【#コンパス】とりあえず、卑怯に行こうか 作:ねむりたいねこ
・チュートリアルがすっ飛ばされた上に、ちゅら海リゾートにいた。
・自陣編成はガンナー、アタッカー、スプリンター
・敵陣編成は桜華忠臣一人
『バトルの開始です』
無機質な電子音声とともに、バトルの開始が宣言される。が、私は走り出すことができなかった。
「……え? リスポーン地点から地面って、案外高くない?」
「おいコラ、スプリンター! さっさとCを目指せよ!」
怒鳴り声がしたから聞こえてくるが、リスポーン地点の高さはおおよそ2メートルはある。コンパスヒーローたちのようにあんなにも簡単にジャンプして飛び降りることなど、無理なものは無理だ。『どこでも行けるドア』を入れておけばよかったと後悔しつつ、私はゆっくりとリスポーン地点から降りて、全力でCポータルへ向かおう……と思ったその次の瞬間。
「さあ、我を恐れよ!」
『Cを奪われました』
響き渡る男性の声と、電子音声。ちゅら海リゾートでは、リスポーン地点のすぐ側であるここからだとBポータルの段差で見えることはないが、Cエリアが敵……桜華忠臣によって回収されてしまったらしい。
こんな放送を聞いたガンナーの男は、額に青筋を浮かべて私に怒鳴る。
「奪われちまったじゃねえか、スプリンター!」
「え?! いや、忠臣ってそんなに足が速かったっけ?!」
「ちげえよ、ドアだ!」
同色オール足3忠臣か何か? と困惑していた私に、アタッカーの男が怒鳴る。ドアこと「どこでも行けるドア」は、指定したポータルに転移できるカードだ。桜華忠臣が採用することは正直あまりないが、まあゼロではない。とはいえ、いきなりCに行くか?!
パニックになりかけながらも、私は敵が三人ではなく一人であることを思い出す。
「放送が入ったのは、Cだけ……DEに向かいます!」
「さっさと行けよ!」
刀を持った男性がそう怒鳴りながらBポータルを奪取する。
戦況は、Aポータルをとって広げているガンナー、Bポータルをとって広げているアタッカー、どうやったのかCポータルをとって様子見をしている忠臣。3対1の変則バトルとなっている。まあ、このメンバーではまずゲームに敗北することはないだろう。
__相手は忠臣だし、ガードブレイクのカノーネが入っている可能性があるから、ギリギリまで全天は使いたくない。
ステータスは確認できなかったが、スプリンターである私に、対した耐久力があるとはとても思えない。避けられる攻撃は避けるに越したことはないだろう。ガブリエルのクールタイムは意外と長いのだ。
走り出すと、いつもよりも体が軽く感じられた。私は、体力があるため長距離走は得意なのだが、瞬発力が足りず、短距離走はどうしても遅くなってしまう。けれども、今はそんな気がしない。今なら百メートル走で11秒を切れそうだ。
Aポータルを通り抜け、Bポータルの階段を昇れば、Cエリアからこちらを眺める緑色の軍服が見えた。ポータルを盾として使っている以上、中身がいつものポンコツAIよりも賢いらしい。私は、AI回復なしグスタフの悲劇を忘れてはいない。バターよりも溶けやすかったぞ、あれ。
BポータルからCを通過してEFに向かいたいところだが……ここの段差は、リスポーン地点のあれと大差ない。つまり、かなり高いのだ。飛び降りたとしても、足首をひねる未来しか見えない。
「階段から行きます!」
「はぁ?! そこから降りたほうが速いだろうが!」
アタッカーの男性の罵倒を無視し、私はBポータルを通過してリスポーン地点から見て右側に位置する階段へ向かう。このステージは左右対称にできているため、まっすぐ突っ切ったほうが速いことくらいは理解している。でも、できるかどうかは別問題でしかない。
階段を半ばまで降りたところで、忠臣の様子を確認する。すると彼は、こちらの方を向いてタメ攻撃……妖華穿突刃の構えをしていた。うっへ、そのまま出て行ったら、ワンチャン死ぬやつ。少なくとも味方に見捨てられているから助けてはもらえないはず。
とはいえ、桜華忠臣のHAである妖華穿突刃の避け方は、割と簡単だったりする。というか、当たり判定がガバイので、当たったと思っても当たっていなかったり、避けきったと思ったら壁まで吹っ飛ばされていたりすることもある。HAは多段ヒットであるため、コクリコを使っているとHPが消し飛ぶこともある、わりと凶悪な技だ。
……まあ、当たればなのだが。正直、突進タメ攻撃は遠くまで届くことが売りなのだが、遠くからくる分には十分に避けられる。近距離なら牙突を食らう前にカードでキャンセルかHPを削り倒すことができる。要するに、相手を倒すための牙突で恐ろしいのは、中距離からだ。
でもまあ、相手を倒すためなら、タメ攻撃を当てるよりも、近距離攻撃カードをぶち当てて残ったHPを通常攻撃で削れば良かったりする。
ごちゃごちゃ言っているが、忠臣のタメ攻撃を避ける方法は簡単である。
私は、階段を曲がる……直前で体を止め、そのまま後ろに二歩下がる。その直後。
「死ねぇぇぇええ!」
そうすれば、忠臣の一撃は私に掠ることもなく、そのまま目の前を通過していった。ゲームでも思っていたけれども、タメ攻撃の素通りほど間抜けな状況ってなくない?
煽る気も煽る暇もないので、私は忠臣のHA硬直が終わるよりも先にEポータルを目指して走り出す。背後から舌打ちの音が聞こえてきたような気がしたが、おそらく気のせいだろう。
ちなみに、タメ攻撃回避の方法にはダメージカットを張るとか、近距離攻撃カードを合わせて吹っ飛ばすとかほかにもいろいろある。ルチアーノの逢瀬並みに対応がとられているのではないのだろうか。
スプリンターになっている影響か、いつもよりも軽く動く体で、私は階段を駆け上り駆け下りてEポータルに触れる。
『Eを獲得しました』
響く無機質な放送。ドアでCポータルへ移動した忠臣は、Eポータルは触られてすらいなかった。
Cエリアから離れ、Bエリアへと移動した忠臣が誰かにキルされることも予想し、私はその場に留まってEポータルを広げる。広げ始めたところでしばらく銃撃音や忠臣がカードを切る音などが聞こえてきた。まだ誰かやられたという放送が流れてこないので、気にせずある程度ポータルが広がったと判断したところで、私はDに向かう。いつものマップが表示されないの、地味に不便だな……
『Dを獲得しました』
Dポータルに触れたところで、無機質なアナウンスが再び流れる。少し高い位置にあるDエリアからは、Bポータルの周囲で合戦をしている三人の様子が確認できた。優勢なのは人数差のおかげかガンナーとアタッカーの二人だが、微妙に様子がおかしい。
「……カードを出しつくしたの?」
通常攻撃とHAらしき攻撃で対処する二人は、カードを出していない。出し惜しみしているという感じではない。何せ、二対一であとはCポータルなのだ。キルをとるのが最善手だが、そうでなくとも近距離カードを切ってふっとばし、Cポータルを制圧することだってできるはずだ。
そこまで考えたところで、あることに気が付いて、頭から血の気が引いた。
「……私、カードの使い方、知らない……。」
私は慌てて右手の靴の紋様を左手で触る。
その直後、4枚のカードのイラストが目の前に透明なディスプレイのような状態で出現した。。試しに『秘めたる』を上方向にスワイプすれば、カードが1枚の紙切れ、10×7センチくらいの小さめのカード状態となって表れた。
えっと、これをどうしろと?
私は思わず目を見開く。実体化した『秘めたる』のカードがあった場所には、待機時間が表示されるばかりだ。手元に残ったカードは、しばらくすると何事もなかったかのように消失してしまう。……これは、まずくないか?
「げっ、HAミスった!」
そうこうしているうちに、おもちゃの銃を持った男性が、相手にノックバック効果を与えるHA……おそらくバックショットをミスしたらしく、忠臣の接近を許してしまう。ガンナーで低耐久である故か、通常攻撃を嫌がった彼は慌てて全天を引く。すると、円筒状の金色、ダメージカットが発動する。
だが、それを見た瞬間、私は思わず「あ」と小さく声を上げてしまった。忠臣相手にダメージカットは悪手でしかない。
凶悪な笑みを浮かべた桜華忠臣は、刀を振りかぶり、高らかに宣言する。
「食らうがいい!」
「ぐ、うわぁぁぁ!!」
使用したカードは、『反導砲 カノーネ・ファイエル』。ダメージカットの効果を叩き割り、特大ダメージを与えるカノーネの餌食となったガンナーは、ダメカが割れる独特な高音とともにナタデココ、もとい、ポリゴンの破片に変わる。
『味方がやられてしまいました』
無機質なアナウンスとともに、忠臣は、その様子を見て固まった刀持ちのアタッカーに向かって余裕の笑みを見せ、言う。
「斬ってやる、近う寄れ。」
ニッと不敵に笑まれた口元から、犬歯がちらりと除く。端正に整った顔から凄艶とも取れるような笑みを浮かべた彼を見て、私の顔が引きつる。まずい。おかしい。
「あ、アピールをやるAI何て、見たことない……」
変だ。何が変だかは私には理解できない。だが、確実におかしい。残り時間はあと2分を残し、状況は少しずつ悪くなっていった。
【現在分かっている敵陣営情報】
キャラクター
桜華忠臣:アタッカー
使用カード
・どこでも行けるドア(UR)
・反導砲 カノーネ・ファイエル(UR)
・不明
・不明
使用メダル
・不明
・不明
・不明