ジードライブ!~起こすぜ!奇跡!!~   作:キータ

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23話 僕らのやり方で(2)

「部活の時間にゃー!!……て、あれ?」

「何ですか、この状況?」

 

放課後、いつものようにアイドル研究部の部室に入ってきた凛と真姫が困惑していた。

そりゃ先生と生徒がマジなにらみ合いをしていたら誰だってそうなるだろう。

 

そう、僕と伊賀栗先生のにらみ合いは放課後になっても続いていたのだ。いや、僕らだって子供じゃない。最初は頭を冷やして、部室で落ち着いて話し合おうってことになったんだけど、先生が強情だから……

ことりが苦笑いをしながら2人に状況を説明すると、凛と真姫は呆れていた。

 

「男の人っていつまで経っても子供だにゃ……」

「それにしても、先生にまでウルトラマンだってバレちゃって大丈夫なんですか?」

「平気だよ、だって先生もウルトラ――」

「穂乃果!!」

 

穂乃果がつい先生=ウルトラマンゼロだと口走ろうとすると、海未が咄嗟に口を両手で塞いだ。

 

「先生はウルトラ…ウルトラ……そう!先生はウルトラティーチャーですから!」

「ウルトラ…ティーチャー……?」

「あ、凛知ってる!前に話題になってましたよね、先生がうちの生徒を助けた動画!」

 

海未がどうにか2人を誤魔化そうとしていると、部室のドアがバンッと大きな音を立てて開き、花陽が血相変えて飛び込んできた。

 

「タ、助けて!!」

 

突然の救援要請に部室内に戦慄が走った。何だか知らないがこの慌てよう、ただ事ではない。

 

「どうした?まさか、また怪獣が出たのか!?」

 

これはヒーローの出番に違いない!そう直感した僕はジードライザーを手に、急いで部室を出ようとした。だがそれを伊賀栗先生が僕の腕を掴んで阻んだ。

 

「言っただろう、君が戦うのを認められないって!」

「放してください!花陽、それで怪獣はどこなんだ?」

 

先生の手を払い除けて、花陽に怪獣の居所を訪ねた。窓から外を見たところ、怪獣の影も形も見えないが……

 

「あ、あの、違うんです。怪獣じゃなくて……でも、大変なんです!!」

 

僕と先生の口論を見て、逆に落ち着きを取り戻した花陽が言い間違えたと訂正した。どうやらウルトラマンの出番ではないらしい。安心したような、少し残念なような……。

でも花陽がこんなに取り乱すなんてよっぽどの事があったに違いない。

 

「花陽ちゃん、何があったの?」

 

穂乃果が花陽に事情を尋ねた。みんなに見守られる中、花陽は大きく息を吸い込み発表した。

 

「ラブライブです!!」

「ラブライブだって!?…………って、何だ?」

 

花陽の勢いに圧されてつい驚いてしまったが、聞き覚えの無い単語に首を傾げた。それは他のみんなも同じだったが、僕の反応に花陽は信じられないといった表情で詰め寄った。

 

「知らないんですか!?……ああ、こんな事している場合じゃなかった!ちょっと先輩、そこをどいてください!!」

「うわっ!?」

 

花陽が普段からは想像できない力強さで僕を押しのけると、部室のパソコンを起動して何かのサイトを開いた。その画面にはスポーツ大会でよく見るトーナメント表が大きく表示されていた。

 

「ラブライブはスクールアイドルの甲子園。エントリーの中からランキング上位20位までが出場して頂点を決める、まさに夢の祭典!噂には聞いていましたけど、それが遂に実現するなんて!!暫定1位のA-RISEは当然出場するとして今の2位~20位は…、いやそれよりもチケット発売日は?初日特典は!?」

 

花陽が口早に説明した。こういう時の花陽はいつも以上に活き活きしているな……。

ラブライブ―――スクールアイドルの甲子園

たしかにスクールアイドルは全国的に人気になっているようだし、こんな大会も開かれるのか……。でも、それより気になるのは―――

 

「花陽、これを観に行くつもりなのか?」

「当たり前です!これはアイドル史に刻まれる一大イベント。見逃せるはずがありません!!」

 

質問した僕に花陽がまるで罰当たり者を見るかのような眼で睨んできた。正直メチャ怖い。これに比べたら怖い怖いと言われるジードの目なんか可愛いものではないか?と思う程の迫力に僕は圧倒されてしまったが、その様子を横から見ていた穂乃果があっけらかんとして言った。

 

「なんだ。私はてっきり花陽ちゃんが、『出場目指して頑張ろう!』って言うのかと思ったよ」

「うへ#$&%!?そ、そんな畏れ多い……」

「いやいや、そこは目指さないと駄目だろ」

 

花陽は周囲の椅子を撒き散らして反対の壁まで跳び退るくらい仰天したようだが、当然僕もそう思っていた。確かに僕らの目的は廃校阻止だけど、せっかくみんなはスクールアイドルをやっているんだから、目標を持ってやった方が良いに決まっている。

 

「そうは言っても、現実は甘くないわよ」

「そうですよ。上位20位なんて今のランキングから考えてとても……」

 

盛り上がる僕らへ真姫が冷静にツッコみを入れると、海未もそれに同意した。だがパソコンでランキングを確認した海未が「えっ!?」と突然驚きの声を上げた。それに釣られてみんなもパソコンの画面を見た。どれどれμ‘sの現在のランキングは……これって!?

 

「凄い、順位が上がってる!?」

「急上昇のピックアップスクールアイドルだって!」

 

なんとμ‘sのランキングが前回から大きく順位を上げていた。コメント欄では新しく加入した1年生の3人やにこ先輩が早速話題になっていた。それに先週発表した新曲も好評なようだった。真姫に至っては、先日他校の生徒から出待ちをされていたらしい。

 

穂乃果たちはその件で大盛り上がりだが、僕の心境は正直複雑で、μ‘sの大躍進を素直に喜べないでいた。

なぜなら40%を超えていたジードの支持率が、今朝の事件で一気に下落してしまったからだ。

嫉妬―――馬鹿らしい理由だ。そう思った人、だがちょっと待って欲しい。

もちろん僕だってアイドル研究部のマネージャーだ。μ‘sの人気が上がったのは嬉しい。これは本心だ。でもみんなは歌って踊っているだけで人気が上がるし、ランクが落ちてもたくさんの応援コメントが来る。

それに対して僕はというと、体を張って怪獣と戦ってもテレビでは散々文句言われるし、ネットで応援してくれていた人だって1度負けたらすぐに手の平を返してくる。この差はあんまりではないか!?

 

「ハァ……」

 

素直に仲間のことを喜べない自分の器の小ささに、我ながら呆れて溜め息が漏れた。

 

「ぅ~、痛いにゃー……」

「余計なことを言うからでしょ!」

 

幸い僕の僻みに気づかず、みんなはまだ真姫の出待ちの件で騒いでいる。見ると、どうやら凛が何か余計なことを言ったらしく、真姫からお仕置きのチョップをくらっていた。

それにしても、出待ちする程人気が出始めた事も驚きだが、あの真姫が拒まずファンサービスしたことにも驚きだ。

あの真姫がねぇ……。人間、変われば変わるものだ。

 

「先輩も何か言いたそうな顔ですね?」

「ギクッ!? い、いや別に……」

 

まるで僕の心を見透かしているかのように、真姫がジロッと睨んできた。咄嗟に上手い言い訳が思いつかず目を泳がせていると、救世主は突然現れた。

部室の扉がパーンッと開いて、にこ先輩が飛び込んでくると―――

 

「あんた達、驚きなさい!ラブラ――」

「ラブライブですよね!」

「知ってるんかーーーいっ!!」

 

―――そのままズザァーッと見事なヘッドスライディングでツッコみをかますのだった。

 

~~~

 

「……というわけで、私たちも当然エントリーするわよ!!」

 

おでこに絆創膏をつけたにこ先輩が、その慎ましやかな胸を張って部長らしく宣言した。

まぁ、張ったところで無い物は無いのだが……

 

「陸、何か言いたい事あるならハッキリ言いなさいよ」

「真姫もにこ先輩も、何で僕の考えていることが分かるんですか!?」

「あんたの顔にハッキリと書いてあるからよ!」

 

そんなバカな!?と否定したかったのだが、みんながうんうんと頷いてにこ先輩に同意した。僕ってそんなに分かりやすいのか!?

 

「と、ところでエントリーするにはどうすればいいんだ?」

 

とにかく話を誤魔化そうと、そばにいたことりに話を振った。ことりはすぐにエントリーの要綱を見て答えた。

 

「えーと、エントリーするにはそのチームの責任者、部活動なら顧問の先生からの許可が必要なんだって」

 

やっぱり学校からの許可は必要なのか。そりゃほとんどプロみたいなトップのスクールアイドルならともかく、大抵は部活動の一環みたいなものだからな。

でもチームの責任者?μ‘sはアイドル研究部所属だから部活動に当たる。そうなると責任者は顧問ってことなんだろうけど……そういえば、顧問の先生になんて会ったことがないな。いや、そもそもいるのだろうか?

 

「にこ先輩、うちに顧問なんているんですか?」

「何言ってんの、部活なんだから当たり前でしょう。っていうか、あんたらの後ろにいるじゃない」

 

僕の質問ににこ先輩は何を今さらと呆れながら答えると、僕の後ろを指さした。だが振りかえっても、そこにいるのは伊賀栗先生だけだ。

 

「ちょっとにこ先輩、後ろには伊賀栗先生しかいないじゃないですか……。僕が聞いたのは顧問の先生……えっ?ちょっと待って、ということは……!?」

 

他のみんなもそれがどういう意味か理解したのか、視線が伊賀栗先生に集中した。すると先生は恐縮そうに手を挙げて

 

「……はい。実は、僕なんです」

「「「「「「「えー!?」」」」」」」

 

にこ先輩以外全員の驚きの声が部室内に響き渡った。

 

「でも先生、スクールアイドルとか知らなかったじゃないですか!?本当に顧問なんですか!?」

 

先生が顧問だったことに穂乃果は動揺しているようだ。そりゃあそうだ。スクールアイドルのことを全く知らなかった先生が顧問だなんて、すぐには信じられない。

 

「実は矢澤さんが1年生の頃、担任だった僕の所にやって来て、『新しく部活を作りたいから顧問になって欲しい!顧問になってくれれば後は何もしなくていいから!』って……。最初の内は断っていたんだけど、何度も頼みこまれてね……」

 

つまり、にこ先輩に言いくるめられたってわけか。確かにこの音ノ木坂高校は学生自治を重視するという名目で、部活も生徒だけで運営するのが基本だ。噂では教員数が少なくて顧問を掛け持ちしているせいで、手が足りないかららしいけど……。実際対外試合とかが無ければ、顧問は必要ないって運動部の友達が言っていたな。

 

「そういう訳で先生。遂に、顧問としての初仕事をお願いするニコ♡ はい、これにサインして!」

「待って待って!?確かに僕は一応君たちの顧問だけど、部活の活動内容だってよく知らないし、急に許可と言われても……」

 

にこ先輩は伊賀栗先生にラブライブのエントリーシートを差し出して、お得意のアイドルスマイルで迫った。が、にこ先輩の圧が強すぎて先生も引いてしまっている。

このままでは話にならないので一旦にこ先輩を引き離そうとした時、穂乃果が一歩前に出て先生に頭を下げた。

 

「出場できれば間違いなく生徒を集められると思うんです!お願いします!!」

 

穂乃果を見てにこ先輩も頭が冷えたのか、先生から離れると深々と頭を下げた。

 

「先生、お願いします。ラブライブにエントリーさせて下さい!」

「僕からもお願いします!」

「「「「「お願いします!」」」」」

 

に先輩に続き、僕もさっきまで先生と言い合いしていたことを忘れて頭を下げた。そしてみんなも。伊賀栗先生は少し悩んだが、僕らが真剣なんだと分かってくれたようで、先生も真剣に向き合ってくれた。

 

「みんなが学校のためにどうにかしようと頑張ってくれているのは嬉しいし、本来なら出場を許可したいと思う」

「本当ですか!?やったぁ!」

 

先生の言葉に穂乃果が喜んだ。だが、何か引っ掛かる言い方なのが気になる。“本来なら”?

 

「先生、“本来なら”とはどういう意味なのですか?」

 

海未も僕と同じ疑問を感じたようだ。その質問に、先生は申し訳なさそうに答えた。

 

「……高坂さん、それにみんな。残念だけど、実はもう……何をしても無駄かもしれないんだ」

「えっ!?どういう意味ですか?」

「今日の職員会議で発表されたんだ。音ノ木坂高校は、来年度の生徒募集を止め、廃校になるって」

「そんなっ!?私、聞いてない!?」

 

先生の言葉を最後まで聞かず、ことりが驚愕の声を上げた。ここまで取り乱すことりは初めて見たかもしれない。

 

「私、お母さんに確認してくる!」

「ことりちゃん待って。私も行く!」

「待って2人共!?それは今度のオープンキャ―――」

 

先生が何か言いかけたが、最後まで聞かずに穂乃果とことりは部室を飛び出して行った。

 

「おい、ちょっと!?どこに行くんだ2人共!?」

「きっと理事長室です。心配なので私たちも行きますよ、陸!」

「待って、僕も行くよ」

 

にこ先輩たちを部室に残し、僕と海未、先生の3人で後を追いかけた。でも先生が「廊下を走らない」なんていうものだから、なかなか2人に追いつけない。それでもどうにか理事長室の前で2人に追いつき、突入を阻止して落ち着かせることはできた。

 

「2人とも聞いて。実はさっきの話には続きがあって……」

 

伊賀栗先生がさっき言いかけた事を伝えようとする。

だがその時、

 

「どういう事ですか!?説明してください!!」

 

突然、理事長室から大きな声が聞こえた。見ると理事長室の扉がちょっと開いて隙間ができている。

何事かと思った僕らはその隙間からこっそり理事長室を覗き込んだ。後ろで先生が止めるよう注意しているけど、それは気にしないでおこう。

部屋の中を見ると、デスクに座る理事長に生徒会長が詰め寄っているではないか!?

もっとよく様子を見ようとした時、突然理事長室の扉が開かれた。支えを失った僕らは、そのまま理事長室にまるでドミノ倒しのように雪崩れ込んでしまう。僕は穂乃果たちの下敷きにされ、団子状態になってしまった。

 

「いたた…」

 

僕の上で穂乃果たちが呻き声を上げる。とにかくみんな、早くどいてくれ……

下敷きにされ苦しむ僕の視界に誰かの足元が見えた。顔を上げてとみると、そこには副会長さんが立っていた。どうやら位置的に扉を開けたのは副会長さんみたいだ。

 

「おや、こんな所でどうしたん?もしかして、あたしのスカートの中を覗こうとしてるん?」

「違いますよ!!」

 

副会長さんが倒れている僕をからかってとんでもないことを言うので全力で飛び起きた。ちなみに見ていない……残念ながら。

 

「……何の用かしら?」

 

突然の乱入者にご立腹な生徒会長と目が合った。

……確かに乱入したのは僕らだけど、そんな露骨に嫌な顔をしなくてもいいじゃないか。

だがそんな雰囲気をものともせず、穂乃果が理事長に尋ねた。

 

「理事長、廃校が決まったって本当なんですか!?」

「あら、耳が早いのね」

「すいません、私が……」

 

伊賀栗先生が申し訳なさそうに理事長に謝罪したが、怒っているようではなさそうだ。

 

「構わないわ……本当よ」

「お願いします。もうちょっとだけ待ってください。私たちが絶対に何とかしますから!ラブライブだってあるんです!!」

「ラブライブ……?よく分からないけど、まずは落ち着いて。廃校になるのはオープンキャンパスの結果が悪かったらの話よ」

 

穂乃果が必死になり過ぎて一方的に捲し立てていたが、理事長はそれに動じず落ち着かせた。小さい頃からお世話になっているからというのもあるが、相変わらず理事長―――いや、ことりのお母さんの包容力は凄い。

 

「オープンキャンパス?」

「そう。オープンキャンパスに来てもらった一般の方にアンケートを取って、結果が芳しくなかったら廃校にする。それを今、綾瀬さんに説明していたの」

「そう。それを説明する前に高坂さんたち行っちゃうから……」

 

なんだ、廃校が決まったわけではなかったのか。伊賀栗先生も大事なことをキチンと言わないから焦ったじゃないか。

安心して僕らはホッと胸を撫で下ろしたが、生徒会長が厳しい顔で言った。

 

「安心している場合じゃないわよ。オープンキャンバスは2週間後の日曜日。それの結果が悪かったら、廃校が本当に決まりになるってことよ!」

 

そうだった。むしろタイムリミットが決まってしまい、事態は悪化しているということだよな。どうしよう、もうラブライブに出て生徒集めるとか言っている場合じゃないぞ……。

事の深刻さを理解して消沈する僕らに、理事長は優しく微笑みかけた。

 

「ところで、さっき言っていたラブライブって何?」

 

唐突な理事長の質問に、僕らは戸惑いながらもラブライブの説明をした。理事長が真剣に話を聞いてくれたおかげで、暗くなっていた穂乃果たちに表情も徐々に晴れやかになっていく。

 

「へぇー、なんだか面白そうね。これにエントリーしたいの?」

「はい。ネットでも放送されるので、全国的にも注目されることになります」

「もし出場できれば学校の名前をみんなに知ってもらえると思うの!」

「そうなれば学校に生徒が集まって、廃校は無くなりますよね!?」

 

しかし、3人が熱く語っているところに水を差すように、生徒会長が割って入った。

 

「あなた達ね、2週間後のオープンキャンパスの結果次第では、本当に廃校が決まるという時に何を言っているの!それに私は反対です。理事長も以前、私に学校の為に学生生活を蔑ろにするべきではないと仰いました。であれば、あなた達のも許可されるわけ―――」

「いいんじゃないかしら。エントリーするくらいなら」

「理事長!?」

 

だけど理事長があっさりと許可を出してしまい、生徒会長が驚愕した。それはそうだ。僕もすんなり許可が出るとは思っていたから。

驚く生徒会長に構わず、理事長は伊賀栗先生の方を向いて尋ねた。

 

「顧問の伊賀栗先生はどうお考えなのですか?」

「この子たちがやりたいと言うのであれば、私も応援したいと思っています」

「ではこの子たちの力になってあげて下さい。但し、学業が優先でね」

「それは勿論です」

 

その言葉に穂乃果が喜びの声を上げて、隣にいたことりと小さくハイタッチした。

だが生徒会長には納得できなかったようで……

 

「ち、ちょっと待ってください!どうして彼女たちの肩を持つんですか!?」

「別にそういうつもりじゃないんだけど……」

「でしたら、生徒会はこれから独自に学校を救うために活動させていただきます。よろしいですね?」

「……今回は駄目って言っても聞かなそうね。その代わり聞かせて。私がどうして今まであなたが生徒会の活動を許可しなかったのか……理由は分かった?」

「いいえ」

「そう……。それじゃあ、考えてみてね」

 

生徒会長は理事長に無言で一瞥すると、そのまま理事長室から出て行った。それを追って副会長も部屋を出て行く。残された僕らには、何だか居たたまれない空気だけが残されたのだった。

 

 

~~~

 

 

理事長室から部室に戻った僕らは早速オープンキャンパスに向けて練習を開始した。

せっかくラブライブにエントリーできても、出場する前に廃校が決まっては意味が無い。

そのためにも、まずは2週間後のオープンキャンパスを絶対に成功させなくては!

そこでμ‘sも部活動紹介の場を使ってライブをやり、学校をPRすることに決まった。

そして今は、基礎練のランニングをしている訳だが……

 

「ハァ…ハァ……だからってなんで僕まで走らされているの……」

 

みんなと一緒にランニングすることになった伊賀栗先生は、途中ですっかりヘトヘトになって公園のベンチで休んでいる。

 

「先生に僕たちの練習を知ってもらう為です。それと、僕の代わりにウルトラマンやるんですよね。スクールアイドルもウルトラマンも体が資本ですよ!ちなみに、これが海未が作ったウルトラマン用の追加特訓メニューです」

 

そう言って僕はポケットから海未が作ったウルトラマン用の脳筋特訓メニュー(僕はやる前に無理だと抗議してやっていないけど……)を取り出して見せた。そのあまりに無茶なトレーニング量に、伊賀栗先生も目を丸くしている。

 

「……君はこれを毎日やっているの?」

「はい(嘘だけど)」

 

それを聞いて伊賀栗先生の顔色が悪くなったような気がした。

 

『そうだぞ、令人。こんな程度でへばっているようじゃ、ウルトラマンやろうなんて2万年早いぜ』

「ゼロさん……なんで力を貸してくれないんですかぁ?」

 

身体の中からテレパシーで発破をかけてくるゼロに、先生はへばりながら文句を言った。どうやら先生はゼロが力を貸してくれると思っていたようだけど、当てが外れたみたいだ。

 

『おいおい……俺が力を貸して身体能力を強化してやっても、それはお前の特訓にならないだろ』

「それはそうですけど……」

「やっぱりウルトラマンは僕に任せて、先生は先生していた方が良いんじゃないですか?」

 

ゼロに諭されてしぶしぶ納得する先生に、僕は意地悪っぽく言ってやった。これで先生がウルトラマンを代わるなんて言ったのを撤回してくれれば良かったのだけど……

 

「そんなことありません……これくらい、へっちゃらです!」

 

どうやら先生は僕が思っていた以上に頑固者だったみたいだ。先生は少しよろけながら立ち上がると走りだした。足がまだガクついていて危なかっしいけど、そんな先生を見て何故か僕の口元は綻んでいた。

 

「さぁ、僕も後を追いかけなくちゃ!」

 

先生を追って公園を出ようとした時、視界の端に自販機とじっとにらめっこしている女の子の姿が入った。綺麗な金髪に青い眼の可愛い子だ。外人さんかな?それと着ている制服が雪穂の中学の物と似ていた。

 

「どうかしたの?」

「っ!?」

 

困っていたようなので声を掛けてみたのだが、どうやらビックリさせてしまったみたいだ。もしかして日本語が分からなかったのかな?

 

「あ、ごめん。驚かせちゃったかな?日本語分かる?え~と……キャン ユー スピーク ジャパニーズ?ハウ アバウト ユー?アイム ファイン センキュー、アンド ユー?」

 

こういう時に英語でなんて言っていいか思い出せずに焦った僕は、とりあえず知っている英語の文章を並べ立てた。そんな僕を見て、女の子は「ぷっ!」と堪え切れずに吹き出して笑い出してしまった。

 

「ハハハハハ……、ごめんなさい。あなたが何だか必死だったのが可笑しくって。あと亜里沙、日本語話せます」

「そんなに笑うことないだろ……。亜里沙っていうんだね。僕は朝倉 陸。どうして亜里沙はこの自販機をじっと見ていたんだい?」

「飲み物を買おうとしたんですけど、どれを買ったらいいのか分からなくて……」

「好きなのを買えばいいじゃないか?」

 

不思議なことを言う亜里沙に僕は首を傾げた。それを見て亜里沙が必死に訴えてきた。

 

「そうなんですけど、日本の自販機は難しいです。この前も美味しそうと思って買ったら、ジュースじゃなくてあんこが入っていたんですよ!」

 

なるほど。確かに自販機では飲み物以外にも、お汁粉やスープといった物まで売られている。前に間違えて買ってしまったから今回は慎重になっていたのか……。

 

「だったらこれがいいよ」

 

僕は自販機にあったドンシャインサイダーをおすすめした。……決してこの子にドンシャインを布教しようなんて思っていない。美味しいからおすすめしているだけだ。決して他意は無い。

 

「ハラショー。なんだか可愛い缶ですね」

 

亜里沙が僕のおすすめ通りドンシャインサイダーを買った。どうやら缶のデザインが気に入ったらしい。でも可愛いではなく、カッコイイなんだけどな……。

 

「亜里沙ぁ~!もう、飲み物を買うのにどれだけ時間掛かっているのよ?」

「ごめん。どれを買おうか迷っちゃって」

 

その時向こうから亜里沙を呼ぶ声がした。どうやら友達が心配して迎えに来たみたいだが、その友達がなんと―――

 

「陸兄さん!?どうして亜里沙といるの?」

「雪穂!?」

 

まさかの雪穂だった。確かに雪穂の中学の制服に似ているなとは思っていたけど、まさか本当に同じ中学で、しかも友達だったとは。世間は狭いものだ。

 

「兄さん?雪穂、お姉さんの他にお兄さんもいたの?」

「いや、本当の兄ではなくて、小さい頃から兄妹同然で育ったからというか……そんなことより亜里沙、どうして陸兄さんと?」

「亜里沙が何を買ったら良いのか悩んでいたら、心配して声を掛けてくれたの」

「(そうやって陸兄さんは次々にフラグを立てていくんだから……)亜里沙、早くUDXに行くよ」

「えっ!?でもまだ時間は……」

「いいから早く!じゃあね兄さん!」

 

足早にここから離れようとする雪穂に戸惑いを隠せない亜里沙。だが雪穂を追いかける前に、自販機にお金を入れると何かを購入した。そして取り出し口から取り出すと、それを僕に手渡した。

 

「これはお礼です。友達が前にこれを、『この辺り限定のおすすめだ!』って教えてくれたんです。ありがとう、親切なお兄さん!」

 

そう言って笑顔でお辞儀すると、亜里沙は雪穂の後を追いかけていった。僕は手を振って見送った後、渡された物に目を落とした。

 

「日本の自販機って、やっぱり難しいのかもな……」

 

それは熱々のおでん缶だった……。

 

~~~

 

その後、穂乃果たちはオープンキャンパスに披露する新曲の振り付けを練習し始めた。一通り動きの確認を終え、最後に通しで合わせてみたが予想以上に早い仕上がりを見せている。

これならオープンキャンパス当日には良い仕上がりになっていそうだ。

 

「結構いい感じなんじゃないか?」

「うん!これなら2週間後には間に合いそう」

 

僕らが新曲の完成に手応えを感じていた時、

 

「全然ダメね!」

 

背後から突然厳しい意見が飛んできた。驚いて振り向くとなんと生徒会長の姿があった。しかも後ろには副会長さんもいて、こっちに手を振っている。

 

「何の用ですか?」

「これよ」

 

突然の生徒会長の来訪に動揺しつつ用件を尋ねると、1枚の紙が差し出された。どうやら何かのタイムスケジュールのようだけど……

 

「オープンキャンパスで行う部活動紹介のタイムスケジュールよ。各部で均等に時間を割り振っているから確認して。……でもこの程度の出来なら、正直出て欲しくないわね」

「ちょっと、いきなり来て随分と失礼じゃない!」

 

真姫が生徒会長に食って掛かった。いや、真姫だけではなく、他のみんなも生徒会長の発言に不快感を示している。

 

「どういう意味ですか?私たちにオープンキャンパスに出て欲しくないとは?」

 

海未が静かに、だけど怒りの混じった声で生徒会長に問いかけた。小さい頃から何度も怒られてきた僕には分かる。これは海未が本気で怒った時の怒り方だ。

だが、生徒会長は全く動じずに言葉を返した。

 

「言葉通りの意味よ。次のオープンキャンパスには音ノ木坂の未来がかかっているの。お遊びのアイドルごっこを見せても何のアピールにもならないわ」

「お遊び?」

 

μ‘sの活動をお遊びと言われ、さらに不快感を表す海未。だがその言葉を聞き捨てなれなかったのは僕も同じだ。

 

「お遊びってみんなのどこがお遊びだって言うんですか!?」

「全部よ。特にそのダンス。振り付けも魅せ方も全然なってない!それじゃあ人を惹き付けるなんて絶対に無理!それでは所詮、自己満足でしかない。これをお遊びって言わずに何て言えばいいの?」

「でも、みんなが頑張って練習すればいつかは―――」

「だからそのいつかを待っている時間なんてもう無いのよ!それに、今のままではいくら頑張っても無駄よ!」

 

生徒会長が声を荒げて僕たちに怒鳴った。普段からは想像できないその迫力に、僕は言い返すことができなかった。

そこに伊賀栗先生が場を収めようと間に入った。

 

「みんな落ち着いて!絢瀬さんもそんな言い方したら、みんなが怒るのは当然だよ。それに絢瀬さんだって、みんなが頑張っているのを知っていたから、あのライブ映像をネットに公開したんじゃないのかい?」

「えっ!? あの映像を公開したの、生徒会長さんだったんですか!?」

 

伊賀栗先生が衝撃事実をさらっとカミングアウトした。先生も言ってしまった後に、「しまったっ!」という顔をしているがもう遅い。生徒会長も余計なことを言った先生に文句をつけるように「ハァ……」と小さく溜め息をついた。

 

いつの間にかネット上にアップされていたあのμ‘sのファーストライブ映像。あれのおかげでμ’sは今の状態にあると言っていい。ずっと誰がやったのか気にはなっていたけど、まさか生徒会長だとは……。

 

「っていうか、何で先生がそのことを知っているんですか?」

「実は絢瀬さんも1年生の頃に僕が担任でね。今でも生徒会関連で悩み事があったら相談に乗るんだ。そしてこの前、この動画をネットに上げるのに学校のパソコンを使わせて欲しいって頼まれてね」

 

なるほど……。でも何で生徒会長がそんなことを?

子供の頃、いつもはドンシャインのことをダサいと馬鹿にしていたくせに、ドンシャインショーがあるとこっそり応援しに来ていた奴がいたけど、それと同じで口では僕らを否定していても、実はこっそり応援してくれていたとか……

 

「勘違いしないで。別にあなた達の為ではないわ。むしろその逆。あなた達のダンスや歌が如何に人を惹きつけられないものか、活動を続けていても意味が無いかを知って欲しかった。だから今のこの状況は想定外。人数も増えてそれを応援する人も出始めるなんて……。

でも、私は認めない!あなた達のパフォーマンスは人に見せられるレベルになっていない。そんな状態で学校の名を背負って活動して欲しくないし、このまま活動を続けてもあなた達のやり方では学校を救うなんて絶対に無理!」

 

……などと甘い期待をしてはみたが、そんな僕らに都合のいい展開にはならなかった。寧ろいつも以上に厳しい口調で生徒会長は続けた。

 

「全国にたくさんのスクールアイドルがいるようだけど、そのどれもこれもが素人にしか見えなかった。現状トップのA-RISEが唯一その域にいるようだけど、あれはほとんどプロみたいなものでしょ。だからそのレベルに達していて当然なのよ。それで、あなた達は?どうやらランキングが上がったようだけど、パフォーマンスを評価してくれたのは何人いたの!?」

 

生徒会長に反論できず、黙って聞くことしかできない僕たち。

悔しいが、この時の生徒会長の指摘は何も間違っていなかった。思い返してみれば、新メンバーや衣装、曲が話題になったことはあっても、パフォーマンスへのコメントはほとんど無かったような気がする。

つまり生徒会長の言う通り、人を惹き付けるレベルにまで達せていなかったということなのだろう。

 

「それでも……」

 

だけど、このまま言われっぱなしで終わるわけにはいかなかった。

僕は今までみんなが頑張って練習する姿を間近で見てきたのだ。だからその頑張りを否定されたくないし、させたりしない!

 

「それでも、僕らは僕らのやり方で学校を救ってみせます!」

「そう……。なら私も、私のやり方で学校を救うわ」

 

啖呵を切った僕を真っ直ぐに見据えて生徒会長もそう宣言すると、踵を返して屋上から去って行った。

緊張が解けたみんな「ふ~っ」とため息をつく。特ににこ先輩なんかは、

 

「ふ~んだ!何よ、偉そうに!あんたにダンスの何が分かるっていうのよ!」

 

とアカンベェして悪態をついている。だがそれを聞いていた副会長さんが呟いた。

 

「分かると思うで、えりちなら……」

「副会長さん……?」

 

その顔が少し寂しそうな顔だったから僕は理由を聞こうとしたのだが、代わりに1本のUSBが手渡された。

 

「何ですか、これ?」

「言ったやろ。あの子には言えるだけのものがある。それじゃあ、またね」

 

そう言い残すと、副会長さんも屋上から去って行った

 




~次回予告風~
陸「副会長から渡されたUSB。そこには生徒会長が僕らに厳しい理由が映っていた。あんなにダンスが上手かったなんて……」
穂乃果「だったら、教えてもらえばいいんだよ!」
陸「え~!?…それはそうと、なんで僕が生徒会に!?」

次回、「習うぜ、ダンス」

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