【#コンパス】とりあえず、卑怯に行こうか   作:ねむりたいねこ

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前回のあらすじ
・桜華忠臣戦
・ガンナーとアタッカーが撃破される
・桜華忠臣のメダルが同色クールタイム短縮+9で確定


VS桜華忠臣!(3)

 ……こうして、話は冒頭に戻る。

 

「食らうがいい!」

「ああっ! あっぶなぁぁぁぁぁぁあああ!」

 

 近距離カードを使用した時特有の、すさまじい炸裂音が背後で響く。私は、全力で駆け抜けることでそれを回避した。

 

「避けるな、小賢しい!」

「避けるわ、バーカ!」

 

 怒鳴り声を上げる日本刀を持った男性に、私は思わず怒鳴り返す。男はそんな言葉が返って来るとは思っていなかったのか、一瞬だけポカンとした表情をしたあと、口角を上げてニッと笑った。だが、目は決して笑ってはいない。

 

 さっきのは何だった? フルーク? サンバルン? それともアッパー? どれにしたって直撃すれば今の私のHPでは耐えきれない。

 

 後方のリスポーン地点でうずくまり、震えているガンナーとアタッカーの二人に向かって私は大声で聞く。トラウマになってしまったのか、こちらに来る気配は一ミリもない。

 

「ねえ、せめてアイツのデッキ構成くらいは教えてよ!」

「ひぃっ?!」

「怖い嫌だ怖い嫌だ怖い嫌だ怖い嫌だ怖い嫌だ怖い嫌だ怖いいやだ怖い嫌だ怖い嫌だ怖い……」

 

 だめだ。まともな返答が返ってくる気がしない。だが、ある程度は予想できている。

 

「カノーネドア臣ガブリエル持ち……!」

 

 今のところ見えたのは、その3枚。そして、あともう一枚もおそらく近距離攻撃カードだ。忠臣だったらケルパーズ(ノーマル)でも積んでおけよ……!

 

 視界の端を意識してみれば、残り時間はあと一分半。さすがに冗談だろ?! もし同色クールタイム短縮が入っていたら、ドアがもう一度使えることになるじゃないか!

 

 私のHPは忠臣から逃げ回る際に通り抜けざまに通常攻撃を何度か食らってしまったため、残り半分。デッキにガブリエルが入っているが、使い方がわからないからただの紙切れに過ぎない。対する忠臣は先ほどもう一度ガブリエルを使ったため、HPバーに欠け一つない。

 

「タイマン番長に回復不可ダメカなし低耐久スプリンター一人とか……どんな地獄だよ!」

「はっはっは! 我が貴様に真の地獄を見せてやろうぞ!」

「煽ったの怒ってる! ってか、それ、グスタフじゃない?!」

 

 叫び返す私は必死に階段を駆け下りて忠臣とタイマンしないように避け続ける。

 

 もう、これは試合ではない。ある意味命がけの鬼ごっこだ。当然、鬼は忠臣、捕まってキルされたらおそらくトラウマだ。ついでに、ワンチャン試合に負ける。絶対に近距離カードが届く間合いに入るわけにはいかない。さっき避けれたのは、かなり運の要素が強かった。再度アレをしろと言われても、できる確証は一ミリもない。

 

 ゲームの中である影響か、ずっと全力疾走を続けているというのに、息は切れない。CポータルからBポータル、そこもきつかったため、今はAポータルエリアの広場で忠臣の攻撃を避け続けている。

 

 早く時間が過ぎてほしい。早く終わってほしい。

 緊張が常に心臓を握り、汗腺は馬鹿になったのか冷や汗ばかりを流し続ける。

 

__キルされたくない。死にたくない。

 

 そんな気持ちばかりが私の心を支配し、心臓に過剰な血流を送り込む。アズがそばにいたなら、これが恋? とでもふざけた気がするが、今はとてもそんな気分ではない。吊り橋効果何て多分存在しないぞ、今あの二人のうちどちらかが私を助けたとしても、罵倒する未来しか見えないもの。

 

 Bポータルにつながる階段を背にした忠臣は、逃げ続ける私を不愉快そうに一瞥した後、目を閉じ、深く息を吐く。そして、その口を開いた。

 

「貴様は……戦う気概はないのか?」

 

 威圧混じりの、低い声。思わず足が止まりそうになる。

 が、その言葉に、ゲーマーとしての意地が働いた。

 

「うん。無いよ。」

 

 私は、そう言って笑う。忠臣の眉がピクリと不愉快そうにゆがめられた。

 

 正直、めっちゃ怖い。だって、目の前にいるのは、刀を持ったいかつい男だ。ルールだとかカードだとかを抜いても、恐怖しか覚えない。

 だが、そんなので引く気にはなれなかった。

 

「あと一分ちょっと耐久出来たらルール上は私の勝ちでしょ? __別に、戦う必要なんてなくない?」

 

 このゲームにおける、スプリンターとしての役割。素早い動きで敵を翻弄し、序盤有利展開を創り出してから、自陣を守る。キルはあくまで防衛の一手段でしかない。__今、アタッカーもガンナーもいない状態で、私がすべきなのは、忠臣を倒すために四苦八苦することではない。逃げ回って、勝利をつかむことだ。

 

 私の台詞を聞いた忠臣は、しばらくポカンとした後、うつむく。

 何をしたいのか一瞬わからなかった。だが、その声が聞こえてきて、理解ができた。

 

「……ク、くくくくくっ、はっはっはっはっは!」

 

 耐えきれないとでも言うように大爆笑する忠臣。大口を上げて笑う彼は、ひとしきり笑った後、犬歯を見せて微笑み、そして言った。

 

「そんなくだらない幕引きを我が認めるとでも?」

「認知して?」

「ふふっ、ずいぶんと余裕そうだなぁ?」

「いや、だってこのやり取りしている間に残り1分切ったし」

 

 凶悪に笑む忠臣に、私は軽口を返す。私は、基本的に煽りチャットというものが嫌いだ。だが、友達とゲームをするときには煽るような言葉を言う。要するに、見えない相手に対して罵倒するのは気分が悪いが、見える相手に対して、発破をかけたり、楽しんだりするために煽るのは、文化としてあっていいものだと思っているのだ。

 

 今も、互いに笑っている。私のは恐怖をごまかすための笑みで、相手は怒りをこらえるための笑みであるという事実を除けば、素晴らしく平和そうじゃあないか。奴は抜き身の刀を持っているけれども。

 

 硬直状態に陥り、先に動いたのは、忠臣だった。

 

「良いだろう。貴様の覚悟を見届けてやる。__我の真の力を開放する。」

「げぇっ、Cエリアしか広げていないのに、もう溜まっていたの?!」

 

 その言葉は、まぎれもなく桜華忠臣のヒーロースキル『グリート拘束術式開放』のセリフだった。

 

 あのHSの特徴を一言で言えば、回避できる理不尽、といったところだろう。100%カットかカウンターを張らずにHSに触れれば、その瞬間にカンストダメージが与えられ、即座にリスポーン地点に送られてしまう。面積もそこそこ広く、油断していると一発で盤面をひっくり返されてしまうこともある。

 

 依然ちらっと見た忠臣の短編アニメではだいぶヤバそうな技に見えたが、この世界ではどうなのだろうか。いや、でも、アニメは大体誇張されていたか。スプリンタードア難民ジャスティスとか、ガブリエル(タイオワ)キルジャンヌとか、夢落ちアタリくんとか……。個人的にはノホたんのアニメが一番カオスで面白かった。

 

 いや、くだらないことを思案している暇はない。

 

 今の立ち位置は、Aポータル付近で乱戦を行っている状態だ。桜華忠臣は自陣リスポーン地点を背中にCポータル方向に向かってHSの構えをとっている。対する私は、背後にBエリアの段差、その右隣に階段がある。

 

 回避方法はいくらだってある。横に逃げてしまえば、まずHSには当たらない。

 

 それでも、私は、これをチャンスだと判断した。

 

 即座に走り出し、Bエリアに続く階段を駆け上がる。HSのタメで膠着した忠臣の目が、一瞬怪訝そうに顰められた。

 

「3、2、1……」

「死ね、童!」

 

 後ろを見ず、全力疾走でBエリアに躍り出る。その次の瞬間、顔半分が異形となった忠臣が吼え、グリート拘束術式が、開放される。

 

 迫りくる、異形の手のひら。私の体を優に超えるどころの大きさではないそれ。まっすぐ、くる。

 そう判断するとほぼ同時に、私はBエリアからCエリアにつながる段差を飛び越える。焦って跳ねたためにロクに着地することができず、ほぼ前転のような形で向かいの壁に激突する。

 

「痛った……!」

 

 苦鳴が口から漏れる。それでも、あの緑の異形の手のひらは、私にかすめることもなくCポータルの方向へと向かって行った。__成功だ。

 

 HS後の硬直が終わる前にすぐ近くのCポータルに触れる。HSの膠着時間を利用して、敵陣に近づく。失敗すれば、一番かっこ悪いよけ方のあれだ。この技は、デルミンのHSでも同様なことができる。まあ、デルミンの方が扇状に攻撃が広がるためよけにくいけれども。

 

「ははっ、ざまぁみろ!」

「……。」

 

 硬直で動くことのできない忠臣を横目に、私は全力でCエリアに足を踏み入れる。鬼ごっこをしている間に、忠臣に何度か踏まれてしまっていたため、少しだけ広がってしまったCエリアだが、この距離からなら確実に忠臣がこっちに来るよりも先にポータルを回収しきれる!!

 

 そう思って、私の口元に、笑みが浮かぶ。

 

 それでも、ふと、なにか、心にもたげるものを感じ取る。

 

__何か、私は忘れていないか???

 

 そう思った瞬間、私は反射的に右手のスプリンターの文様に触れる。最初にカードを選択する時に選んだ、『ガブリエル』、『全天』『秘めたる』。そして、最後に焦りながらも選んだ、赤のURカード。

 ここからは、ほぼかけだ。右手の模様を左手で撫で、そして、赤色のカードを実体化させる。

 

「使い方なんてわかったものじゃあないけど……あってますように!」

 

 出てきた赤色カードをCエリアのすぐそばに投げ捨て、そして、Cポータルに手を付ける。

 

「早く……早く!」

 

 あと半ブロックのポータルは、じわじわとその範囲を狭めていく。が、私は失念していた。

 

 突然、ポータルから手が、弾かれる。そして、私のすぐ横に転移してきたのは、緑色の軍服。そして、聞こえてきた、無慈悲なセリフ。

 

「時間の無駄だ」

 

 あと少しだったCポータルの赤の陣を踏みにじり、彼は、茫然とする私に対してニッと、不敵に笑い、言う。

 

「はは、ザマを見るがいい。」

 

 私の頬を冷や汗が伝う。

 

 そうだ、あいつ、ドア臣だった。

 確かに、AエリアからはすぐにCエリアには向かえない。しかし、彼は、どこでも行けるドアを使用することで、即座にCエリアに転移したのだ。

 目の前が真っ暗になり、緊張で細くなった喉から「ひゅっ」と短い息が漏れた。

 

 茫然と立ち尽くす私に向かって、桜華忠臣は口元に笑みを浮かべ、一歩近づいてからカードを切り……それを見て、今度は、私が不敵に笑った。

 

 

 

 

 

「__勝った。」

 

 

 

「遠慮なく死ぬが……ぐうぅぅっ?!!?」

 

 忠臣は、地面に落ちていたカードに気が付くことなく踏み抜き、そして宙を舞った。赤色のURカード。焦ってたまたま選んだカード。それは、『祭りの目玉!ドラゴン花火』だった。

 爆罠を踏んだ忠臣は、すさまじい炸裂音とともに階段方向へと吹っ飛ぶ。彼が陣地から吹っ飛んだ瞬間、再びポータルキーに触れるようになっていた!

 

「よっしゃぁぁああ! あ、起き上がりに時間かかってくださいいやマジでまじで!」

「く、屑の考えそうなことだ……!」

 

 騒ぐ私に、忠臣がそういう。デバフはかけた記憶がないな? どうしたの? ねえねえ、どうしたの? あ、待って待って待って、起き上がりはもっとゆっくりで大丈夫だから!

 『ガブリエル』を切って着地を決めた忠臣が、急いで徒歩でCポータルに向かい……あと2ブロックといったところで、赤色だったポータルの色が青に変わった。

 

 ぱあん、という、乾いた音とともに、無機質なアナウンスがあたりに響く。

 

『Cを獲得しました__バトル終了です。』

 

 振りかぶりかけた刀をおろし、茫然とした表情でこちらを見る忠臣に、私は右手をひらひらと振り、笑顔で挑発する。

 

「『つまらない幕引き』で、ごめんねぇ?」

 

 

__『チュートリアルスキップ:桜華忠臣戦』

 勝者、青チーム 5-0

 ベストプレイヤー 朝日南(あさひな) ミツル




【青チームの使用カード】
・ガンナー(モデル:ルチアーノ)
 レオン(SR) アバカン(UR) 全天(UR) みみみ(UR)
・アタッカー(モデル:桜華忠臣)
 フルーク(UR) カノーネ(UR) 全天(UR) 打ち上げ花火(UR)
・スプリンター(モデル:十文字アタリ)
 秘めたる(SR) 全天(UR) ガブリエル(UR) ドラゴン花火(UR)
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