カナタ役の松本君が短い距離ながら見事なヒーロー走りを披露し、25年前につるのさんが作ったオーディション項目が今に活きているんだなぁとしみじみと思ったり(笑)
時間となり、舞台上に伏井出ケイが登壇した。
生徒たちから歓迎の拍手にお礼を言う姿からは怪しさなんて微塵も感じない。
進行役の綾瀬さんが伏井出ケイのことを簡単に紹介してマイクを渡すと、講演会は生徒からの質疑応答を交えながら何事もなく進んでいった。
開始から1時間くらい経過しただろうか。
僕もゼロさんの思い過ごしだったのではないかと考え始めた頃、伏井出ケイが新たな話題を切り出した。
「正義の名のもとに輝きの騎士団を操り宇宙の全てを支配した王に、勇者アガムは戦いを挑みます。しかし返り討ちにあい、反逆者の汚名を着せられて追放される。これが私のデビュー作“コズモクロニクル~闇よ輝け~”のオープニングです」
(チッ……ベリアルの都合の良いように書き換えやがって)
ゼロさんの苛立ちが伝わってくる。
どうやら伏井出ケイを警戒しているだけじゃなくて、自分が悪者にされたことも相当気に障っているみたいだ。
「さて、初期3部作の中で、人気の高いキャラといえば誰でしょうか?」
伏井出ケイが生徒のみんなに質問を出す。
多くの生徒から手が上がる中、その回答者に指名されたのは園田さんであった。
「輝きの騎士、ゾーラです!」
「正解です。彼女に拍手を! そう、悪役にも関わらずゾーラの人気はとても高い。勇者アガムと、幾度も激しい戦いを繰り広げます」
見事正解した園田さんに拍手が送られる。照れながら席に座った園田さんを高坂さん、南さん、朝倉君が祝福した。
(ゾーラ……俺のことだな)
「えっ?……あ、なるほど。確かにアナグラムですね」
ゾーラ→ZORE。並び替えるとZEROになる。
ゼロさんの言う通り、物語が今までのゼロさんの戦いを基にしているというのはどうやら本当のことみたいだ。
(まぁでも、悪役になっても人気があるとは、さすが俺だな!)
自分がモチーフのキャラの人気が高いと聞いて、ゼロさんの機嫌が少し良くなった。
案外単純だよね、この人……。でもその直後、
「しかしゾーラは……コズモクロニクル3作目”闇よ美しく”で死んでしまいます」
「『え、死ぬの!?』」
そのキャラが既に死んでいることを告げられ、自分のことではないと分かっていながらも僕とゼロさんはショックを受けた。
思わず声に出してしまい、隣に座っていた西木野さんと星空さんを驚かせてしまう。
「先生、急にどうしたんですか?」
「講演中はお静かにだよ、先生」
2人に謝る僕の姿を伏井出ケイは見ていた。
あの時は分からなかったけど、僕らの反応を見て面白がっていたのだと今なら分かる。
そして勿体ぶるように生徒たち全員を見渡すと、こう宣言した。
「そこで本日は……ここにいる皆さんと一緒に、彼に代わる新しい輝きの騎士を考えてみたいと思います。そして、次の作品に登場させましょう!」
生徒たちから「おお~っ!」とどよめきと共に拍手が起こる。
「ええっ!?本当ですか!?すごいですよ!!」
園田さんを始めフクイデストの生徒も、そうでない他の生徒たちも、このサプライズイベントには大盛り上がりだ。
「ではまず、皆さんの中からどなたか、舞台の上に来て頂けますか?その方をモデルに、輝きの騎士を作ってみましょう」
みんなが我先にと手を上げた。生徒だけでなく教職員からも手が上がっている。
でも僕は手を上げず、その成り行きを見守っていたのだけど、
「そこの眼鏡をかけた男性教員の方。こちらへ来て頂けますか?」
伏井出ケイが僕の座っている辺りに手を向けた。
でもおかしなことに手を上げた眼鏡の男なんて1人も見えない。それに何故か周りのみんなが、僕に羨望の眼差しを向けられていた。
「え?え?何でみんな僕のことを見ているの!?」
「何言っているんですか!?先生が選ばれたんですよ!」
「僕が!?」
小泉さんに言われてパニックになった僕は思わず立ち上がってしまった。それと同時に拍手が起こった。
こんな風に人から注目されることに慣れていないのもあるけど、嫌な予感がして背中の汗が止まらない。
ゼロさんの言葉を信じるならこれは間違いなく罠だ。罠と分かっていて飛び込むなんて馬鹿げている。
「いや、でも、僕はちょっと……」
「先生が嫌なら、仕方な~く、にこが変わってあげてもいいけど!」
僕はどうにかこの場を逃れようとしたが、それを緊張していると思ったのか矢澤さんが冗談を言ってきた。いや、矢澤さんならもしかしたら本気だったのかもしれないけど……。
代われるものなら代わってもらいたいが、生徒を危険な目に合われるわけにはいかない。
でも一体どうすればいいんだ!?
打開策が思いつかず手をこまねいていると、ゼロさんがいきなり僕と入れ替わった。
『望むところだ……。令人、身体を借りるぞ!』
なんとゼロさんはその挑戦を受けて立ったのだ。
みんなから拍手や「先生頑張れ!」と声援を受けながら壇上に上がり、遂に伏井出ケイと対峙する。
常に笑顔を絶やさない伏井出ケイの表情からは何を考えているのか読み取れず、僕の不安はさらに掻き立てられていった。
「ありがとうございます。先生のお名前は?」
『伊賀栗 令人だ』
「では伊賀栗先生……まずは、握手を」
伏井出ケイがゼロさんに右手を差し出した。
ゼロさんは警戒しながらも、その右手を取り握手を交わす。
傍目からは友好の証にしか見えないだろうけど―――とんでもない!
2人とも無言で牽制し合い、途轍もないプレッシャーがビシビシと伝わってくる。
僕はまるで、戦場の最前線に放り込まれた小動物の気分だった。
「私はいつもこうして想像します。目の前の人の手の感触、匂い、息遣い。そこからどんなキャラクターが生まれるだろうか……と」
伏井出ケイの高説に、聞いていた生徒たちから感心の声が漏れる。
「失礼」
伏井出ケイが匂いを嗅ぐ仕草で、自分の顔を僕の顔の真横まで寄せてきた。
頬と頬がくっつくかどうかという距離まで近づいてくる。
流石に生理的嫌悪感を抱き始めた時、囁くような声で言った。
「ようやく会えましたね……ウルトラマンゼロ」
『!?』
「動かないで。このまま……」
唐突に本性を現してきた伏井出ケイ。
僕らからはその表情を窺うことはできないが、きっと先制パンチを喰らわせたとほくそ笑んでいたことだろう。
しかも巧妙に僕らを遮蔽物にして、自分は客席の死角に入っている。
これでは朝倉君たちが異変に気付くことができない。
『お前は一体何者だ!?』
「これからあることが起こります。貴方は決して動いてはいけない。私に従ってください……いいですね?」
ゼロさんの問いに応じることなく、伏井出ケイは自分が言いたい事だけを伝えてゆっくりと離れていく。
そして推理ドラマの探偵がやるような大袈裟な素振りで「うーん……」と唸ると、
「なるほど……。貴方はきっと優しい先生だ。それに雰囲気から察するに、奥さんと娘さんがいらっしゃいますね。ご家庭でも、きっと素敵なお父さんなのでしょう……。では、新しい登場人物はお父さんにしましょう!彼は何がきっかけで、輝きの騎士になるのか……?」
伏井出ケイがここにはいない瑠美奈さんと真由のことを口に出したことに僕は戦慄した。
まさか事前に僕のことを何もかも調べているというのか!?
「何か、アイディアはありませんか?」
伏井出ケイが不敵に問いかけてくる。
表情は穏やかだが、まるで刃物を喉元に突きつけられたかのような気分だった。
見ている人には僕が緊張で何も言えなくなったのだと思えたのだろうか、席から僕を応援する声や、適当なアイディアを口にするお調子者の生徒の声が聴こえてくる。
「……なんて、いきなり訊かれても困りますよね。では、こうしましょう。私は貴方の敵役です。そして貴方をこう脅します」
そう言うと今までのにこやかな表情から一転、伏井出ケイは鋭い目つきとなると、
「動くな!動けばここにいる生徒たちを焼き殺すことになることになる……」
堂々とみんなの目の前でゼロさんを脅してきた。あろうことか、ここにいる全員を人質にとって。
だけど伏井出ケイが本気だということは素人の僕の目にも明らかだった。
もしここで強引に捕まえようとすれば、あいつは本気でここにいる生徒を犠牲にする気だ。
だからゼロさんは要求に従ってピクリとも動かなかった。
『……お前はどうなる?』
「迫真の演技、良いですねぇ……もちろん、私は無事です」
伏井出ケイがゼロさんを煽るように拍手をしながら賛辞を送る。
ゼロさんは挑発に乗ることはなかったけど、相手の得体の知れなさに脅威を感じていた。
『目的は何だ!?』
「目的はお前だ!お前の中にはゾーラの魂が宿っている。それを肉体ごと滅ぼしてやる……」
壇上で繰り広げられる2人の言葉だけの交戦を、生徒たちは固唾を呑んで見守っていた。
だがその静寂を破って、
「絶体絶命のピンチだにゃ!!」
興奮した星空さんがつい大きな声を出してしまった。
小泉さんが顔を真っ赤にして星空さんを鎮めるが、他の生徒からも同意の笑いと拍手が巻き起こる。
まだこれが芝居だと思っている生徒たちはこの熱演を讃えると、伏井出ケイが慣れた様子で両手を上げて歓声に応えてみせた。
だけどこの一連のやり取りを見て漸く、
「ねぇ、様子がおかしくないですか?」
「うん。何だか怖い……」
「りっ君、どうかしたの?」
「……まさかゼロが言っていたことって本当に?」
朝倉君たちが不審に思い始めてくれた。
助かった!と僕が安堵したのもつかの間、伏井出ケイはそれすらも想定内と間髪入れずに詰みの一手を打った。
「ですが皆さん、ご安心を。ここで逆転のアイテムが出てきます。それを使えばゾーラの魂が解放され、平凡なお父さんは輝きの騎士に変身できるのです。今日は特別に、その見本を作ってもらい、ここに持ってきています。それがこちらです」
そう言うと、伏井出ケイは自分の鞄からある物を取り出した。
何も知らない生徒たちからは「オォ~!」と歓声が上がる。
だがそれを見てゼロさんは、そして朝倉君たちは驚愕した。
だって伏井出ケイが取り出したそれは、朝倉君が変身するのに使うジードライザーそのものだったのだから。
『お前が何でそれを……まさか光の国からそれを盗み出したのは!?』
「ほう、奪われたアイテム。良いアイディアですね、頂きましょう!では、これはいかがです?」
動揺する僕らを畳みかけるように、今度は上着の内ポケットからやはり朝倉君の持つウルトラカプセルに酷似した物を取り出した。
だがその色は、朝倉君の持つカプセルと違って黒に染まっている。
この黒いカプセルは後に怪獣カプセルと呼ばれることになるのだけど、この時は自分も知らないアイテムにゼロさんも愕然としていた。
そして伏井出ケイは怪獣カプセルを起動させると勝利宣言を行った。
「さぁ、新たな騎士の……誕生です!」
『やめろー!!』
ゼロさんの叫びも虚しく、伏井出ケイは怪獣カプセルをライザーで読み取ると怪しい光が会場内を包み込んだ。
<ギャラクトロン>
だが周囲には何も変化が起こっていない。
やっぱりただの小道具だったのだろうか?―――そんな僕の甘い期待は、突然鳴り響いた警報に脆くも崩れ去った。
そう、怪獣の出現を知らせる警報だ。
それを裏付けるかのように、ズシンッ!と大きな足音が響くと共に建物が揺れた。
どうやら怪獣はこの学校のそばに出現したみたいだ。
学校が怪獣に襲われた記憶も新しい生徒たちは騒然となる。
そこへ保険医の地味井さんの慌てた声が校内放送から聞こえてきた。
「怪獣がすぐそばに出現しました。生徒は急いで避難を…って、うわぁっ!?ゼナ先輩、何で学校に!?」
最期に地味井さんが何か言いかけていたが、講堂内は既にパニックとなっており誰も気にする人はいなかった。
このまま講堂の中にいたら押しつぶされてしまうと、生徒たちが外に逃げようとしたのだが、全ての非常扉が何故か開かない。
唯一開くのは出入口だけであった。
「皆さん落ち着いて。冷静に!慌てず出入口から外へ避難して下さい!先生方も外に出て生徒の避難を誘導してください!」
このような事態を招いておきながら、伏井出ケイは何食わぬ顔で生徒の避難誘導をしている。
その指示に従い全員が速やかに避難していき、講堂に残ったのは僕とアイドル部のみんなだけとなった。
「まぁ、外へ逃げたところで無駄なのですが……」
伏井出ケイが無表情で呟く。
「ちょっと、みんな何をしているの!?早く避難して!伏井出先生も……」
「えりち……どうやら、それどころやないみたいやん……」
「え……?」
みんなを避難させようとする絢瀬さんを東條さんが止めた。
絢瀬さんが異様な空気を察して口をつぐむと、怒り心頭の朝倉君が先陣を切って伏井出ケイに詰め寄った。
「お前、一体何をした!?」
その言葉に講演が始まる前まで抱いていた尊敬は一切ない。
だが伏井出ケイは余裕の態度を崩さなかった。
朝倉君が怒りに任せて殴り掛かろうとしたその時、絢瀬さんと東條さん以外のスマホが鳴った。全員のレムアプリに緊急連絡が入ったのだ。
「りっくん、先生、これを見て!」
南さんがレムアプリから送られてきた映像を見せる。そこには街で破壊の限りを尽くす、白い龍のようなロボットの姿が映っていた。
『データ照合完了。この怪獣の名はギャラクトロン。凄まじい戦闘力を秘めたロボットです』
レムの解析を待っていたかのように伏井出ケイは口を開くと、先ほどの講演会のような口調で朗々と語り始めた。
「ギャラクトロンには、ここにいた者たち全員の顔を記録させてあります。どこへ逃げようと、私が指示を出せば直ぐに始末することができるでしょう……」
伏井出ケイの冷酷な発言に全員の表情が強張る。
「ゼロ、こいつをお願い。怪獣は僕が倒す!」
居ても立っても居られず朝倉君が飛び出していこうとする。だがその腕をゼロさんが掴んで止めた。
朝倉君は驚きながらも腕を離すようせがんだが、ゼロさんは聞き入れようとしない。
「流石は歴戦の勇士。貴方の勘が囁くのでしょう。『あの怪獣は強い。おそらくジード、それに万全の状態ではない自分が加わっても勝てるかどうか……』と。賢明な判断だ、無策に戦ったら2人とも死ぬだけでしょうね」
「そんなの、やってみなくちゃ分からないだろ!!」
伏井出ケイの挑発にまんまと乗ってしまった朝倉君は、ゼロさんの手を無理矢理振り解くとジードライザーをかざした。
「融合!I go!Here we go!決めるぜ、覚悟!ジィィィド!!」
朝倉君が光となって外に飛び出していく。その光がギャラクトロンの前に降り立つと、ウルトラマンジードとなってギャラクトロンの前に立ちはだかる映像がレムアプリを通して送られてきた。
「朝倉君がウルトラマンジード!?」
「やっぱり……」
朝倉君の変身を見て驚愕する絢瀬さんと納得したような表情の東條さん。
ジードがギャラクトロンと戦闘を開始する中、園田さんが伏井出ケイに怒りをぶつけた。
「伏井出先生が怪獣を操っていたのですか!?何の為に!?」
「全ては、あの方の為に描くシナリオなのですよ。そして今回の主役は貴方だ―――ゼロ!」
伏井出ケイが真っすぐ僕とゼロさんを指差して言った。
その間にもみんなのスマホから聞こえてくるジードの呻き声が彼の劣勢を伝えてくる。
ゼロさんが絞り出すような声で伏井出ケイに問いかけた。
『……俺は何をすればいい?』
それはゼロさんの敗北宣言に等しい言葉だった。
それを聞いた伏井出ケイは邪悪な笑みを浮かべながらゼロさんに要求を述べた。
「ゼロ……貴方に目掛けてギャラクトロンから熱線を発射させます。その直撃を受けて下さい。悩んでいる時間はありませんよ。早くしなければジードは死ぬことになる」
伏井出ケイの言葉を裏付けるように、スマホでジードの戦いを見守る高坂さんたちから悲鳴が聞こえた。
ゼロさんは数秒の逡巡の後、
『……受けてやるよ!』
(ゼロさん!?)
それは自分の命運はここまでと観念した自棄か、それとも決して敵に背を向けない戦士の矜持か、それは僕には分からないけど、ゼロさんは伏井出ケイに吠えてみせた。
でも僕は、
(止めてくださいゼロさん、死んじゃいますよ!それに一緒にいる僕はどうなるんですか!?僕、家族を残して死ねませんよ!?)
情けないことに自己保身に走ってしまった。
そんな僕にゼロさんは芯の通った、それでいて穏やかな声で答えた。
『安心しろ、令人。お前は死なせない。お前だけじゃない、瑠美奈も、真由も、穂乃果、ことり、海未、花陽、凛、真姫、にこ、絵里、希、そして陸、みんなだ!』
その声からはみんなを護ってみせるという強い意志が感じられる。
もしかしたらゼロさんには何か秘策があるのかもしれない。
だが伏井出ケイにとってそれは、負け犬の遠吠えにしか過ぎなかった。
勝利を確信し恍惚の表情を浮かべた伏井出ケイが指をパチンと鳴らすと、先程までビクともしなかった非常扉がひとりでに開いた。
扉の先から外の光が差し込む。その光景はまるで、死後の世界に通じる冥界の扉のようだ。
「誰もがウルトラマンジードの戦いを見ています。誰も貴方の死を看取る者はいません。これまで数多の世界を護った英雄が、最期は誰に知られることも無く1人寂しく逝く。文学的には使い古されたシチュエーションですが、貴方には相応しい終焉でしょう……」
伏井出ケイがゼロさんに言う―――「無価値な死を迎えろ」と。
ゼロさんは「へッ……」と笑うと、何も言わず扉の先に駆け出した。
「先生!」
「ゼロ!」
絢瀬さんや高坂さんらが必死に呼び止めようとしたけど、ゼロさんが振り返ることはなかった。
非常扉から校庭に出た途端、地面が激しく揺れた。
ジードがギャラクトロンに投げ飛ばされて地面に叩きつけられたのだ。
伏井出ケイの言う通り、ジードはギャラクトロンに全く歯が立っていない。
このまま戦い続ければ間違いなく敗北してしまうだろう……
これから起こることを想像すると、ゼロさんに身体の主導権を渡しているというのに自然と手が震えていた。
ゼロさんもそのことに気づくと、
『令人、怖いのか?……って、そりゃそうだよな。けどよ、もう少しだけ付き合ってくれ!』
右手に持ったゼロアイをきつく握りしめながら僕を勇気づけるように言った。
そうだ!ゼロさんが何をしようとしているのか、僕には分からない。
でもゼロさんならきっとなんとかしてくれるはずだ。
だってゼロさんは今までいくつもの宇宙を救ってきた勇者なんだから!
懸命に攻撃を続けていたジードだったが、首に巻き付いたギャラクトロンの尻尾で宙吊りにされていた。
苦しそうに呻きながらも手足をばたつかせて抵抗を試みる。
だがギャラクトロンはそれを全く意に介さず、ゆっくりと右手の砲身の照準を僕らに定めた。
砲身にエネルギーが集約され熱線が放たれる。
眼前に避けようもない死が迫る。
でもゼロさんは決して背を向けることなく、ゼロアイを盾のように構えると迫りくる熱線の直撃を受け止めた。
死んだ!?と僕は思わず(意識の中で)目を背けた。
だが、痛みは全く無い。
何故ならゼロアイから光のバリアが発生し、熱線の直撃を防いでくれていたからだ。
でも僕の目には、ゼロさんが自分の身を挺して僕を護ってくれているように映っていた。
熱線の凄まじい衝撃が防風となって僕たちを襲う。
スーツの上着が激しくはためき、ポケットに入れたままだったタロットカードが天高く舞い上がっていった。
時間にしてきっと数秒、でも僕には永遠に続くと感じられた死の恐怖は唐突に終わりを告げた。
さっきまで僕らを襲っていた暴風や衝撃はもう無い。
あの苛烈な熱線を、ゼロさんは耐えきったのだ。
僕を護ってくれていた光のバリアはあちこちがひび割れていて、さっきまでの攻撃の凄まじさを物語っていた。
『令人……よく頑張ってくれたな……』
息も絶え絶えなゼロさんが掠れた声で言うと、僕の手からゼロアイが滑り落ちた。さすがに無茶が過ぎたのか、ゼロさんの意識はフッと消え失せて僕と入れ替わる。
ジードもようやく尻尾の拘束を振りほどいて反撃に転じていた。これでもう大丈夫だろう。
「助かりましたよ、ゼロさん。でもこんなのこれっきりにしてくださいよね、死ぬほど怖かったんですから」
安堵と感謝と不満と恐怖、様々な感情がごちゃ混ぜとなった僕はゼロさんに捲し立てた。
……あれ?おかしいな?
いつもだったら『悪い、悪い』って、本当に悪いと思っているのかと疑いたくなるあの軽口で謝ってくるのに返事すら無い。
「ゼロさん、聞いています?……ねぇ、ゼロさん?ゼロさん!?」
まさか……と頭をよぎるが、僕は頭を振ってその考えを必死に否定した。そうだ、そんなことあるわけない!
「冗談は止めて下さいよ!僕をからかっているんですよね!?」
懇願するように呼び掛けたが、やはり返事はない。それどころかゼロさんの意識を感じることすらできない。
そこへ地面に落ちたゼロアイが僕の視界に入った。
(そうだ、僕を驚かせようとゼロアイの中に隠れているんだ。きっとそうだ!)
僕は一縷の望みに縋りつくように、地面に落ちたゼロアイを拾おうとした。
だが手が触れる刹那、ゼロアイから光が消え失せるとまるで石のように冷たく変わり果ててしまった。
それが意味するところを突き付けるかのように、僕の頭上から先ほどの暴風で舞い上げられたタロットカードがひらひらと目の前に降り落ちた。
カードに描かれた死神と目が合う。
僕は力なくその場に崩れ落ちた。
「ゼロさん……ゼロさぁぁぁぁぁん!!」
僕の叫びは激しい戦闘の音で掻き消され、誰にも聞かれることなく虚空へと消えるのだった。
~次回予告的な~
令人「僕を庇ってゼロさんは消えた……。結局僕は一般人で出来ることなんて何
も……」
絵里「先生はそれで良いんですか?」
希 「先生、あのカードの本当の意味は……」
次回「ゼロを超えて」
ゼロ 「俺に限界はねぇ!!」