ジードライブ!~進むぜ!未来!!~   作:キータ

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25話 習うぜ、ダンス(2)

生徒会長に穂乃果たちのダンスを指導してもらう為に、僕が生徒会の手伝いを始めてから既に数日が過ぎた。……まぁ手伝いとはいっても、僕がやれるのはせいぜい雑用くらいだけど。

 

「ふぅ~、終わったぁ!この書類、問題無しです」

 

今日の仕事は、生徒会長が決裁する前の書類に間違いがないか確認することだ。

ほとんど使ったことが無い電卓を片手にずぅぅっと計算を続け、ようやく確認が終わったのを生徒会長に見てもらった。

でも―――

 

「ここ、間違っているわ。すぐに直して」

「えっ!?……あ、本当だ」

 

今度こそ完璧だと思ったのに、僅かな見落としがあった。そしてそれを見逃す生徒会長ではない。

 

「まったく……これじゃあ二度手間ね。中途半端な仕事をされるくらいなら、いない方がマシよ」

 

相変わらずの厳しい口調で僕のミスを指摘する生徒会長。

手伝い始めてから数日間、ずっとこの調子でちょっと心が折れそうだ。

……まぁ、何度もミスする僕がいけないんだけど。

 

僕を叱っていた生徒会長が、ふと時計を確認すると席を立った。

 

「希、私はあの子たちの練習に付き合ってくるから。後はお願いね」

 

生徒会長は副会長さんにそう言い残すと、生徒会室を出て行った。

緊張の糸が解け、ホッと安堵の息をつくが、ここでサボるわけにはいかない。

だって手伝うどころか余計な面倒をかけてばかりなのに、生徒会長は律儀に約束を守って穂乃果たちにダンスを教えてくれているんだ。少しでも役に立たねば!

それに、このままへこたれてジーッとしてても、ドーにもならねぇ! 直すぜ、書類!

 

気合を入れ直した僕は、生徒会長に指摘された箇所を修正して副会長さんに確認してもらった。

今度こそ大丈夫なはず!

 

「うん…うん…問題ないね、お疲れさん」

 

確認を終えた副会長さんが僕に労いの言葉を掛けてくれた。

よしっ!と心の中でガッツポーズしていると、副会長さんはニコッと笑いかけて、

 

「はい、次はこの書類の確認よろしくね」

 

さっきと同じ、いやそれよりもぶ厚い紙の束を渡してきた。

普通の男子ならコロッと恋に落ちてしまいそうなその笑顔も、今の僕には悪魔の微笑みにしか見えない……

 

「うぇ~~、まだあるんですか!?」

「何言ってるん? まだまだこんなにあるんよ」

 

つい悲鳴を上げてしまった僕に、副会長さんは大量の書類をまるで山の様にドサァーッと机の上に積みあげた。

どこにこんな量の書類があったんですか!?と心の中でドン引きするも、副会長さんの笑顔の圧に何も言うことができず、僕は黙って作業に戻った。

でも1つ、また1つと片付けても、書類とのにらめっこはちっとも終わらない。

そのうち数字や文字が宙を飛び交い、仕舞にはレッキングバーストを放つ幻覚を見たところで、僕は自分が頭から机に突っ伏していることに気づいた。

 

「おやおや、もうギブアップ? ほな、少し休憩しようか?」

 

僕の様子を見た副会長さんは立ち上がると、生徒会室に備え付けのポットでお茶を淹れ始めた。

 

「生徒会の仕事ってこんなに大変だったんですね。今までどんな仕事をしているかなんて考えたことも無かったです」

「普段はこんなでもないんやけどね。今は特別忙しいだけかな。なにせ、学校が存続できるかどうかの瀬戸際やからね」

 

雑談を交えながら、副会長さんは淹れてくれたお茶と一緒に、美味しそうなお茶菓子を出してくれた。

 

「はい、良かったらこれもどうぞ。この前、理事長がお客さんから頂いたんを、お裾分けして貰ったんよ」

「ありがとうございます!」

 

僕はお茶を一口啜って気分をリフレッシュさせると、次にお茶菓子に手を伸ばした。見た目も美味しそうだったが、口に入れると上品な甘さが拡がり、さっきまであった脳の疲れが一気に吹き飛んでいくようで、あっという間に自分の分を食べてしまった。

もっと味わって食べれば良かったと後悔していると、副会医長さんがスッと自分の分のお茶菓子を差し出した。

 

「そんなに気に入ったんなら、もう1つどない?」

「えっ!?でも……」

 

確かにもっと食べたいとは思っていたけど、これじゃあ僕はただの食いしん坊ってことに……いや、せっかくくれると言っているんだし…でも……

 

「いらないん?」

「いや、あの………いただきます…」

 

食い意地には勝てなかったよ……

 

「ふふふ。そんなにそれが気に入ったんやったら、このまま本当に生徒会に入ってみぃひん? また食べられるかもしれへんで?」

「僕が生徒会にですか!? 冗談きついですよ」

 

今度はお菓子をちゃんと味わって食べる僕を見て笑みを浮かべながら、副会長さんがとんでもないことを提案してきた。

あまりに唐突の誘いに冗談だと思った僕は軽く流そうとしたが、副会長さんは冗談のつもりではなかったみたいだ。

 

「そう? 割と本気なんやけどなぁ。誰かの為に頑張れる人って、生徒会向きやん。この学校の生徒、みんなの為に頑張らなあかんからね」

 

副会長さんがまじまじと僕の顔を見て言うものだから、なんだかその気になってきた。

試しに自分が生徒会役員になった姿を想像してみた―――

 

トラブルに巻き込まれ泣き崩れる生徒のもとに颯爽と駆け付ける僕

問題を解決するために奔走するも、それを妨害しようとする何者かによって仕掛けられる狡猾な罠

そして次第に明らかになる、学校全体を巻き込んだ恐るべき陰謀

全てを解決し、夕日に向かって去って行く僕の背を見送る生徒たち

そして飛び交う女子生徒からの黄色い声援

 

ふむ……意外と悪くないのでは?

 

「え~と、一応言っておくと、うちの生徒会には敵もいなければ、学校を巻き込む陰謀もないからね」

 

妄想に浸る僕を見つめる副会長さんの眼は冷ややかだった。どうやら途中から、普通に声に出していたらしい。

でもその恥ずかしさでかえって冷静に戻った僕は、改めて提案を断った。

 

「やっぱり無理ですって。そもそも、生徒会長が認めるはずありませんよ。僕のこと、相当嫌っているみたいですから」

「……えりちはただ、素直じゃないだけなんよ」

 

そう呟いた副会長さんは一瞬悲しそうな表情になった。だけどすぐにそれを隠してしまったので、僕はその言葉を特に気に留めることはなかった。

 

「それに未来がどうなるかなんて、誰にも分からないやん?もしかしたら、えりちが君らの事を認めるかもしれんよ?」

「そんな未来、穂乃果が生徒会長になるくらいありえないですって!」

「……だったら占ってみる?君の未来を」

「えっ?」

 

副会長さんはにんまり笑うと何かのカードを取り出し、それを机の上に並べ始めた。

 

「これは?」

「タロットカード。このカードの1枚1枚が、占われる人の運命を暗示しているんよ」

 

僕の疑問に答えながら副会長さんが占いを始めた。

その顔はいつになく真剣だ。

占いとか特に詳しくはないけど、副会長さんの占いはその雰囲気もあって、なんだか当たりそうな気がする。

 

「これは……」

 

カードをめくり終えると、なんだか神妙な面持ちになった。

どうやら占いが終わったみたいだけど……

 

「(ごくり)……どうだったんですか、僕の未来は?」

 

しーんと静まりかえった空気に、僕は思わず息を呑んだ。

副会長さんはもったいつけたようにカードをまじまじと見つめた後、ようやく口を開いた。

 

「……最近、何か大きな隠し事できた? 」

 

ギクッ!? 大きな隠し事って、もしかして僕がウルトラマンだってこと!?

 

「しかもそれを既に何人かに知られているみたいやね……その隠し事がきっかけで、誰かとええ雰囲気になるみたいや」

 

ええ雰囲気?

つまり僕がウルトラマンだと知っている人―――μ‘sの誰かとそういう仲になるってこと!?

ってさすがにマズイだろ部内恋愛は! こう、色々とギクシャクするというか……でも続きを早く教えて下さい!! 一体誰と!?

 

はやる僕に副会長さんが悪戯っ子のような笑みを浮かべて言った。

 

「その子はパンが好きで、和菓子屋さんの娘みたいやね」

 

μ’sのメンバーで、パンが好きで、和菓子屋の娘って一体だれ―――

 

「……ってそれ、穂乃果じゃないですか!? 」

 

どうやら僕は副会長さんにからかわれただけみたいだ。男子の純情な心を弄んで……まぁ、所詮占いだし、ちっとも全然本気にはしてなかったけどね!

 

「おやぁ? 仲良しさんみたいやからてっきり……」

「ただの幼馴染です! もう、からかうだけなら占いはいいですよ……」

「ごめん、ごめん。ちょっとした冗談やん。本当はこれ」

 

副会長さんはそう言うと、1枚のタロットカードを差し出した。そのカードには輪っかのような模様が描かれている。

 

「これは?」

「このカードの名前は運命の輪。その意味は―――君の運命が動き出す」

 

すると、さっきまで僕をからかっていた副会長さんの表情が、一転して真剣なものとなった。

窓から部屋の中に一陣の風が吹き抜けて長い髪をなびかせた副会長さんは、どこか超然とした印象を僕に与えた。

 

「君がこれから立ち向かうのは自分の運命。それは途轍もなく強大で、打ち克つことができるかどうか、それはウチにも分からん。でも、支え合う仲間が必ず君の力になってくれる。それだけは、絶対に忘れないで」

「副会長さん、それって……」

 

”どういう意味ですか?”そう言葉を続けたかったのだけど、それはコンコンとドアをノックする音によって阻まれてしまった。

 

「はーい、どうぞ!」

 

副会長さんが扉をノックした人に返事をした副会長さんに、さっきまでの超然とした雰囲気はもう無かった。

どうやら、またからかわれただけみたいだ。

 

「失礼します」

 

扉が開くと、挨拶と共に女の子が2人入ってきた。そしてそのどちらにも僕は見覚えがあった。

 

「あれ? 君は確かこの前の……」

「あなたは!?」

 

生徒会室に入ってきたのは、この前自販機で飲み物を買うのに困っていた女の子(確か亜里沙だっけ?)とそれにもう1人―――

 

「陸兄さん!? 何で陸兄さんがここにいるの!?」

 

なんと雪穂だった。

雪穂は僕の顔を見るなり、何でここに居るのか理由を聞いてきたけど、それを聞きたいのは僕だって同じことだ。

 

「ちょっと訳あって生徒会の手伝いをすることになったんだよ。雪穂こそどうしてここに?」

「亜里沙のお姉ちゃんに呼ばれたの」

 

雪穂と互いの事情を説明し終えると、隣にいた亜里沙がお辞儀をした。

 

「この前はきちんと自己紹介ができずにごめんなさい。私の名前は絢瀬亜里沙―――音ノ木坂高校の生徒会長、絢瀬絵里の妹です」

「えーっ!?君が生徒会長の妹!?」

 

嘘だろ!?あんな厳しい生徒会長に、こんな素直そうで可愛らしい妹さんが!? でも言われてみると、確かに似ているような気が……。

 

「お姉ちゃんが今度のオープンキャンパスで学校紹介をするんですけど、本番前に現役の中学生の意見を聞きたいから、私たちに学校に来てって言われて来たんです」

 

あー、なるほど。そういえば生徒会長が何か資料を作っていたけど、これの為だったのか。

 

「そういえば今日やったね、学校紹介の練習。ごめんね。えりちは今、μ‘sのみんなにダンスを教えに行っているところなんよ。いつもならそろそろ戻って来てるはずやけど、今日は遅いなぁ?」

 

僕が1人納得していると、副会長さんが亜里沙たちに事情を説明してくれた。

 

「えっ、お姉ちゃんがμ’sのダンスを!?」

 

それを聞いた亜里沙が急にソワソワし始めた。

 

「あの子、どうしたんだ?」

「亜里沙はμ’sのファンなの。だから気になるんじゃない?」

 

その理由が気になった僕は雪穂にこそっと聞いてみた。

なるほどファンか……だったらファンサービスしないとな!

 

「折角だし、生徒会長を呼びに行くついでに、μ’sの練習を見てみない?」

「えっ!?……でも、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。僕、こう見えてμ‘sのマネージャーなんだ」

「本当ですか!!」

 

憧れのμ’sと会えることに感激したのか、亜里沙が僕の手を握ってお礼を言ってきた。

突然可愛い女の子に手を握られて僕が照れていると、何故か横でムスッとした顔の雪穂に耳を思いっきり引っ張られたのだった。

 

 

屋上では、いつものようにμ’sのみんなが一生懸命練習に励んでいた。但し、いつもと違うのは生徒会長という厳しい指導役がいること。

どうやらみんな、生徒会長にこってり絞られてヘロヘロのようだった。

 

僕も生徒会の手伝いをしていたから、生徒会長の指導風景を初めて見たけど、その厳しさは僕のミスを叱る時と同じ、いやそれ以上で一切妥協が無い。……でも、厳しいことに違いはないんだけど、何故か生徒会長の雰囲気が生徒会室にいる時とどこか違うように感じた。

 

みんな練習に集中しているし、邪魔しないように屋上の入口からこっそり練習の様子を見ることにした。

最近、扉の立て付けが悪くなったせいで開けっ放しにしているためか、僕らが来たことに気づいていない。

今は一本足で立ち、手足をピンと伸ばしてバランス感覚を鍛える練習をしているようだけど、みんなの表情を見るにキツい練習のようだ。

それでもみんながどうにかバランスを取って耐えていたのだが、途中で凛がバランスを崩し、体が大きくふらついた。

 

「危ないっ!」

 

幸い生徒会長が咄嗟に声をあげて、周りにいたみんなは怪我をせずに済んだけど、バランスを崩した凜はそのまま勢いよく尻もちをついて転んでしまった。

 

「痛ぁーい!!あれー、昨日はできたのに……?」

 

凛がぶつけたお尻をさすっていると、生徒会長が怖い顔をして凛に近づいた。

 

「基礎ができていないからムラができるのよ!足、開いて!」

 

生徒会長に言われた通り足を開いて開脚座りをさせられる凛。

部内で一番運動神経が良い凛だが、意外にも身体は少し硬いようだ。

生徒会長が凜の背中を押してストレッチしようとしたのだが、何故か背中に触れる直前に押すのを躊躇い、そばにいた花陽を呼んだ。

 

「あなた、彼女の背中を押してあげて!」

 

急に呼ばれて驚きながら、生徒会長の指示に従って花陽が凛の背中を押した。

 

「うぐぇっ!?かよちん、痛いにゃー!?」

「あ、ごめん……」

 

あまりの辛さに耐えきれず凛が花陽に文句を言ったが、生徒会長がそれを一蹴した。

 

「そんなことでどうするの!足を開いた状態で、お腹が床に着くくらいにならないと!」

「ええー!?」

「柔軟性を上げることは全てに繋がるわ!まずはこれを全員できるようにして!このままでは本番は一か八かの勝負になるわよ!!」

 

要求されるレベルの高さに、改めてダンスで人を感動させることの難しさを実感するみんな。

生徒会長がそんなみんなに厳しい檄を飛ばしていると、たまたま視界に入ったようで、入口に僕らがいたことに気づいた。

 

「亜里沙!?どうしてここに……あっ!そういえばもう時間だったわね、学校説明会の練習。ごめんね、すぐに支度するから」

 

そう言うと生徒会長は穂乃果たちに向き直った。

 

「それじゃ今日はここまで!本番までもう日が無いわよ!」

「はい!ありがとうございました!!」

 

穂乃果に続いてみんなも生徒会長にお礼を言ったのだが、生徒会長は返事もなくそのまま無言で立ち去ってしまった。

普通ならその光景に、このままで大丈夫なのかと不安を感じるところだろう。だけど僕は何故かそうは感じなかった。

そしておそらく、横で嬉しそうに生徒会長の事を見ている亜里沙も……

 

 

 

生徒会室に戻ると、生徒会長はプロジェクターにパソコンの画面を表示させ、雪穂と亜里沙に音ノ木坂高校について語り始めた。

最初は生徒会長がどんな風に学校のことをPRするのか僕も楽しみにしていたのだけど、(いや予想通りなのかもしれないが)如何にも生真面目な生徒会長が作りましたと云わんばかりの遊び心の無い退屈な発表だった。

話が始まってから十数分経ったが、学校の歴史や伝統、校風を語るだけの特に盛り上がりの無い話に、僕は必死にあくびをかみ殺し続けたが、次第に瞼が重くなっていく。

あともう少しで睡魔に負けるというところで、生徒会長の話がようやく終わった。

 

「どうだったかしら?」

「ッ!?」

 

生徒会長が雪穂に感想を聞くと、雪穂はビクッと体を震わせて立ち上がった。

絶対寝ていたな、雪穂……

 

「え、え~っと……とても興味深いお話でした。後半すごく引き込まれました!」

 

雪穂はどうにか取り繕おうとしたが、その場に居た全員に聴いていなかったことはバレバレだった。

 

「ごめんね、退屈だった?当日までにはもっと良くしておくから、遠慮なく何でも言って」

「いや、そういう訳では……」

 

つまらない想いをさせてしまい申し訳ないと生徒会長に謝られたことで、かえって居たたまれない状況に追い込まれた雪穂は僕に「助けて」とアイコンタクトで助けを求めてきた。

それに対して僕は「自業自得だろ」と返事し、無言の応酬を繰り広げていると、雪穂の隣に座っていた亜里沙が険しい顔で立ち上がった。

 

「亜里沙は楽しくなかった」

「ちょっと、亜里沙!?」

 

亜里沙のストレートな物言いに雪穂が慌ててフォローしようとしたが、亜里沙は構わず続けた。

 

「お姉ちゃんは何でこんな話をしているの?」

「学校を廃校にしたくないからよ」

 

生徒会長が当然のように答えたが、亜里沙はそれで納得ができないみたいだ。

 

「私も音ノ木坂が無くなって欲しくない……でも、これがお姉ちゃんの本当にやりたい事?何だか全然楽しそうじゃなかったよ。さっき、μ‘sのみんなにダンスを教えていた時と全然違う!」

「楽しそう?私が彼女たちに教えていたのが!?」

「楽しそうだったよ!私や雪穂に学校紹介している時なんかと違って!」

「そんなわけないじゃない!馬鹿なことを言わないで!」

 

姉妹の喧嘩が次第にヒートアップしていく。

本当だったら止めなくちゃいけないんだろう……。

でもその時僕の脳裏に、副会長さんが言った「えりちは素直じゃない」って言葉がよぎった。

もしそれが本当なら、生徒会長の本心が聞けるのは今しかない!

僕はさっき感じた疑問を思い切ってぶつけることにした。

 

「生徒会長……僕もさっき屋上でみんなにダンスを教えてくれる生徒会長を見ていて、何だかいつもと違うなって思ったんです」

「……あなたまで何が言いたいの?」

「教えて欲しいんです。生徒会長の本当にやりたい事が何なのかを……」

 

僕の問いかけに生徒会長は沈黙した。時間にしては数秒~数十秒のことだろう。でも僕らにはとても長い沈黙に感じた。

そして―――

 

「……私だってやりたいわよ……」

 

生徒会長がようやく絞り出したような声で呟いた。

 

「え?」

 

僕は自分の目を疑った。あの生徒会長が目に涙を浮かべていたのだ。

そして積もりに積もった想いが爆発したのか、生徒会長は堰を切ったように話し始めた。

 

「私だって自分のやりたい事だけをやりたいわよ!でも仕方ないじゃない!私は生徒会長なんだから!この学校を護る責任があるんだから!」

 

想いの丈を全てぶちまけた生徒会長は、逃げるように部屋を出ていこうとした。

 

「待ってください、生徒会長!」

 

僕は咄嗟に生徒会長を止めようとその手を掴んだ。

 

「触らないで!!」

 

生徒会長がそれをものすごい剣幕で拒んだ。

すると僕の手が生徒会長に触れる寸前に、目に見えない何かが生徒会長の体を覆った。それに触れてしまった僕は弾き飛ばされて、バーンッ!!と大きな音を立てて壁に叩きつけられてしまう。

その衝撃で意識を一瞬失いかけたが、すぐに駆け寄ってきた雪穂たちの声でどうにか気を失わずには済んだ。

今のは一体!?

助け起こされながら、何が起こったのかを確かめるために生徒会長を見た。

 

「ち、違うの、今のは……」

 

だが僕を吹き飛ばしたはずの生徒会長の方がひどく狼狽えていた。

そして僕らの視線に耐えられなくなったのか、生徒会長は生徒会室の外に走り去っていった。

慌てて僕も追いかけようとしたが、突然サイレンが学校中に鳴り響いた。

 

『付近に怪獣が出現しました。学校に残っている生徒は教職員の指示に従い、避難して下さい。繰り返します―――』

 

けたたましいサイレンの後に、怪獣の出現を知らせるアナウンスが流れる。

 

(くそっ、こんな時に!)

 

僕は心の中で怪獣の間の悪さに悪態をついた。でも生徒会長のことも放っておけないが、今は怪獣の方が優先だ。

 

「副会長さん、先に雪穂と亜里沙を連れて、安全な所に避難して下さい!」

 

僕は副会長さんに2人を任せて急いで生徒会室を出ようとする。

 

「陸兄さんは!?」

 

だけど僕を心配した雪穂に呼び止められた。

王道の正体を周囲の人たちに隠している系のヒーローだったら、こんな時うまい言い訳をすぐに思いつくのだろう。

でも僕の場合、普段一緒にいる穂乃果たちは僕がウルトラマンだって知っている。だから行かせてもらえないなんて経験は初めてだった。考えに考えた末に、僕が出した言い訳は―――

 

「ち、ちょっとトイレに……」

 

自分で言うのもなんだけど、あまりに苦しすぎるものだった。

 

「こんな時にトイレなんかに行っている場合じゃないでしょ!」

 

雪穂から至極真っ当なお叱りを受けていると、その声を聞きつけて校舎内で逃げ遅れがいないか見回っていた伊賀栗先生が駆け寄ってきた。

 

「君たち何をしているんだ!?朝倉君、君も早くみんなと一緒に避難するんだ!」

「先生!?……でも!」

「いいから!君はまだ子供なんだから、命を懸ける必要なんてないんだ!」

「兄さん、とにかく早く逃げないと!」

 

どうしても僕が戦うことを良しとしてくれない伊賀栗先生と雪穂たちに促されて、僕は一緒に校舎の外に出た。

 

音ノ木坂は避難所の1つに指定されているため、学校の校庭には次々と避難してきた人々が集まってくる。それを何人ものお巡りさんが避難誘導をして、パニックにならないように呼び掛けていた。

だが、突然誰かが叫んだ。

 

「おいっ!?あの怪獣、こっちの方に向かって来てないか!?」

 

その声に反応して、辺りの人全員が怪獣の方を見た。僕も同じ方を見ると、数日前に街で大暴れした怪獣―――サンダーキラーが、一歩、また一歩と、この学校を目掛けて近づいて来るのが見えた。

 

そこからのパニックは止めようがなかった。ある人はここから少しでも遠くの避難所に逃げるために他人を押しのけて行こうとし、またある人は恐怖からその場を動くことができなかった。パニックが次々と伝搬し、お巡りさんがいくら落ち着くように呼び掛けても、耳を傾ける人は誰もおらず、地獄絵図のようだった。

 

「雪穂、しっかりして!?」

 

後ろから亜里沙の悲鳴が聞こえた。見ると、雪穂がガタガタと体を震わせて座り込んでいて、亜里沙がそれを心配そうに支えていた。

雪穂は以前、リトルスターが宿っていたせいで、怪獣や宇宙人に狙われたことがあった。その時の恐怖を思い出したのだろう。

急いで避難させたいけど、パニックになった人の中を掻き分けて進める状態とはとても思えない。

 

『おい、令人!どうやらあいつは、こっちに向かっているみたいだぜ。お前、本当にいけるのか?』

「……」

 

隣からはゼロが先生に呼び掛けているのが聞こえた。でも先生の顔はすごく強張っていて、ゼロの声が届いていなかった。

 

『おい、令人!!』

「っ!? は、はい、大丈夫です。いけますよ……」

 

ようやく我に返った伊賀栗先生は、何とか自分のことを鼓舞しようとした。だけど無理をしていることは、顔を見ればすぐに分かった。

ゼロもそんな先生の様子を察してか、戦いに行けとは言えなかった。

 

……やっぱり、僕が行かないと!

 

「先生、みんなをお願いします」

「朝倉君!?」

「僕、護りたいんです!」

 

まっすぐ先生の眼を見て自分の意志を伝えた。先生は少し躊躇った後、観念したようにため息をついた。

 

「……分かった。その代わり、必ず帰ってくるんだよ。これ、顧問命令!」

「はい!」

 

その激励に僕は大きな返事で返すと、サンダーキラーに向かって駆け出した。

 

 

~~~

 

 

(……情けない)

 

令人はたった1人で戦場に向かう生徒を、見送ることしかできなかった自分に対してそう思った。

みんなの為に恐怖を超えて戦う覚悟を決める。それができる彼は正にヒーローなのだろう……。

だけど僕はそれができなかった。怖かったのだ。戦うのが、そして何より家族を残して死ぬかもしれないのが。

 

『良かったのか、令人?行かせちまって』

「……正直、ホッとしている自分がいます。情けないですよね……。危ないと分かっているのに生徒を行かせるなんて、僕は教師失格です……」

『生徒を信じるのも教師の仕事だろ?信じようぜ、あいつは必ず勝って帰ってくるってよ!』

「……はい!」

 

今は信じよう、僕の生徒を。そして必死にみんなを護ろうとするヒーローを。




次回はいよいよアクロスマッシャーの登場回です。

~世界観解説~
・怪獣災害
怪獣の出現による建物の倒壊、ライフラインの切断など全般を指す。
被災地域の被害は甚大だが、何故か怪獣の出現が日本、しかも都内の1部に集中しているので、ほとんどの人は日常生活を送れている。
被災した人は親戚などを頼り、一時的に疎開する人や、そのまま引っ越してしまう人もいる。

・避難所について
怪獣が出現した際は、現実の災害と同様に、地域で指定された避難所に避難することになっている。だが、この世界は怪獣が出現するようになって間もないので、地下シェルターのような物は無く、学校や公共施設に避難するのが基本となる。

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