ジードライブ!~進むぜ!未来!!~   作:キータ

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またまた時間が空いてしまいましたが、仕事が一段落してきましたので、また再開していきます。
誤字脱字のご指摘を頂いた方、誠にありがとうございました!


29話 集うぜ、女神(2)

伊賀栗先生に連れられて、僕は校門までやって来た。

わざわざこんな所で一体何の用なのだろう?

まさか、「ウルトラマンはやっぱり危ないから辞めろ!」とまた言うつもりなのだろうか?

でもそれだったらこんな所に連れてくる必要はないよな……

首を傾げる僕を他所に、先生は校門から学校の外に出ると、さっきから辺りをキョロキョロと見渡していた。

まるで何かを待っているようだけど……?

 

すると向こうから「パパ~!」と元気な声と共に、小さな女の子が先生にもとに駆け寄ってきた。先生はその女の子を抱き止めると、優しく頭を撫でてあげる。

突然のことに僕が驚いていると、今度は綺麗な女の人がその子を追ってやってきた。女の人は伊賀栗先生に手に持った包みを差し出すと、

 

「もう令人君、お弁当忘れちゃダメでしょ!」

「だめでしょ!」

 

なんと伊賀栗先生をメッと叱った。そして女の子もそれを真似して先生を叱る。

 

「すいません、瑠美奈さん。真由もありがとうね」

 

先生が面目ないと謝ると、2人はしばし沈黙の後、顔を見合わせてクスッと笑うと「よろしい!」と声を揃えて許してあげるのだった。

この一連のやり取りから、僕はこの2人が先生の奥さんと娘さんだと察した。

伊賀栗先生が結婚しているというのは噂で聞いたことあったけど、まさかこんな美人の奥さんと可愛い娘さんがいたとは驚きだ。

これを他の男子生徒が知ったら、先生はきっと明日から常に背後を気にしないといけないだろう。……それはそれで面白そうだけど、これは僕の胸の中に閉まっておくことにした。

 

「その子は?」

 

奥さんが僕のことに気づいた。先生は2人に僕を紹介しようと自分の前に立たせた。

 

「紹介するよ。僕の生徒で、我が校の誇るスクールアイドルμ‘sのマネージャーさんの朝倉 陸君。朝倉君、彼女は僕の妻の瑠美奈さん。そしてこっちが娘の真由」

「よろしくお願いします」

「よろしくね、陸君」

 

瑠美奈さんはとても気さくな人で、僕もすぐに打ち解けることができた。軽く言葉を交わした後、瑠美奈さんが「ちょっと、ちょっと……」と手招きして伊賀栗先生から数歩距離を取らせる。そして僕の耳元に顔を近づけて、

 

「……ねぇ?令人君はちゃんと学校で先生やれている?この人、昔からドジな所があるから……」

 

こっそりと普段の先生のことを聞いてきた。……まぁ、先生の目の前でやっているんだから隠す気ゼロだけど。

 

「聞こえていますよ、瑠美奈さん」

「ははは。ごめん、ごめん。だって令人君、一緒に仕事をしていた時からよく廊下で転んで、プリントをばら撒いていたんだもん。だから今でも心配で……ねぇ?」

 

瑠美奈さんは謝りながらも僕に同意を求めてきた。伊賀栗先生も「生徒に何てことを聞いているんですか!?」と口では文句を言ってはいるけど、本気で怒っているわけではなさそう。これが気心の知れた家族の会話ってやつなのかもしれないけど、そのテンポに入りづらかった僕は、「あははは……」と笑って誤魔化すことしかできなかった。

 

「ほら、朝倉君も困っているじゃないですか」

「あっ!?ごめんね、陸君。でも最近はこの辺り、頻繁に怪獣が出るから心配なんだよ……。陸君はこの前大丈夫だった?ニュース見たけど、この学校も結構危なかったんでしょ?」

 

先生に指摘されて悪ふざけが過ぎたと謝る瑠美奈さんに、僕は気にしていないと答えると続けて自信満々に言った。

 

「はい。でも大丈夫ですよ!そういう時はウルトラマンジードが助けに来てくれますから!」

「そうだね!……まぁ、この前も一度ピンチになってたから、ちょっと頼りないけど」

「あれは……最初っからそういう作戦で、一度やられてからパワーアップして倒すっていうのがヒーローの醍醐味っていうか……」

 

瑠美奈さんに痛いところを突かれ、僕は思わず子供のような言い訳を並べ立ててしまった。きっと瑠美奈さんの目には、僕が好きなものを馬鹿にされて拗ねた子供のように映っていたのだろう。だから冗談めかして僕に言った。

 

「まるで自分がウルトラマンみたいに言うのね」

「っ!?いや、その、いつも助けてくれるから大ファンなだけっていうか…その……」

 

しかし瑠美奈さんにとっては冗談のつもりでも、言われた僕は大パニックだった。見かねた先生が助け舟を出そうとした時、真由ちゃんが僕に尋ねてきた。

 

「お兄ちゃんもウルトラマンジードに助けてもらったの?」

「えっ!?うん!そうなんだよ!」

 

僕はこれ幸いと真由ちゃんの話に乗っかると、真由ちゃんは目を輝かせて僕に話してくれた。

 

「私もね、この前ウルトラマンに助けてもらったの。だから今度ウルトラマンに会ったらお礼を言うんだ!『いつもみんなを助けてくれてありがとう』って」

 

その言葉を聞いた時、なんだか僕の胸の奥が震えたような気がしたのを今でも覚えている。

僕は屈むと真由ちゃんと同じ目線の高さになった。

 

「そっか……いつか言えるといいね」

 

真由ちゃんはそれに「うん!」と元気よく返事すると満面の笑みを見せてくれた。だがその笑みが急に失せると、心配そうに僕を見てきた。

どうしたのか僕が驚いていると、真由ちゃんだけでなく瑠美奈さんも、そして先生までも僕を見ている。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?泣いているけど、どこか痛いの?」

「えっ!?」

 

自分でも気が付かなかったが、いつの間にか目から涙が零れていた。

 

「あれ?おかしいな、何で……」

 

何で泣いているのか自分でも分からず、余計に涙が止まらなくなった。

心配する瑠美奈さんと真由ちゃんに、先生は大丈夫だとフォローしてくれている。

人前であんなに泣くなんて初めてのことだし、すごく恥ずかしかったけど、僕はこの時ようやく、自分がみんなを護るヒーローになれたのだと、そう実感できた気がした。

 

ひとしきり泣いて落ち着いた僕に安心した瑠美奈さんは、真由ちゃんと一緒に帰って行った。瑠美奈さんに手を引かれながら「バイバイ!」と手を振る真由ちゃんに、僕も手を振り返して見送る。

2人の姿が見えなくなった後、僕はここに呼び出された理由を先生に尋ねた。

 

「そういえば先生、僕をここに連れて来た理由って……?」

「2人と君を会わせたかったんだ。お礼も言いたかったしね」

「お礼?」

 

どうして先生からお礼を言われるのか僕には分からなかった。

 

「瑠美奈さんと真由はこの前の戦いの時、このそばの避難所にいたんだ。事件の後、真由に『怖くなかったかい?』って聞いたら、『怪獣が来た時は怖かったけど、ウルトラマンが来てくれたから平気だった』って笑って言うんだよ。そして、いつもみんなを助けてくれるウルトラマンに、どうしてもお礼を言いたいって言うから、お弁当を忘れたふりして来てもらったんだ。君に会わせるためにね」

 

そう言うと先生は僕に深々と頭を下げた。

 

「ありがとう、朝倉君。2人を、そしてみんなを護ってくれて」

 

先生に、というより目上の人に頭を下げられるなんて経験は初めてだったから、逆に僕の方が困ってしまった。それに、こう面と向かってお礼を言われてしまうと、なんだか背中がくすぐったい。

 

「そんな……僕はヒーローとして当然のことをしただけで……」

「それが凄いことなんだよ。恥ずかしい話だけど、僕は君の様にはできなかった。前にゼロさんに変身した時、僕にも怪獣から大切なものを護れるすごい力があるんだって思えた……正直、舞い上がっていたんだと思う」

 

先生は自嘲するかのように薄く笑って言った。こんな伊賀栗先生を見たことなかった僕は、黙って聞いていることしかできなかった。

 

「今回の一件で分かったんだ。僕はヒーローになれないって。ゼロさんのおかげでウルトラティーチャーなんて評判まで広がっちゃったけど、結局それはゼロさんの力であって、本当の僕はなんてこと無いただの一般人。この前も君の代わりに戦うなんて言ったのに、いざ怪獣を目の当たりにしたら、瑠美奈さんと真由の2人を遺して死ぬんじゃないかって思ったら怖くなって、足が竦んじゃうようなね……」

 

言い終わると先生は俯いて動かなくなった。僕が心配して声をかけようとすると、先生はとても大きなため息を吐いた。思わずビクッと体を仰け反らせる僕。そして再び顔を上げた先生の顔は、何だか晴れ晴れとしていた気がした。

 

「僕はもう君に戦うなとは言わないよ。これからも世界の為に頑張って、僕も応援するから。……とはいっても、僕ができることなんてこんな事が精一杯だけどね」

 

先生はそう言うと、道端に落ちていた空き缶をサッと拾ってゴミ箱に捨てた。

 

「そんな、世界の為にだなんて大袈裟な……僕はただ、目の前の事をどうにかしようと頑張っただけで……」

「それでいいんだよ。現に君が―――君たちが頑張ってくれたから、廃校のことだってどうにかなるかもしれない」

「本当ですか!?」

 

思いがけないビッグニュースに僕は思わず飛び上がりそうになった。先生は興奮する僕を落ち着かせると、まだ確定ではないと前置きした上で教えてくれた。

 

「勿論、すぐに廃校撤回とはいかないだろうけど、今日のオープンキャンパスの参加者数は上の人たちを説得するいい材料になると思う。そのことについてもお礼を言わないとね。ありがとう、学校の為に頑張ってくれて。……この学校は僕にとっても大切な場所だから」

 

懐かしそうに学校を見る先生。僕が「先生にとって?」と質問すると、先生は照れくさそうに答えてくれた。

 

「実は僕と瑠美奈さんはこの学校で出会ったんだ。瑠美奈さんは以前、この音ノ木坂の先生で、ドジばっかりしていた僕のことをよく助けてくれたんだ。それから色々あって瑠美奈さんと結婚して、真由が生まれて……だからこの学校は僕にとって、とても大切な場所なんだ」

 

先生のラブロマンスを僕は興味津々に、そして時々茶々を入れながら聞いていた。先生はそれを照れながらも受け流して話を続けていたが、途中で先生の顔が少し曇った。廃校に関する話になったからだ。

 

「廃校の話が出た時、本当はすごく辛かった。悔しかった。最初は僕も、他の先生たちも廃校にさせないために色々働きかけたんだ。でも大人になるとね、自分の限界を―――この世にはどうにもならないことがあるって事を知ってしまうから、次第に『仕方がない、これが現実だ』って諦めていった。……いや、現実を言い訳にして逃げただけなんだよね。

でも君たちは決して諦めなかった。迷わずに信じた道を突き進んでいく君たちの若さが、僕にはとても眩しかったよ……」

 

先生が羨ましそうに僕の事を見た。

僕も学校が廃校になるって聞いた時、先生たちは何で何もしないんだって思うこともあった。だから僕らには知らない所で先生たちが苦労していたことは、僕にとって衝撃的だった。

大人だって悩むし、挫折もする。そんな当たり前にこの時まで気づけなかったことに、僕は内心反省していた。

それに僕だって偉そうなことは言える立場ではない。だって―――

 

「それは穂乃果が居たからですよ。あいつがよく考えもせずに走り出したものだから、僕らも一緒に走り続けただけで……」

「そうかもね。でも、それが今日の結果に繋がったんだ。おかげで諦めかけていた先生たちも、本当に学校を救うことができるかもって、考えが変わり始めている。少しずつだけど、良い方向に向かっているんだ」

 

先生の目に希望が溢れているようだった。

やっぱり穂乃果の無茶は、周囲を巻き込んで凄いことを起こしてくれるんだと、幼い頃に穂乃果に連れまわされたあの懐かしい記憶が甦ってくる。

 

「これからは僕も教師として、君たちを精一杯サポートするよ。さっきの絢瀬さんのスピーチを聞いて改めて思ったんだ。この学校の生徒には、自分のやりたい事を―――叶えたい夢を見つけてもらいたい。そして、それを僕も全力で応援したい!それが僕のやりたい事なんだって!」

「なんか格好いいですね、それ!」

「あはは……まぁ大袈裟に言ったけど、教師としては当たり前のことなんだけどね。ところで、朝倉君の夢は何だい?」

 

年甲斐もなく熱く夢を語ったことに照れくさくなったのか、先生は僕に話題を振ってきた。それに対して僕は当然のことの様に答えた。

 

「それは勿論、みんなを護るヒーローになることですよ!子供の頃からずっと憧れだったんですから!」

「そっか……、じゃあ夢は叶ったんだね」

「はい!」

「それなら、今度はその次の夢を見つけないとね」

「えっ、次の……夢!?」

 

先生の言葉を僕はすぐに理解できなかった。

次の夢?夢に次なんてあるのか?

 

「夢はね、叶えてもそこで終わりじゃないんだ。叶えた後に次の夢が、そしてそれを叶えるとまた次の夢が……って次々と生まれてくるんだ。人はそうやって、夢を追い続けて前に進むんだよ」

 

夢を叶えた後の夢

子供の頃からヒーローになることばかり考えていたから、それ以外の夢なんて考えたことも無かった。

警察官、消防士、俳優、会社員……

色々と想像してみたけど、やはりヒーロー以外の夢が思いつからない。それどころか、心のどこかで『それ以外の夢なんていらない!』とすら感じている自分が居ることに気づいた。……何故だろう?これ以上深く考えてはいけないと僕が僕に警告している。

 

「…あ…ら君?朝倉君?」

「っ!?」

「どうしたの?急に黙っちゃったけど……」

 

先生が心配そうに僕のことを見ていた。気がつかなかったけど、どうやら随分長く考え込んでしまっていたみたいだ。

まだ心配そうにしている先生に、僕は何でもないと笑って誤魔化すと、

 

「僕、ヒーローになるって夢が叶ったから満足しているんです。だから次の夢なんて見つからないかもしれないですね」

 

きっと思いつかないのは現状に満足しているからだと自分を納得させることにした。だけど先生はそんな僕にきっぱりと言った。

 

「見つかるよ。いや、君は見つけないといけない」

「見つけないといけない?」

 

その言葉は、まるで見つけることが僕の義務であるかのようだった。その意味が分からず困惑する僕に、先生は優しく諭すように語りかけた。

 

「君はウルトラマンジードであると同時に、朝倉 陸でもあるんだ。だから君は見つけないといけない、君のやりたい事を―――君が君らしくある為に。みんなの為にばかり頑張っていると、いつか都合のいい神様のようになっちゃうからね」

「僕が僕らしくある為に……」

「さて、長く話し込んじゃったし、もう戻らないとね。これは僕から君への宿題だ。次に聞くまでに考えておいてね」

 

先生はそう言うと、愛妻弁当を持って職員室へと戻って行った。

僕は一人、先生の言葉の意味を考えながら校門の前に佇んでいると、突然誰かが声をかけてきた。

 

「おや?今日は人が大勢来ていますね。お祭りか何かですか?」

 

どうやら学校が賑やかだから、文化祭か何かだと勘違いしたみたいだ。

 

「いえ、今日はオープンキャンパスで……って、えぇっ!?あなたは……!?」

「私がどうかしましたか?」

 

振り向いて声の主を確認すると、僕は思わず仰天して二度見してしまった。

だってそこに居たのは、あの有名SF作家にして今回のオープンキャンパス成功の陰の立役者、伏井出ケイ先生その人だったのだから!

伏井出先生は高級そうなスーツをしっかりと着こなした正にデキる男のイメージそのままで、突然大声を上げた僕に目を丸くしながらも、紳士然とした態度を崩さなかった。

これはきっと神様がくれた機会だと思った僕は、日頃からジードを応援してくれていることも含め、学校の事を宣伝してくれた伏井出先生に、感謝の言葉をを伝えようと口を開いた。

 

「作家の伏井出先生ですよね!?あの、えぇと……ありがとうございます!伏井出先生がSNSでウルトラマンと怪獣のことを拡散してくれたお陰で、たくさんの人が学校に来てくれて……あ、あと、友達が先生の大ファンで、それと僕も先生と同じでドンシャインのファンで、今度の新作の脚本を担当するんですよね。すごく楽しみにしています!」

 

が、有名人に間近で会って興奮したのもあって、自分でもドン引くくらいの早口で捲し立ててしまう。しかも話す内容も緊張で考えが纏まらないせいか、全く要領を得ていなかった。

それなのに伏井出先生は僕の言葉を真摯に聴いてくれた後、

 

「そうですか。では、お近づきの印にこれを……」

 

手提げ鞄から1冊の本を取り出した。それは先日出たばかりの伏井出先生の新刊で、さらさらっとサインを書くと僕にプレゼントしてくれた。

 

「いいんですか!?ありがとうございます!」

「いえいえ……では、これからも“この調子で”よろしくお願いしますよ」

 

僕と固く握手をしてその場を去って行く伏井出先生。これがデキる大人かぁと僕は憧れを覚えたが、同時に何か引っかかるものを感じた。だけど―――

 

「りっく~ん!こんな所で何しているの?午後の説明会が始まっちゃうから、早くお昼ご飯食べようよ!!」

「ああ、今行くよ!」

 

僕を探しに来た穂乃果に呼ばれ、コロッと忘れてしまうのだった。

 

「こんな所で何をしていたの?」

「ちょっとね……。それより聞いてくれよ!今さ、すっごい人に会ったんだ……」

 

また伏井出先生に会えればいいな―――これが最悪の形で現実になるなんて、この時の僕は知る由もなかった。

 

 

~~~

 

 

オープンキャンパスからしばらくたったある日。

ここは秋葉原の外れにある伏井出ケイの屋敷兼仕事場だ。2階立ての古風な洋館という外見で、それが文豪の住む家という雰囲気を醸し出している。

伏井出ケイは執筆を必ず屋敷の書斎で行い、その作業を他人に見せることは絶対に無いのだという。

その屋敷へ1人の男が訪ねてきた。

男は原稿を取りに来た出版社の者でなければ、会う約束を取り付けているわけでもない。

男は熱狂的な伏井出ケイのファンで、自分の故郷を感じさせる伏井出ケイの作品、ひいては伏井出ケイ自身に惚れ込み、是非その執筆する姿を見てみたいと考えていた。だが過去に何度も仕事場を見学させて欲しいと懇願しても、全て断られていた。

そこでとうとう、我慢ができなくなった男はこっそりと伏井出邸に忍び込み、仕事風景を覗いてしまおうと企てたのである。

 

伏井出邸に侵入するために、男はドアノブに手を掛けた。その瞬間、ゾワッと身の毛がよだつ嫌な感じがしたが、憧れの人を間近に感じられることに対する武者震いだろうと、特に気にすることはなかった。

静かに扉を開けて伏井出邸に入る。幸いなことに鍵は掛かっていなかった。まぁ、男にとって地球人製の鍵が掛かっていたとしても、特に問題は無かったのだが……

 

伏井出邸の中は流石に一流作家の住まいだけあって、立派な調度品が置かれていた。何故だか黒と赤を基調とした物が多いが、きっとこれも宇宙を感じてインスピレーションを得るためだろうと男は深く考えなかった。

だが、肝心の伏井出ケイの姿が見当たらない。

男は気配を殺して伏井出ケイの書斎を探していると、2階から何やら声が聴こえてきた。その声を頼りに伏井出ケイの書斎と思われる部屋を発見した男は、音をたてないよう扉をわずかに開き、中を覗きこんだ。

そこには予想通り、伏井出ケイの姿があった。休憩中なのだろうか?ケイは高級そうな椅子に腰かけると、その背もたれに体を預けて目を閉じていた。その前に置かれた机の上には、資料と思われる物が几帳面に並べられている。

憧れの作家の姿を見て、男は心の中で狂喜乱舞していたが、徐々に違和感を覚え始めた。

 

まず机の上に原稿など作家らしいものは一切無い。あるのは何枚もの写真だけだ。いや、風景の写真ならただの資料と思うだろうが、それは高校生と思われる地球人の若い男女が数人と冴えないサラリーマン風の男、そして最近話題のウルトラマンの写真だった。次回作の登場人物のモデルなのだろうか……?しかしその写真はアングルから察するに、どうやら隠し撮りされた物のようだった。

すると、伏井出ケイが目を閉じたまま何かを呟き始めた。寝言にしては妙にハッキリとした口調で、断片的に聞こえてくるのは、まるで誰かとの会話しているようだった。

そういえば雑誌のインタビューで、執筆前に宇宙を感じていると言っていたが、まさか本当に宇宙と交信をしているというのか!?

男がより注意深くその様子を観察していると、突如として空間に穴が開いた。こことは違う場所―――恐らくは宇宙の何処とその穴で繋がったのだ。そしてその穴から禍々しいエネルギーがここに流れ込んできた。

男は戦いの心得があるわけではないが、それでもこのエネルギーが異常な物であると肌で感じられた。

エネルギーがケイを包みこむと、次第に身体に馴染むように溶け込んでいく。地球人―――いや、宇宙人であってもこんな異常なエネルギーを受けて平気でいられるはずがない!

だがケイは、恍惚の笑みすら浮かべていた。

悪夢のような光景に叫び声を上げたくなる程の恐怖を感じたながらも、男はどうにか耐えて声を押し殺した。

穴がゆっくりと閉じ、目を見開いたケイがはっきりと声に出して言った。

 

「これで私はまたフュージョンライズできる。ありがとうございます……ベリアル様」

 

この宇宙に住まう者ならば知らぬ者はいない、一度は宇宙を消滅に導きかけたあの悪魔の名を。

男の心は早く逃げ出せ!と訴えるのだが、身体が恐怖のあまり動くことを拒んだ。

 

「いよいよ仕上がってきたか。計画もそろそろ大詰め……だがその前に」

 

ケイは机の上に置いてあった写真のうち2枚を手に取った。男は知る由もないが、その写真に写されていたのは伊賀栗令人、そしてウルトラマンゼロの姿だった。

ケイはまるで獲物を見定める狩人のような眼で写真を眺めると、右手からエネルギーを放出した。それはまるで黒い炎のようで、みるみるうちに写真が焼き払われていく。

 

「邪魔者にはご退場頂こう……」

 

これから起こることに愉悦を感じたケイの笑い声が屋敷内に響く。

その一部始終を見ていることしかできなかった男は、恐怖に負けたのか意識が遠のくと、大きな音を立てて倒れ込んでしまった。だが倒れた痛みのおかげで完全に気を失わずに済み、ようやく身体が言う事を聞くようになった。

 

(早くここから逃げないと!そして伝えなきゃ、伏井出ケイがヤバい奴だって!)

 

だが無情にも男の願いは叶わなかった。

目の前の扉がゆっくりと開かれる。先程の物音で、侵入者の存在にケイも気づいていた。

男は必死に生きようと藻掻いた。だが恐怖で足がもつれ、まともに歩くことすらままならない男は階段を踏み外すと、そのまま1階まで転げ落ちてしまう。

 

「どうやら私とあのお方との、神聖な一時を見てしまったようだな……」

 

ゆっくりと階段を下りながらケイが男に迫る。その目には狂気と殺意が込められていた。

 

「その罪、万死に値する!」

「う、うわぁぁぁー!!」

 

死の恐怖に駆られた男は地球人の姿から本来のレキューム人の姿に変わり、破れかぶれでケイに殴り掛かかる。

だがその拳が届くことはなかった。ケイの手から衝撃波が発せられる。それを浴びた男は、断末魔を上げることすら許されず、その身体を塵へと変えるのだった……。

窓から風が吹き抜けていく。さっきまで男の姿を保っていた塵は風によって散らされ、男がこの世に居た痕跡は微塵も残ることは無かった。

 

「これがお前のエンドマークだ……」

 

ケイはそう吐き捨てると、外出するために身支度を整え、クリーニングから返ってきたばかりの皺一つないスーツに袖を通した。

 

さて、紛れ込んだ羽虫に居要らぬ手間を取らされたが、そろそろ向かうことにしよう。

今日の予定は音ノ木坂高校で講演会。

さぁ、子供のごっこ遊びのヒーローよ、また学校を護ってみせろ。……尊い犠牲を以て。

朝倉 陸―――愚かな夢に魅せられた哀れな子供よ。どうかこれからもよろしくお願いするよ、ベリアル様の為に

 

そう心の中で呟くケイの手には、光の国より奪われしライザーと、ウルトラカプセルに酷似した黒いカプセルが握られていた。




~次回予告風~
令人「ヒーローになれないって自分で言っておいてなんですけど、ゼロさん的には良かったんです?やっぱり、ゼロさんも戦いたいんじゃ……」
ゼロ「そんなの気にしなくていいんだよ!お前はどう考えても戦い向きじゃないし、俺だってまだ怪我で本調子じゃないしな」
令人「そうですか……(ホッ)」
ゼロ「だけど安心しろ。何かあっても俺が護ってやる、絶対にな……」

次回、「終焉~ゼロ~」

~~~

作者です。ようやくμ’s全員が揃う所まで辿り着けました。こんな亀更新にお付き合い下さり、感謝しかありません。
実はレイトを先生役に据えたのは、6話の公園でのリクとの会話がなんか先生っぽいって思ったからです。当初はもっとそこを意識した台詞回しだったのですが、上手く噛み合わず結局ボツにすることになってしまったのが残念でしたが(笑)
次回はいよいよそんな令人先生メイン回。プロットは仕上がってますので、なるべく早くお出しできるといいなぁ…きっと…たぶん…メイビー……

追伸 NEW GENERATION the live ウルトラマントリガー行ってきました。例え応援の声を出せなくなっても、ヒーローに会えるってやっぱり良いですね!
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