【#コンパス】とりあえず、卑怯に行こうか 作:ねむりたいねこ
・サーティーン戦
・何度も立ち上がる秋葉の姿を見て、ガンナーがギリギリで自陣を守る
・青チームの勝利
翌日、アズと一緒の部屋に泊まった私は、すさまじいノックの音とインターホンを連打する音に叩き起こされた。
「何、うるさい……」
「マジでアンタ何でそんなに油断できてるのよ……」
今だ眠気でベッドの上をゴロゴロしている私に、いつの間にか刀を構えていたアズが呆れたように言う。いや、物騒だね???
明らかに殺意あるアズをよそに、私はとりあえず、大あくびを噛み殺しながらモニター付きインターホンを確認する。
「はいどちらs」
『朝比奈ぁぁぁぁぁああ!!』
インターホンのマイクどころかドアを貫通して響き渡る絶叫。そして、モニターいっぱいにうつったのは、生まれたままの姿をさらす忠臣。思わず、私は馬鹿みたいな声を上げていた。
「へ、変態だぁぁぁあああ!!」
「二人とも、うるさいわよ!!!」
かなりご近所迷惑な三人分の大声があたりに響く。
恐れるものなど皆無そうな恰好をした忠臣は、『変態』の言葉でこっちが何かを理解してくれたと思ったのか、ひきつった声を上げる。
『話が早い、さっさと扉を開けろ!!』
「開けるわけないでしょ??」
構えていた刀を下げてあきれたように言うアズ。もはや警戒する理由もないと判断したのだろう。
やけに焦ったような様子の忠臣に、私もつられてパニックになりかける。が、存外冷静なアズは眠たい目をこすりながら、追加で質問をする。
「とりあえず、二つ質問がある。一つ、朝っぱらから何があったの? もう一つ、何で全裸なの?」
『全裸……? いや、ふんどしは身につけているが』
「帰ってくれる??? できれば土に」
「一つ目の質問の内容次第にしてあげてよ」
刀を構えばっさりと言い捨てるアズに、私は思わずそう言う。このあたりで、大分忠臣も冷静になって来たのか、インターホンにカメラが付いていることに気が付き、慌てだす。
『ま、不味い、朝比奈はともかく、もう一人は婦女子だったな。我の体はともかく、奴はマズい!』
「私はともかくって何? 喧嘩売ってる??」
流石に不本意だった私は、表情を引きつらせて忠臣に言い返す。
緑がかった黒髪を整える暇もなかったのか、若干寝ぐせのある忠臣は、少し考えた後、短く言う。
『とりあえず、部屋に入れろ。話はそれからだ』
「まず服を着てから出直してもらえるかしら。話はそれからなのよね」
『そんなことをしている暇があるように見えるのか?』
「大抵人の部屋を訪ねる時はそうしてからくるものなのよ!!」
額に青筋を浮かべたアズが、忠臣の要求に対して言い返す。
そうこうしているうちに、周囲の騒音に気が付いたらしい向かいの部屋が扉を開ける。出てきたのは、寝ぼけたままのサーティーンだった。
『何だよ、朝っぱらからうるせえな……うわっ?!』
『お、13! 貴様に我を匿う名誉をくれてやろう!』
『近寄んな、金とるぞ!!』
全力で扉を閉めようとする13よりも先に忠臣がドアに足を挟む。素足だったようで普通にダメージボイスが聞こえてきていた。なんだか酷いことになってないか?
そんな混沌とした状況の中、ずいぶん遠くから、聞き覚えのある声が、まるで地の底から這うように聞こえてきた。
『目覚めるなりワテクシに近距離カードを使用してきたバットチェリーパイは、どこに居るのかしらー?』
『ぬっ……! 眠っている我の部屋に無断で侵入したのは、どこのどいつだ!! しかも、我の布団に忍び込みおって……!』
怒鳴り返す忠臣。
聞こえてきた声に、13は思い出したようにカードを切る。
『ハッ、隙だらけだ!』
『ええい、貴様のステータスならギリギリ耐久出来るわ、たわけが!』
「マジかよ総帥、気合いでフルークの吹っ飛ばし耐えやがった」
「そんなことできるの?」
私の心からの感想に、アズは心底あきれたようにつぶやく。
アタッカーにしては耐久のあるステータスの忠臣に、13はひきつった声を上げる。
『畜生、【シールドブレイカー】使っておくべきだった!! つーか、いい加減ドアから手ェ放せ! 壊れるだろ!』
『我を匿う名誉をくれてやると言っているだろうが!』
『馬鹿みたいに上から目線だな?! 友達いないだろ?!』
『少なくとも盟友はいるぞ!!』
馬鹿みたいな喧嘩をする二人。哀れなのは、彼ら二人のほぼ全力の引っ張り合いに巻き込まれている玄関ドアである。君ら、攻撃ステータス高めなのだから、ちょっとは手加減してあげたら?
そんなことをしている間に、地の底を這うような声が、近づいてくる。
『バットチェリーパーイ……!』
『ええい、こうなれば、貴様も巻き添えだ!』
『俺様はマジで関係ないだろ!!』
叫ぶ13。しかし、そんな彼も、廊下を見た次の瞬間、間の抜けた悲鳴を上げた。
『ワン、トゥ、オラァァア!!』
すっ飛んできた沈黙効果の遠距離攻撃が、外開きの扉をぶっ飛ばす。サイレントがかかるギリギリで【ガブリエル】を使用できたらしい忠臣は、何とか耐久に成功する。
しかし、声の主……ポロロッチョのヒーローアクションを、忘れてはいけない。
『__ベイビー、まるでチェリーパイね?』
『ぐっ……!』
突然背後から現れたポロロッチョ。そう、ポロロッチョのHAの背後転移攻撃だ。ターゲットマークの付いた忠臣は、数秒間ノーダメージでポロロッチョから逃げ切るかキルをされるかしない限り、このターゲットマークが消えることはない。
そして、カードクールタイム速度+9のメダル効果は、先ほどのサイレント攻撃で無意味になった。……いやもう、こんな戦術的なあれこれは何もなかったことにしていいだろう。少なくともそれ以上に衝撃的なことを私は目撃してしまった。
「うわ、全裸ァァア!」
「ま、眩しくてよく見えないけど裸なのはわかった!!」
__そう、忠臣を追いかけていたのは、ヘアセットとお化粧は完璧に済んだ状態の、ポロロッチョだったのだ。
数分後、あまりのうるささにガードロボを伴ってやって来たvoidollにキレられ、ほぼ全裸二人が廊下に正座をさせられるという地獄のような状況が2,3時間続き、ようやく事情聴取から解放された私とアズは、とりあえず玄関を大破させてしまったお向かいさんに謝罪をしに行くことにした。
少なくとも、お向かいさんの住人は13であることは分かっている。誰かの仲間になっているのなら、同室の人もいるかもしれないが。
壊れたドアがぶら下がる玄関横のインターホンを押し、家主が出てくるのを待つ。
部屋の奥から「はーい」という返事とともにやって来たのは、13ではなく色白の少年だった。
「えっと、どちら様ですか?」
「すみません、向かいの住人です。今朝は本当にすみませんでした。」
頭を下げて謝罪するアズ。つられて頭を下げる私に、向かいの少年は、困ったように笑って言う。
「僕は特に何もなかったので、大丈夫ですよ。サーティーンはまだvoidollとやり取りをしているみたいで帰ってきていませんが……」
「あとで彼にも謝罪します。あのアホ総帥が何かほかに壊したものとかありますか?」
丁寧な対応をするアズに、私は思わず尊敬の念を隠し切れず、口元に手を当てる。
私の方を見てもいなかったはずのアズは、ノールックで私の脛を蹴って来た。マジか痛い!!
そんな私たちのくだらないやり取りを見て、色白の少年はあいまいに微笑んで言う。
「えっと、特には無いはずですね。あと、その、勘違いだったら申し訳ないのですが……」
「どうしました?」
「もしかしてなのですが、asさんと、ミツルさんですか?」
その質問に、私は思わず目を丸くする。
「え、何で名前を?」
「えっと、僕は『眠り羊』です。」
こうして、私たちは、いつものゲーム友達と再会したのだった。
「……ふう」
ため息をつき歩くのは、巨大なタンクを背負った男。戦場ではないため、排気口から毒が漏れることはないが、腕に巻き付いたチューブには紫色の靄がうごめいていた。
……多くのヒーローは、勝者のうち一人を選んで仲間となることを選んだ。しかし、このタンクは、チュートリアルをスキップした人間どころかきちんとチュートリアルを受けたプレイヤーまでもを殴殺し、全ての試合で勝利を収めてしまったため、単独行動をしていたのだ。
__まだ、絶望が足りない。
一足先にバグの処理を行い始めたそのヒーローは、機材のメンテナンスを行うために、自室へと向かう。
ふと、彼の脳裏に、同名相手の顔が思い浮かぶ。
彼ならきっと、己と同じように向かい来る敵をなぎ倒し、仲間を作らずにいるかもしれない。
バグの対処は己一人でもどうにかならないわけではないが、人数は多いに越したことはない。ついでに、タイマンに強い彼と、範囲攻撃が得意な己となら、効率よく敵を排除できるだろう。
そう思った彼は、少しだけ軽い足取りで廊下を進む。
「む?」
ふと、己の視界の端に、言い争うvoidollと13の姿が映る。
「ふざけんなよ、マジで何なんだよあの総帥は!!」
「ソレハ 私ノ せりふ デスガ……トモカク、賠償金二1億BMヲ オ渡シスルコトハ デキマセン」
「けちけちすんなよ、それくらいいいだろ?」
総帥。己の同名相手の渾名でもあるその名前を聞いたヒーローは、思わず二人に問いかける。
「忠臣がどうかしたのか?」
「お……? ああ、グスタフか。お前の同盟相手、どうなってんだよ。朝っぱらから俺の部屋のドアをぶっ壊していきやがって!」
「……何かお前がいらないことをしたのではないのか?」
「俺は悪くねえ!」
朝から戦いっぱなしだったヒーロー……グスタフは、まるで状況がつかめずに首を傾げる。目の前の13は苛立った様子で額に青筋を浮かべており、手には包帯がまかれている。
とりあえず、何かあったのだろう。何があったのかはわからないが。
だがしかし、わかることはある。
「忠臣の居場所を知っているか?」
「……うん? お前さん、廊下通ってたなら、見たんじゃねえの?」
「すれ違ったか?」
「いや、違う。ほら、あそこ」
そうやって13は、先ほどグスタフが通り過ぎた道を指さす。そこにいたのは、ふんどし一枚で『私は朝から大きな音を立てた上に器物を破損しました』という札を首から下げて正座をしている誰かの姿。
隣には、忠臣が首に下げている札__こっちの札には『私は忠臣の居室に不法侵入した上に器物を破損しました』と書かれている__で光り輝く股間部分を隠したポロロッチョが同じく正座をしている。なお、彼(彼女)は一糸まとわぬ姿である。
……なにも見なかったふりをしたが、一度認識してしまうと、理解せざるを得なかった。
「……この世は絶望に満ちているな」
「本当二、 ソウデスネ」
訳の分からない状況に、グスタフは頭を抱えてつぶやいた。voidollは大きく首を縦に振って、彼の独白を肯定した。
【恐れるものなど皆無そうな恰好】
あのコスチュームを作った運営は、最高に阿呆だと思う(誉め言葉)