僕らが生徒会長に啖呵を切った日から数日が経過した。
みんなはあれからも練習を続けて、今日はオープンキャンパスの為に作った新曲の練習を初めて通しで終えたところだ。
何ヶ所か怪しい所はあったけど、どうにか形にはなってきている。だけど、みんなはどこか浮かない顔だった。
「どうしたの、みんな?どこか調子悪いの?」
その様子を不思議に思った伊賀栗先生が僕に聞いてきた。たしかに今までなら最後まで通せたことに喜んでいただろう。でも僕も今はそんな気分になれなかった。
「実は―――」
その原因はあの日の放課後まで遡る。
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生徒会長に啖呵を切った日の放課後
花陽たちにも僕がウルトラマンジードだとバレてしまったので、いつまでも秘密にしておくわけにはいかず、みんなで星雲荘に行く約束になっていた。
穂乃果たちと違って初めて星雲荘に来た花陽、凛、真姫、にこ先輩の4人は、事前に伝えておいたとはいえ、神社の地下に広がる秘密基地に目を丸くしている。
「すっごい、すっごい!本当に秘密基地だにゃ!!」
凛が歓声を上げてエレベーターを降りると、花陽と真姫も圧倒されながら続いて降りた。にこ先輩は「こんなの大したことない」と口では強がっているものの、内心ドキドキなのが丸分かりだった。
「いらっしゃい、みんな!」
造花作りの内職をしていたペガがみんなを出迎えた。ペガもこの前の事件ぶりに花陽たちと会えて嬉しそうだ。
「りっ君先輩、ここ以外にも部屋はあるんですか?」
「ああ。お風呂や僕の部屋にペガの部屋、あと他にも空き部屋が何部屋かあるよ」
凛がこの中央指令室以外に部屋はないのかと尋ねてきた。すっかり探検気分だな。
「先輩のお部屋もこんな感じなんですか?ちょっと見てみたいかも」
「ええと、僕の部屋は普通の部屋だから見てもあまり面白くないかも……」
突然の凛の要望に僕がやんわり断ろうとすると、海未が呆れ顔で聞いてきた。
「その反応、どうせ陸のことですから、自分の部屋の片付けをしていないのではないですか?」
「そ、そんなわけないだろ!」
「信じられません!以前の学生寮の時だって散らかし放題だったじゃないですか!現にこの部屋だって、食べた後のカップ麺の容器がそこら中に転がってますし!」
……図星だった。海未の想像通り、僕の部屋は今、ドンシャインコレクションで溢れかえっていた。いや、決して片付けていなかったわけではない。むしろその逆!ほら、片付けをしていたら、する前より散らかしていたことってあるよね……。
それに万が一、部屋の中に入られてベッドの下に隠してある物を見られでもしたら……それだけは絶対に避けなくてはならない!
どうにかしてこのピンチを切り抜けるために、話題をすり替えなくては!
「そうだ!レムを紹介しないとな!」
「逃げましたね」
「逃げたにゃ」
後ろから何か言われたが、気にせず僕はレムに花陽たちを紹介した。
「レム、紹介するよ。3年生のにこ先輩に、1年生の花陽、凛、真姫だ」
『初めまして、ようこそ星雲荘へ』
「電球が喋った!?」
レムが挨拶すると、そのSFっぷりに4人ともビックリしてしまったようだ。でもにこ先輩、確かにレムは光って丸いけど、電球はないですよ……
「電球じゃないですよ。この子はレム。この星雲荘の報告…ほうこく……何だっけ?」
「報告管理システムだよ、穂乃果ちゃん」
穂乃果がレムのことを紹介しようとしたが、穂乃果自身よく分かっていなかったみたいでちゃんとした説明にならず、ことりがそっとフォローした。
「そう!ホウコクカンリシステム……とにかくとっても頭の良い子で、どんな事でもすぐに調べてくれるんだよ。そして1番大事な事なんだけど…なんと!レムの声は海未ちゃんの声と同じなのです!」
「どうしてそれが1番なんですか!?」
どこかズレた穂乃果のレム紹介にツッコむと、海未が改めてレムを紹介した。花陽たちは素直に感心したみたいだけど、にこ先輩は何やら疑わし気な表情だ。
「大袈裟ねぇ、本当に何でも調べられるの?だったら試しに私の事を調べてみなさいよ?まぁ、私は個人情報をネットに垂れ流すようなネットリテラシーの低い3流のアイドルじゃないから、きっと無理だろうけど」
『……分かりました。それでお調べします』
あれ?いつもレムはもっと機械的に話すのに(AIなんだから当たり前なんだけど)、なんかちょっと怒っているような……?
『あなたの名前は矢澤にこ。生年月日は7月22日。好きな物はお菓子。嫌いなものは辛いもの。音ノ木坂高校3年生で、スクールアイドルμ’sのメンバーにしてアイドル研究部の部長を務めています』
「それくらいならSNSのプロフに載ってるでしょ。いやぁ、私くらいのスーパーアイドルになると、大勢のファンに調べられちゃうから、色々と大変なのよねぇ!にこ、困っちゃう!」
口ではそう言いながら、にこ先輩はちっとも困っているようには見えなかった。きっと自分でも言うようにキチンと情報管理をしているのだろう。この態度はその自信の表れなのだ。一般人が調べても大した情報は出ないのだろう―――だが、レムは一般人ではない。
『身長154cm。体重は××kg。身長は昨年度と全く変化はありませんが、体重の方は昨年と比べて―――』
「ちょっ!?どこからそんな情報仕入れてきてんのよ!?分かった、もういいわよ!」
レムの想像以上の情報収集能力に、にこ先輩も少し焦りを感じ始めて止めるように言い出した。でもレムは制止を無視して報告を続けた。
「レム……もしかして怒ってる?」
『いいえ。私はAIですから、怒るなんてありえません。それでは報告を続けます』
普段と違うレムに僕は恐る恐る聞いてみた。いや、絶対に怒っているよね……
「3サイズは上からB74W57H79としていますが、バストサイズに詐称があります。本来の数値は―――」
「ごめんなさい!私が悪かったわよォォォ!!」
にこ先輩の悲鳴混じりの謝罪が木霊した。
それを見ていた僕は、レムだけは絶対に怒らせないようにしようと心に誓うのだった。
レムにUSBの中身を確認してもらうと、保存されていたのは映像ファイルだった。僕は映像の再生をレムにお願いすると、空中に仮想スクリーンが投影される。
再生された映像には、小学生くらいの金髪の女の子がレオタード姿で踊っている様子が写されていた。これはバレェ?そしてこの踊っている女の子に、僕は見覚えがあった。
「なぁレム、もしかしてこの踊っている子って―――」
『はい、この少女は音ノ木坂高校の現生徒会長、絢瀬絵里です』
レムが今の生徒会長の姿と映像の女の子を比較して確かめてくれた。やっぱり生徒会長か。
それにしても―――
「すごい……」
海未がポロッと口にしたその一言に尽きた。
その踊りを見ていた僕らも、最初の内は「わぁ…」とか感嘆の声を漏らしていたが、次第に声も出せず、黙って魅入っていた。これが心を奪われるということなのだろうか?
これがスクールアイドルは素人ばかりだと言ってのけた生徒会長の実力。
……果たして今のμ‘sにこんなことができるだろうか?
いや、無理だ。足りないのだ、このダンスから受けるような感動が!
映像は既に終わっている。
だけど誰も口を開くことはなく、しばらくの間呆然と、ただ暗くなった画面を見つめていたのだった。
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あれ以来、みんなはダンスの練習をすると、あの映像が頭をよぎって実力の違いを嫌でも感じてしまうようになった。だから今日の通し練習の結果にも、納得がいかないみたいだ。
事情を僕から聞いた伊賀栗先生は少しの間「う~ん」と頭を捻ると、ハッと顔を上げた。何か名案でも思い付いたのだろうか?
「だったら絢瀬さんに教えてもらえばいいんじゃないかな?」
……先生に期待した僕が間違っていた。
誰かに教えてもらうのは賛成だけど、よりにもよってあの生徒会長が教えてくれるわけないじゃないか!僕がそう先生に言おうとしたその時、
「そうだよ!教えてもらえばいいんだよ!」
突然、横で穂乃果が大声をあげた。
「どうしたんだよ穂乃果、急に大声出して!?……って、穂乃果、今何て言った?」
僕の不安を他所に、穂乃果が満面の笑顔を向けてくる。
……間違いない。穂乃果がこの顔をする時は、後先考えずに何かを思いついた時だ。
そしてそれに巻き込まれた僕らが大変な目に合うまでがお約束だ。
「だから教えてもらうんだよ。生徒会長にダンスを!」
「何考えているんだよ穂乃果!?相手はあの生徒会長だぞ!?」
穂乃果の提案に僕が反対すると、にこ先輩や真姫たちも一緒になって反対した。
それはそうだ。あの生徒会長が僕らに力を貸してくれるとは思えないし、下手したらこの部ごと潰されかねない。
だがそれを聞いてもなお、穂乃果は自分の意見を曲げなかった。
「だってダンスが上手い人が近くにいて、もっと上手になりたいから教わろうって話でしょ?」
「それはそうだけど……」
確かに理屈ではそうなのだが、そんな簡単に今までの事を割り切れるものではない。
だが、こうなった穂乃果を説得するのはなかなか難しいのも長年の経験で分かっていた。
「なぁ海未、何か言ってやってくれよ」
さっきから黙ったままの海未に助けを求めた。だが―――
「実は私もそう思っていました」
「そうだろ。やっぱり諦めて別の案を……って、えぇ!?」
なんと海未が穂乃果の提案に賛成したのだ。
「海未まで何を言っているんだよ!?」
「あの映像を見て以来、ずっと思っていたんです。私たちはまだまだだって。生徒会長ほどに踊れる方からしたら、私たちは本当に素人です。あのように言われても当然なくらいに……」
悔しさや羨望が入り混じった海未の言葉に、誰も言い返すことができなかった。
「ねぇ、頼むだけ頼んでみようよ!」
穂乃果が再び僕らに呼びかけた。
みんな、頭では理解しているけど心は納得できていないといった様子で、どうにも居心地の悪い雰囲気に包まれた。
だがこの重苦しい空気の中、ことりが口を開いた。
「絵里先輩のダンス、ちょっと見てみたいかも」
ことりの天然発言に毒気を抜かれた僕が思わず吹き出すと、次第に他のみんなもつられて笑い出した。
みんなでひとしきり笑いあった後にはもう、さっきまでの嫌な空気は嘘みたいに晴れていた。
「そうだよね?ね、りっ君は?」
穂乃果が改めて―――子供の頃から変わらないあの笑顔で―――僕に聞いてきた。
まったくこいつは……。
確かにこの笑顔で出されるトンデモ発言に僕は毎回振り回されてきた。
でもその度に、たくさんの素敵な景色を見せてもらってきたんだっけ。
その顔で言われたら、また信じてみたくなるじゃないか。
それに、いつまでも反対しているとこっちが悪者みたいだし……。
確かに穂乃果が言う通り生徒会長にダンスを教えてもらえれば、μ‘sは今の何倍も良くなるかもしれない。それに何より―――
「僕だって、生徒会長のダンスを見てみたい!」
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「……それで私に話っていうのは?」
僕と穂乃果、ことり、海未の4人は生徒会室を訪れていた。勿論、ダンスを教えてくれるように頼むために。
でも……いや案の定、生徒会長は僕らの来訪を快くは思ってくれなかったようだ。
「穂乃果たちにダンスを教えて下さい。お願いします!」
「……この前、『僕たちのやり方で学校を救ってみせる』と大見得を切っておきながら、その私に助けを求めるの?」
生徒会長がギロッと鋭い視線を僕に向けてくる。うぅ……怖い。でも、ここで引き下がるわけにはいかないんだ!
「これが僕たちの選んだ、僕たちのやり方です。恥や外聞をなんか気にしててジーッとしてたら、ドーにもなりません。生徒会長、お願いします!」
「私たち、上手くなりたいんです!お願いします!」
僕らは必死に頼み込んだけど、生徒会長の答えは“No”の一点張りだった。
それでも僕らが諦めずにいると、それを見かねたのか副会長さんが助け船を出してくれた。
「この子たちも本気みたいやし、教えてあげたらええんやない?」
「希!?」
副会長さんが僕らの味方をしてくれたことに生徒会長も驚いたようだ。
「ええんやない、教えてあげるくらい。他の役員の子らが言っていたように、μ‘sのみんな、人気あるみたいやん」
副会長さんの発言を聞いて、穂乃果たちの顔が少し晴れやかになった。まさか生徒会の役員さん達もμ‘sのことを知っていてくれたとは僕も驚きだ。てっきり生徒会全員が僕らを認めていないのかと思っていた。
「……確かに、あなた達の活動は理解できないけど、人気があるのは間違いないみたい。それは認めてあげる。でも、今はオープンキャンパスの準備でこっちも手一杯なの。それなのに私がダンスを教えたりなんかしたら、間に合うわけが……」
「そうやねー。せめて、えりちがこの子たちにダンスを教えている間、代わりに生徒会の仕事を手伝ってくれる誰かがおればなー。そんな人、どこかにおらんかなー」
そう言うと副会長さんがチラッと僕の方を見てきた。まるで「さぁ、どうする?」と問いかけるような笑みを浮かべながら。
……何だか知らないけど、どうやら副会長さんの目論見通りに事が運んでいるみたいだ。
でも何が目的にせよ、これは僕らにとってチャンスなことに違いない!
僕は勢いよく手を挙げて宣言した。
「僕が生徒会の手伝いをします!」
こうして僕はオープンキャンパスが終わるまでの間、庶務(見習い)として生徒会に参加することになった。
基本的にアニメ版準拠の設定ですが、今回のにこ関連で漫画版の設定を拾わせてもらいました。だってどう見てもB74は…おや、誰か来たようだ?