17年前に秋葉原を起点に発生した謎のエネルギー粒子が、生命体の中で凝縮されたものであるという情報を得た。
だが、誰が何の目的でそのエネルギーを散布したのか、そしてなぜ最近になって発現者が増え始めたのかは不明のままである。
※“綿菓子銃改”は改良前に比べ、発射可能な綿菓子量が大幅に改善されたのですが、何度も言いますが、顔にへばりつくだけで攻撃力は皆無に等しいので正式採用は見送るべきです!!
こういった大きな事件の合間にも起こる違法滞在している宇宙人の摘発や密輸された怪獣の保護etc、etc、etc……
うわっ…私の担当地区、事件起きすぎ……?
そして今はAIBの任務に加えて音ノ木坂高校で保健室の養護教諭(非常勤)。
ハッキリ言ってオーバーワークではないだろうか?
そもそもAIBのエージェントである私が何で保健室の先生をやっているのか……
きっかけは、この学校で保護されていたモコの愛称で呼ばれる小珍獣ルナーを回収する時に巻き込まれた、あの少年少女たちとの事件だった。
~~~
この地球に宇宙人が多く暮らしていることはあまり知られていない……
これは、そんな星で出会った……え?番組が違う?
失礼、では改めて……
私の名前は地味井 星士(じみい せいじ)。
Aliens Investigation Bureau、通称AIBに所属するミジー星出身のエージェントだ。
これは人知れず宇宙人を追う若きエリート(自称)エージェントの知られざる記録のほんの一部である。
平和を守るAIBエージェントに休みはない。
その日も私はゼナ先輩と共に新たな任務に就いていた。
ゼナ先輩が運転する車の中で今回の任務内容の確認をしていると、1枚の写真を見せられた。
「(先日逮捕した怪獣密輸犯から逃げ出した小珍獣ルナーの行方が判明した。どうやら我々の担当地区にある音ノ木坂高校で保護されたらしい。至急回収に向かうぞ)」
「はい、ゼナ先輩。それにしてもこの子、モコモコしていて可愛いですね」
「(確かに可愛いが、相手の感情を読み取る特殊能力を持っているらしく、それを悪事に利用しようとする者もいるようだ。それに放っておけば、この星の生態系に影響が出る可能性も捨てきれない)」
ゼナ先輩が私と会話する時は常に無表情だ。
別に怒っているわけではない。シャドー星人であるゼナ先輩には表情筋が無いのだという。
だから驚く、笑うなどの感情表現はおろか、口を動かすことすらできない。私との会話はなんとテレパシーで行うのだ。
お陰で先輩が何を考えているのか分からないこともある。
いっそ感情を読み取れるとかいうルナーを、ゼナ先輩翻訳機として1匹欲しいくらいだ。
そうこうしているうちに目的地の音ノ木坂高校に到着し、ゼナ先輩は学校の正門前に車を停めた。
「(私が保健所の職員として潜入しルナーを回収してくる。お前は万が一に備えて車内で待機だ」
「えっ?私も同行しますよ」
「(お前に任せてルナーを逃がすと厄介だからな)」
「……そう言って、実は1人でこっそりルナーをモフモフしたいだけなんじゃないですか?」
「(……)」
ゼナ先輩は無言で車を降りると足早に学校へ向かった。
あれは図星だな……。
本人は隠しているつもりなのだろうけど、ゼナ先輩はあれで可愛いもの好きなのだ。
この前もサメクジラの赤ちゃんを保護した時、引き渡し直前までサメクジラを優しく抱いて可愛がっていたし。……本人は絶対に認めようとしないけど。
だけど、やっぱり潜入は私の方が良かったのではないかな?
地味でせこいと揶揄されることもあるが、周囲に溶け込み活動するのは我々ミジー星人の得意とするところだ。
ゼナ先輩のような大立ち回りはできないが、この職に就いた今となっては潜入調査などで立派な武器だと言っていい。
対照的にゼナ先輩はとても優秀な人だけど、その無表情のせいか悪い意味で目立ってしまうことがある。
そして案の定、学校の中から生徒さんや先生の戦々恐々とした声が聴こえてきたのだった……
まぁ、折角のゼナ先輩公認サボタージュタイムだ。
最近忙しかったし有意義に過ごさせてもらおうと、買っておいたアンパンと牛乳を飲んでまったり待つことにしよう。
それから数分後、正門から5人の生徒が出て来るのがドアミラー越しに見えた。
最初は気にも留めなかったが、5人の中にいたツインテールの女の子を見た私は、驚きのあまり飲んでいた牛乳を吹き出しかけた。
なんと彼女が大事そうに抱えているのは、私たちが回収しに来たはずのルナーではないか!?
私は慌てて車から降りると、その子たちに声を掛けた。
「君たち、ちょっといいかな?」
「はい?あ、もしかして連絡くれたモコの飼い主の方ですか?」
男の子が快く答えてくれたのだが、誰かと勘違いしたようだ。
モコとは何だ……もしかしてルナーの事か?それに飼い主?いや、密輸されたルナーに飼い主がいるはずない。何故そんな連絡が……?
「あの……?もしかして違いましたか?」
返事がない私を心配して少年が聞いてきた。とにかく、もっと情報を聞き出さなくては。
「ああ、ごめんね。申し遅れたけど、私は地味井 星司。保健所の者です」
「僕は朝倉 陸です」
「……西木野 真姫」
真姫ちゃんは私の事を警戒していたようで、隣にいた陸君の袖をちょこっと摘まんで答えたのだが、陸君はそれに全く気づくことはなかった。
「小泉 花陽です……」
「星空 凛です!」
次に挨拶してくれた花陽ちゃんと凛ちゃんの顔を見て何か引っかかるものを感じた。
だがその引っかかりが何かに気づく前に、
「にっこにこにー!スクールアイドルμ‘sのNo.1アイドル、矢澤にこで~す!にこにーって呼んで下さいにこ~♡」
「モコ!」
「は、はぁ……」
最後に挨拶されたにこちゃんのキャラの濃さに圧されて考えがどこかに飛んで行ってしまった。
スクールアイドルは聞いたことがあるけど、こんなんだっけ?
しかもルナーまで、にこちゃんに合わせて一緒にポーズ決めているし……
「じー」
「あの……私の顔に何か付いている?」
にこちゃんの挨拶に呆気にとられていた私を、凛ちゃんがジーッと見つめているのに気付いた。
まさか地球人への擬態がバレたのだろうか!?
いや、くしゃみをした程度で解けてしまうお粗末な擬態しかできなかった一昔前の世代とは違い、私の擬態能力は完璧のはずだ。
では一体何が……?
「あー!思い出した!!この人、凛たちがこの前トリィと一緒に宇宙人に襲われた時に助けてくれた生命保険の人だにゃ!!」
「え?…………あー!?」
それを聞いて私は、この子たちが以前にピット星人事件の時に助けた女の子たちだと思い出した。
凛ちゃんに言葉で花陽ちゃんと真姫ちゃんも、私のことを思い出したようだ。
何の事か分からず戸惑う陸君とにこちゃんの2人に事情を説明し、改めてあの時のお礼を言われた。
「この前はありがとうございました」
「いやいや、元気そうで良かったよ」
「ところで、今日もセールスのお仕事ですか?」
「あれ? でもさっき保健所の人だって……」
だがその会話の途中で、真姫ちゃんに私の設定の矛盾点を気づかれてしまった。
ただでさえ地味なせいで人の記憶に残りにくい私のことを覚えていただけでも驚きなのに、真姫ちゃんの指摘ですっかり動揺してしまった私はどうにか答えを絞り出した。
「え、え~と…だから……そう!この前は保健所でやっている、セールスの仕事の途中だったの!」
……我ながら苦しい言い訳だったと今でも思う。
そもそも保健所は保険のセールスなんてしないだろ!と過去の自分にツッコみを入れたくなる。これじゃ警戒を解くどころか、ますます怪しまれ……
「そっか。保健所のお仕事って大変なんですね」
……みんなあっさり信じてくれた。
真姫ちゃんは納得しきれていないようだが、みんなが納得してしまったので、そういうものかとそれ以上は追及してこなかった。
自分で言っておいてなんだが、この子たちはもう少し世間について勉強をした方がいいのでは……?
その時、1台の車が停車して中から男が降りてきた。
男は乗ってきた車も黒だが、その服装も全身黒で統一されていて、手には小動物が入るくらいの大きさのケースを持っている。
男はモコを確認すると、陸君に握手をするとブンブンと上下に大きく振りまわした。
「君たちが私のルナーを保護してくれた生徒さんか。どうもありがとう!さ、こっちへおいで」
そう言ってパッと陸君から手を離した男はモコを無理矢理連れて行こうとするが、モコはそれを拒んでにこちゃんの頭の上に逃げてしまった。
「こら、離れなさいよ!アンタの飼い主が迎えに来たんでしょ!…私だって別れるの辛いの我慢しているんだから!」
にこちゃんが頭の上のモコを引き離そうとするが、モコは必死に抵抗した。
黒服男も再びモコを捕まえようとするが、その間に私が割って入った。
「すいません。ちょっといいですか?」
「なんですか、貴方は?」
見るからに怪しい黒服男は、私に声を掛けられると不愉快そうに答えた。
だがその程度で臆していてはAIBのエージェントは務まらない。
私は笑顔を作りながら、黒服男に鎌を掛けた。
「ニコニコ保健所の者です。その子はとても珍しい生き物で、どうやら他所から密輸されたらしいのですが……」
「!」
一般人の前なので宇宙人に関するワードは使わなかったが、黒服男は私がAIBに属する者であると気づいたようだ。
男の微かな動揺を見逃さず、私はさらに笑顔で威圧しながら男を追及した。
「貴方……本当に飼い主さんですか?」
「……チッ!」
だが黒服男は返答代わりに私を突き飛ばすと、にこちゃんからルナーを強引に奪い手に持っていたケースに閉じ込めてしまった。
それを見て取り押さえようとした陸君を男は軽々と払いのけると、自分が乗ってきた黒い車でその場から逃走した。
私は通信機で未だに戻らないゼナ先輩に状況を報告し、急いで戻ってきて欲しいと頼んだのだが……
「(……分かった。お前はルナーの行方を追え。何かあれば私に連絡しろ)」
「“お前は”って……ゼナ先輩は!?」
「(私はこの学校に用事ができた。頼んだぞ)」
「用事ができたって…ちょっ、ゼナ先輩!?」
なんとゼナ先輩はそれだけ言い残すと通信を切ってしまった。
予想外の展開に文句の1つも言いたいところだが、生憎そんな余裕はない。
モコを連れ去った男の車がどんどん離れていくのが見える。急いで追わなくては。
それにゼナ先輩が任務より優先するなんて、きっとよっぽどの事が起こったのに違いない。
ならば先輩に託されたこの任務、必ずやり遂げなくては!と、気合を入れた私は急いで車に乗り、エンジンをかけた。
「よし、行きましょう!」
「ああ!……って、何で君たちまで乗っているの!?」
気合十分な私をさらに鼓舞するような言葉に思わず返事をしてしまったが、いつの間にか助手席には陸君が、そして後部座席には花陽ちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃん、にこちゃんが座っているではないか!?
「そんな事より早く車を出すにゃー!」
「そうよ!モコを連れ去ったやつが逃げちゃうじゃない!!」
「僕たち、モコを助けたいんです!」
陸君たちが真剣な眼差しで私に自分たちを連れて行くよう訴えてくる。
しかし宇宙人との戦闘が予想される事件に彼らを巻き込むわけには……。だが一方で、彼らの気持ちも理解はできる。
それに何より、ここで彼らを説得するのに時間を取られていては確実に取り逃がしてしまう。
「……分かった。その代わり、私の言う事を絶対に聞くこと。いいね!?」
「「「「「はい(にゃ)!」」」」」
彼らの返事を合図に、私は車を発進させた。
これが私と陸君たちとの出会いだ。
ホント、この時はただの高校生だと思っていたんだけどなぁ……。
~キャラ紹介~
地味井 星士
本作オリジナルキャラクターのAIBエージェント。
ジード本編の愛崎モア枠の人物ですが、男女比の関係で男性に変更。
容姿は銀魂の山崎など、お好きな地味キャラをご想像して頂ければ。
地味に活躍しているけど目立たない。裏で何か解決していたら大抵この人が動いている。そんな感じの人物です。
何でミジー星人なのかというと、作者が個人的に復活希望しているキャラクターだからです。