【#コンパス】とりあえず、卑怯に行こうか 作:ねむりたいねこ
気が付くと潮の匂いのする場所に立っていた。
まぶしい日差しが全身に降り注ぎ、さざめく波の音が耳を撫でる。
私は、ここを知っている。だが、来たことがあるわけではない。
「嘘だろ……」
私の頬を、汗が伝う。暑いからじゃあない。冷や汗だ。
ここは、チュートリアルの場所ではない。
私は、ちゅら海リゾートの青色リスポーン地点に立っていた。
どうやら、私のチュートリアルは文字通り吹っ飛んだらしい。
戦々恐々としながら回りを見ると、私以外に二人の男性がいた。
一人はおもちゃの銃を持ち、どこぞのニートのようにパーカーを着た男性。
もう一人は、紺色の着物に刀を持った男性。銃刀法違反もいいところじゃない?
見た目的に
彼らは、ここにこれたことに驚きと喜びを感じているのか、あたりをきょろきょろと見回していた。
「あのー」
私が彼らに声をかけると、二人はこちらを見て、きょとんとした表情をした。
おもちゃのような銃を持った男が、眉をひそめて私に言う。
「お前、何だ? アタッカーかなにかか?」
「……What?」
意味が分からず、私は思わず質問する。
「えーっと、役職って、どうやって判断するのですか?」
そう質問した私に、おもちゃの銃を持った男が、呆れたように言う。
「何だ、お前、ガードロボの話を聞いていなかったのかよ。右手の手の甲見ろよ。マークがあるだろ? っていうか、自分で決めた役職ぐらい覚えておけよ。」
私は慌てて両手の甲を見る。そうすれば、右手の甲に靴のマークが印されていた。
「スプリンターか……思いっきり苦手な奴引いた……!」
最悪だ。私は、とにかくスプリンターのロールが苦手だ。スプリンターをするくらいなら
私の反応に、刀を持った男が、眉をひそめて不快感をあらわにしながら質問する。
「……お前、カードはセットしただろうな?」
「し、仕方があるのですか?」
思わず私がそう聞くと、二人は明らかに面倒くさそうな表情をした。
「あるっての! ガードロボが説明してたろ!」
「あー、めんどくせー。思いっきり地雷じゃん。」
二人はそう怒鳴ると、そっぽを向く。
どうすればいいかもわからず、とりあえず左手でそのスプリンターのマークに触れる。すると、目の前にいきなりカードが四枚、透明な板に張り付けられた状態で、ばっと現れた。
「うわっ!」
あまりに唐突な現れ方に、私は思わず声を上げる。
セットされていたのは、『手持ち花火』と『チェーンソウ』、『ドリームステッキ』『武器商人』のオールノーマルだった。チュートリアルのデッキそのままか。
カードに恐る恐る触れてみると、『変更しますか?』という文字が浮かび上がる。私は、ためらうこともなく「はい」の文字をタップした。いつも使っていたカードが使えるのかな?
そうすると、目の前にカードの一覧が現れた。どうやら、私の手に入れたカードではないらしく、コラボカードを除いた全カードが表示されていた。空駆け……まあ、持っていなかったけれどもさ。
とりあえず、役職の変更ができないかを考えるも、やり方が全く分からない。
だったら、とりあえずカードの変更だけしてしまおう。
そう判断した私は、適当にカードをスクロールする。『ガブリエル』、『全天』『秘めたる』……
そこまで変えたところで、私は一瞬戸惑った。
スプリンターって、何を使えばいいのだろう? いつもならフルークを積んで攻撃力を増すところだけれども……。とりあえず、属性変化のためにできれば赤色カードが欲しい。
そんなことを考えていると、電子音が聞こえてきた。
『バトル開始まで、あと十秒』
「うそん、ど、どうしよう!」
パニックになりかけ、私は慌てて指を滑らせる。そして、あるカードが目についた。
それは、URの赤色カードだった。だが、持っていなかったうえに、いつも使っていたロール的にも触れたことのないカードだった。
だが、もう時間がない。とりあえず、これでいいか!
適当にカードをそろえ、私は慌てて前に向き直る。あわただしく準備をする私に対し、男性二人はすでに悠々と武器を構え、前を見ていた。
私も、緊張を抑えるために軽く息を吐きだして、ダサい体操服の胸を抑える。……まな板と言ったのはどこのどいつだ!
バトル開始5秒前といったところで、ちゅらうみリゾートに設置されたスピーカーから、突然、BGMが流れてきた。
聞き覚えが無いわけではない。むしろ、何度も聞いたことがある。
これは……
「『残響』……敵は桜華忠臣か。ルチアーノがよかったな……」
「やりぃ、俺の使用率ナンバーワンのキャラが選ばれた!」
そう喜ぶのは、刀を持った男性。ああ、なるほどね、だから刀なのか。
『バトルの開始です』
無機質な電子音声とともに、バトルの開始が宣言される。
私には、不安しか残っていなかった。