ジードライブ!~進むぜ!未来!!~   作:キータ

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30話 終焉~ゼロ~(1)

絵里と希がレムに自分たちがμ‘sに入った経緯を語り終えた。

 

「いざ振り返ってみると、何だか恥ずかしいわね。今にして思えば意固地になっていただけだったし……」

「えりちは頑固者やからね。さっさと素直になればええのにって何度も思ったやん」

 

当時の自分を思い出して反省する絵里に、希がうんうんと頷くと陸に視線を移した。

陸はレムの記憶が戻ったかを確認しているようだが、どうやらまだ記憶は戻っていないみたいだ。

 

(カードが教えてくれた通り10人を揃えることができた。これから君に、そしてウチらにどんな運命が待っているかは分からんけど、負けたらアカンよ、りくっち!)

 

レムの記憶がまだ戻らないことに落胆する陸の肩を令人が叩いた。

 

「思い出してもらうまで頑張ろう、陸君。毎日ゼロさんと組手して、ボロボロになっても諦めずに喰らいつくガッツはどこに行ったんだい?」

 

令人の励ましに気を取り直す陸。そんな2人を見てことりがある事件を思い出した。

 

「そういえば、りっくんが先生とゼロに稽古をつけてもらうようになったのって、あの講演会での事件の後からだっけ?」

「あの時は大変だったよね。まさかあの伏井出ケイが悪い奴だったなんて……」

「思い出したくもありません、あんな外道!」

 

穂乃果と海未の表情(特に海未)からは、ある人物への嫌悪感が滲み出ていた。

 

『講演会とは何のことですか?』

 

当然ながらレムが興味を示す。

すると全員の視線が令人に集中した。そして令人も、この事件に関しては自分が話さなくてはならないと感じたようだ。レムの記憶を取り戻すため、そして自分自身があの日の想いを忘れないために。

 

「あの時までの僕は気づいていなかった―――いや、気づかないふりをしていたんです……。陸君がウルトラマンとしての宿命を背負っているように、ゼロさんと―――ウルトラマンと出会った僕にも、避けられない運命があることを。でもあの時の僕には受け入れる覚悟が無くて……」

 

 

~~~

 

 

唐突だけど僕の人生は、我ながら至って平凡なものだと思う。

特別な生まれでも無ければ、逃れようのない宿命なんてものもない。

普通の家庭に育って、普通に教師になって、普通に結婚して、そして可愛い娘が生まれた。

平凡でそこそこ幸せな人生を過ごすどこにでもいるただの一般人。それが僕、伊賀栗 令人の人生―――のはずだった。

 

そんな僕が春先にゼロさんと出会って、それからの毎日はドタバタの連続だった。

ゼロさんは僕と違って“THE主人公”と形容するしかない人で、行く先々で大小様々なトラブルに巻き込まれては、僕の身体を(勝手に)使って解決していった。

ある時は街でカツアゲしていた不良を成敗し、またある時は未成年の子が悪い奴らのお金稼ぎに利用されそうになっていたのを成敗し、そんな事を繰り返しているうちに、いつの間にか僕はすっかりウルトラティチャーとして良くも悪くも有名になっていた。

えっ、結局は自分の手柄になるんだから別にいいじゃないかって?そう思った人はどうぞ変わって下さい。ゼロさんが暴れた後始末も、全部やる羽目になるけどね……。

 

けど、そんな日々もこの頃は僕の中で当たり前(平凡)になり始めていた。

この話は、そんな平凡な日々が零になる大事件の、その数日前から始まる。

 

 

~~~

 

 

廃校決定がかかったオープンキャンパスは大成功のまま幕を閉じた。

あの参加者数は理事会にも相当なインパクトがあったようで、もう少し様子を見るということで話がついたようだ。

だけど、根本の問題が解決したわけではない。

廃校を撤回させるためには、やはり入学希望者が増えなくては難しいようだ。

それだというのに、多発する怪獣災害が理由で休学や転校となり、今いる生徒の数も新学期開始時から徐々に減りつつあった。

 

でも、そんなことで諦めるアイドル部ではない!

μ‘sのみんなはラブライブ出場を目指して本格的に活動を開始した。

手始めに先日のオープンキャンパスでのライブをネットに公開したところ、かなりの反響があったみたいだ。

特に綾瀬さんと東條さんの2人の加入で、その大人びた容姿で新たなファン層を獲得できたことが大きかった。それに絢瀬さんの指導で上達したダンスを評価する人の声も多く、その成果は着実にランキングへと反映されていった。

このままいけば、本当にラブライブ出場権が得られる上位20位以内に入ることも夢ではないのかもしれない。

 

そして朝倉君もアイドル部のマネージャーとしてμ‘sのみんなを支える一方で、ウルトラマンとして街を護り続けていた。

そして僕は彼のヒーロー活動を陰ながら手助けするようになっていた。

昨日はなんと授業中に怪獣が出現したものだから、朝倉君がこっそり学校を抜け出せるように、校内放送を使って教室から授業担当の先生を呼び出すことになった。

どうでもいい用事で呼び出された先生からは後で散々文句を言われたけど、その甲斐あって、朝倉君は怪獣アーストロンを相手に<プリミティブ>、<ソリッドバーニング>、<アクロスマッシャー>の3形態を駆使し、難なく勝利を収めることができたそうだ。

戦いの後、新しく手に入れた<エースカプセル>を高坂さんたちに見せびらかすその姿は、まるで新しい玩具を買ってもらった子供の様で、とても正義のヒーローには見えなかっただけどね。

 

―――で、何で僕がこんな現状整理のような回想をしているかというと……

 

 

「ストライークッ!バッターアウッ!」

 

ある日の放課後。授業も終わり、生徒たちは部活動に精を出している。

開いた窓から主審の判定と歓声が廊下まで聞こえてくる。グラウンドでは野球部の紅白試合が行われていた。

ピッチャーが3番バッターを見事に打ち取り、次に控えていた4番バッターが打席に入った。

ライバル同士なのだろうか?

睨み合う2人の気迫を感じとり、他の部員や観戦している生徒たちの応援にも熱がこもる。

大きく振りかぶって渾身のストレートをピッチャーが放った。それに対してバッターが豪快なフルスイングで真っ向勝負。―――カッキーン!!という快音がグラウンドに響き渡った。

 

なるほど、野球にあまり詳しくない僕でも思わず興奮してしまう程の良い試合だ。

歓声と無念の声、そして壮年の熱血監督の檄が試合をより一層盛り上げていく。

でも、一番盛り上がっているのはきっと―――

 

『おおっ!!そうだ、回れ回れ!っし、逆転だ!!ピッチャーも凹んでいる場合じゃねぇぞ!切り替えていけ!!』

 

―――さっきから勝手に僕の身体を使って、大声で応援しているゼロさんだろう。

野球部の試合を見かけて急に入れ替わったかと思ったらずっとこの調子だ。

まぁ、頑張っている生徒を応援したい気持ちはは分かるけど、いつまでも見ているわけにはいかない。

 

(あの~、ゼロさん。そろそろみんなの所に行かないといけないんで、身体を返してください……)

『おおっ!悪い、悪い。ホイッ!』

 

ゼロさんが軽い口調で謝ると身体を返してきた。

勝手に身体を使われるのはもう慣れたけど、本当に悪いと思っているのだろうか?ここは文句の1つでも言ってやろうかと思ったのだけど、周囲からクスクスと笑い声が聴こえた。

慌てて振り返ると、いつの間にか何人もの生徒が僕の周りに集まっていた。

どうやらゼロさんが大騒ぎしていたせいで、何事かと集まって来たみたいだ。

そして生徒の人垣を割って現れたのが、

 

「またあなたですか、伊賀栗先生!?」

「すいません、教頭先生……」

 

大勢の生徒に見られながら、たっぷりと教頭先生のお説教を喰らうのだった……。

 

 

「……もう!ゼロさんのせいで、また変に目立っちゃったじゃないですか!」

(だから悪かったって。野球の試合を見ていたら、つい懐かしくなっちまってな。……思い出すぜ、光の国でやったダイナとの3本勝負。次こそ、あのフォークを打ち崩してやる!!)

「まったく……というか、ウルトラマンも野球とかするんですね?」

(ああ!俺の戦友が元高校野球のエースピッチャーで、この前来た時に教えてくれたんだ!)

 

元高校野球のエースピッチャー!?ウルトラマンが!?いや、そもそもウルトラマンが高校に通うの!?あ、でも朝倉君はウルトラマンで高校に通っているか……いや、彼の場合はもともと人間として生きてきたわけだし、う~む……何だかウルトラマンのことが分からなくなってきた。

 

(おいおい大丈夫か?それにしてもここ最近、学校の生徒も教師もなんだか活き活きしているな)

 

ウルトラマンのことで頭を抱える僕に、ゼロさんが学校の様子が変わったと言ってきた。

―――そう。ゼロさんの言う通り、オープンキャンパスを終えてから学校全体が活気に溢れていた。もちろん、まだまだ問題は山積みだけど、あの大勢の参加者は希望を与えてくれるには十分なインパクトがあった。

それは決して諦めなかった彼女たちが起こした、小さな奇跡なのだろう。

だから僕も顧問として、彼女らの頑張りに精一杯応えなくちゃ!

 

「行きましょう、ゼロさん!」

(おう!)

 

僕らは気合を入れ直すと、みんなが練習をしている屋上に向かうのだった。

 

 

~~~

 

 

屋上に着いた。だけど様子がおかしい。今日は新しい曲の振り付けを練習しているはずなのに、みんなは1か所に集まっていた。何か問題があったのだろうか?

 

「みんなどうしたの?練習は?」

「先生、それが……」

 

僕が質問すると絢瀬さんが言い淀んで視線をずらした。その視線の先では、園田さんが体育座りをして小さくうずくまっていた。そして園田さんを心配している他のみんなも、どうしたら良いのか分からず戸惑っていた。

 

「園田さん!?一体何があったの!?」

 

僕が声を掛けると、まるでこの世の終わりが来たかのように暗く沈み込んでいた園田さんがポツリと呟いた。

 

「……中止になったんです……」

「え?」

「中止になったんです!伏井出先生の講演会が!!」

 

園田さんが涙ながらに訴えてきた。だけど事情が呑み込めず、困惑する僕。

え、誰?伏井出先生?そんな名前の先生が音ノ木坂高校にいたっけ?

僕がみんなに助けを求めると、絢瀬さんが代表して事情を説明してくれた。

 

「楽しみにしていた伏井出ケイという作家の講演会が、昨日の怪獣に会場を壊されて中止になったんだそうです」

「あー……伏井出先生ってあの伏井出ケイのことか。それは残念だったね」

「海未、そう落ち込むなよ。講演会なんて、次のにまた応募すればいいじゃないか。確かに残念だけど、ちょっと大げさだぞ」

 

ようやく事情を理解し園田さんを慰めの言葉を掛ける僕に、朝倉君が便乗して諭すような事を言った。

だけどそれは火に油だった。

園田さんはピクッと体を震わせたのを見て何かを察したみんなは、「あーあ…」と朝倉君の失言に呆れながら巻き添えは御免だと距離を取る。

もっとも、言った当の本人はまったく気づいていないようだが……。

そして静かに立ち上がった園田さんは朝倉君に向き直ると、溜まっていた怒りと悲しみを爆発させた。

 

「伏井出先生の講演会はいつも途轍もない倍率で、今回当たったのだって奇跡だったんです。それなのに……。そもそも、陸がキチンとあの会場を怪獣から護っていればこんなことには―――」

「わぁーっ!?海未ちゃん、ストップ、ストーップ!!」

「放してください穂乃kッモゴモゴ……」

 

朝倉君の秘密を大声で口走りそうになった園田さんの口を高坂さんが慌てて塞いだ。

まだ朝倉君がウルトラマンだと知らない絢瀬さんが不思議そうに見ているが、みんなが笑って誤魔化した。

ふ~、危ない危ない。絢瀬さんと東條さんには勿論だし、万が一無関係な人に聞かれたら大変なことになっていたら……

 

「おや?何か騒がしいですが、何かお取込み中ですか?ここに生徒会長さんがいらっしゃると伺って来たのですが……」

 

なんて思っていたら本当に人が来てしまった。

みんなが驚いて声がした方を見ると、屋上の入口に高級スーツに身を包んだ男の人が立っていた。

……同じスーツでも、僕の安物とはえらい違い。

でも誰だろう?綾瀬さんに用があるみたいだけど、音ノ木坂高校の先生ではない。だけど、どこかで見たことがある顔だった。

 

「ケイ先生!?お久しぶりです!」

「おや、君はこの前の。これも運命ですね……」

 

朝倉君がその男性と知り合いだったのか、見るなり駆け寄っていった。

ケイ……?あっ!?そういえばこの人は!?

 

「ケイ先生って、もしかしてあの伏井出ケイ!?え、本物!?」

「どうして先輩が知り合いなんですか!?」

「前にちょっと話したことがあって……」

 

他のみんなも気づいたようで、話題の超有名作家の突然の登場に大騒ぎになった。

 

「海未ちゃん、伏井出先生だよ!……海未ちゃん?」

 

南さんが園田さんに声を掛けるも返事が無い。朝倉君と高坂さんも顔の前で手を振ったり、肩を揺さぶったりしてみたが、やはり何も反応が無かった。

何故なら園田さんは、憧れの作家先生を前に緊張で石のように固まってしまっていたのだから。

 

「海未?……海未!?ダメだ、死んでいる……」

「海未ちゃーーーん!!」

「いや、死んでないから……」

 

朝倉君と高坂さんがその場のノリで繰り広げる寸劇に、西木野さんが渋い顔をしながらツッコミを入れた。

他のみんなもサインを貰おうとか大騒ぎしている中、絢瀬さんが一歩前に出ると冷静に尋ねた。

 

「生徒会長の絢瀬 絵里です。私に用事ということですが、どういうご用件でしょうか?」

「実は明日の特別講演会に招かれましてね。それでお手伝いをして頂く生徒会の方へご挨拶に伺ったのですが……」

「明日のですか!?でも明日の特別講演会は沼井戸先生をお招きしていたはずですが?」

 

突然の発表に綾瀬さんが驚きの声を上げた。

特別講演会とは、廃校に反対する先生たちが著名人を招いて学校の実績強化とイメージアップを図ろうと企画したものだ。でも絢瀬さんの言う通り、他の人を招いていたはずだけど……?

 

「実は私にも講演会の依頼を頂いたのですが、スケジュールの都合でお断りしたのですよ。ところが、昨日の怪獣災害で沼井戸先生が東京に来られなくなり、私のスケジュールも全て白紙になりましてね。そこで代理という形で私が講演を行うことになったのです。聞けば、生徒数が減ってお困りとのこと。こんな私でよろしければ、是非お力になりたいと―――」

「つまり……私たちの学校で伏井出先生の講演を聴けるということですか!?」

 

それを聞いて、さっきまで石のように固まっていた園田さんが復活を果たした。天にも昇りそうな表情の彼女に、伏井出ケイは優しい口調で答える。

 

「ええ。学校の話題作りにもなりますし、私としても若い皆さんとお話してインスピレーションを得られる有難い機会です。それに、人との出会いは宇宙が司る計画の一部ですからね」

「計画?」

 

その言葉が気になって僕は思わず聞き返した。でも、それが伏井出ケイの気に障ったのだろうか?表情こそ変えていないが、伏井出ケイの雰囲気が一瞬怖くなり背筋が震えた。

 

「“運命”……ということですよ」

 

しかも答えは意味不明でさっぱり分からないし……。作家というのはこういうものなのだろうか?

 

「ではこれで失礼します。部活動中にお邪魔して失礼いたしました。明日はよろしくお願いします」

 

伏井出ケイは丁寧に挨拶をすると屋上から去って行った。

 

「良い人だったろ、伏井出先生!」

「うん!それに格好良かったにゃ!」

「あれができる大人ってやつなんでしょうね」

 

有名人にも関わらず、年下の高校生にも礼儀を忘れない大人の態度は、どうやらみんなに好印象だったようだ。

でも最後のあの言葉が、何故か僕の耳には強く残っていた。

 

「運命……」

「先生、さっきの人には気を付けた方がええかも」

「うわっ!?東條さん!?」

 

いつの間にか僕の隣に立っていた東條さんの表情は、いつになく深刻なものだった。

 

「えっと……気をつけるって、何に?」

「ウチにも良く分からんけど、カードが教えてくれてる。先生……、運命なんかに負けたらあかんよ」

 

そう言うと東條さんは1枚のタロットカードを僕に手渡し、大騒ぎしているみんなのもとに戻って行った。

 

(令人、何だそれ?)

「さぁ……?」

 

訳が分からないと僕もゼロさんと一緒に首を傾げた。

 

(何かの絵が描かれているみたいだけど、よく分からねぇ絵だな……)

「本当だ……って、このカード上下逆さまですよ。正しくはこうですね」

 

僕はタロットカードの上下をひっくり返し、もう一度描かれた絵を見た。

 

「(!?)」

 

僕とゼロさんはその絵を見て思わずギョッとした。

そこに描かれていたのは、白馬に跨った黒い甲冑が荒れた街を進む姿。

一見すると騎士が行進しているようだが、黒い甲冑を着ているのは人間ではない―――骸骨だ!

カードの下部に目をやると、5文字のアルファベットが並んでいる。きっとこのカードの名前なんだろうけど、この文字は……

 

「D、E、A、T、H―――DEATH。“死神”のカード……」

(何だよこれ!縁起わりぃな!)

 

カードの意味を聞いてゼロさんが東條さんに文句を言った。もちろん、その声は僕にしか聞こえていないけど……。

 

「所詮占いですから、気にしないでおきましょう」

 

僕は頭の中で文句を言っているゼロさんを宥めた。

確かに縁起が良いとは思えないけど特に気にすることなく、僕はカードを上着のポケットにしまってそのまま忘れてしまうのだった。

 

……今思えば、この時もっと気に留めておくべきだったのだと思う。

そうすれば、伏井出ケイの本性にもっと早く気づけていたのかもしれないのだから。

 

 

~~~

 

 

その日の夜。

仕事で遅くなって僕が帰ると真由はもう寝てしまっていたが、瑠美奈さんは食事の支度をして待っていてくれた。

夕飯を食べ終えて2人で晩酌をしていると、明日の伏井出ケイの講演会の話題になった。

瑠美奈さんも伏井出ケイの大ファンだから「何で自分が働いていた時にやらなかったんだ!」と悔しがった。

 

「いいなぁ、伏井出先生の講演会。私も行きたいなぁ……」

「瑠美奈さんはもう先生じゃないんだから、諦めて下さい」

「……元教員のコネを使って潜り込めないかな?」

「ダメです!」

「だよねー。じゃあせめて、これにサイン貰ってきて!それと何かあっても良いように、これは絶対に読んでおくこと!」

 

瑠美奈さんは僕に伏井出ケイが書いた著書「星空のアンビエント」を渡すと、寝室にいる真由の様子を見に行った。

 

「SFかぁ……僕、SFってピンとこないんですよね。何て言うか、リアリティが無いっていうか……ゼロさんもそう思いません?」

(この状況のお前が言うか?)

 

本を眺めながらぼやく僕にゼロさんは呆れ気味に答えた。

確かに今の僕ほどSFの世界に足を突っ込んでいる人間はいないと思うけど、それとこれとは話が別だ。試しに本を開いてサッと目を通してみると、出るわ出るわ、荒唐無稽な設定と登場人物たち。

 

「スペースオペラだか何だか知らないですけど、宇宙を題材にしているのに何で海賊とか出てくるんですかね?しかも炎の海賊団とか鏡の騎士とか訳が分かりませんよ」

 

僕は本を閉じると机の上に放置してそのまま寝ようとした。でもどうしたことか?ゼロさんが急にひどく慌て始めた。

 

(なにっ!?おい、今すぐこの本を読むんだ!)

「え?嫌ですよ、もう寝るんですから。時間見て下さいよ」

 

時刻は既に0時を回っている。これ以上起きていたら流石に明日に差し障るし、なにより眠気はもうピークに達していた。

僕はゼロさんを無視して布団に向かおうとすると、

 

(いいから読め!!)

 

なんとゼロさんが僕の身体を無理矢理動かして、強引に本を読ませようとしてきた。

流石に理由も分からないまま身体を使われるのは堪ったものじゃない。僕も必死に抵抗した。

その様子を傍目から見れば、僕が1人で奇怪なダンスをしているようにしか見えなかっただろう。だからいつの間にか戻って来た瑠美奈さんが、僕の事を見て本気で心配そうな顔をして言った。

 

「……何しているの?」

「僕にも分かりませぇぇん……」

(読め!!)

 

結局、根負けした僕は徹夜で瑠美奈さんから本を全巻借りて読む羽目になったのであった……

 

 

~~~

 

 

「ふぁぁぁ……、ゼロさんのせいで完全に寝不足ですよ。おかげで何度、授業中に寝落ちかけたことか……」

 

ゼロさんに小声で昨晩の文句を言いながら、僕は講堂の前で理事長や他の先生たちと伏井出ケイの到着を待っていた。

徹夜で本を読まされたせいで碌に眠れないまま学校に行くことになった僕は、睡魔と必死に戦いながらどうにか午前の授業をのりきったが、気を抜くとすぐに意識が遠のいてしまいそうだ。

 

「ゼロさん、もし僕が講演会中に寝ていたら起こしてくださいよ」

(……)

「ゼロさん!聞いています!?」

(っ!? あぁ、悪い……)

 

僕が何度も呼び掛けて、ゼロさんはようやく返事をした。あの本を読み終えてからずっと、心ここにあらずといった感じだ。一体どうしたというのだろう……?

 

 

講堂の前にはどこで話を聞きつけたのか、取材に来たマスコミが押しかけていた。もちろん入稿許可証を首には下げて。

さらに校門の前では伏井出ケイのファンらしき人達と、対応に追われる警備員さんたちの姿が見える。どうやら既にネットで今日の講演会が話題になっているみたいで、知名度アップ作戦は狙い通りといったところだ。

 

フクイデストと思われる生徒たちが、伏井出ケイの到着を今か今かと待ち構えている。

伏井出ケイに然程興味の無さそうな生徒も、やって来たマスコミを見てテンションが上がったのか調子にのってカメラに手を振っていた。

生徒会の子たちは出迎えの邪魔にならないよう、そんな生徒を講堂へ誘導をしていたのだが、入口の影に隠れて生徒会の仕事をせずにコソコソと何かをしている朝倉君の姿が見えた。

気になって様子を見に行くと、そこにはなんとダーク・ゾーンから顔だけ出したぺガ君がいた。

 

「朝倉君、何でぺガ君が来ているの?」

「あ、先生だ。えへへ、ぺガも小説書いて見たくて。伏井出先生に触れば、才能にあやかれるかもしれないでしょ!」

「もしペガの才能が開花すれば小説で一儲け!そうすれば面倒な内職ともおさらば!な、ぺガ!」

「うん!僕、頑張るよ!」

 

たぶん触っても意味は無いと思うけど、それを口に出すのは野暮ってものだ。それにこの年頃の男子の会話なんてこんなものだしね。

 

「朝倉君、なに遊んでいるの!こっち手伝って!」

「ごめんなさい!ちょっと行ってきます」

 

生徒会の人に見つかった朝倉君はぺガ君を残して行ってしまった。

すると校門で待ち構えていた人たちから歓声が聞こえた。どうやら伏井出ケイが着いたようだ。

講演会を依頼した先生に案内され、講堂の入口までやって来た伏井出ケイを理事長が出迎えた。

挨拶を交わす理事長と伏井出ケイにマスコミが写真を要求され、2人は快く承諾する。

一通り撮り終わると、みんなの視線が伏井出ケイから離れた。

 

「いまだ!」

 

それをチャンスとみたぺガ君が、ダーク・ゾーンに潜って伏井出ケイの足元にこっそりと近づくと、誰にも気づかれないように手を伸ばした。だが―――

 

「えっ!?」

 

その手があと少しで伏井出ケイに触れるところで、ペガ君の手がピタリ止まった。

何故なら伏井出ケイが、自分に触ろうとするペガ君のことをしっかりと捉えていたからだ。

しかもぺガ君の存在に驚くでもなく、まるで嘲笑するかのような冷たい目をしていた。

ペガ君は驚いて手を引っ込めると、即座にダーク・ゾーンへと身を隠した。

それを確認した伏井出ケイは、まるで何事もなかったように講堂の中へ歩き去った。

その光景を目撃したゼロさんは僕と入れ替わると、急いでペガ君のもとに駆け寄った。

よほど怖かったのか、ぺガ君は酷く怯えていた。

 

『おい!?アイツ、今お前を……』

「あの人怖い!先に帰っているね……」

『あっ!?ちょっ、おい!?』

 

ゼロさんが制止するのも聞かず、ペガ君はダーク・ゾーンに潜って星雲荘に逃げ帰ってしまった。

そんな騒動があったなんて露も知らず、朝倉君が生徒会の仕事を終えて帰って来た。

 

「あれ?ペガ帰っちゃったの、先生……って、ゼロ!?」

『あの小説家、この星の人間じゃない』

「えっ!?」

 

ゼロさんの唐突な発言に困惑する朝倉君。

だけどゼロさんは構うことなく、伏井出ケイの代表作「コズモクロニクル」を見せた。

 

『それにこの本だ。この本に書かれているのは、かつて別の宇宙であった俺とベリアルの戦いだ。最初は偶然だと思ったが、表紙の絵はベリアルがアークベリアルの姿になった時の戦いそのものだ。この本は内容や台詞、舞台背景の全てに至るまで、俺とベリアルの戦いを見聞きした奴が書いたとしか思えない』

「仮にそうだとしても、ゼロのファンってこともあるんじゃない?良い宇宙人でさ!」

『この本の中で、俺は悪役だ』

 

ゼロさんが一蹴すると、朝倉君は明らかに不機嫌になった。

僕が仲裁に入るが、2人は依然ピリピリとしたままだ。

 

「りっ君、先生、何しているの?」

「2人の席も取ってあるよ~」

「早くしないと始まってしまいますよ!」

「……こんな時もみんな一緒じゃなくていいじゃない?」

「まぁまぁ真姫ちゃん。みんなでいた方が絶対楽しいにゃ」

「そうだね……せっかく自由に座っていいんだし」

「あんた達、いい!?こういう時こそアイドルらしく振舞うのよ!あの伏井出ケイをファンにできるチャンスなんだから!あっ……でも、もしにこをモデルにしたお姫様を作品に登場させたいなんて言われたらどうしよう!?」

「それは絶対無いにゃ……」

「あれ、そういえば絢瀬先輩は?」

「えりちなら司会進行役やから、もうステージの上やん」

 

アイドル部のみんながなかなか来ない僕らを呼びに来た。高坂さんが大きく手を振っている。

 

『いいか、ハッキリするまで警戒を怠るな』

「……宇宙人だからって、決めつけるのはどうかと思うよ」

『宇宙人だからじゃない!これは戦士の勘だ!』

「……」

 

朝倉君は尊敬していた人を悪く言われたのが面白くなかったみたいで、ムッとした表情のまま講堂に入って行った。

ゼロさんは朝倉君の考えの甘さに憤りを感じているようだけど、これ以上何を言っても無駄だと思ったようだ。

ウルトラマン同士の足並みが揃わないままで、果たして本当に大丈夫なのだろうか?と僕の不安を感じ取ったのか、ゼロさんは「ハァ……」と大きくため息をついて気持ちを切り替えると、

 

『……仕方ない。いざとなったら、俺が出る。行くぞ!』

「はい……」

 

何事も無いことを祈りながら、僕はみんなを追って講堂の中に入るのだった。

 

 

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