【#コンパス】とりあえず、卑怯に行こうか 作:ねむりたいねこ
・バトルに乗り気ではない13
・スプリンターがキルされる
・スプリンターとガンナーが戦闘継続できなそう
アタッカーモードの13は、Eポータルを踏んで広げながら、戦況を確認する。
現状の手持ちポータルは、赤チーム一陣のEポータルと二陣のDポータル。範囲は現在踏んでいる
もう少しで溜まるHSを確認してから、13は小さくつぶやく。
「いつでも殺せるタンクは無視で良いな。スプは……放置か? 俺は放置は嫌いなんだよなァ」
ゲームの放棄を意味する【放置】、そして、【タスクキル】。煽りは13自身がする側であるためあまり強くは言わないが、少なくとも前者二つに関しては、唾棄すべき行為だと思っていた。
熱くなった思考をごまかすように、13は乾いた笑い声をあげ、自身に言い聞かすように言葉を紡ぐ。
「……嫌だねぇ、マジになっちゃって……。やっぱぶっ殺すか」
凶悪に笑む13。その次の瞬間、ブザーが鳴り響き、崩れ落ちていた地面が復活する。
ところ変わり、青チームでは、戦闘の現実を知って恐怖に包まれつつあるガンナーと、Nカードデッキのせいで回復ひとつできないタンクがAポータルでHSを貯めていた。
「ガンナー、落ち着いて。試合は3分間で、もう1分経過してる。一応3陣持ってるから、逃げ続けても勝てる。あっちはアタッカーモードになってるから、間合いにさえ入らなければ、攻撃は喰らわないはずだ」
「うるせえ! 俺はもうゲームを降りる!」
励ますタンクの言葉を遮るように、ガンナーは怒鳴る。
目の前で人間がポリゴンと化して消えたのだ。その光景に恐怖を覚えるなというのか。そんなの無理に決まっている。そんな彼に、秋葉は、そっと目を伏せる。
「……わかった。無理しないで、Aポータルを守ってほしい。」
そう言って、ほとんど残っていないHPのまま、復活した地面の方へ走り出す。
Cポータルへ移動すれば、13はDポータルを踏み、自陣を広げているところだった。
__裏取り対策……? それにしては、Eポータルは全然広がっていない……
困惑する秋葉をよそに、13は笑って宣言する。
「__二丁拳銃ってリロードどうすんだ?」
「……えっ???」
空高く飛びあがり、真っ赤な鎌から二丁拳銃へと持ち替える13。あまりにも唐突なヒーロースキル【堕天変貌】を発動させた13に、秋葉の口から驚きの声が漏れる。
「何で……ヒーロースキルが溜まるのが、早すぎる……!」
「うん? ああ、お前、回復カード切らなかった感じ? 舐めプでもしてんのか?」
二丁拳銃に持ち替えた13は、そう言って銃口を茫然としている秋葉に向ける。ひりつく殺意を感じ取った秋葉は、即座にCポータルの裏へと逃げ出し、頭をフル回転させる。
確かに、13のヒーロースキルの溜まる速度は、他のヒーローよりもかなり速い。それでも、ここまですぐに溜まるはずではない。その原因に、秋葉はようやく気が付いた。
「まさか、ヒーローメダル……?」
「お、正解。俺様のメダルは『ヒーロースキルゲージの増加量アップ』+9だ。同色でそろえるの、結構めんどかったのよ?」
からかうように言う13。その台詞に、秋葉は表情が引きつる。
13のヒーロースキル【堕天変貌】は、ロールの変更のほか、使用するとHPの60%回復と攻撃、防御、移動速度にバフがかかる。ただでさえノーマルデッキでステータスが低く、耐久の無い秋葉にしてみれば、最悪の敵である。
先ほどと同じように、ポータルを盾にして13の攻撃から逃げようとした秋葉に、13は【マジスク】を利用して移動速度を遅くする。
「じゃあな。」
禍々しい笑顔で、13は二丁拳銃の引き金を引く。
体力がほとんど残っていなかった秋葉は、その一撃に耐えきることができず、ポリゴンに変わり、砕け散った。目を見開き、恐怖の感情をにじませた彼のいた場所に、13はゲラゲラと下卑た笑い声を上げながら宣言する。
「はい残念、ボクちゃんの勝ち!」
砕け散った肉体が、青色のエリアで再構築される。
同時に、己の胸を貫いた弾丸の痛みを思い出し、秋葉は口元に手を当てた。吐き気すら催すような、恐怖だった。
確かにあの時、秋葉は死んだ。マジスクの行動速度低下の影響でバリアを発動させる暇もなく、13の通常攻撃が突き刺さった。その時の恐怖を、言葉にすることが、できない。
足が、震える。体が、動かない。先ほどまであんなに軽々と持てていたハンマーが、酷く重く感じられた。
隣で震えているスプリンターは、三角座りのまま、がくがくと体を震えさせている。その感情が、死んでようやく理解できた。
立ち上がることさえ恐怖を覚える、疑似的な死。長く寝たきりの生活を送っていた秋葉にさえ理解できた、あまりにも生々しい『死』を前に、一般人はまず、立ち上がることはできないのだ。
動けず、立ち尽くす彼。
それでも、戦況は動く。
タンクを屠った13は、一旦自陣2陣に戻ると、ヒーロースキルを貯める。もはや誰も前線に出る気配がなく、ガンナーは震えてAポータルに居残っているばかりだ。
そんな状況の中、メダルの効果もあってあっという間にスキルゲージを貯めた13が、心底楽しそうに言葉を紡ぐ。
「__よっ、俺はいつでもいけるぜ。」
そして、死神は、Cポータルを通り抜けて、Aポータルへと移動する。
悲鳴を上げるガンナー。もはや、彼に戦闘継続の意思はない。
それでも、死神は、慈悲を与えることなどないのだ。
「何? 全員放置しちゃう感じ?」
不愉快そうに表情を歪め、死神はAポータルにやって来た。
慌ててリスポーン地点の方へと逃げ出すガンナー。明け渡されたAポータル。もはや戦うことのできない彼等ならば、反撃を気にすることなくポータルを強奪することなど容易だっただろう。
……しかし、13はポータルを無視して、逃げ腰のガンナーの方へと歩み寄る。
にっこりと笑った13は、攻撃さえしてこないガンナーに向かって言う。
「おいおい、僕ちゃんを使ってる転移者って聞いてたのに、戦う気すらねえのか? そいつはねえんじゃねえの?」
「ひ、ひぃっ……!」
怯えきったガンナーは、13の煽りの言葉に反応を返すことさえできない。
そんなガンナーに飽きたのか、13は二丁拳銃の銃口を彼に向ける。
「__!」
反射的にガンナーはガードカードを発動させる。そんな彼を13は鼻で笑うと、カードを使用した。
「ハッ! 隙だらけだ」
「ひっ……!」
砕け散るガード。九割方消し飛んだHP。
使用されたカードは『カノーネ』。ガードを破壊し、相手に大ダメージを与えるカードだ。
あと一撃でも喰らえば、ガンナーはリスポーンする。しかし、攻撃で転倒し地面で這いつくばっているガンナー相手に、13は攻撃せず、むしろ視線を合わせるようにしゃがみ込み、笑ったまま言う。
「もっと頑張れるよな、な? お前がガブリエル持ってるところ見えてたし、回復、できるだろ? HS使ってもいいぜ? 6割は回復できるもんな?」
そう言って、ガンナーを拳銃で小突く。
その姿を見て、秋葉は、己の心臓が、強く動くのを感じた。
__ああ、リスポーン地点には、敵ヒーローが上がってくることはできない。ここは、安全圏なのだ。
それでも。__それでも!
ぐ、と、ハンマーを握る。
そして、強く、ハンマーの柄を己の頭に打ち付けた。
ご、と、鈍い音が響く。
ガンナーを煽るのに忙しかった13は、音こそ聞いたものの、その音がどこからなったのかまでは、気が付かなかった。
__せっかく動けるようになったのに。何で、僕は動かなかった!! そんなの、恰好が悪すぎる!
己に対する怒りで、不甲斐ない己に対する憎しみで、秋葉は、立ち上がる。
病院では明日の命さえわからないような絶望に震える人がたくさんいて、そんな中でも強く生きている人がいて、『動けないだけで済んでいた』僕は、そんな人たちに助けられた。
助けを求めている人がいる。恐怖にふるえている人がいる。__今の己には、そんな人たちを助けられる体がある!
泣くな。逃げるな。絶望するな!
「僕は__!」
小さな小さな英雄願望。それが、彼の心を突き動かし、前に動く動力を、与えた。
青色の安全圏から踏み出し、タンクのマークの刻印が記された右腕に手を添える。
みんなを守るタンク。そんなヒーローを体現したような、『ジャスティス ハンコック』。誰を救うどころか、自分さえ救えなかった己が、ゲームの中では味方を守ることができた。その経験が、どれだけ鮮烈だったことか!
誰かを守れる人になりたいなら、今、前に進まなければならない!
「僕は、戦える……!」
自陣から飛び降り、2枚のカードを切る。
「【武器商人 エンフィールド】、【血濡れチェーンソウ】!」
「どわっ!?」
折れてしまいそうなほどに細い体に、力が宿る。
武器商人 エンフィールドの効果で、攻撃力にバフがかかった状態で振り抜かれた、小ダメージ近距離攻撃。まったくもって反撃を予知していなかった13は、間の抜けた悲鳴を上げて、吹っ飛ばされた。
まだ、恐怖からは逃げられない。色白の白くて細い体は、まだ震えている。
それでも、それでも!
彼は、己の恐怖を振り切るように、逃げ出したくなる本能をかなぐり捨てるように、あこがれるヒーローの言葉を口ずさむ。
「安心して、僕が守る!」
【武器商人 エンフィールド】(N)
自分の攻撃力を12秒間中アップ
【血濡れチェーンソウ】(N)
前方の敵に小ダメージ