ぐだ子と新宿オルタズと異世界特異点   作:さんあめま

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1話

南極大陸に魔術的に隠蔽された標高6000メートル級の名もなき山脈。

そしてその山頂付近に居を構える人理保障機関カルデア。

白磁の建物の一角。ブリーフィングルームと呼称される一室で二つの人影が会話をしていた。

 

「コフィンに不具合?」

 

一人は十代後半の茶髪の少女、藤丸立香。

元人類最後のマスターにして、魔術王の企みを阻止し、人理修復を成し遂げた者。

そしてもう一人は、

 

「そうとも」

 

ぴんと人差し指を立て、立香と向き合い説明する女性。

見た目には眼鏡の似合う知的な美女。

しかしてその実態は自らの肉体を理想の女性に作りかえた偉大なる変質者、召喚例第3号。

サーヴァントキャスター。万能の天才、ダヴィンチその人である。

 

「天才を持ってしても出所不明のプログラムが混入していてね。どうやらどこかにレイシフトされるようだが、詳細を調べようにも何度解析を試みても弾かれる。全容を見るには一度プログラムを走らせてみるしかない、というワケさ」

 

「大丈夫なのかな、ソレ」

 

罠の確率が高い正体不明のものをわからないまま使う、というのは随分と豪気が過ぎるような気がする。

差し迫った状況ならばともかく、余裕があるならば回避したい。

君子ナントカともいうし、と立香は考えた。

 

「大丈夫、とは言いきれないけれど、何時また亜種特異点が発生するかもわからない。万全を期すためにも不確定要素は取り除くべきだし、処理作業にはカルデアがビジー状態でない時に臨みたいのさ」

 

「確かに」

 

コフィンはレイシフトの際、安全に深く関与するものだ。

レイシフトは一度実行してしまえば帰還まで中断することはできない。不測の事態が頻発する特異点攻略に不安要素を抱えたまま向かうというのも良くない。

今のところ五つ目の亜種特異点は現れる兆候はないが、事前準備だけは怠るべきではないだろう。

 

「それに、科学、魔術のありとあらゆるアプローチを試した結果、敵意や害意は含まれていないのだけは確認できた。どちらかといえば毎年恒例のハロウィンのような反応だね」

 

「それは、地獄、では?」

 

人理修復中に二度。修復後に一度。

累計三度経験したハロウィントリロジー。

その消し去ることのできない記憶に立香は背筋をぶるりと震わせた。

 

「こちらから連れていけるサーヴァントは二騎。それ以上を連れていくとプログラムは作動しないらしい。メンバー選抜は立香ちゃんに任せよう」

 

「二人か……」

 

立香の脳裏に想起されるカルデアのサーヴァント達。

詳細不明の状況で連れていける戦力は二人のみ。

単純戦力、状況適応力、優先させるべきは何か。

よく考えて判断しないといけない。

立香は腕を組み、片方の手を口元に当てた。

長く思考する際の癖だ。

 

と、

 

「へぇ…面白い話をしてるわね」

 

突然の第三者の声に二人は振り向く。

 

「……!ジャンヌ!」

 

ブリーフィングルームの入り口に立っていたのは見知った黒衣の女性だった。

ジャンヌ・オルタ。

ジル・ド・レェによって聖杯から産み出された、聖処女ジャンヌ・ダルクの贋作。

 

初めて出会ったのは第一特異点オルレアン。

邪竜を従える魔女──敵として、カルデアと立香の前に立ち塞がった。

カルデアで召喚されたサーヴァントに加え、現地のサーヴァントの協力もあってなんとか撃破。

そこからクリスマス、贋作回収騒動を経て紆余曲折の後、カルデアに召喚された。

始まりこそ敵同士ではあったが今となっては大切な仲間の一員だ。

 

マスターとサーヴァントとしての関係は比較的良好。

常に斜に構えたようなスタンスで口では文句ばかりだが、なんだかんだと付き合いは良い。

日頃の態度からか、忠誠心の高い他のサーヴァントからの印象は良くないが、元より立香は杓子定規な主従関係などに固執するつもりはない。

むしろ彼女の気安い態度を好ましいとさえ思っている。

 

 

そんなジャンヌ・オルタの今の格好は、ファー付きの黒いコートに白いふとももが眩しいタイトなミニスカート。

以前解決した亜種特異点新宿。

その時のジャンヌ・オルタが着用していた衣装だ。

カルデアに召喚されている彼女は新宿のジャンヌ・オルタとはまた違う存在なのだが、カルデアのデータベースで新宿での記録を見てから後、かの地での装いを自作(!!)し、気に入ったのか度々着るようになった。

 

尚、映像記録に残っていない部分──新宿から退去する際の詳細を立香から無理矢理聞きだし、異なる自分がしでかした事にしばらく身悶えた後、何やら創作活動に励んでいたとの報告が上げられている。

 

「丁度ネームに行き詰まっていたのよ。マスター、私を連れていきなさい」

 

「それは、願ってもないことだけど」

 

性格上の問題か矢鱈と力押しを好み、火力一辺倒のきらいはあるがその火力こそが破格。

気分屋故に扱いには注意が必要だが、戦力としては申し分ない。

何よりルルハワでの度重なるループを共に乗り越えた仲だ。

ついてくるというのなら頼もしい。断る理由はない。

 

と、

 

「ほう、廊下の先から田舎娘の声がしたと思えば…随分と面白い話をしているな」

 

「げ」

 

愉悦に歪んでいたジャンヌ・オルタの顔が一瞬で苦虫を噛み潰したかのような表情に変わる。

 

「あ、アルトリア」

 

続いて現れたのはアルトリア・オルタ。

かの騎士王アルトリア・ペンドラゴンの別側面。

アーサー王の苛烈な為政者としての部分を強調された存在だ。

 

ジャンヌ・オルタと同じくファーストコンタクトでは敵として立ちはだかったが、特異点X冬木を攻略して後、直ぐに召喚に応じてくれたカルデアでも古参に位置するサーヴァント。

立香にとっては共に人理修復を成した大切な仲間の一人であり、ジャンヌ・オルタとは第一特異点からの因縁である。

余談だが、カルデアに召喚されたこのアルトリア・オルタ。

サンタにメイドとなにかにつけてはコスプレを嗜むようになり、最近ではバニースーツに興味を示しているようだ。

 

見れば彼女も新宿での衣装を身に纏っている。

薄手のキャミソールにフード付きのパーカー。

いささか短過ぎる程のショートパンツにハイブーツ。

黒一色だが金の髪と白い肌にとてもよく似合っている。

 

「えっと…色々と聞きたい所はあるけど、まずその服どうしたの?」

 

「これか?ヴラド公に作らせた」

 

指先で見せつけるように肩紐をつまみ上げ、アルトリアは答える。

立香に言及されたのが嬉しいのか、どことなく上機嫌な様子だ。

 

「呆れた。趣味のものを人に作らせるなんて、王サマはやることが違うわね。しかもそれ、要するに私のパクリでしょ」

 

しかしその機嫌もジャンヌの言葉によって急降下。

こめかみに青筋を浮かべながら言い返す。

 

「ふ、流石は聖処女の贋作モドキ。言うことが違う。そもそも記録を見る限りあの特異点ではお前こそが私の後追いだったようだが?」

 

「あれは私だけど私じゃないから関係ありませーん。ノーカンよ、ノーカン」

 

そして始まったいつもの言い合い。

ラリーの度に際限なくヒートアップしていくやり取りは新宿でもカルデアでも何度も経験した。

放っておけば何時まで経っても話がすすまない。矛先を変えさせるため、立香は口を開く。

 

「それで、さっきの話を聞いてアルトリアはどう思ったの?」

 

「む、そうだ。思わず本題を忘れる所だった。貴様のせいだぞ」

 

「はぁ?アンタの頭の出来の悪さを私のせいにしないでくれる!?」

 

打てば響くとはこのこと。

些細な火種に即座に反応、爆発。

二人の間はまるで火薬庫である。

 

「この狂犬女だけではマスターが危うい、私もついていこう」

 

そしてアルトリアによって投げこまれる新たな火種。

流れからして半ば予想していたことではある。

そしてこれから起きる出来事もある程度予測できる。

立香は固まったような笑顔のまま汗を垂らし、ダヴィンチは色々な事を諦め、考えるのをやめた。

 

「はああああ!?冗談じゃないわ、お呼びじゃないっての!」

 

「それを判断するのはお前ではない、マスターだ」

 

アルトリア・オルタもまた、戦力としては申し分ない。

好む戦法はジャンヌ・オルタと同じく真正面からの力押しだが、低ランクとはいえ直感スキルを保持しているのと、王としての経験から戦闘中においても常に冷静。

必要とあらば搦め手を使うことにも躊躇はない。

彼我の戦力差の計算や引き際に関しても信頼できる。

事実、立香は人理修復の最中何度もその判断に助けられた。

 

ジャンヌ・オルタにアルトリア・オルタ。どちらも立香にとっては信頼を寄せるに値するサーヴァントなのだが……。

 

「だからあんたは来なくていいのよ、後輩ちゃんを連れていくから。マスターに私、あと後輩ちゃん。完璧な面子ね」

 

「問題大アリだ脳筋女。マシュは今サーヴァントとしての力を発揮できない、忘れていたのか貴様」

 

「それでも足を引っ張らない分、アンタよりは余程マシよ」

 

「何……?」

 

「なによ」

 

この二人、もの凄く仲が悪いのである。

顔を合わせれば直ぐ言い合い。

そのくせお互いがお互いになにかと突っかかる。

もうこれは逆に仲がいいのではと勘繰りたくなる程だ。

 

「キリがない……こうなったらマスターに決めてもらう。異論はないな?」

 

「上等」

 

「へっ?」

 

付き合ってられないとばかりに、しゃがんでこっそり部屋を抜け出そうとしていた立香に突如矛先が向いた。

 

「「というわけで……」」

 

「選べマスター。この突撃女と私、どちらを連れていくのかを」

 

「そうよ、選びなさい。この冷血女と私、どちらを連れていくの?」

 

「え?え~っと……?」

 

何時の間に話が変わったのやら、どちらか一人を選択して連れていくことになっている。

どうしてこの二人はこういう所だけ息が合うのか。

見下ろされた状態の立香は頭を抱えたくなった。

 

「私よね?」

 

ジャンヌが逃がさないと言わんばかりに、立香を挟んで壁に左手をついた。

至近距離で目にした金の瞳にどきりと胸が鳴る。

 

「いいや、私だ。──そうだろう、マスター?」

 

思わず横に逃れようとした立香を、さらにアルトリアが追い詰める。

耳に直接囁くような言葉に背筋がぞくりと震えた。

 

そして塞がれた逃げ道。

ジャンヌが左手、アルトリアが右手を顔の横につき、挟むように追い込まれた立香。

彼女の前に陣取り、早く選べと催促してくる二人。

 

「さあ」

 

「どっち」

 

(た、助けてマシュ!)

 

二つの整った顔にぐいぐいと迫られ、立香はパニックに陥り、心の中で頼れる後輩に助けを求めた。

 

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