【#コンパス】とりあえず、卑怯に行こうか   作:ねむりたいねこ

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前回のあらすじ
・桜華忠臣戦
・敵カードは「カノーネ」「ドア」が確定、残り二枚は不明
・ポータルは4-1有利でA、B、D、Eが自陣。Cのみ忠臣に回収されている



VS桜華忠臣!(2)

 ダメカが砕け散る音が響き、ガンナーがナタデココ……否、ポリゴンの破片に変わる。目の前にいるアタッカーに向かって大胆不敵にもキルアピをして見せた桜華忠臣は、味方が砕け散った衝撃からまだ返ってこれていないアタッカー相手に、合戦を再開しだす。

 

 それを見た瞬間、私は理解した。

 ボーっとしている暇はない。何が起きたとしても、残っているポータルはあとCが一つだけだ。Cをとればその瞬間に勝利の確定であるし、2分間耐え忍んだとしても勝ちである。

 

 そして、何よりも、現状は2対1だ。通常であれば私たちの有利は動いていない。

 だが、勘が、本能が、このままだとまずいと伝えてくる。頬に一筋、冷や汗が伝う。

 

「……!」

 

 Cをとって、最速で試合を終わらせる。

 私は、思い切ってDエリアからCエリアへ飛び降り……それでも、気が付けば、階段を駆け上って合戦を行っているBエリアのアタッカーの元へと急いでいた。

 

 分かっている。カードの使いかたが分からない以上、一撃の被弾も致命傷になりえる。何なら、HSの使い方も私は知らない。ガードロボの説明を聞けなかったから、勝利したところで何があるか知らないし、負けて何があるのかも知らない。ついでに言うなら、リスポーン時に何があるのかも知らない。

 そんな私が、乱戦に介入するのは、悪手だということくらい。

 

 それでも、私は、呆けているアタッカーに攻撃しようとする忠臣に向かって走り出す。

 私は、HAの仕方もわからない。だが、この時ばかりは私の役職がスプリンターでよかったと思った。

 

 スプリンターのHAは、ダメージ量、効果に差はあれど、全員固定である。

 それは、ダッシュからの強打。ダメージカットやその他効果を合わせていない限り、ノックバックが付与されるあれだ。

 

「そぉい!」

「ぐっ!」

 

 刀を振りかぶり、完全に油断していた忠臣の後頭部に、私の一撃がたたきこまれる。

 HP減少量は、アタリのHAと大差ない。忠臣のデバフの台詞がないあたり、コクリコのように攻撃力減少効果もついていないらしい。忠臣がひるんでいるすきに、私はアタッカーに向かって言う。

 

「アタッカー、最短で勝利を! 長期戦はこっちの不利になる!」

「……! お前が指示を出すなよ!」

 

 アタッカーはそう叫ぶと、近距離攻撃カードであるフルークをきって忠臣を狙う。

 

「チィッ!」

 

 ダッシュアタックのひるみで避けきれなかった忠臣は、フルークにかちあげられ上空に吹っ飛ぶ。キルを狙えるが、そんなことをしている暇があったら、とっととCをとって試合を終わらせたい。そう判断して、吹っ飛ぶ忠臣を横目にBエリアから降り、Cポータルに触れる。

 

 Cポータルは前半で広げきられていたようで、三種類のポータルの中で一番狭いながらも、奪取し返すには数秒かかる。

 

 そして、赤色に染まったCポータルに触れて、私は気が付いてしまった。

 

「ど、どうやってポータル奪取の効率を上げるの?!」

「説明効いていなかったのかよ! いいからとっとと触れ!」

 

 雑過ぎるアタッカーの台詞。私にどうしろと?!

 

 Cポータルのエリアはゆっくりの速度で狭まる。その奪取の遅さが致命となり、忠臣が空中から地面に向かって落ちてくる。残念なことに一撃でキルをとれなかったようだ。だが、アタッカーが一撃二撃与えればキルできるくらいにはHPは大きく損傷している。

 ポータルの奪取はまだ済んでいない。

 

「くそ、でも、勝てる!」

 

 男がそう言ってミリ体力の忠臣めがけて刀を振りかぶる。だが、忠臣は依然として笑みを浮かべたまま、言う。

 

「慈悲を与える。」

 

 その瞬間、着地と同時に忠臣のHPが全回復する。背後に見えたカードは……『魂を司る聖天使 ガブリエル』だった。

 

 短い回復エフェクトが消え、HPバーが全回復した忠臣を前に、アタッカーは絶望したように立ち尽くす。そんなアタッカー相手に、忠臣は眉をひそめて怒鳴る。

 

「刀をきちんと振らんか!」

 

 そう怒鳴った後、彼は己のもつ妖刀でアタッカーの刀を弾き飛ばす。あっさりと彼の手元から離れた刀は、くるくると宙を舞って、Bポータルエリアの端に落ちる。

 

 間抜けな金属音が、アリーナに響く。

 

 反射的に私はCポータルから手を放し、Bエリアに向かって走っていた。

 

 手元の武器を失ったアタッカーは、茫然とすることしかできない。それが、彼の一番の選択ミスだった。

 

「行くぞ……セェェェェン!」

「えっ、ちょ、わぁぁぁあああ?!」

 

 茫然とするアタッカーに、忠臣のタメ攻撃が突き刺さる。しかも、壁に垂直になるように計算したのか、HAでの壁ハメが発生しゴリゴリとHPが減る。……え? そんなの、あり?

 

 転倒状態のアタッカーに向かって、ついでカードを切ろうとする忠臣に、ギリギリ間に合った私は慌ててダッシュアタックを当てる。ひるみが入ったため、カードの使用がキャンセルされたらしい忠臣が、こちらを睨んで舌打ちをする。

 

 やっぱり、あの舌打ちは気のせいじゃなかったのか。

 

 反射的に拳を構えた私だったが、想定外なことに、桜華忠臣はそんな私には興味を示さず、アタッカーに向かって怒鳴った。

 

「我を一番に選んだものがいるからと戦ってやれば……何たるザマだ、貴様!」

「……へ?」

「……あ?」

 

 意味が分からなかった。AIがなぜしゃべる?

 ほぼ反射的にアタッカーを守ったため、疑問に思える時間が足りなかったが、ついさっきもアタッカーに向かって怒鳴っていた。

 

 瞬間、脳裏に悪い予感がよぎる。これ、もしかして、『チュートリアル』、もしくは、『ガードロボの説明』がめちゃくちゃ大切な奴じゃあないの?

 

 冷や汗が背中を伝う。思えば、二人は当たり前のように戦っていた。おもちゃの銃で、いったいどうやって戦ったというのだ。そもそも、タメ攻撃などどうやって発動させろというのだ。持ったこともない刀を、どうやって振り回せというのだ。そして、なによりも、あのガンナーはカードを使っていたじゃあないか。

 

 つまり、私は、見ていなかったBポータル合戦で思い違いをしていた。

 もしかして、目の前にいる男は……普通のコンパスのAIなどではないのじゃあないのか?

 

 ぞくりと嫌な予感が背筋を通り抜ける。そして、あまりにも絶望的すぎる状況に、視界の彩度が下がる。

 

  HA以外の攻撃手段ゼロという事実に、気が付いてしまった。刀や銃なら、まだわかる。だが、素手でどうやって忠臣にダメージを与えろと? いや、HAの使い方が分かっただけまだましと考えればいいのか?

 

 私が何も言えずに考え込んでいると、返事がなかったことに怒りを覚えたのか。忠臣がアタッカーに向かって吐き捨てるように言う。

 

「期待外れだ。もうよい。失せろ。」

「……! 逃げ……!」

 

 私の喉から、声が漏れる。

 

 既にミリ体力のアタッカーは慌ててダメージカットをはり、そして回復カード……ちらっと見えた絵柄的に、『打ち上げ花火』だろうか、を使用する。

 

 ガードブレイクのカノーネは先ほど使われたばかりだから、通常攻撃を耐えるためならば、その選択はよかったのだろう。

 ただ、結果としては、即時回復でないことが、あだとなった。私は、カードのレベル上げ以外でのキャラクター強化方法を忘れていた。

 

「死ねぇえ!」

 

 忠臣の咆哮とともに、カノーネが発動され、悲鳴を上げる暇すら与えられず、アタッカーのダメカは砕かれる。輝く黄金のバリア片が空気に溶けていき、同時に、砕けたポリゴンと化して消えるアタッカー。嘘だろ……!

 

 思い出すのは、忠臣のキャラクターデータ。確か、近距離カードの再使用時間が短くなり、威力が上がるというものだったはずだ。だからこそ、ほぼすべてのキャラクターで忠臣とのタイマンは注意して行われるし、ガンナーはできるだけ忠臣がこちらに接近するよりも先に倒そうと努力する。

 

 だとしても、早すぎる。まだ、十五秒もたっていないはずだ。

 脳裏に、ある映像がよぎる。「同色足3ジャスティスで遊んでみた」という、所謂検証映像のようなものだ、もしかして……

 

「メダルにクールタイム短縮+3か……!」

 

 その言葉を聞いた忠臣が、二ッと口元を歪めてこちらを見た。どうやら、正解だったらしい。

 

 ありかよ、そんなの!




【現在分かっている敵陣営情報】
キャラクター
 桜華忠臣:アタッカー
 使用カード
 ・どこでも行けるドア(UR)
 ・反導砲 カノーネ・ファイエル(UR)
 ・魂を司る聖天使 ガブリエル(UR)
 ・不明
 使用メダル
 ・カード使用時のクールタイム短縮+3(白)
 ・カード使用時のクールタイム短縮+3(白)
 ・カード使用時のクールタイム短縮+3(白)
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