「お断りします!!」
逃げ出そうとする海未ちゃんを捕まえて、ようやく落ち着いて(?)話をすることができるようになった。
「えぇ!?何で?」
「絶対いやです!中学の時のだって思い出したくないくらい恥ずかしいんですよ」
「ほら、アイドルの恥は掻き捨てって言うじゃない」
「言いません!」
むむむ…… 海未ちゃんは中々強情だった。
「思い出したくない位に恥ずかしいポエムってどんなのだろうな……?」
「それは深く追求しない方がいいと思うよ」
「陸もペガもその事はもう忘れてください!だいたい、言い出しっぺの穂乃果がやればいいじゃないですか」
私?いやー、私は……
思い出すのは小学生の時にあった俳句の授業。そこで私が作ったのは、
『おまんじゅう うぐいすだんご もうあきた』
……先生は褒めてくれたんだけどね。
どうやらみんなもその事を思い出したみたいで、私に作詞を任せるのは諦めたみたい。
「では陸、あなたが作るのは?」
「えっ!?僕?」
「陸が作るとドンシャインの曲になっちゃうよ」
「むっ!それはペガだって変わらないだろ」
確かにペガ君の言う通り、りっ君に任せたらアイドルの曲にはならないだろうね。
やっぱり海未ちゃん以外にできる人はいないんだよ!
私達が説得を続けると、ようやく海未ちゃんがやってくれると言ってくれた。
……ことりちゃんに上目遣い(しかも涙目)でお願いされちゃったら断れないよねぇ。
でもその代わりに、ライブまでの練習メニューは海未ちゃんが作ることになった。
映像では楽しそうに歌って踊っているようにしか見えないけど、それを本当にやるためにはかなりの体力がいるんだって。
試しに笑顔のまま腕立て伏せをやってみてって海未ちゃんに言われてやってみたけど1回もできなかった。アイドルやるって大変なんだね……
そして次の日の朝、登校前に海未ちゃんに神田明神に集合するように言われた。ここで特訓するらしいけど……?
「本日から、この階段坂を利用した基礎体力作りを行います」
えー!?もしかしなくてもこの長い階段を何周もするの?
「穂乃果、ことり、頑張れよ!」
りっ君、自分は関係ないからって……
「何を言ってるんですか?あなたもやるんです!」
「げ!?いや、僕はいいだろ?」
「あなたはウルトラマンなのですよ!みんなを護るために基礎体力が必要なのは一緒です!前から思っていましたが、あなたは身体能力の割に基本を疎かにし過ぎです」
うんうん、私達は仲間だよね、りっ君!
「ハァ、ハァ……」
「きつかった……」
「もう足が動かない……」
特訓終了後、階段を登り切った私達はそのまま疲れて倒れこんてしまった。
「これからライブ終了まで、朝と放課後にこの特訓をやってもらいます。勿論、歌とダンスの練習とは別に」
「1日2回も!?」
「そうです。ちゃんとしたライブをするためです。そうでないと生徒は集まりませんから」
「はぁーい……」
それはそうだけど……海未ちゃんの鬼教官!
でもライブまでもうそんなに日もないし、よし、頑張ろう!!
「君たち」
誰かに声をかけられた。
声の方を見るとそこに居たのは副会長の東條希さんだった。
でもその恰好は……?
「あ、この格好?ここでお手伝いしてるんや。神社は色んな気が集まるスピリチュアルな場所やからね。特にこの神社には集まりやすいみたいで、変わった物を奉納する人も多いんよ。ちょっと前にも古いけど珍しいパソコンが奉納されたんや。何やったっけ、たしかIBM……」
へぇ……良くは分からないけど、何か凄そうな神社だってことは分かった。
「まぁそんな事はええか。4人とも、階段使わせてもらってるんやから、お参りくらいしてき」
副会長さんに促された私達はお参りしていくことにした。
お祈りすることはもちろん
「初ライブが上手くいきますように!」
休み時間、私達4人はあの歌が上手な子に作曲のお願いするために1年生の教室に来ていた。
「失礼します!1年生の皆さん、スクールアイドルの高坂穂乃果です!」
上級生がいきなり来てびっくりするだろうから元気よく挨拶をしてみたんだけど、教室にいる1年生がみんなポカーンとこっちを見ている。
あれ?思ったより、というか全く私達の事が浸透していない!?
予想外のリアクションに困っていたところに探していた子が教室に入ってきたから、一緒に屋上まで行ってもらった。
さっそく作曲をやってくれないかお願いしたんだけど……
「お断りします!」
「えっ、なんで!?あ、もしかして作曲はできないの?」
「出来ないわけないでしょ!!ただ……やりたくないんですそんな事」
「学校に生徒を集めるためだよ!そんな事なんt「興味ないです。失礼します」
そう言い残すとあの子は教室に帰っていった。
取り付く島もないって言うんだっけ、こういうの。
「興味ありませんって海未ちゃんみたい……」
「あれが普通の反応です」
「説得するのは難しそうだね……」
「うん。せっかく海未ちゃんがいい歌詞を考えてくれたのに……」
「へぇ!海未すごいな、1晩で作ってくるなんて。どんなのか見せてよ」
「ダメです、陸、見ないでください!穂乃果も早く仕舞ってください!」
私は海未ちゃんから今朝渡された歌詞カードを取り出した。
りっ君が気になって見ようとするのを、海未ちゃんが邪魔している。
ちゃんと曲になったらみんなの前で歌うんだから、恥ずかしがることないのにね。
それにしてもイヤイヤ言ってたのに1晩で作ってきてくれるなんて、ポエムを書いていたのは中学の時までって言ってたけど、本当は今も書いていたんじゃ……?
でも本当に素敵な歌詞だから、これに曲を付けてもらって歌いたいんだけどな……
「ちょっといいかしら?」
これからどうするか悩んでいると突然声をかけられた。
そこに居たのは生徒会長さん。
でも何で?
「あなた達が何をしようとそれはあなた達の勝手よ。でもそれが逆効果にもなり得るとだけは覚えておいて」
「逆効果?うまくいけば生徒が集まるかもしれないのに?」
「うまくいけばね……でもスクールアイドルが今までいなかったこの学校で、やってみたけどやっぱりダメだったとなったら、みんなはどう思うかしら?」
「!? それは……」
「本当にこの学校の為を思うなら、簡単に考えて欲しくないの」
「・・・・・・」
「私、ちょっと簡単に考えすぎてたのかも……」
「やっと気がつきましたか」
昼休み、私が教室でさっきの生徒会長の話で意気消沈していた。
勿論ふざけて提案したことなんかじゃないよ。本当に学校が無くなって欲しくないし、どうにかしたいと思ってる。私たちが頑張れば学校が盛り上がって、少なくとも今より状況が悪くなることはないと思っていた。
でも現実は違った。先生は話を聞いてくれないし、練習場所は有り合わせだし、歌う曲は無いし、スクールアイドルがこの学校にいるって知ってすらもらえていなかった。このまま勢いだけで始めることが正しいことなんだろうか分からなくなってきた。
良かれと思っていた事が間違っているかもしれないって言われると流石にちょっと、いやかなり凹むね……
りっ君もウルトラマンになった自分がみんなに怖がられているのを知った時、こんな風に思ったのかな?
「ねぇりっ君……あれ?」
そういえばりっ君がいない。
「りっ君ならお昼休みが始まってすぐに何処か行っちゃったよ」
「『ジーッとしてても、ドーにもならない』だそうです」
りっ君凄いな、いつも真っ直ぐで……
私は今になって怖くなってきている。言い出しっぺなのに…… もし失敗して私のせいでもっと生徒が来なくなったら?本当に私達のやろうとしていることは正しいの?
「どうしたの?お昼ご飯食べないで。練習で疲れた?」
「ライブまで時間ないもんね。何か手伝えることがあったら言ってね」
「照明とかお客さんの整理とかいろいろやらないといけないでしょ」
私が机に伏せているとヒデコ、フミコ、ミカが声をかけてきた。
そうだ、お昼食べてなかったね……えっ?今、手伝うって……
「本当に!?」
「うん。だって穂乃果たち、学校の為に頑張っているんだし」
「クラスのみんなも応援しようって。ねぇ!」
ミカがクラスのみんなに声をかけた。
私は立ち上がって教室を見渡すと、みんなが笑顔を向けたり頷いたりしてくれている。
「みんな……ありがとう!!」
私はみんなにお礼を言った。続けてことりちゃんと海未ちゃんもお礼を言う。
もしかしたら間違っているのかもしれない。余計な事をしているのかもしれない。でも応援してくれる人達がいる。それがこんなに勇気をくれるなんて……
ぐー
あはは。何か安心したらお腹減ったみたい。
みんなにも聴こえちゃったみたいで笑っている。海未ちゃんは呆れてるけど……
気を取り直して、カバンからパンを取り出して頬張った。
うん、今日もパンが美味い!
放課後、私は作曲の事をもう1度お願いしに行くことにした。
1年生の教室を訪ねると、あの子――西木野 真姫さんは音楽室に居るだろうって、たまたま会った1年生の女の子2人が教えてくれたんだけど……いた!やっぱりピアノを弾いてる。
西木野さんがこっちに気付いてピアノを弾くのを止めた。
「何の用ですか?」
「もう1度お願いしようと思って」
「しつこいですね、あなたも!あの男の先輩も!」
「男の先輩?りっ君来たの?」
「昼休みにちょっと……その時もお断りしたんですけど、あの先輩が言ってました。あなたは必ずまた来るから、その時にもう1度考えてくれって」
「そうなんだ……ねぇ、何で嫌なの?」
「軽いからよ!薄っぺらくてただ遊んでいるみたいで……」
「そうだよね」
「え!?」
西木野さんは私の反応が予想外だったのかとても驚いている。
私もそう思ってた。アイドルってみんなをパーッと盛り上げて、楽しく歌っていればいいんだって。でもね、それって実は結構大変なんだよ。
「ねぇ、腕立て伏せできる?」
「はぁ?」
「出来ないんだぁ?」
「出来ますよ!そのくらい」
そう言うと西木野さんは余裕そうに腕立て伏せをしてみせた。おぉー、私よりできている。
「じゃあ、それを笑顔でやってみて」
西木野さんは訳が分からなそうな顔をしたが、笑顔を作った途端に辛そうになった。
「ね?アイドルって大変でしょ?」
「だから何だって言うのよ!」
西木野さんは腕立て伏せを止めて文句を言ってきた。いきなり腕立て何てやらされたらそうだよね。でも分かって欲しかったんだ。アイドルは軽い気持ちでやれるものじゃないって。
「はい、これ歌詞」
「だから私は……」
「読むだけでもいいから。今度来た時に断られたら、すっぱり諦める」
「……答えが変わることはないですよ」
西木野さんは歌詞が書かれた紙を受け取りながら答えた。
それでも構わない。だって……
「私、西木野さんの歌声が大好きなんだ!あの歌声とピアノに感動したから、作曲をお願いしたいって思ったの!
毎日、朝と夕方に神社の階段でトレーニングしてるの。もし良かったら今度遊びに来てよ」
~~~
先輩が音楽室を出て行った後、私はもうしばらくピアノを弾いて家に帰ることにした。
さっさと家に帰ろうと思ったのだが、あの先輩の言葉が耳から離れない。
私の歌声とピアノが好きか……って、何ちょっとその気になっちゃってるの私!?あんなの作曲を頼むために言ったお世辞に決まってるじゃない!
というか、あの先輩たちは本当に真面目に練習しているんだろうか?確か神社で練習しているって言ってたけどここから近かったよね……私にああ言ったのだから、ちょっと確かめに行ってやろう。
私が神社の階段下に近づくと先輩たちの声が聞こえてきた。
「もうだめー!!」
「もう動かない……」
「ダメです。あと2往復残ってます」
「海未ちゃんの鬼教官……」
路地に身を隠して階段上を見ると、ヘトヘトになって座り込んでいる先輩たちがいた。どうやら本当にちゃんと練習しているみたいね。それにしても、どうしてあの先輩は頑張れるのだろう?本当に廃校をどうにかできると思っているのだろうか?
「あれ、こんな所で何やっているの?」
私が先輩の様子を見ていると突然後ろから声をかけられた。驚いて振り返ると、そこにいたのは昼休みに私を説得に来ていた男の方の先輩だった。何故か他の先輩よりもヘトヘトになっているんだけど……
「いえ、何でもないです。……それよりも大丈夫なんですか?すごく辛そうですけど」
「あ、あぁ……だいじょうぶ……海未に特別メニューって言われて追加で走らされてきただけだから。それより、もしかして穂乃果に会いに来た?だったら一緒に行こうか?」
「いいえ。たまたま通りかかっただけなんで……」
私は覗き見していた気恥ずかしさもあって早く立ち去ろうと思ったのだが、どうしても気になったことを質問した。
「あの、どうして先輩たちはこんな事しているんですか?ただの高校生が本当に廃校を解決できるとでも?」
私のその問いに、先輩は当たり前の様に、でもふざけた様子も無く答えた。
「ジーッとしてても、ドーにもならないから」
「!? それだけが理由ですか?」
「それだけ。学校が好きだから無くなって欲しくない。どうにかしたい。その為にやりたい事が見つかったらジーッとなんてしていられない。それが穂乃果なんだ。そんな穂乃果だから、僕たちに何かを見せてくれると思うんだ」
「……何かってなんですか?」
「そうだな……奇跡とか?」
「何ですかそれ。真面目に答えてください!」
「ふざけていないよ。だってほら、こうやって素敵な夕焼けが見れるのもちょっとした奇跡じゃないかな?」
先輩と同じ方を見ると、夕日が空を街をオレンジに染め上げていて、私はその光景に目を奪われた。いつぶりだろう、夕焼けの景色を美しいと思ったのは?
それから目の前にいる先輩を、そして階段の上でまだ休憩している先輩たちを見る。
あぁ、この先輩たちは今やりたい事を真剣にやっている。だからこの景色に負けない良い表情をしているのだろう。
……私はどうだろう?医者である親の跡を継ぐ。それは当然だと思うし、私もそれを望んでいる。でも時折それを息苦しく感じることがある。果たして自分は、本当にやりたいことをやっているのだろうか?あの先輩の様にジーッとしていられないなんて事はあったのだろうか?
私が夕焼けの街を見ながら物思いに耽っていると、突然背後から手が伸びて胸を鷲づかみにされた。
「キャーー!?なにするのよ!!」
私は横に居た先輩の顔をおもいっきり引っ叩いた。
「ブファッ!?僕じゃないよ!?」
「私とアンタ以外に誰がいるってのよ!!」
言い訳するなんてサイテー!!ここには私達以外には誰も……
「まだ発展途上っていったとこやな」
「「!?」」
突然声がした方を向くと、巫女服姿の女が両手を腰に当てて仁王立ちしていた。
「誰よアンタ!?」
「あ、副会長さん!?」
副会長?えっ、この触り魔が!?
「でも望みは捨てなくて大丈夫や。大きくなる可能性はある」
「はあ!?余計なお世話よ!」
勝手に人の胸をワシワシと触っておいて!しかも男子の前でそんな事言うな!!
私が文句を言うと、触り魔(副会長?)は先程までと一転して、子供を見るような優しい表情になった。
「恥ずかしいなら、こっそりという手もあると思うんや」
「!? 何を言って……」
「分かるやろ」
そう言うと触り魔(副会長?)は神社の方へ行ってしまった。
なにが分かるっていうのよ……
「私も帰ります。さっきは叩いてすいませんでした。あと、ここでの事は忘れてください」
「ここでの事って…大きくなる可n「そこは特に忘れてください!!」
帰宅後、自分の部屋で一息つくと疲れがどっと出てきた。
やっぱり行くべきではなかったのかも……
だが、脳裏に浮かぶのは先輩たちの表情と夕焼けの景色。
「ジーッとしてても、ドーにもならない。か……」
私は机に向かうと渡された歌詞カードを読んだ。恥ずかしいならこっそりと、か……
~~~
西木野さんから返事がないまま数日が過ぎた。
練習前に廊下に設置しておいたグループ名の意見箱を確認する。
「今日は入っているかな?」
私が意見箱を持ち上げるとゴトッと何か物が動く音がした。
箱を開けてみると、そこにはCDケースと可愛く折りたたまれた紙が入っていた。
私は箱を持って急いで屋上へと走って行くと、もうみんながそこにいた。私はCDケースが入っていた事を伝え、それを見せた。ケースには、『ジーッとしていられない先輩達へ PS.グループ名が早く決まるといいですね』とメッセージが書かれている。私達は早速パソコンにCDをセットして曲を再生することにした。
「いくよ……」
パソコンからピアノの曲に合わせて海未ちゃんが書いた歌詞が歌われている。この歌声は西木野さん!?
「すごい……」
「これが私達の」
「私達の歌……」
ありがとう、西木野さん。
「なぁ、こっちの紙はなんだ?」
りっ君がCDケースと一緒に入っていた紙を箱から取り出した。開いてみると何か文字が書かれている。誰かが考えてくれたグループ名の案かな?でもどう読むんだろ……エムズ?
「たぶんμ’s(ミューズ)ではないかと?」
へぇ、そう読むんだ。でもそれって石鹸の名前じゃないの?
「ミューズって石鹸のか?」
「違います!確か神話に出てくる女神の名前だったかと」
もうりっ君、グループ名に石鹸の名前なんてつけるわけないじゃんねぇー……
でも女神の名前か、素敵かも!
「いいと思う。私は好きだな!」
「私も良い名だと思います」
「僕もいいと思う」
満場一致のようだね。
「よし!今日から私たちは、μ’sだ!!」
無いことだらけから始まった私たちのアイドル活動。
それでも頑張っていけば、こうやって誰かが応援してくれるようになる。
きっとなんとかなる。そう思っていた。
あのファーストライブの日までは……
~キャラ紹介~
園田 海未
音ノ木坂高校の2年生で陸、穂乃果、ことりの幼馴染。原作通り実家は日本舞踊の家元で礼儀正しく躾けられている。特技はアニメ版では弓道の描写がメインだが、剣道など他作の要素も入ります。陸を異性として意識はしているが、その性格から母親のような言動をとってしまうことが多い。
~次回予告~
陸「いよいよファーストライブの日がやってきた。
だがそれを邪魔するようにロボット戦士が現れる。
その固い体に苦戦するジード。でも負けていられない。
新しい力でこいつを倒してライブを成功させるんだ!」
次回、「ファーストライブ」