【#コンパス】とりあえず、卑怯に行こうか   作:ねむりたいねこ

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前回のあらすじ
・チュートリアルを受ける
・ミツル「蹴落とされたんだけど」
・忠臣「貴様往生際悪すぎだ」


出禁の経緯

 互いにささくれだった心持の中、食堂前のディスプレイには人だかりができている。三メートル近い大きさのディスプレイには今、丁度私が忠臣の牙突で吹っ飛ばされているところだった。味方の攻撃で冗談みたいに吹っ飛んだ私を見て、観衆は大爆笑である。

 

「あ゜」

 

 馬鹿みたいな声が喉から漏れ、思わず表情を引きつらせる。

 

 Aポータルを回収してからドアを使用して移動し、悠長にDポータルでHSをためていたマルコスを瞬殺した忠臣の後ろで、直接Bポータルにやって来たルルカ相手に鬼ごっこをかますという戦犯に近い立ち回りをする私が映し出され、思わず頭を抱えた。デスを避けるばかりに、コンパスでは避けるべき立ち居振る舞いをしてしまっていたのだ。

 

「見たか、さっきの遠距離キャンセル! エグイぐらい生き汚ねえ!」

「ポータル盾にしてリリカ罠に誘い出してるのか。卑怯だなー」

「着地用秘めたるwww」

 

 私のあまりにも生き汚い戦い方に、周囲の人間は思わず笑う。場面的にはちょうど、リリカ相手にダッシュアタックによるカードキャンセル三回連続を成功させたあたりだ。

 

 交代とばかりに忠臣が一撃でリリカをキルし、次の瞬間ガチギレルルカが後ろから迫ってくる。Bエリアにドアで回避し逃げた忠臣に、ディスプレイの向こうの私は間の抜けた悲鳴を上げる。

 

 今から自分で見返してもかなりコミカルな……うん、正しく言うと無様な動きをしている私の姿が映し出される。そして、隣から伝わって来た怒気に、サッと顔が青ざめる。

 

 ぎぎぎ、と、さび付いた機械のような感覚を覚えながら、私は、隣に立つ忠臣の方を見る。

 

 桜華忠臣は、口元に美しい笑みを浮かべ、まっすぐとディスプレイの方を見ている。しかし、手元を見れば、ぐっと握られた指の内側、異形の手のひらから出る口はギリギリと絞られており、よくよく顔を見てみれば、目だけは確かに怒りをたたえていることがよくわかった。

 

「ひえっ」

「……どうした、貴様?」

 

 思わず悲鳴の漏れた私に、美しく笑んだままの忠臣が、声をかける。私は恐怖のあまり、無言で首をぶんぶんと横に振った。

 そんな私の反応を見た彼は、嫌に優しい声で、言葉を紡ぐ。

 

「そうか。我の気のせいか。それはそうと、我の目には今、多くの愚者がいるように見えているのだが。」

「き、気のせいじゃないかなー? ほ、ほら、試合終わったっぽいし?」

 

 私はそう言って、ルルカが爆弾罠で吹っ飛んでいる隙に敵一陣の回収が終わり、勝利した場面を指さす。ベストプレイヤーをとってどや顔をしている忠臣をよそに、ディスプレイは次の試合を映し出す。

 

 ……なんと、それは、つっぺる工事現場であった。

 あんまりにも嫌な予感がして、私は表情をひきつらせた。

 

 そして、次の瞬間、キャラクター紹介が始まる。最初に赤チームのヒーロー、アダムがうつされ、次に、青チーム。……案の定と言うべきか、そこに映し出されたのは、私と忠臣。

 

 試合開始直後、HAを行ってスプリンターよりも早くAポータルを回収した彼は、不満そうな表情を浮かべて、その場に座り込む。そこからは、私だけがゲームを続ける。

 どこからどう見ても、最終試合の様子だ。

 

 あまりのことに言葉も出ない私をよそに、次第に忠臣は、クツクツと、喉奥で笑い声をあげる。その笑いは、少しずつ大きくなり、丁度彼が私をつっぺるの地面下に蹴り落とした場面で観衆の笑いが最高潮に達した瞬間、腹を抱えて笑い出した。

 

 ひゅ、と、喉から声が漏れた。

 同時に、反射的に右手のスプリンターマークを触れて、カードの確認を行っていた。__今の手持ちは、最終試合と同様、近距離吹っ飛ばしが一枚、カノーネが一枚、低速罠が一枚、そしてみみみだ。

 

 忠臣のデッキは、変更する隙が無かった以上、『フルーク』『カノーネ』『ドア』『ガブリエル』の四枚だ。なんと、カノーネが死にカードになってるじゃないか。ド畜生!!

 

 しどろもどろになりかけながら、私は、できるだけ冷静に、忠臣に声をかける。

 

「えーっと、総帥? 大丈夫そう?」

「……愚者に死を、我に勝利を!!」

「だめそう!!」

 

 バトル開始時の台詞を口にした忠臣。その瞬間、彼は武器の日本刀を鞘から引きずり出した。

 反射的に、私もカードを切る。

 

「『カノーネ』!」

「ちっ!」

 

 ドアを引こうとしていた忠臣に、カノーネを発動させて行動をキャンセルする。カノーネ・ファイエルはガードブレイクの効果を持っているが、ガードを張っていない相手に対してはさしてダメージを与えられない。が、緊急時のカードキャンセルは行うことができる。

 

 見た感じ、ドアか? ポータルないけど、どこ飛ぶつもりだった君?

 

「おおおおお、落ち着こうじゃないか。争いはあんまり何も生まないよ?」

「力でしか救えぬ者もいる。悲しいことだな」

「救うっていうか、滅ぼそうとしてない?」

「不敬罪だ。滅ぼすほかあるまい。」

「だめそう(二回目)!!」

 

 残忍な笑顔を浮かべて言う忠臣に、私は思わず悲鳴に近い声を上げる。そして、始まる乱闘騒ぎ。砕け散るディスプレイに、響き渡る観衆の悲鳴罵声怒声。

 

 全力で観衆を守るために立ち回るあまり、うっかり私が食堂に向かって忠臣を吹っ飛ばしてしまい、ありとあらゆる食堂内の器物を破損。響き渡るサイレンに、集まるガードロボ。地獄かな?

 

 数分間の殴り合いの末、やって来たvoidollに強制的に止められ、結果として、無許可でチュートリアルの映像を流していた運営側にも非があると判断され、一定期間の食堂の出禁処分以上の罰は与えられなかった。

 

 

 

 

 そう言った事情を友人のアズに話すと、彼女は頭を抱える。

 

「アンタたちねえ……特にミツル。アンタは死ぬほど向こう見ずなんだから。一回考えてから動きなさいよ。」

「頭使ってたら、多分あの場にナタデココが転がりまくる惨状が起きてたと思うけど。」

「最悪その状態なら忠臣ならともかく、ミツルは出禁にならずに済んだでしょう?」

「それじゃアホ総帥止められないからね。周りに迷惑かかるくらいなら、多少割食ってもしょうがないよ」

「……ホンット馬鹿ね。」

 

 あきれたように言うアズ。しかし、彼女の瞳は軽蔑しているのではなく、どこか仕方ないか、と、納得しているようにも見えた。

 

 転移者各位に振り分けられた部屋の中は、1LDKが基本であり、仲間になっているヒーローがいる場合には同性ならもう一部屋増え、異性なら別部屋となる。もちろん、忠臣と私は別部屋だが、食堂出禁は同時に食らったため、どうにか食事をするために私の部屋で料理を試みたのだ。……結果は散々だったが。

 

 冷蔵庫の中身を一通り見たアズは、私に質問する。

 

「卵。どこで買ってきたの?」

「えーっと、売店があるから、そこで買った。チュートリアル強制スキップの賠償金あったし」

「なら、そこでお弁当買ってきなさい。あなた達二人は自炊禁止よ。」

 

 アズのその言葉に、忠臣は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて言葉を紡ぐ。

 

「……いいだろう。早いところ、料理の出来る配下を作れば、問題なさそうだ」

 

 がっかりしたようにそう呟く忠臣に、首を傾げたポロロッチョが声をかける。

 

「あらあら、チェリーパイたちは、料理はできないのかしら? 美と筋肉には自炊はマストよ?」

「うん?」

 

 にっこりと優しく微笑んだポロロッチョは、そっと焦げ付いていないほうのフライパンを手に取った。

 

 

 数分後。私の部屋のテーブルの上には、蒸し鶏のサラダや白米、キノコとたっぷり野菜のスープ、豆腐の卵とじなどが4人分並ぶ。茫然と彼女(彼?)の料理する様子を眺めていた私に、ポロロッチョはぱちんと綺麗なウィンクをすると、茶目っ気たっぷりに言う。

 

「内面の美しさこそ外見にあらわれるものよ。日々の食事にこだわることがチェリーパイへの第一歩よ!」

「ちぇりーぱいとやらがどうかは知らんが、感謝する。」

「お礼は熱烈なキッスで構わないわ♡」

「あとでBMで返礼させてもらおう。払っておけ、朝比奈」

「ああうん、支払いはするけど、ナチュラルに私を財布扱いしてるね???」

 

 両手を広げ、ハグの体勢をとるポロロッチョをスルーし、健康的で文化的な食事を前に私たちはそんなことを言い合いながら、各自椅子に座った。アズたちも私たちの騒動で食堂を利用することができなかったらしい。うん、すまんかった。

 

 こうして、私たちは食事のできる環境を手に入れた。




【現在の所有BM】
・チュートリアルスキップバトルに勝利 +5000BM
・チュートリアル強制スキップの賠償 +10万BM
・食堂前での乱闘(桜華忠臣の分も含む) -5万BM
・食事の材料費 -1万BM

所持BM 4万5千BM
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