【#コンパス】とりあえず、卑怯に行こうか 作:ねむりたいねこ
「よっしゃ、勝ったぁぁぁぁああ!」
「うるさいわよ、ミツル。HS切りミスった戦犯は黙って勝ちを喜んでくれる?」
「容赦ない!」
私、
ようやくS3の大台に乗りあがることができ、固定を組んでくれたギルドメンバーにお礼を言っていると、私の使用キャラのデビルミント鬼龍デルミンが迎えてくれる……わけでもなく、唐突にスマホの画面が切り替わった。
真っ暗な画面に、赤の文字列。びっしりと並んだそれは恐怖の一言でしかなかった。
さらに、スピーカーがいかれたのか、エントランスBGMのダンスロボットダンスにノイズや金属のこすれあうような気味の悪い音が交じる。
「え? え? なに?バグった?」
せっかくS3までいったというのに、スマホが損傷したの?
そう思った私は、ホームボタンを連打するが、一向に反応は帰ってこない。文字化けした赤文字が少しずつスクロールしていくだけだ。しかも、BGMも音量を変えていないにもかかわらず鼓膜を揺さぶるような爆音に変貌していっている。
「ミツル、どうしたの?」
「い、いや、スマホがバグって……!」
「わ、私のも……っ?!」
次の瞬間。
私たちの意識は消し飛んだ。
気が付くと、私たちは緑色の線が大量に走った固い床の上で寝転んでいた。
意味が分からなくて床に手をついて体を起こす。床は大理石のようにひんやりとしているが、触り心地がどう考えても石ではない。緑色の線も相まって、本当に謎素材だ。不思議と固い何かの上で寝転がっていたのに、体に痛みはない。
あたりを見回してみると、私たちと同じように床に座り込んだり、寝転がったままの人たちがざっと百人ほどはいた。
意味が分からず茫然としていると、突然、声が聞こえてきた。
「カピカピッ?! ナニゴトデスカ?!」
そこにいたのは、流線型の白いボディに青い光がぼんやりとともるロボット……私は、彼女(?)をよく知っている。
「voidoll……本物?」
そばにいた誰かがそう呟く。
そう。あれは、どこからどう見ても……それこそ、声も、#コンパスに出てくるスプリンターのvoidollなのだ。
私たちは突然虚空から出現したvoidollに困惑を隠しきれない。
「システムチェック__カピピッ?! ウィルス発見?! サーバーシステムガ占拠状態!」
目元のディスプレイを丸くして、voidollは驚きを表現する。
……ちょっと待って、『ウィルス』?
voidollは、自身の正面にいくつかのディスプレイを表示し、確認していく。
「30% 80% 99%……確認完了。オマタセイタシマシタ。現在ノ 状況ヲ 説明サセテイタダキマス。」
そう言うと、voidollは説明を始めた。
カタカナだと読みにくいため、要点をまとめると、以下のようになる。
・#コンパス内部で、重大なバグが発生した。
・バグによってプレイヤーが無理やり#コンパスの世界に転移させられてしまった。
・帰還方法は存在しているが、バグがメインシステムを占拠している現状だと、危険すぎて行使できない。
・バグを一掃したあかつきには、即座に現実世界に返すことを約束する。
・ついでに、バグ退治を手伝ってくれれば、給料をBMで支払い、現実世界帰還時に日本円に変換して支払う。
だそうだ。二番目の時点で「は?」となったが、これ以上考えても意味はないだろう。とりあえず、私は手を上げてvoidollに質問する。
「現時点で何人くらいのプレイヤーがここに来たのですか?」
「S1らんくカラノいべんと二サンカシテイタ プレイヤーノミガ転移サセラレタノデ、1324ニンデス。」
「あ、あんまりいないのね。」
「エエ。転移命令ガクダサレタトキニ ログインシテイタ人数デスノデ。」
私の今のランクはS3のなりたて。ちょうどバトルアリーナで遊んでいたところだったため、バグに巻き込まれたということになる。……あ、一緒にプレイしていたフレンドもどこかにいるってこと?
私のメイン使用キャラクターはデルミン……デビルミント鬼龍か、ポロロッチョだ。ようするに、基本的にはアタッカーしか使わない。ただ、長距離攻撃がうまく使えないため、マリアや忠臣は使っていない。「セェン」が当たらないのだよな……
悪友、もとい親友のアズは13をメインに、ルチアーノ、リリカを気分で使うガンナーだ。一度ふざけてタイマンをしたことがあったが、彼女はめちゃくちゃ長距離攻撃を当てるのがうまい。何度オシオキ狙撃で殺されたことか。次は絶対キルする。
フレンドは、リアルではあったことはないけれども、ジャスティス使いのタンカーだ。一度だけジャンヌを使っていたことがあったが、ガチキルジャンヌ編成でアタッカーのようなことをしていた。あれは本気ですごかったなぁ。敵グスタフや敵ジャスティスがゴルフボールの如く打ち飛ばされてナタデココに変わっていく……一種の趣さえ覚えた。だが、本人曰く火力が低くて使いにくいとのことで、すぐにジャスティスに戻った。要するに、彼は技術派キルタンクなのだ。
「いるかな、『眠り羊』くん。」
私のプレイヤーネームは変えるのが面倒だったためミツルのままだ。よく男と間違われる。親友のアズはas。そのまんまじゃないか。取り合えず、周囲を見回してみるが、親友らしき人は見当たらない。
そうこうしている間に、しばらくパラパラと質疑応答が続き、voidollはそれらに答えていく。
Q,現実世界ではどういう状況になっているの?
A、肉体ごと引きずり込まれたため、行方不明となっている。
Q、仕事があるから今すぐに帰りたい。
A、ウィルスにデータを消去……つまり、殺される可能性があるため、やめておいた方がいい。オンライン環境は確保できるため、外部と連絡を取ることはできる。
Q、どれくらいで家に帰れるの?
A、未定。
Q、食事はどうすればいい?
A、こちらで提供します。トイレ、風呂もある上に、希望するなら服も提供する。ただ、高級品はBMと交換とする。
Q、1BMは日本円でいくらに換算する?
A、1BM=1円とする。
Q、ウィルスを一体倒すごとにどれくらいのBMがもらえる?
A、ウィルスは三段階評価……弱いほうから1、2、3と分け、1は十万BM、2は百万BM、3は状況に応じて値段交渉とする。正直、3はプレイヤーには倒せないものだと判断していい。
「ウィルスト 闘ッテクダサルカタハ、チュートリアルヲ受ケルコトガデキマス。モチロン、戦ワナイトイウカタハ コチラノ扉ヲトオッテイタダクコトデ 宿泊施設ニ案内サセテイタダキマス。」
voidollは、そう言うと右手(?)を動かし、ポリゴンのようなエフェクトとともに、扉を作成する。小さな歓声が沸き起こり、数人がその扉へと向かう。
そんなとき、誰かが口を挟んだ。
「え、チュートリアルって絶対に受けなきゃいけないのか? #コンパスはずいぶんやって来たし、面倒なんだが。」
「ああ、確かに、チュートリアルで時間かけているよりはBM稼ぎたいな。」
そう言う彼らに対し、voidollは少しだけ思考した後、返答する。
「デシタラ、ヒーローヲ仲間ニスルタメニ、一度バトルアリーナ二移ッテイタダク必要ガアリマス。彼等ニモ性格ガアルタメ、確実二仲間二ナルカハ保証デキマセンガ、ウィルスト戦ウ前二経験ヲ積ンデイタダキマス。コチラノ扉ヲ通ッテクダサイ。__アマリ、オススメハシマセンガ。」
voidollがそう言うと、何人かの人々が出現した扉の前に集まった。チュートリアルを飛ばそうと考える人々だろう。
私は正直にチュートリアルをうけようと思っているため、その場に残ろうとする。
が、現実は非情であった。
ガコン!
ガガガガガガガガガガガガ!
「うわっ!?」
金属の擦り切れるような大音量が響き渡る。私は思わず声を上げてしまった。
慌てて音のもとを見てみると、そこには、黒いポリゴンのような何かがいた。
『ギ、ガ、譏斐???√≠繧九→縺薙m縺ォ縺翫§縺?&繧薙→縺翫?縺ゅ&繧薙′荳九j縺セ縺励◆縲』
「……!」
耳をつんざくような、いびつな音声。背筋を震わせるような気持の悪い音に、私は思わず耳をふさぐ。
周囲にいた人たちは、慌ててその奇妙な存在から離れようと駆け出すが、思いっきりあの音を聞いてしまった私は、動くこともできなかった。
「重大ナバクヲ発見。排除シマス。」
その宣告とともに、voidollの雰囲気が一変した。
ピリピリと近づきがたい雰囲気を惑わすvoidoll。
その瞬間、広大域に緑色のエリアが敷かれた。
「3,2,1,ゴー!」
直後、私の体が吹き飛んだ。