ぐだ子と新宿オルタズと異世界特異点   作:さんあめま

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書けるうちはガシガシ書いていきたい所。


2話

人間離れした二つの美貌を前に立香はテンパっていた。

 

(こんな壁ドン嬉しくないってば!)

 

立香に同性愛のケはない。

いかに女の子の理想のシチュエーションだろうが、はっとするほど美しかろうが、女性に言い寄られたところで困ってしまうだけである。

さらに人理修復を経験した歴戦のマスターとしての経験が警告している。

どちらを選んでもロクなことにはならない、と。

どうしたものかと壁に背を張り付けながら思考を回す。

 

(──はっ!そういえばここには頼れる天才がいた!)

 

起死回生の一手。

この部屋に居るもう一人の存在を思いだした立香は、ダヴィンチに視線を投げかけ助けを求める。

立香の視線によるSOSを受けとったダヴィンチは、

 

(了解、任せてくれたまえ)

 

こくりと頷き、

 

「う~ん、喧嘩する程仲がいいとはよく言ったものだね。美しきかな友情。これはもうこのメンバーでレイシフトするしかないようだ」

 

(この裏切りもの!!)

 

火に油を注ぐ言葉。

立香がジト目で睨むも、ぴゅーぴゅーと口笛を吹きながらふい、とそっぽを向かれた。

 

「ちょっと、ダヴィンチ。あんた目が腐ってるんじゃないの?」

 

「不本意だが同感だ。この女と友情などあるわけがないし、喧嘩など発生しようもない。何故なら争いとは同レベルの者の間でしか起こらないからだ」

 

「へえ、アンタにしてはまともな事言うじゃない。当然、私が上ってことよね?」

 

「フッ(鼻で笑う)」

 

「──買ったわ、その喧嘩」

 

「いいだろう、かかってこい」

 

立ち上がり、それぞれの手に邪竜の旗と、黒く染まった聖剣。

自らが敵を撃滅するための獲物が現れた。

双方が向かい合うと同時に漏れ出る、可視化するほど濃密な魔力。

 

まさに一触即発。

凄まじくくだらないことが原因で、カルデアの終末時計が十二時を示そうとしている。

 

振り上げられる凶器。

もう、猶予はない。

 

「はい!先に手を出した方は連れていきません!!」

 

強気の一手。

我慢の限界とばかりに立香が挙手しながら宣言する。

 

ぴたりと静止する二つの武器。

 

「「……」」

 

遅れて発生する無言でのにらみ合い。

 

「ちょっとアンタ、今だけなら一発くらい我慢してあげるけど」

 

「殊勝な心がけだな、単細胞。あまりに短絡的で涙が零れそうだ」

 

「──潰す」

 

「構わんぞ。お前の居残りが決定した瞬間、即座に反撃するが」

 

「ぬぐっ」

 

手にした聖剣を下ろし、余裕の笑みを浮かべるアルトリア。

手にした旗を振り上げたまま怒ったり悔しがったりと百面相をするジャンヌ。

先程よりはどこか弛緩した空気に、ひとまず直近の危機は去ったらしいと立香は息をついた。

 

そして間隙をつくように、すすすと立香の横に寄ってきたダヴィンチが口を開いた。

 

「どうかな立香ちゃん。どちらか一人取り残した場合、カルデアに大惨事が待ち受けていると思うんだ」

 

「うん……」

 

ダヴィンチの言葉に全力で同意する。

立香は二つのパターンを脳内でシミュレートした。

 

アルトリアを連れて行った場合。

イライラを隠しもせず大荒れするジャンヌ。

そして憂さ晴らしに付き合わされ進まないおっきーの原稿。

 

ジャンヌを連れて行った場合。

八つ当たりのように食堂の備蓄を食い荒らすアルトリア。

そして丁寧に作った料理を不味いと一蹴され背中に哀愁を漂わせるエミヤ。

 

どちらの光景も立香にはありありと想像できた。

おっきーの原稿とエミヤの料理人としてのプライドを守るため、これはもう、覚悟を決めるほかないだろう。

 

「わかった。両方連れていく──けどレイシフトの前にマシュの所に寄らせて」

 

「もちろん。構わないさ」

 

 

 

 

 

 

覚悟を決めた険しい表情のまま、オペレータールームに向かう。

扉を開けると、

 

「あ、先輩。レイシフトの準備は完了です、いつでもいけますよ」

 

振り向いた、カルデア制服の上からパーカーを羽織った少女。

薄紫色の髪に、前髪と眼鏡の奥からのぞくアメジストのような瞳。

そこに待っていたのは立香にとっての天使だった。

 

「それで、やはり今回も私はついていくことができないみたいで──ごめんなさい、先ぱ「マシュ~!!」

 

認識した途端、一瞬で顔が緩む立香。

神妙な顔をしてぺこりと頭を下げた後輩に、一も二もなく飛びつく。

勢いのままに両腕でぎゅう、と正面から抱き締めた。

 

「へ?きゃっ、せせせ先輩!?」

 

突然の奇行に可動域の制限された両手をわたわた振り、慌てふためくマシュ。

そんな彼女を他所に立香はたわわな胸元に顔をうずめた。

肺いっぱいにマシュの匂いを取り込む。

薄く柔らかな匂いは疲弊した立香の精神を安定させてくれた。

 

「あ゛~、癒される~」

 

「密着!すごく密着してます先輩!」

 

「よいではないか~」

 

「よくないです、見られてます!先輩!皆さんに見られてますからっ!!」

 

マシュの言葉のとおり、スキンシップにしては少々過激にすぎるその光景を背後から眺める視線が三つ。

 

(いくらなんでもそれでノンケは無理があると思うよ、立香ちゃん)

 

(むう、やはりまだマシュの方が強いか)

 

(後輩ちゃん、やっぱり手強いわね)

 

「あ、先輩!ダメっ!ダメですってば!」

 

 

 

 

「ふー、堪能した」

 

一仕事終えたとばかりに額の汗をぬぐう。

 

「もう……先輩ひどいです」

 

ずれた眼鏡と若干乱れた着衣を整えながら、マシュはジト目で立香を睨んだ。

 

「ごめんごめん、また少しの間会えなくなると思うとつい」

 

「──」

 

少しの寂しさを感じさせる声。

 

マシュの脳裏をよぎったのは、共にのりこえた七つの特異点と、離れた場所で見守ることしか出来なかった三つの亜種特異点。

セイレムでは共に困難に立ち向かったが、今度はまた、立香は手の届かない場所に行ってしまう。

共に向かうジャンヌ・オルタとアルトリア・オルタが少し、羨ましい。

傍に居られない自分と、傍に居られる二人。

ちくりと胸を刺す痛みを、マシュは顔に出さず、

 

「精一杯、サポートしますね」

 

笑顔で立香を送り出す。

 

「──うん、頼りにしてる」

 

立香もまた、笑顔で応えた。

 

 

 

更衣室で身体にぴっちりと張りつく黒と橙を基調とした戦闘服に体を通し、

 

(これを着るのちょっと恥ずかしいんだけど、っと)

 

カルデアスの前に移動。

オペレーター達の見守る中、藤丸立香、ジャンヌ・オルタ、アルトリア・オルタがそれぞれにコフィンに乗り込む。

体調は万全、気合い十分、覚悟も決まった。

準備は完了。

あとはレイシフトの瞬間を待つだけだ。

 

「仮のポイントは比較的簡単にレイシフトできる場所、1800年代のロンドンに設定しておいたよ。けれど実際は何処に向かうかわからない。いきなり水中や土の中ってことはない筈だけど」

 

「空の上なら何度かあったね、ふふふ」

 

「ああっ、先輩のメンタル値が低下していきます!?」

 

「おっと藪蛇だったかな。おおよその注意点は先程説明したとおり。リソースを削る必要があった時、我々は何よりも君の存在証明を優先する。場合によっては通信が一時的に通じなくなるかもしれないが──まあ、いつものことだね」

 

「うん、わかってる」

 

不足の事態なんてものは日常茶飯事。

レイシフト中にカルデアとの通信が途絶したのも一度や二度のことじゃない。

予測不能の事態が起きた上で、手持ちの情報を元に、どう判断し、どう行動するのか。

何度もやってきたことだ。困難に立ち向かうことだけには、自信がある。

 

立香の落ち着いた様を見て、ダヴィンチが優しく笑う。

 

(本当に、随分と頼もしくなったものだね)

 

「ならば良し。それじゃあ早速行こうか!実証開始!」

 

その言葉とともに立香の身体は霊子と化した。

 

 

 

 

 

内部が未確定となったコフィンの前でオペレーター達によって次々と状況報告がなされる。

そのうちの一つ、

 

「レイシフト先の座標がリアルタイムで変更されています!」

 

待っていた情報にダヴィンチが食い付く。

 

「おっと早速来たか。どれどれこの座標は、っと──」

 

そして羅列された数字に目を通した後、お手上げとばかりに額に手をやった。

 

「────参ったなこれは」

 

「せ、先輩は何処に向かったのでしょうか、ダヴィンチちゃん」

 

ダヴィンチの様子にマシュが思わず追求する。

彼女の見ているデータ、藤丸立香のバイタルデータは変わらず正常な数値を吐き出している。

少なくとも、直接危機的状況にあるわけではない。

 

「う~~ん。まだ確証が持てないことが多いけど、とりあえず。わかっていることが一つだけ」

 

額に当てていた手を離し人差し指を立てて、マシュにデータから導き出された、その結論を話す。

 

「彼女達が向かったのは、地球上には存在しない場所だ」

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